桜の咲く頃に
ずるい二人
桜が舞う四月に初めて会った彼女は朗らかに笑う人だった。
でも最近はその笑顔がぎこちない。最初はわずかな違和感だったが、今でははっきりと分かる。
しかし、彼女は僕に相談する気が無いらしい。自分でなんでも決めてしまう彼女の事だから今回も自分で決める気だろう。
多分、その悩みは僕の事だろう。
正確には将来の事だろうけど……
今日の彼女の顔には決意の色が浮かんでいた。彼女の様子を見ていれば良く分かる。きっと僕に別れを告げる気なのだろう。だから僕は彼女を呼び出した。一番最初に彼女に出会った場所に……
「僕は君の事を君以上に知っていると思うんだ。だから君が何に悩んでいたか分かる」
彼女は僕のその言葉に驚いた顔をした後、少し後ろめたい様子で俯いた。
「この場所を覚えてる?」
彼女はこくりとうなずいた。
この場所ですべてが始まった。この図書室で……
黙ったままの彼女の折れそうな体を抱き寄せて、彼女に僕の存在が現実のものだと伝えるために熱を伝える。
「ここで君に声をかけて友達になった。そしてここで告白したよね? だからここは二人の始まりの場所なんだ」
窓から差し込む夕日が彼女の顔を赤く染め上げる。
「君に僕の気持ちを伝えるのにこの場所がぴったりだと思ったんだ」
安心させるようにいつもの笑みを浮かべて彼女の顔を覗き込む。そして体を離した。彼女の熱が遠ざかる。冷たい空気が僕と彼女との間に流れ込む。
彼女がはじかれたように顔を上げた。不安そうなその顔にもう一度抱きしめたくなるが、僕はその衝動を抑え込んだ。彼女はずるい。僕と別れる気のくせにそんな顔をするなんて…… でも、僕も彼女と同じでずるいんだ。
「いいよ。別れよう。だけど僕は君の悩みが消えるまで待っているよ。君が僕のこの腕に戻ってくる日を……」
彼女は僕の顔を見て、小さな声でずるいと呟くと前のように朗らかな笑顔を浮かべた。
そして、小指を立てると僕の小指と絡めた。
これは僕が彼女との未来の為に選んだ別れだ。
願わくは未来の彼女の笑顔が曇っていないことを祈る。
To be start…
読んでいただきありがとうございます。