プロローグ〈航海の果て〉
2022/6/30 改定
キュオォォォォン
キュオォォォォォン……
艦内に、生まれて初めて聞く警告音が鳴り響く。今まで平和そのものだったこの艦史上、恐らく初の出来事だろう。慌ただしいデッキに、騒々しい機械音が響き渡る。
そんな、通常では考えられないような喧騒に包まれた司令部とは裏腹に、普段賑やかなはずの民間区は、かつてない程に静まり返っていた。
宙に浮かぶ大スクリーンに映し出された、一つの映像。それは、彼ら自身が乗る、まさに生命の揺り籠。
永遠に続く大海原にポツリと浮かんだ、人類最後の箱舟。
そんな、我らが人類の母艦は、静かに、ゆっくりと、だが確実に、目指していたその惑星に近づきつつあった。
「あれが……約束の地か」
一人の少年がつぶやく。約束の地。大仰な表現ではあるが、まさにそこは遥か昔、この艦が造られた時から目指してきた、最終目的地。皆、静かに時が来るのを待っていた。
この何千年と続いた旅路も、ここでようやく終わりを迎えようとしている。
かつて故郷の惑星を発ってから数千年。この母艦は幾万の命を守り、航海を続けてきた。かつての記憶は失われ、母艦を操作する術すらもはや無い。
ただ無限に広がる宇宙の中を彷徨うだけの生活に慣れてしまった人々は、再び地上を踏む夢を、既に思い浮かべることすら出来なくなってしまっていた。
絶望の中で生まれた人々は、先人の絶望の中で育ってきた。数十メートルの壁の先は、無限に続く闇の中。人類は、孤独だった。
しかし、その絶望はもはや終わりに近づいている。地上には既に先遣隊が送られ、軌道エレベーターの設置が進んでいる。あとは、この母艦が軌道上のステーションに着艦するのを待つのみだ。
「……長かったね」
長かった。言葉にしてしまえば簡単だ。だが、その一言は、永遠とも思える旅路を、ここまで紡いできた人類の歴史を、全て報いる一言だった。
着艦へのカウントダウンが始まる。人々は固唾を呑んで、スクリーンを見つめる。
「……そうだな。長かった」
全てが失われたこの世界の住人は、果たして新たな世界で生きていけるだろうか。
新しい世界では、どんな物語が待っているのだろうか。
少しの不安と、そして多大な期待感が母艦全体に広がるのを感じる。
ある者は物にしがみつき、ある者は抱き合い、ある者は目を閉じて祈り、その瞬間をひたすらに待ち続ける。
ガチャン……
『ドッキングシークエンス終了。艦内圧正常。船体異常なし。ハッチを解放します』
一瞬の静寂の後、人々の雄叫びが空気が震わす。
今ここで、この瞬間、人類の旅は終焉を迎えたのだ。人類は、再び地上を、大地の上を歩く事を許された。
「楽しみだね」
「……そうだな」
スクリーンいっぱいに映し出された、碧色の惑星。かつての故郷の姿を知る人間は、もうこの母艦にはいない。しかしそこには、かつての故郷と瓜二つの、美しい惑星が、変わらず人々を待っていた。