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相利共生  作者: カエル
第三章
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杯中の蛇影④

「ところで……米田先生。あの事件の後、警察に事情聴取されました?」

「されましたね。伊那後先生もされたんじゃないんですか?犯人の近くにいたから」

「はい、されました。結構長い時間」

「ですよね。僕もです」

「それで、聞きましたか?」

 伊那後先生は声を潜める。

「犯人は『蛇』に殺されたかもしれないって……」

「はい……聞きました。なんでも、蛇に絞め殺された跡があるとかなんとか」

「俺も同じことを聞きました」

 伊那後先生は「ハァ」とため息をつく。

「俺、実は蛇を何種類か飼っていて……それで警察にこう言われたんですよ『蛇を使って、人を殺したいと思ったことはあるか?』って」

 僕は驚いた。

「まさか、警察は伊那後先生が蛇を使って犯人を殺したと考えているんですか?」

「そうみたいです」

 伊那後先生はコクリと頷く。

「俺、犯人に殺されそうになったじゃないですか……米田先生に助けていただきましたけど……それで、俺が犯人を恨んでいるんじゃないかって……まぁ、人を絞め殺せるほど大きな蛇を飼っていないことを説明したら、帰されましたけど」

「当たり前ですよ」

 留置所にいない人間がどうやって、蛇を使って人を殺せるというのか。警察も相当混乱しているようだ。

「ところで……蛇、好きなんですか?」

 何気なく聞くと、俯いていた伊那後先生の顔がバッと上がった。

「はっ、はい。蛇……好きです!」

 伊那後先生はポケットから携帯を取り出すと、飼っている蛇の画像を僕に見せてくれた。

「この子はコーンスネークといって人気のある種類です。こっちがカリフォルニアキングスネーク。で、こっちがミルクヘビ。ミルクヘビはサンゴヘビという蛇に模様がそっくりで、これは毒のないミルクヘビが毒のあるサンゴヘビの真似をすることで、敵から身を守っていると考えられています」

「へぇ」

 伊那後先生は実に楽しそうに話す。

「本当に蛇が好きなんですね」

「はい!」

 楽しそうな伊那後先生を見ているとこっちまで楽しくなる。『白い大蛇』を見たせいか、現実の蛇を見ても怖くはない。

 あの恐ろしい存在に比べたら現実の蛇のなんと可愛らしいことだろう。

 飼育している蛇を僕に見せながら、伊那後先生は言った。

「あ、そういえば、多分、あの人も蛇が好きだと思うんですよね。ペンネームからして」

「あの人?」

「はい、米田先生もご存知の方です」

「誰です?」

 伊那後先生はその人物の名前を言おうと口を開きかける。だけどタイミング悪く、伊那後先生の携帯電話が鳴った。

「ちょっとすいません。はい、伊那後です。あ、お疲れ様です。はい……はい……分かりました」

 伊那後先生は電話を切ると僕に申し訳なさそうな視線を向けた。

「担当の人からでした。これから打ち合わせできないかって……」

「ああ、そうですか。どうぞ、僕の事はお気になさらず」

「すみません。じゃあ、今日は俺がおごります」

「いえいえ、そんな……」

「お呼びしたのは俺ですから」

 伊那後先生は伝票を持って、レジに行き会計を済ませてしまった。

僕は「ありがとうございました」とお礼を言う。

「いえ……あの、米田先生。よろしければ、今度飲みに行きませんか?また色々とお話がしたいです」

「いいですね。行きましょう。今度は僕がおごります」

「ありがとうございます」

 伊那後先生はペコリと頭を下げた。

「では、頑張ってください」

「はい!」

 伊那後先生は小走りで駅の方に向かって行った。

ペンネームについて聞けなかったのは残念だけど、まぁ、いいや。今度飲みに行く時にでも聞けば。

それよりも、小説のアイデアを何とか絞り出さないといけない。

僕は頭を捻りながら帰宅した。


 次の日の晩、僕の携帯電話が鳴った。

「もしもし、米田さんですか?」

「はい、そうですが」

「私、スカイ文庫の里山です」

「あっ!」

 そうだ。この声は僕が連載しているスカイ文庫の編集長の声だ。凄腕の編集長で、スカイ文庫創設以来、初の女性編集長なのだとか。以前、挨拶をしたことを思い出した。

「お、お久しぶりです!」

 編集長からの思わぬ電話に緊張して声が裏返る。

「あ、あの本日はどのようなご用件で……」

「米田さん。落ち着いて聞いてください」

 編集長は僕にこう言った。


「米田さんの担当編集者である灰塚が亡くなりました」

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