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 予選会開始一時間前となっていた。

 章は服を着替えることにした。

 しかし、ふと手が止まった。

 選択に迷ったのだ。

 普段着で行くべきか、礼服で行くべきか。


 お笑い枠を確実にゲットする為に、披露宴に出席した時に着ていた礼服を着るべきか・・・。

 章は礼服を着ようと心に決めた。

 が、そこまでする必要があるのかとも思った。

 どうせ予選会は通るのだから、本番で着ればいいのだ、そうだ、そうしようと、彼は直前で普段着にすることにした。


 会場には30分前に到着した。

 家族は後、会場入り(予選会の見学は無料)することにした。


 朝来た時の静けさとは打って変わって、会場には人だかりが出来、妙な熱気に包まれている。

 人の列を誘導するスタッフの大きな声が聞こえる。

 章は携帯を取り出し、母に連絡する。


「はい」


「もう、人がいっぱいいる」


 章は見たままの状況を伝える。

 母は察し、


「わかった。すぐみんなで行く」


 章は電話を切ると、予選会出場の受付へ向かった。

 彼は自分の出場番号である109番である100~150番の人が並ぶ列に行く。

 きょろきょろと周りを見渡す。

 普段着の人が多いが、着流しや法被を着ている人、着ぐるみ、コスプレ、ギターを担いで参加する人もいて、この「のどじまん」にかける人たちの並々ならぬ意欲を感じた。


 章は係の人から、当選葉書きと交換で、番号の入った胸に貼るシールと、注意事項の書かれた紙、そして粗品を渡された。

 それから会場(ホール)入りする。

 順番が来るまで、ステージ近くの客席で待つ(外出は自由)ことになる。


 妙に落ち着いてきた章は、ざわつく雰囲気の会場にも動じることはなく、これから始まるというワクワク感が強かった。

 そして貴重な体験が出来ることが嬉しく思えた。


 だが、これより行われるのは総勢250組によるサバイバルレース、予選会の持ち時間はわずか40秒ほど、延々と続く素人のどじまんの熱唱がはじまるのだ。


 まず、ディレクターから出場者に注意事項が促される。

 観ている時は、リズムをとったり拍手をしたり、手を振ったりすること。

 ステージ上でのマイクの受け渡しはスムーズにすること。

 舞台の中央に立ち、あまり激しく動かないこと。

 マイクの頭は握らないこと。

 等々、注意事項は思ったより多かった。


 だが、ネットで予習していた分、章にはアドバンテージがある。

 どうやら風はこっちに向いているようだ。

 しかし、衣装は今日着ていたものをそのまま使用することの事項は誤算だった、章は礼服を着ておけばと少しだけ後悔した。



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