50.魔術師大会二回戦
Twitter(X)リンク:https://twitter.com/jun_satoh_novel
「勝っちゃったね」
「そうね。エリーさんのチームは勝ったのかしら。」
私はあたりを見渡す。
すると、向こうのほうで歓声が聞こえて来た。
どうやらあっちのほうでエリーの弟子達が勝ったらしい。
「ふん、あちらも勝ちましたのね、安心しましたわ。」
スカーレットは、遠くをみて不敵に笑う。
私たちが他のチームの迷路を壊してしまったので、私たちの周囲のチームは敗退していた。憎々しげにこちらを見てくる。
「わたくしたちより先に脱出できなかったのが悪いのですわ。」
スカーレットはにべもない。
「あの迷路、私たちみたいに脱出する以外に方法があったのかしら?」
すると、後ろから声がかかる。
「土を凍らせたらよかったんじゃないか?レティシアならできただろ。」
ルカが、言った。なるほどと思う。
「だが、よくやったぞ。」
と褒めた。ルカも結婚がかかっているのだから、心中穏やかではないだろう。満面の笑みのルカは逆に怖い。
2回戦は、魔獣退治だ。
各チームが火属性の魔獣グラシュティンを相手に戦うのだ。戦う場所は二つあり、またしてもエリーチームとはブロックが分かれた。
グラシュティンは、馬の頭に黒くてうねった角が生えている魔獣だ。黒いユニコーンといった風貌で、空に向かっていななく度に、炎を吐く。
一番の攻撃は、角の先に大きな炎の球ができて、それが向かってくることだ。
そして、近づくと、角を振り回してくる。
「グラシュティンを倒した速さを競うのね。」
「そのようね。」
「さっきより楽そうなのに、二回戦なの?」
私たちはカナリアというど田舎で、修行としてほぼ毎週魔獣退治をしているのだ。少なくとも王都を拠点にしている魔術師には負けたくはない。
「じゃあ、いつもみたいに、いこう!」
パウラがグラシュティンのダミーを作る。
ナワバリ意識の高いグラシュティンは驚いて、ダミーに突進してくる。
その足元に、水のトラップもどきを仕掛ける。水たまりをふむと、鞭状の水が球状に飛び出し、身体が水に覆われる。
最後はスカーレットご炎球をぶつける。
相手に攻撃の隙を与えない、連携プレーだ。
好戦的な魔獣はだいたいこれにハマるが、範囲を広げた群れバージョンもある。
「やったわ!」
私たちはグラシュティンが丸こげになっているのを見ながら、周囲を見渡すと、見習い魔術師も観客席にいる正魔術師たちもポカンとしている。
組合長やジャンマルコはニヤニヤしている。
観客席から立ち上がって叫んでいる人がいるが、おそらくエリー嬢だろう。何かが噴出している。
「よくやったぞ。」
私たちが観客席に着いた途端、ルカが言う。ルカは、何が噴出しているエリー嬢を見て、くっくっと不敵に笑っている。
「次は何?」
私は隣に座るルカに声をかける。
「レイオーンだ。」
レイオーンは、グラシュティンと対をなす魔獣で、水属性の馬型魔獣だ。
レイオーンはグラシュティンほど好戦的ではない。どちらかと言うと、慎重で、逃げ足の早い魔獣だ。
よく捕まえて来たな、と感心する。
「私たち、あっちじゃなくてよかったわね。」
「レイオーンに振り回されるのはこりごりですわ。」
「ぼくも…。」
私たちは、それぞれがレイオーンにやられたことを思い出してげんなりした。
「さぁ、二回戦二組目の開始よー!」
ゴンザレスの二組目開戦の宣言が青空に響く。
私たちは次の決勝戦まで優雅に観客席から見ているが、三人全員が観客席に座った途端、周囲からざわめきが聞こえる。
「あれはルカか…?ジャンマルコがいるよな…?」
「ルカの弟子…?」
「ルカが弟子をとったのか…?」
「さっきの化け物みたいな速さの見習いはルカだからか…」
何やら、やはりルカの異端ぶりが私たちに伝染しているような気がする。
「そういえば、ワインを持って来ていましたわよね?」
