47.三つ巴?四つ巴?
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自分をエリーと称した派手な女魔術師は、ルカの後ろにいた私たちにようやく気が付いたようだ。
「あの人、怖いよ。」
パウラは相変わらずスカートの裾に隠れている。パウラを安心させようと頭を巡らせると、数ヶ月前に聞いた話を思い出した。
「わたし、女将さんたちから聞いたことがあるわ。ルカには何人か弟子をとっていた時期があるけど、どの人も壊滅的に合わなくて追い出されたって。あの女の人も、ルカの弟子だった人じゃない?」
私は、見習い魔術師になる前にイエールの皆から聞いた話を、スカーレットとパウラにする。
「ですが、あの下品な魔術師の言い分ですと、追い出されたと思っていなさそうですわ?」
「そうよね…。貴族のようにみえるけど、スカーレットはあの女の人の名前はわかる?」
「いいえ。わたくしもそこまで社交界に明るくありませんことよ。でも、おそらく…。ルーベルト侯爵家関係のご令嬢かしら…?」
「ルーベルト侯爵家?」
私は、レティシアの記憶に覚えがなくて、スカーレットに問う。スカーレットは、ぴくりと眉をあげて、「ルーベルト侯爵家もご存知ない?」と表情で訴えた。
「ええ、公国の伝統ある家系ですわ。確か、傍系かご親戚筋の適齢期の女性に魔術師をしている方と聞いたことがありましてよ。それで、組合のとんでもない魔術師に恋慕していて、婚期を逃しかけていると…。」
「スカーレット、それ、社交界に詳しいって言うのよ。その女の人で間違いないんじゃないかしら。」
「こんな下品な方だったかしら…?」
スカーレットはうーんと首をかしげている。
私たちは、ルカとそのご令嬢が対峙しているのを少し遠くから観察していると、いきなりこちらに明確な敵意の視線が飛んできた。あからさまに向けられた嫌な感じに、スカーレットが瞬間的にイライラし始める。ルカはエリー嬢を見かけた瞬間から機嫌に磨きがかかっているし、場は一触即発状態だ。
私は後ろに隠れているパウラと周囲を見渡し、できる限り穏便にその場をやり過ごさなきゃと焦る。
「初めまして、レティシアです。こちらはスカーレットと、パウラ。みんなルカの弟子です。」
「まぁ!?エリーの他にも女の弟子を取りましたの?女の弟子はエリーだけとおっしゃっていましたのに!?」
「あなたの頭が悪いんじゃ…げほっ。」
「俺はそんなことを言っ…がっ。」
「(二人とも黙って?!)」
スカーレットとルカが、相手を煽るようなことを言うので、思わずツァーリを出して水責めにする。
「えっと、それぞれがひょんな出来事で弟子になりまして、今は3人なんです。では、失礼し…。」
「エリーは選ばれて弟子になったわ!?組合一の実力者なのよ。」
「え…ええ。それは素晴らしいですね。では、失礼し…。」
「そうよ。あなたたちはルカ様の弟子にふさわしくなさそうですのに。よく弟子を名乗れましてね?」
エリーは私たち三人を上から下までじとりと見回す。私は、早くこの場を抜け出したいのに、エリー嬢の猛攻は止まらない。
「ルーベルト嬢。もういいだろう。俺の弟子にふさわしいかどうかはお前が決めることじゃない。」
水責めから抜け出したルカが、頭をおさえてにべもなく言い放つ。
「まぁ、ルカ様!エリーと呼んでくださいませ。」
エリーはルカのもとに、トトトと駆け寄り、しなだれかかる。
「…エリー。俺たちはもう行く。」
ルカは、エリー嬢を少し押しのけるようにして、出口に向かって歩きかけた。
「まあ、そんな…。お待ちになって。ルカ様は明日の大会には出場されますの?」
「あぁ。」
「でしたら、明日の勝負、エリーが勝ったら、エリーと結婚してくれません事?」
エリー嬢はルカのローブの裾をひしっとつかんで、上目遣いで懇願する。
「なに…!?」
「結婚ですわ。もともとおじい様は賛成してくれていましてよ?それをなんの権限もない組合長が阻んだのです。エリーとルカ様の恋路は誰も邪魔できないと思っておりましたのに。ねえ、いいでしょう?エリーは強くなったのですよ。」
帰ろうとするルカに、しつこく立ちはだかり、私たちの帰り道を塞ぐ。
「ちょっと!横で聞いていれば、弟子にふさわしくないだの、結婚だの、あなた何をおっしゃっているか、わかっていて!?」
(ひー!とうとうスカーレットが爆発した!どうしよう〜!)
