こんな夢をみた
暑い。
暑すぎる。
あまりにも暑い。
たまりかねて目を覚ます。
扇風機はタイマーをかけてもいないのに、ひとりでに切れていた。
起きあがろうにも、体に力が入らない。
夏の暑さのためか視界がぼやける。
周囲を見回せば、住み慣れた我が家の居間。
なのに不思議と違和感をおぼえる。
立ち上がる。
両脚に力が入らないが、歩けてはいる。
居間を出て廊下に至る。
玄関まではそんなに遠くはないはず。
なのに異様に距離がある。
…玄関に人影を見つけた。
祖母だ。
手に何か持ってる。
白いなにか…スーパーの袋?
「婆ちゃん」
呼んでみた。
声がうまく出せない。
だが聞こえたらしい。
祖母は急に血相を変えて逃げ出した。
なぜ逃げる?
…袋?
手にしたスーパーの、白い袋。
それを見られるのを、嫌がっている…?
追いかけてみた。
祖母の分際で信じられないほど速い。
体が思うように動かないせいで、なかなか追いつけない。
けれども所詮は老人の足だ、追いつけない訳がない。
追いついた。
取り押さえて、手にした袋を取り上げる。
それほど大きく見えなかったのに、手にした途端に膨れ上がった。
袋の中には水がたっぷり入っていた。
袋の底まで見通せる、澄んだ綺麗な水。
その、水のなかに…
それは音もなく浮いていた。
半透明の、胎児が。
…そこで私は目を覚ました。
今度は本当に目覚めた。
そう、今までの出来事はすべて夢だった。
タイトル通りだ。
なんの捻りもない。
実際には居間ではなく、二階の自室に私は寝ていた。
階段を降りて台所に入る。
暑い最中でも翳りをおびた西日が窓から射していた。
そこには母と祖母がいた。
時刻からいって、夕飯の準備中だろう。
祖母はなんらおかしな行動はとらず、いつも通りの優しい祖母だった。
「…どうしたん、変な顔して?」
母が訊く。
「いや…なんか変な夢みてさ」
目覚めてもなお、あの胎児の姿が脳裏に焼き付けていた。
誰かに話すことで楽になれるなら…。
私はあの夢の内容を母に語って聞かせた。
途端に母の顔が凍りつく。
そして、言った。
「あんた…ヒロヨとの間が4つも離れてて、おかしいと思わんかった?」
ヒロヨは私の4歳下の妹だ。
私達は2人っ子だった。
友達には兄弟や姉妹が大勢いたし、さほど不思議と思ったことは無かった。
だが…言われてみれば、それほど歳の離れた兄弟はほとんどいなかった。
母はなおも言った。
「…居たんだよ…間に、もうひとり。」
私を産んだ2年後、母はまた身籠った。
しかし当時は父も母も忙しく、先に生まれた私もまだ相当に手間のかかる時期だった。
そこで母は祖母の勧めで、堕ろすことを選んだ。
それは丁度、こんな暑い盛りだった。
…これで私の話は終わる。
なんの足しにもならない与太話に付き合わせて悪かった。
そう、これは小説ではなく…
実際の話だ。