福岡
姉は福岡に住んでいたため、私の住む広島からは新幹線で1時間程度、日常の喧騒から開放されるにはちょうど良い距離間だった。なかなか遠出をすることも無かったので、ワクワクした気持ちで新幹線に乗り込み、姉の元へ向かった。
久しぶりに会った姉は少し歳をとったとは感じたが、相変わらずの男っ気のなさそうな様子だった。
姉の車に乗りこみ、日々の仕事の話や親の話など他愛もない話をしながら病院へ向かった。
なんで病院についていかなければならないか聞いていなかった私は、不意に「どうして病院に?妊娠でもした?」と冗談半分、本気半分で聞いてみると、
「まぁそんな感じ」と返された。
訳ありの様子だったのでそこからはあまり聞けないまま病院へと着いた。
病院につくと姉は休日診療の受付を済ませ、待合のソファーに座った。すぐに姉の名前が呼ばれ、案内された。私もそれについて診察室へはいっていった。
「ご両親を呼んでくださいと言ったじゃないですか」
病院の先生は私の顔を一瞥すると、呆れた様子で姉に言た。
「すみません、弟しかこれなくて、でもしっかりした奴なんで大丈夫です。」
私置き去りにして話をする先生と姉に内心ムッとしていた。
姉とのやり取りを終えると、先生は話し始めた。
『弟さんはどこまで聞いてますか?』
私は『姉の妊娠のことですか?』と先程の会話の流れから答えた。すると姉はプッと吹き出し、先生は、先程姉に向けた呆れ顔を今度は私に向けた。そして真剣な顔つきに変わり、
『お姉さんの癌のことです。』と言った。