「まあ、今はエリーとルカ様が話しているのよ?関係ないでしょう?」
「大ありですわ!わたくし、早く帰って休みたいのです!ここまで馬車で1日、そのまますぐにこちらにエントリーしに来ました。早く帰って明日に備えたいのですわ。それをこのようにだらだらと足止めされましたらたまったものではございません。ルカもルカですが、あなたも大概でしてよ。結婚でも勝負でも、なんでもすればよろしいですが、わたくしはあなたにそこをどいていただきたいわ!」
「な、な、な…エリーはルーベルト候の孫よ!?」
「わたくしはガルシア家の長女、スカーレットですわ。そこをおどきなさい。」
「まぁ…。ガルシア翁のお孫さんでしたの?一年で見習いが終わらなかった出来損ないの見習いと聞いていましてよ?」
「な、な、な、な…。」
今度はスカーレットが怒りに打ち震える番だった。これにはパウラも私もカチンと来たので、何か言ってやろうと、一歩前にでる。すると、スカーレットは後ろ手で私たちを制止した。意外にも冷静なのかもしれない、と思った私たちは一歩引く。すると、スカーレットからとんでもないセリフが飛び出した。
「いいですわ。あなたの弟子はどこですの?」
「エリーの弟子はあそこにいるわ。みんなとても優秀なのよ。」
「ちょうどよいですわね。先ほどの勝負、わたくしたちが受けてもよろしくてよ?」
「スカーレット…?」
不穏な空気を察してルカが、すごい形相でスカーレットを見る。
「どうせルカはまともに勝負を受けるつもりはなくてよ。でしたら、あなたのご自慢の弟子とわたくしたちが勝負してさしあげてよ?」
「なんですって?」
「あなたの弟子がわたくし達に勝てることができましたら、ルカと結婚できますわ。わたくしがおじいさまに言います。」
「ガルシア翁が?」
エリー嬢はぴくりと眉を上げた。なんだかんだとルカが勝てない相手は組合長とガルシアのお祖父様の二人だけだという事は周知の事実らしい。
「ちょっと待て、スカーレット!何を勝手に決めてるんだ。」
ルカが、慌てて声を荒げる。いつも冷静なルカが、ここまで取り乱すのは珍しい。
「お黙りなさい。ルカ、あなたも先ほどから見苦しくてよ。まがりなりにも女性から求婚されているのに、のらりくらりと避けるものではございませんわ。男でしたら覚悟をお決めなさい。」
ふふふと笑いながらスカーレットの目は座っている。怒りに任せて炎柱がでていないのは褒めていいかもしれない。
「待て。まだ自分が勝負をするなら百歩譲ってわかるが、お前達に俺の婚約を賭けるのか?」
「あら?自信がありませんの?真面目に師匠などしておりませんでしたものね?」
キレたスカーレットは、もはや手がつけられなかった。相手を構わず煽っている。エリー嬢に馬鹿にされた事に怒っていたはずなのに、いつのまにか矛先がルカにむき、私とパウラまで巻き込まれている。
「わかった、いいだろう。ルーベルト嬢の弟子とお前達が明日勝負し、ルーベルト嬢の弟子が勝ったら俺がルーベルト女と結婚する、という事だな?」
最近のルカは、本人にとってはそこそこ真面目に師匠をしていたので、スカーレットに煽られてカチンときたのだろう。多少投げやり感が否めないが、最終的には賭けを了承してしまった。
「いいですわ!エリーがルカ様に勝てる確率より、エリーの優秀な弟子があなた達のような出来損ないに勝つ確率の方が高いですもの。ほーっほっほっほ!」
気がつくとエリー嬢の高らかな笑い声と、最上級に不機嫌なルカの威圧的な視線と、キレたスカーレットの足元にうずまく炎が、会場の一角を占領している。
「レティシア、これどうなるの…?」
「私にもわからない…。」
私とパウラは、少し遠巻きに見つめるしかなかった。
そして、私は周囲に蔓延る魔術師達をみて、心配事が一つ増えた。




