闇に潜む混沌
「ふぅ・・・ここまで来れば安心だな」
【韋駄天の俊走】を使って逃げ・・・もとい撤退した所、勢いあまって東側の森の中にまで来てしまったようだ。
しかし、ここまで来れば追っ手が来る事も無いだろう。この森自体、かなり広い上に現状ではただ木が乱雑に並んでいるだけで目印も何もない、本当にただの森だからな。
そのことは他のクランの連中にも連絡してあるし、わざわざ踏み込んでくるヤツもいないだろう。
つまり、この場には誰もいない・・・はずなのである。
「・・・やれやれ」
俺は近くの木に背を預ける。
そして独り言のように・・・口を開いた。
「このゲーム、案外セキュリティが雑だと思わないか?・・・カオス」
俺がもたれかかっている木、その反対側にいる奴にほんのわずかだが動揺が走るのがわかる。
「・・・よく、わかったな」
姿こそ見せないが、返ってくるその声だけで間違いなくカオスだと判断できる。
・・・実際の所、ここまで接近しているにも関わらず気配も何もまるで感じない。おそらく俺以外には誰もコイツの存在を感知できていないだろう。
では、なぜ俺はわかったのか?
実を言うと宴の開始直前・・・カオスが連絡先を交換する前にバックレたことを愚痴っていた時に、こんなメッセージが頭の中に聞こえてきたのだ。
『【固有能力:天醒者】の効果により【天醒:隠匿突破】が発動しました』
それと同時に東側の森の中からカオスの存在が感じられた。気配ではなく存在。正直、自分でもよくわかっていないのだが、なぜかカオスの野郎が侵入していることは確信できた。
どう対処するか悩んだが、まるで動く様子が無かったので今の今まで放置・・・もとい泳がせていたのだ。そして気が付いていないフリをしつつ、捕らえられる距離まで自然に接近し、今に至るわけである。・・・決して、アテナたちからマジ逃げしてきたわけでは無い。
それにしても・・・カオスとは連絡が取れなかったし【レギオンガルド島】の立ち入り許可は出していないはずだ。にも関わらずこの野郎は平然とこの場にいる。
【レギオンガルド島】は明日から一般解放する予定だが【アークガルド】クランホームがある山は立ち入り禁止設定にするつもりなんだが・・・こうやって平然と入り込んでくるヤツラがいると不安だ。いっそのこと警備巡回メカでもアヴァンに作ってもらうか。
・・・まあ、それはともかく、こうやって向こうからやってきてくれたのは都合が良い。カオスの奴は、俺がアニスたちに関する記憶は封印されていると思っているはず。つまり何も知らないフリをして情報を聞き出す絶好のチャンスということだ。
そのことを念頭に置きながら俺は勤めて冷静に、平静を装いながら言葉を返す。
「なに、たまたま目に入っただけさ。・・・にしてもどうやってこの島に入ったんだ? お前も招待しようとしたが連絡手段が無かったから断念したんだが・・・」
まずはジャブだ。ここでフレンドコードでも交換できればコイツらに接触する足がかりになる。
と思ったが、カオスから返ってきた言葉は・・・
「・・・下手な芝居は止めろ。あの透明な小型メカで録画していたのだろう? お前はなにがあったのかを知っているはずだ」
・・・オー、ジーザス! ばれてーら!! チャンスなんて最初からなかったらしい。
この野郎・・・【スタッグ君】に気が付いてやがったのか。っていうか透明なメカになんで気が付くんだよ!!
「・・・【神眼】だ。お前の仲間の【天使】の女も持っているだろう?【神人】もまた見通す目を持つ」
・・・ガッデム! アテナと同じ【種族スキル】か! 迂闊だったな・・・見た目だけ透明になっても検知する方法はいくらでもあるということか。・・・後でアヴァンに改良するよう伝えておこう。
それはそれとして・・・まずいな。
アニスが俺たちの記憶を封印したのは、おそらく再度襲撃しやすくする為だ。
襲撃された記憶を持ったままだと俺がそのことを公開し、さらに二度とこのゲームにログインしようとしないかもしれない。その懸念があったからこそアニスたちは俺を連れ去ろうとした・・・結局、それも黒幕が止めさせたみたいだが・・・その対抗処置が記憶の封印だったはず。
俺が表面上はなんのリアクションを起こさない事で、アニスたちは自分たちの処置が上手く行っていると勘違いしているはず。その裏をかいて、再度襲撃してきた所を倍返しで撃退するつもりだったのだが・・・
向こうにバレているとなると、かなりまずい。
「・・・安心しろ。このことは誰にも話していない」
「なに?」
そんな俺の考えを呼んだかのように、カオスは俺の懸念を否定した。
話していない? 俺がアニスやアギラ、ジェスターのことを把握していることを知らせていないということが? だが、なぜ・・・?
「カオス。お前は連中の味方なんじゃないのか?」
映像を見たときも思ったが・・・どうもコイツはアニスたちから一線引いて接している気がする。・・・まあ、コイツが他人と仲良くしている光景なんて想像できないのだが。
「・・・協力してはいるが、味方でも仲間でもないな。連中に付き合っているが・・・あくまで契約、ビジネスだ」
ビジネス・・・そういえばジェスターもアルバイトだって言っていたな。案外・・・でもないが連中は仲間意識というものが薄いのかもしれない。
かと言って俺の味方になる、というわけでもないだろうな。
カオスは契約と言った。口約束や成り行きではなく契約。契約とは守られる為にあるものであり、破ればペナルティがあるということでもある。それにカオスにも何らかの見返りがあるはずだ。相当な理由でもない限り、その契約を破るような事は無いだろう。
それにカオスは一人わが道を行くタイプというか・・・自分の決めた事は曲げないし、一度した契約は反故しないタイプと見た。仮に、俺がカオスを買収しようとしてもカオスが頷く事はないだろう。
・・・これがジェスター相手だったらまた違ったかもしれないな。アイツは簡単に仲間も裏切りそうな軽薄さがあったし。・・・まあ、ジェスターを信用できるかという別の問題もあるが。それ以前に性格的にも関わりたくない。
しかし、それなら何故・・・?
「・・・なら何故、俺に情報を流すような事をする? そもそも一体何をしに来た?」
「・・・前者については答えるつもりは無い。後者については・・・確認だ。お前が逃げるのか立ち向かうのか、どちらを選ぶのかをな」
・・・つまり、カオスもまた、自分の都合で動いているということか。
そして何か狙いがある、と。
その狙いに俺を利用できるかを確認しにきたというわけか。
確かに、明らかにゲームのシステム範囲外の襲撃を受けたのなら普通プレイヤーは通報するかゲームをやめるかするだろう。誰だってトラブルに巻き込まれたくは無いだろうしな。・・・俺なら喜々として向かっていくが。
しかし、カオスが俺を利用しようとしているという事は、逆に俺もカオスを利用することもできるということだ。
カオスもそのことを重々承知の上でこの場にいて、俺と話しているはず。
後は・・・どちらが先に相手を出し抜けるか、だな。
(*・ω・)*_ _)ペコリ
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