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カナリアの弟子〜1年後の婚約式が嫌なので逃げ出します〜  作者: 佐藤純
第三章:カナリア

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40.サトゥルナリア祭でワインを売ろう

Twitter(X)リンク:https://twitter.com/jun_satoh_novel

あと1ヶ月でサトゥルナリア祭がやってくる。


パルティス公国は、少し涼しくなり季節は秋になった。イエールではこの時期に、女神様に豊穣と採掘師達の安全を願い、サトゥルナリア祭が開かれるのだ。


「うーん、今年のサトゥルナリア祭だが…何をしよう?」


例年はジャンマルコとルカだけだったので、もっぱら参加する側だったそうだが、今年は人数も多くなったし、出店側になってはどうか、と女将さんから提案されたそうだ。


カナリアの住人達が食堂に集合し、祭に出店する内容を迷っているようだが、私はこの話が来てからずっとやりたかったことがある。


「ワインよ。ワインを売りましょう。」

私は声高らかに立ち上がる。

「ワイン?」

「そうよ。ナールみたいなもの。」


この国にはアルコール類が少ないのだ。

ナールというビールに似た飲み物があるが、発酵技術がすすんでいないのか、物足りない。私は以前、ルフィナおばあちゃんが育てているアマルを食べてから、この計画を練っていた。祭とはちょうどいい。


「異国の飲み物なんだけど…私も詳しくは作り方を知らないの。ただ、甘みがあって独特の芳香的な香りがあるわ。飲むといつもより楽しくなったり、怒りやすくなったりして、人によって身体にあわなくて足元がふらふらしてしまってりするものよ!」

私は、ワインの特徴をつらつらと並べる。直前まで学会でフランスにいっていたので、ワインセラーを見学したのだ。日本のセラーにも何度か足を運んだ。頭では覚えているが、実際に作った事はないので、不安だ。そもそも酒造法で禁止されている。


「その飲み物は大丈夫ですの?」

スカーレットがその説明だけを聞き、眉間に皺を寄せて警戒している。言われてみれば少し説明を誤ったかもしれない。

(いけない。事実を淡々と伝えてしまうのは私の悪い癖だ)

「ええとね。とっても芳醇で甘くて、この世のものとは思えない至高の飲み物なのよ!とりあえず作らせて!」

まだ納得しないスカーレットを美辞麗句で飾り立てたワインで説き伏せ、私は「とりあえず作らせて。話はそれからよ。」と胸を叩いた。


それと同時に祭までの日数を逆算し、やるべきことを頭に羅列していく。確かワインは、ぶどうを皮ごと潰して、濾して、寝かせる。ただそれだけだ。もちろん温度や寝かせる時間など、職人芸のような調整が必要だろうが、試作品なんだから、とりあえず甘くてシュワシュワする液体になればいいだろう。

祭まで1ヶ月だ。そんなに発酵にかける時間もないし、おそらく低アルコール度数の、甘くて飲みやすいワインができるはずだ。問題は、ピンチの時の追い酵母だが、この世界にはパンがある。もし発酵しなければ、それで頑張ってみよう。


この国には日本と同様に寒い季節もありながらも、国土がそこまで広大ではないから、嗜好品の生産が発展しなかったのだろう。だけど、みんなナールが好きだからきっと気にいるに違いない。


「確か、まずはアマルの実を皮ごと潰してジュースを作るのよ。」

「アマルの実を皮ごと…?アマルの皮は、食べるには厚みと渋みがありますから、ジュースにする際はむいてしまいますわ?」

「皮ごと潰すのが肝なのよ。そしてそのジュースをしばらく置いておくの。」

「にわかに信じがたいですわ。そんなもので、至高の飲み物になりますの?」

どうやら、至高の飲み物、というワードにはいささか興味を持ったスカーレットだが、やっぱり納得はできていないようだ。

「出来てからのお楽しみよ。ジャンマルコ、ルフィナおばあちゃんはアマルの実を保管しているかしら。」

「ああ、大丈夫だと思うぞ。毎年出荷分だけどかっと収穫して、あとは街のみんなが食べる分を残しておくんだ。まだギリギリなっている実もあるんじゃないか?」

「わかった。ルフィナおばあちゃんのところへ行って、分けてもらえないか聞いてくるわ。」

「ぼくもいくよ!」

パウラが「はいはい!」と言いながら手を上げる。

「いいわよ、いきましょう。」

「お嬢様、私は何かございますか?」

「クロエは熱湯で調理器具を消毒してほしいの。」

「承知しました。」


そして、それぞれがそれぞれの事をし始めた。

私とパウラがアマルをカゴいっぱいに入れて帰ってきた頃には、消毒された調理器具とガラスの容器がテーブルに鎮座していた。どうやらジャンマルコも手伝ってくれたようだ。


「さて、作ろう。」


煮沸消毒した容器にアマルを入れ、ヘラでぎゅーっと、すりつぶす。最初は私が見本を見せていたが、途中でどう考えても無理なことに気付いてジャンマルコに変わってもらった。あの筋肉はこのためにあったのかと思うほどの華麗な力加減でどんどんアマルを潰していく。クロエもジャンマルコほどではないにせよ怪力が自慢の、私の侍女だ。着実に実を潰し、そのスピードは衰えない。

あっというまにジャンマルコとクロエによって、アマルは潰された。


「二人ともありがとう!次はこれを樽の中にいれて、1週間くらい置いとくだけだよ。毎日かき混ぜてあげる必要があるけど。」

「こうすると「ワイン」になるのですか?」

「今のところ皮付きのアマルジュースだな。おぉ…渋みと酸味が…」

味見だと言って一口飲んだジャンマルコが、ぎゅっと顔をしかめてみせた。


「今はまだ飲めたものじゃないけれど、これを1週間〜2週間寝かせるといい感じになるはずだわ。酸味はそのまま残るかもしれないけれど、きっと酸味との相性は良いはずだわ。」

「お嬢様はいったいどちらでそのように知識を得たのです…?」

引きこもり姫の時代を知っているクロエは、つらつらとワインの作り方を指示する私に、驚きを隠せない。

私は慌てて言い訳を考える。

「えーと…。以前魔術関連の本を持ってきてもらったでしょ?それに紛れてたのよ。」

「さようでございましたか。アマルがそのような飲み物になるのはたしかに魔術のようですね。」

クロエがふふふと笑う。

なんとか誤魔化せただろうか。



それから修行の合間に毎日描きまぜ、1週間がたった。多少涼しくなったとはいえ、まだまだ日中は暑いので、発酵もうまくいったようだ。いろいろ浮遊しているせいで白く濁っているが、一次発酵はこれくらいだろう。むしろこれくらいにしとかないと甘くならない。

「次は圧搾して二次発酵ね。」


またしてもジャンマルコの怪力を活かして綺麗なサラシで皮や種など余分なものを漉していく。異物が取れて、白濁した液体になったものを冷暗所に保管して、放置する。翌日には樽の底に澱が溜まって綺麗なワインになっているはずだ。


「できたわ!!」

私は透明になった上澄みを見て歓声をあげた。


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