時の差はうまらない
最後だから
時間なんか止まってしまえばいい。
カチカチと秒針が動く時計を睨みつけながら念じるが、もちろん止まらない。時計を止めるなら後ろの電池を抜けばいいことは私にもわかっている。でも、そういう事では無いのだ。
「どうして、私は生まれるのが一年遅かったんだ……」
今日は、私の想い人が卒業する日。そして彼がこの町から離れる日だ。
彼と私は四歳差だ。家が近所の為、幼いころから面倒を見てくれた人だ。小学校の頃はまるでヒヨコのように彼の後をついて行っていた。
彼が中学に上がる頃に、初めて恋心を自覚して告白した。だけど彼は大人びた笑みで私の告白を冗談にして流してしまった。それどころか、彼女がいると告げたのだ。
私はある意味納得した。こんなに恰好のいい彼がフリーなはずがない。でも諦める訳にはいかないのだ。そんなに甘い覚悟の恋ではない。
私だって彼との年の差を考え諦めようと思った。だけどどんな時でも彼の事を考えている。
恋心を自覚する前でさえもう重症の域だった私は、恋心を無かったことにしても彼を中心に動いていた。無自覚で……
もう彼は私の日常に欠かせない人なのだ。私は、彼の理想の人になれるように自分を磨いた。
彼に振り向いてもらう為に……
そして決意した。もし彼が高校を卒業する時に告白をして振られたらきっぱりと諦める事を……
そして彼のいる高校に進学するために勉強をした。どうしてももう一度、同じ学校に行きたかったからだ。彼が行った高校は大学までエスカレーター式で行ける所だったから、彼はそこの大学に行く気なのだと思った。
付き合っていた彼女は、私が勉強に精を出している間に別れたらしい。
そして私は、彼と同じ高校に受かることに成功した。やっとまた彼と同じ学校に行けると思ったのに、彼はどうやらそこではなく県外の大学に行くらしい。
その情報は彼のお母さんに聞いたから確かだ。その事を思い出すと涙が出る。だから本当に想いを伝えるのは今日がラストチャンスだ。今度こそ彼に気持ちを伝えたい。この想いが刷り込みではなく本当の恋だって分かったから。
涙をグイッと裾で拭くと、一番自信のある綺麗な服に着替えて彼の高校に向かった。
とうとう彼の高校の前に着いた。そして高校の前にある樹の幹に、体を隠し門の中を窺う。そこは沢山の卒業生とその保護者でごったかえしていた。私はその中から彼を見つけた。
そして彼に駆け寄ろうとしたところで、彼の傍には綺麗な女性が立っていることに気がついた。彼はめったに見せない笑顔を彼女に向け、楽しそうに話している。
私に認めたくない現実を見せつけた。
もう彼に告白する勇気は無くなっていた。私は、しわが出来るほどスカートを握りしめ、その光景を振り切るように逃げだした。
空は私の気持ちのようにどんよりと曇っている。
見たくなかった現実を思い出して涙が零れ落ちた。しかし続くはずの嗚咽は喉の奥で消えた。良く知っている熱が私を後ろから抱きしめたからだ。
あまりの事に私は固まった。伝わってくる熱にパニックになる。
「どうして? 私は……」
私は彼の顔を見ようと振り返ろうとした。しかし彼はそんな私を抑えて耳元で囁いた。
それは、昔から待ち望んだ一言だった。そして待ってると、一言だけ付け加えると、私の手を取って歩き出した。
HAPPY END……?
最後です。ここまでお読みいただきありがとうございました。
この話だけ少しテイストが違いましたね。
少しでも甘酸っぱさを感じていただければ嬉しいです。