スカーレットがキョロキョロと辺りを見渡す。
「もう飲むの?」
「一口くらい良いのではなくて?喉が渇きましたわ。」
「わかったわ…。エリーチームの試合が終わったら一緒に行きましょう。私も、売上が気になっているところだから。」
サトゥルナリア祭ではウケたが、異国情緒が強いフランツでのウケはどうか、気になっていたところだ。ワインを置いている出店はここからは見えないが、観客席でちらほらとワインを片手に干渉している人を見ると、売れているのでは?と思っている。
「あれ?一人足りないよ?」
パウラが段上に登るエリーチームを見ながら疑問を口にする
「フラビオさんがいないわね?」
女性三人が目立ちすぎて存在感が薄いフラビオがいない事に、周囲は気がついてない。
「それは失格じゃないのか?」
「人数が減るから不利になるんじゃない?」
「足手まといだったらその限りではないだろう。ゴンザレスに抗議してくる。賭けなんてなしだ、なし。」
そう言ってルカが立ち上がる。
その間にもレイオーンとエリーチーム三人の戦いは進んでいく。エリーの弟子たちは、それぞれ火の魔術師が2人と、水の魔術師で、フラビオは確か説明会の時は緑の杖をもらっていたから、風の魔術師のはずだ。ニール、カエラ、ルシアの3人が戦っている。
ニール嬢がレイオーンに向かって火属性の攻撃をしかけた。
「レイオーンの防御力ってすごーく高いのよね。」
私が攻撃を見ながら半眼で呟くと、攻撃がキャンセルされた。
次にルシア嬢が水属性攻撃をしかける。
「同じ水属性ですと、特にほとんど攻撃が通らず、吸収されますのよね。」
スカーレットがジャンマルコの作った軽食を頬張りながら呆れて言うと、案の定レイオーンの防護壁に吸収される。
「野生のレイオーンだったら、ここで逃げられてるよね。どうするのかな、エリーさんチーム。」
パウラが敵チームを心配するように、首を傾げる。
レイオーンは積極的に攻撃を仕掛けてこないぶん、カウンターも難しいのだ。慎重だから罠もあまり有効じゃないし、一度警戒モードになるとお手上げ感が強い。
「あら。力押しに転じたわ。」
エリーの弟子三人はレイオーンから等距離に離れ、同時にツァーリを向ける。一斉に攻撃を仕掛けるようだ。
轟轟と炎や水がツァーリの先端に立ち上がり、魔力を鞭のようにしならせる。一直線にレイオーンへと向かい、水球のバリアの周りをくるくるとかこむ。そのまま締め付けるように攻撃を続ける。レイオーンの悲鳴が聞こえている。
「おかえりなさい。」
試合も佳境を迎えるという時、ゴンザレスへの抗議が終わったルカが戻って来た。なんだかげっそりしているので、無効試合の願いは叶わなかったのだろう。
隣にドカッと乱暴に座ると、ため息と共に結果を報告する。「フラビオが消えたらしい。」
「消えた?」
「屋台で何かを買ってくると言ってから戻ってない、と。」
「逃げたんじゃないこと?」
「それも考えられるが、他の見習いたちも何人かいなくなっているようだ。」
「え?!誘拐?」
「その可能性も考えられる、と。組合長の指示で何人か捜索に人を割いている。」
「大会は中止にならないの?」
「犯人の意図がわからない以上、下手に動くとよくない。」
「と言うことは、賭けも続行なのね?」
「エリーが折れなかったからな。」
「あ、そう。」
ルカは盛大にため息をつき、私は少しもやもやした。
(なんでこんな大事件なのに、結婚とか賭けとかそんなこと許せるのかしら。ルカもいつもは傲岸不遜のくせに、エリーさんの事になると弱腰よね。なんなのかしら。)
ルカは私のイライラには気が付かず、
「お前たち、一人になるなよ。念のため。」
と注意を促した。
そうこうしているうちに、エリーチームが、レイオーンに押し勝っていた。
レティシアはちょっとイライラ。ルカはたぶん気づいてます。
ぜひ感想や評価、ブックマークをお願いします!




