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異世界でB地区の神様になったけど、誰にも言えない  作者: フカヒレさん
第三章 騎士道とは乳を護ることと見つけたり
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未来(おっぱい)を作る者たち(下)※

 

「あ、アンタ! 何を言ってるのよ!?」


 カップが勢い良くテーブルに置かれた。


「鉄は熱いうちに叩けと言うだろ? 今のこの気持ちを逃すべきじゃない。サンプルが欲しいんだ」


 一度火のついたこの気持ちに待ったをかけるなんて出来なかった。一分一秒も惜しい、今できる事を今したい。目の前にいる少女が普段どんな下着を付けているか、日常のサンプルケースを見ておきたいのだ。

 サンプルというか、サンぷるんだけど。


「よく分かんないけど、竜は飛び立つ前に討てって言う事!? 待って待って待って! わ、私今一着しか着てないから!」


「そりゃ普通はブラを何枚も重ねて着るってことは無いだろ? 何言ってるんだ?」


「そりゃムネっちの方でしょー!?」


 何がおかしいのか、リリミカは先ほどまでとは違う種類の赤で頬を染めていた。

 あ、わかった。


「この席なら店内でも大通りからでも、余程のことが無い限り見えないって。大丈夫だ」


「そんな心配してないし! というか、ここで見るつもりなの!?」


 当然だ。日本でもファミレスで試験勉強する学生が多いように、机に向かうだけが勉強じゃない。場所の選択も移動時間も待ってられない。


「頼む。今、この俺の気持ちを受け止められるのはお前しかいない。お前のおっぱいと、下着を見せてくれ!」


 もう止まらない。今すぐ、お前の身体が見たい。もしかしたら、リリミカも自分にあってない下着をつけているかもと思うといてもたっても居られない。

 席を立ち、リリミカの隣に座りなおした。触れてもいないのにリリミカは後ずさる。


「ぅぅぅ……な、なんなのよ……昨日はヘタれたクセに今になって強引に……」


「別に裸になれってわけじゃないんだ。先ずは下着姿で、次は下着だけ外してそれを見せて欲しい」


「具体的に説明しなくていいからっ! しかもノーブラになれっての!?」


「お願いだ。俺はリリミカのおっぱいだけが(サンプルとして)欲しいんだ!」


「う、ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅー……!」


 うなり続けること、やがて一分。


「分かったわよ……」


 彼女は遂に折れた。


「ありがとうリリミカ!」


「で、でも! 少しだけだからね!? ほら、なにボヤってしてんのよ! こっちに寄りなさい! 誰か来たら見えちゃうでしょ!?」


 言われたとおり俺は彼女に更に身を寄せ、背中で店内の死角を作り出す。

 ふと気になってカウンターを見ると、マスターが扉の向こうに引っ込もうとしていた。彼はチラリとこちらを向くと、小さく頷いて奥へ消えていった。

 気を使ってくれたらしい。あのマスター何者だ。



 上着を椅子に置き、スカートの裾からシャツを出した。どうしたのか俺のほうをチラチラ見ながらリリミカは服のボタンに手を掛けている。

 ぽつぽつとボタンを外していくと、リリミカの白い肌が上から徐々に露わになになっていく。まず見えたのは水色のキャミソールだ。


「……こんな事なら、この前買った下着を着て来れば良かった……」


 シャツの前を完全に開き、キャミソールの裾を過剰とも言える力で握り締めている。薄い布が彼女の力みを反映し小さく揺れている。

 そのまま数瞬をおき、リリミカは裾を捲り上げ始めた。白い肌と小さなおへそが布の下から現れた。そのまま歩くような速度で上昇し、やがてブラの下側が見え始める。こっちの布は薄い黄色らしい。まだ全体の一割程度だが、恐らくはワイヤーの入っていないタイプだろう。


「おお……!」


 やがて限界一杯にまで捲れ上がり、ブラに覆われたその双丘を露わにする。薄黄色のスポーツタイプのブラ。質素だが、中心に申し訳程度のアクセサリーポイントの赤いリボンが付いている。

 リリミカの現在77センチまで成長したバストを守る薄い要塞は、そのシルエットを余すところ無く見せつけてくる。露出はほとんど無いが布の皺が横に走っていることから、内側から膨らんでいるというのが分かる。ささやかな谷間もあるかもしれない。

