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王子様、おしゃれに目覚める

 まず、誤解から解かなくてはいけない。


 僕の前世、アンジェリーナは悪女ではなかった。

 

 そもそも、アンジェリーナに魔力はなく、侯爵令嬢のわりに気さくなおしゃれ好きだった。

 そして、少しだけ手品ができた。

 篭絡された若者たちというのは各々の思い人へ披露するために手品を習いに来ていた者たちのことだ。


 それを“聖女”は何か勘違いをしていたようだった。

 

 もともとアンジェリーナの婚約者だった第二王子と密会を繰り返していたのは知っていたが、放っておいたら、稀代の悪女アンジェリーナとして処刑台への道が出来上がっていた。


 アンジェリーナはなぜ処刑されなくてはいけなかったのか、前世の記憶をたどっても、後日、歴史書を調べてもわからなかった。


 1つだけわかったのは、その後、聖女の行方が分からなくなっていることだ。


 第二王子が求婚したという記録は残っていたが、結婚はしていなかった。


 聖女の正体を深く調べれば何かわかるかもしれないが、そこまでするほど自分の前世の死の真相は興味ない。


 記憶が戻った直後、前世の死の真相よりも僕の意識をくぎ付けにしたものがあった。アンジェリーナとしてすごしたの社交界の記憶だ。


 女性のドレスは細やかな刺繍とレースで彩られ、細い腰からふわっと膨らむシルエットは華やかな社交界そのものに感じた。

 男性の服に色があまりないのは残念だが、今の時代にない丈の長いベストや、ふわりとしたコートは素晴らしいと思った。


 

 そして、自分の今までの服を思い出して、呆然としたのだ。


 僕はいままで、おしゃれに生きてこなかった。用意された流行や伝統にのっとった服を着て、ただ愛想を振りまいていただけだった。

 

 それはつまらない。


 少女、女性としてのおしゃれは、アンジェリーナで楽しんだ。

 それなら次は少年から男性にかけてのおしゃれをめいっぱいしなくてはもったいないではないか!


 

 かくして、12歳の誕生日、僕はおしゃれに目覚めたのだ。



 ******


 おしゃれに目覚めた僕が最初にしたのは、生活習慣改革だった。


 かつての僕は夜更かしと夜食が好きな少し困った子供だった。平均体重ちょい上のぽちゃっとした体に睡眠不足と夜食に食べるお菓子で荒れた肌。


「これは、どう考えてもおしゃれじゃない!」


 鏡を見てそう叫んだ僕は、その日から夜更かしをやめ、お菓子もやめた。そしてアンジェリーナのころに体形維持でやっていた運動を少しずつ始めると、すぐに効果はあらわれた。荒れた肌は滑らかになり、ぽちゃっとした体もかなりしまったのだ。


「服を新調しないといけませんね」


 やせた僕が着ている服のサイズを見て、執事が言った。この時を待っていた!


「それ、僕も選んでいいかい?」


 僕がそう言うと、執事は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに元に戻って一礼した。

 

「はい、承知しました。では午後の時間に服飾師を呼びます」


「あぁ、楽しみだ!」


 午後に来た服飾師は、ルッツといった。いつも僕の体のサイズを測っていた男だ。


「サイズが随分変わりましたね」


 採寸をしながら、ルッツが言った。


「あぁ、ルッツの作る服をもっと着こなしたくなったのだ」

 

 僕がそういうと、ルッツは目を丸くして顔をあげる。


「私に似合う最高の服を頼む」


「お任せください」


 嬉しそうに何度も頷くルッツ。

 その後デザイン画を見せてもらいながらあれこれ要望を伝えた。

 出来上がった服は素晴らしい出来だった。


 真っ白な体にぴったりのシャツ、シンプルな形の濃紺のベストは同じ色の糸で細かく刺しゅうを施した。深い緑のジャケットの裏地にはの薄い緑の布を使ってもらった。

 ボトムも深い緑色だ。ところどころに金糸のステッチも入れた。


 大満足の出来だった。着心地も抜群で思わず大きな声でルッツによくやった! と声をかけてしまったほどだ。


 ルッツの服を着た僕はかなり見違えたらしい。父上も母上も一目見て目を丸くしてその後、似合っていると笑っていた。


 ルッツと2人でデザインを考え、ルッツに形にしてもらう。それを繰り返しているうちに、僕は同年代のファッションリーダーになっていた。

 私が新しい服を着ると、似た服を着る者があふれかえる。100年前の流行を取り入れたファッションは王子式ファッションと呼ばれた。


 成人の16歳まで、憧れの社交界はお預けだったが、同年代のお茶会を開き情報収集したり、学園の同期たちと切磋琢磨して勉強に励んでいると、16歳の誕生日は目前になっていた。


 そんなある日、父上に呼ばれた。

 そこそこに着飾って出向くと、父上はロイド侯爵と一緒にいた。


「父上、お待たせいたしました」


「セレスト、もうすぐ誕生日だが、準備はできているか」


「えぇ、もちろんです」


「だが、1つ、わすれていないか?」


 父上が口角をあげて言う、こういう時の父上は僕をからかいたい時だ。

 

「なんでしょう?」


「わからんのか、パートナーだ。一人で入場するつもりだっただろう」


「……まぁ、婚約者も同年代の親戚もいませんからね」


 僕がそう言うと、父上がロイド侯爵のほうを向く、すでに居心地が悪そうだ。そこまで考えて、彼に娘がいたことを思い出す。


「ロイド侯爵令嬢ですか?」


 父上がうなずいた。


「どうだ? パートナーとして入場するだけだが」


 12歳の誕生日、彼女のドレスを見て僕は前世を思い出した。それほどまでに見事なドレスを着ていた彼女にまた会うことができる。

 僕の心は少し浮足立つ。

 僕が頷くと、ロイド侯爵が頭を下げた。


 その姿を見ながら、僕はパートナーがいるとなると服は新しく考え直したほうがいいなと考えていた。

 

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