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斐古の詩・短編集

夜迷 ━ ヨメイ ━

作者: 斐古

『忘れ方を教えて欲しい』




 胸の奥に刺さった痛みを抑えながら、薄れゆく思考の中で私はその言葉が浮かんだ。



 輝く太陽のような温かさも、凍えるような悲しみも。

 全てを忘れる方法を……私は只々知りたかった。



 もし、全てが無に還れば……。きっと私はまだ、()として保てていただろう。


 ……しかし、それはもう手遅れなのだ。


 私は既に、私という形を保てなくなっていたのだ。


 心はまるで、ハサミで引き裂かれたようにズタズタになり。

 気がつけば、身体も土人形のようにボロボロに朽ち果てていた。


 楽しい思い出も、愛しい思い出も……。忘れたくないことは、きっとたくさんあったはずだ。

 だが、沈み行く意識の中。……私はどうしてだか、全てを忘れたかったのだ。

 何故なのかは、私にも分からない。どうして、こんなにも忘れたくなってしまったのか。私には、本当に分からないのだ。


 知っているのなら、誰か教えて欲しい。



『どうして私はこんなにも、忘れ方を知りたいのか?』と。




 まるで思い出したように、泣きたくなるほど辛く苦しい痛みに、再び胸を締め付けられる。思わず私は、音にならない声で叫ぶ。


 これは私が形を保てなくなったことで、声が出せていないのか……それとも声は出ているのに、音として私の耳が聞き取れていないだけなのか。それすらも、私には分からない。


 だがそんなことは、ほんの些細なこと……。今の私には、最早関係なかった。


 この苦しみも、きっと忘れる方法さえ分かってしまえば、綺麗サッパリと忘れられるのだから。

 そうすれば、こんなにも苦しんだことも、悲しんだことも……全て忘れられるのだから。



 ふと、私は思い出した。どこかの誰かが、言っていた言葉を。

 その人はこう言ったのだそうだ。



『明けない夜はない』



 ……のだと。



 どうしてそんな言葉を、今思い出したのか……。その言葉に、何か意味があるのだろうか?


 まるで底の見えない深海に、永遠に沈んでいくような感覚……。そんな中、既に手とも呼べない腕を無意識に伸ばしながら、私は思うのだ。




 明けない夜もあるのかもしれない。

あらすじに書いた通り、某診断メーカーのお題で書いた短編です。


正直お題を見た瞬間『めっちゃ好みの題材やん!』とテンション上がりました(笑)


ここまでお読みいただきありがとうございました。


良ければ評価や感想、ブックマークなど頂けたら幸いです。

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