 素肌を多く晒したからか、クノリ家特性のボディソープと例の柚子のような香りが漂ってくる。今日は天気が良かったからだろう、後者の方をより強く感じた。


「見すぎだから……面白くも、ないから……」


 リリミカの意見をどこかで遠くで聴きながら、俺は彼女の下着に釘付けだった。

 こんな至近距離で女性下着を見たことなど初めての経験だ。お洒落よりも動きやすさに焦点を置いたブラだった。

 もしかして第三準備室で下着を脱いで裸の乳房を晒してくれたのは、彼女にとっては色気の無いブラを恥じていたのかもしれない。ある意味において、裸よりも無防備な下着を見られることに羞恥を感じてしまうという、乙女心の不思議な機微を可愛いと思う。


【リリミカのスポーツブラジャー】

 規 格 BからC

 材 質 上級綿50%、中級魔伝綿50%

 他材質 中級弾性樹液糸

 備 考 ――

 着用数 3回


「……最近買ったばかりなんだな」


 使用回数からそう判断する。


「お、大きくなったんだから、当たり前でしょ?」


 小さく震える声で、リリミカは言った。当たり前だな、と訊いてしまった愚を恥じる。

 俺は顔を目一杯近づけ、もっとよく観察することにする。もう十分に息の掛かる距離だ。


「だから近いってぇ……!」


 弾性樹液糸ってのは、おそらくゴムのことだろう。この世界でも、ゴムの原料は樹液とかが使用されるらしい。

 Cまで対応の下着だからか、アンダーのゴムの締め付けにまだまだ余裕があるらしい。過剰な締め付けは負担になるが、あまり緩すぎても激しい運動で揺れてしまい痛みを覚える。

 白い脇付近に出来たアンダーの小さな隙間を少し引っ張り、そっと人指し指を入れてみる。


「ひゃぁっ!? ちょ、ちょっとぉ……! どこに指いれてんのよ……!」


「くすぐったいかもしれないが、少しだけ我慢してくれ。大事なところなんだ」


「顔近づけたまま話さないで……ッ、息、くすぐったいんだから……!」


 肌との隙間は約1センチ、しかしトップバストはちょうど良いらしい。

 リリミカのように細い体躯で、急にバストが成長した少女に対応する下着が求められる。今後の課題だな。

 次に気になったのは主要材質だ。綿100%だが、半々で魔伝糸っていうのが使われている。


「これは、までんし……っていうのか? さっきのヤツにも含まれていたが……」


 見上げ、膨らみの向こうにあるリリミカに話しかける。青い瞳と目が合うと、プイと逸らされてしまった。何故かリリミカの顔は真っ赤だ。


「せ、せいしき、めいしょうは『魔力伝達製糸(マジック・ストリング)』……さっきもいった通り、色んな術式を定着させる為に特別な技術で編み上げた糸よ……」


 そういえば第三準備室で俺の目を隠したときの布、それもきっと魔伝糸で編まれていたのだろう。

 リリミカの説明に頷きながら、俺は外側の布地に手を触れてみる。密着下着だからか、胸の柔らかさと暖かさがよく伝わる。


「んぅっ!? ちょ、っとぉ……」


「手触りは綿と大差ないんだな。全然違いが分からない……」


 割れ物を撫でるようにブラの表面を撫でていく。この世界にミシンとかあるのだろうか、キメ細かい布地はリリミカのおっぱいを護る役目を十分に果たしている。


「もと、もとは……ッ! 同じげんりょう、よ……。紡糸段階で魔力や術式を込めるか、どうか、の違いで……あ、ぁぁ、ああ! な、撫で回さないで……ッ!」


「例えば、綿と絹では術式を定着させる難易度とか異なるのか?」


「う、ん……上級以上ともなると、それこそ、特別な素材からしか出来ない綿とか、きぬ、とか、じゃないと、組み込める術式の容量、がぁ……」


 なるほど……つまりさっきの仮想自動調整は、データ容量をかなり喰うというわけか。そして、それに耐えうる素材ともなると安価ではあるまい。

 高級ランジェリーとしての需要はあるだろうが、日常で使用する下着、つまり今のリリミカが着ているブラなどには不向きだ。安定した生産と供給が出来ないことには普及など夢のまた夢。

 これもまた課題だな。


「……ん?」


 ふと、視線をずらすと膨らみの頂点にツンと小さな出っ張りが出来ている。なんだコレ、糸ダマか? だとすれば製作工程でなんらかの問題が……。


「リリミカ、糸ダマが出来てるぞ。この下着ってどんなミシンで――」


「え……? あ、ぁ……!」


 糸ダマを見て、リリミカの瞳が波渦のように飛沫を上げる。具体的には酷く潤んでいく。


「あ、あああ、だめ、ダメ、だったら……! 私の身体でしょ……いう事を、聞きなさいよぉ……! お願いだから、ムネっちの目の前で、固く、ならないで……ッ!」


 顔も声も赤く震え、リリミカの白い雪肌も桃色を帯びてくる。湯上りでもないのに、熱気が俺にも伝わってきた。糸ダマが少しずつだが更に膨らんでいく。俺から見て右側、リリミカにとって左胸の先端が特に顕著だ。


「ぃや、やだ、やだぁ……」


 泣き出しそうなリリミカ声に、何故か俺も凄くドキドキしてきた。おかしい。俺はただ研究のためにリリミカのおっぱいとブラを見ていただけなのに、何でこんなに興奮してくるんだ?


 ……。

 ……。


 コレ強制露出させてるだけだろ! 何がお前のおっぱいだけが欲しいだボケ!


 やっと我に返り、というか正気に戻る。羞恥に全身を火にしたリリミカが俺の前にいた。

 肩で息をしながら、シャツを開きキャミソールを捲り上げ、最近77センチになった胸をスポーツブラジャーと一緒に見せてくる。両胸の先端は、糸ダマにしては不自然な対称の位置に小さな出っ張りが出来ていた。

 内側から下着を押し上げる彼女の肉体は、年頃の娘としては健全な反応だ。


「リリ――」


 呼気が掠れて音を為さない。そして、それはリリミカも同じらしい。


「ねえ……次は? つぎは、なにをすれば、いいの――……?」


 たどたどしく要求してきた。困ったているような、泣きそうな、あるいは腹ペコのような顔だった。

 次、次ってなんだ。次に行って良いんですか?

 いや待て、リリミカの言う次とはつまり下着研究のことだろう。こんなプレイの続きではないはずだ。

 ならば俺の言うべきことは簡単だ。ちょうど頭も冷えてきたし、落ち着けばなんのことはない。


「じゃあ、次は……脱いでみようか……?」


 全然落ち着いてなかった。

 俺は成人向け漫画の展開によくある、グラビア撮影で相手を脱がしにかかる雑なカメラマンだった。

 息を呑む音は俺からか、リリミカからか。


「……ッ」


 リリミカは手で掴んでいたキャミソールの裾を口で咥えなおす。そして自由になった両手の指を、ブラのアンダーラインに掛けた。そして、それをやがて上に引っ張り始める。秒速数ミリという、何と残酷な速度か。


 薄い脂肪に覆われた肋骨のなだらかな凸凹、そこから始まる彼女の、彼女だけのおっぱいの始まり。今朝も目撃した下乳は、通過中のアンダーラインに内蔵されたゴム繊維で締め付けられ、実に柔らかそうに凹んだ。

 あともう、何センチもない。十日足らずで乳首封印解除とか、我が意志の弱さに呆れ果てる。しかし俺の弱さなど、リリミカの前では何の意味もない。


 ああ、結局俺はおっぱいには敵わないのだ……。



『いい加減にせんか貴様らーッ!!』


 俺もリリミカも突如響いた怒声にギョッとする。リリミカはシャツを閉じ、俺は椅子から腰を浮かせ店内を見渡す。しかし、やはり誰も居ない。まさか閑古鳥が叫んだわけもあるまいし、マスターはまだ戻ってきていない。


「今の声、まさか……!?」


 リリミカの反応は俺のそれとは違っていた。彼女の顔がまるで怖い先生にイタズラがバレた少年のようになる。


『黙って聴いていれば、不埒な言動ばかりではないか! 挙句の果てにここで脱げだと!? 恥を知れ恥を!』


「だ、誰だ!? いったいどこから……」


「私はここだ!!」


 バン!


「うお!?」


 大通り側の窓が勢い良く開け放たれる。室内に風が吹き込むより早く、一人の少女が俺達の視界に飛び込んで来た。

 燃える様な赤い髪を一つに纏めたポニーテールと、意志の強さを感じさせる吊上がった赤い瞳。レスティアの瞳が尖った氷の切っ先なら、この少女のそれは炎の尾だ。


「や、やっぱり……ベルん!」


「今は勤務中だ。せめてコーチと呼べ!」


 リリミカの恐れを孕んだ声の中と共に、耳新しい単語がある。コーチ?

 自らをそう呼称した十代後半くらいに見える少女は、射殺さんばかりの眼光をまずリリミカに、そして二割り増しの威力で俺に向ける。


「そこを動くなよ、ハイヤ・ムネヒト!」


 急な訪問者に反応が取れないでいると、赤髪の少女は窓の冊子に足を掛ける。おい、そこから入る気か?


「――お客さん」


 その声は俺でもリリミカでも、この見慣れない少女の物でもない。喫茶店のマスターの物だった。貴方、いつ戻ってきたの。

 彼の立派な髭がイガ栗のように割れ、そこから重厚なバリトンボイスが発せられている。


「入り口はあちらですよ」


 流れるような視線と腕の動きで、少女の意識を店の入り口に向ける。


「むっ……失礼した」


 引っ掛けていた足を下ろし、少女は店主に頭を下げる。それから「逃げるなよ!」と俺に言葉をぶつけ早足で去っていった。


「……」


「……」


 俺とリリミカが台風一過のような沈黙に支配されること数秒、やがてちりんちりんと来店の鈴が鳴り響き先ほどの少女が入ってきた。ピョコピョコと赤いポニーテールを弾ませ、ずんずんと真っ直ぐこちらに向かってくる。


 そこでようやく彼女が皮鎧を纏っていることが分かった。傷だらけの異世界具足は、訓練の密度や実戦経験の多さを物語っている。腰には同じ大きさの剣が二振り。真新しい剣と、鎧よりも更に年季物で、ただならぬ風格を感じさせる剣とが一本ずつだ。


 大股で俺達の前まで来ると怒りに満ちた形相を向けてくる。ゲームで女体化の洗礼を受けた金剛像みたいだなと、現実逃避気味なことを思った。


「よく逃げなかったな。それだけは褒めてやる」


(なんだこの娘さん……)


 言葉を発せないでいると美少女と化した阿形様、もしくは吽形様は隣のリリミカに視線をぶつける。


「これはどういうことだリリミカ! 貴様ともあろう者が、何故男に為すがままにされている!?」


「あ、あの……えっと、これはそのぅ……」


 明らかな怒号に、リリミカは強風に煽られるボロ窓のようにガタガタと震える。口元には苦笑いを浮かべているが、いかにも答えにくそうだ。


「ちょっと待ってくれ! いきなり出てきて……いったい誰なんだよ!?」


 ようやく疑問を挟めた俺に、赤髪赤目の少女は首をこちらに向けてきた。


(コイツだ――!)


 視線に込められた敵意は、先ほど横の大通りで感じたものと全く同じものだった。まるで熱した鉄。物質化したような目力は、しかし不意に収まった。


「……確かに名乗らぬのは非礼に当たるな……」


 少女は目を伏せ軽く謝罪の会釈をする。そして顔を上げると、眉毛の角度が急な傾斜を作っていた。


「私はメリーベル・ファイエルグレイ。第二騎士団の副団長だ。ハイヤ・ムネヒト、貴様を詰め所まで連行する!」


【メリーベル・ファイエルグレイ】

 トップ 92㎝(F)

 アンダー 69㎝

 サイズ 3.1㎝

 19年9ヶ月21日物


 後日、色んな意味でファ()ンタスティックな出会いだったと思い出すことになる。


閲覧、ブックマーク、評価、感想など誠にありがとうございます!

竜は飛び立つ前に討ては、異世界での故事成語だと思って頂ければ幸いです


敦賀屋 バボ様、感想誠にありがとうございます!

目から鱗が落ちた心地です!

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