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異世界でB地区の神様になったけど、誰にも言えない  作者: フカヒレさん
第二章 アカデミーでは教えられない(乳の)話
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怒った乙女は怖い(上)

 

 一人暮らし時代のアパートより馴染んだドアが、これほど重く感じたのは初めてだった。


「ただいまー……」


 ノーラ女史の残業を手伝い、ミルシェとリリミカを見送ってやがて二時間ほど遅れて俺は帰路につけた。

 腹いせに、あのEカップは揉みくちゃにしてやった。(妄想の中で)

 そんな馬鹿な考えも、サンリッシュ牧場の敷地内に入るまでだった。小高い丘に見えざる十字架を背負って上る罪人、それが俺。


「……」


「……」


 テーブルに座るミルシェは俺を一瞥もしない。机の一点をみつめたまま、ぼんやりとまばたきもせず口を閉ざしていた。

 空気が重い。なんか胃が痛くなってくる。魔力灯は確かに点っているはずなのに、見えない暗さが部屋を占拠しているように感じる。

 モーゥと、牛舎で誰かが鳴いた。その鳴き声がハッキリ聞こえるほどこの部屋は静かだった。


「あー……バンズさんは?」


 沈黙に耐えかねたのは、やはりこちらだった。


「おとーさんは王都で話し合いがあるそうで、遅くなるそうです」


「そ、そうか……あのさ、実は話があるんだけど……」


「お風呂」


「えっ」


「先にお風呂をどうぞ」


「ああ……うん。じゃあ、失礼します……」


 決して大声でも厳格な声でもないが、ピシャリとした言葉に機先を制され俺は力無く頷く。

 なんだろうこの肩身の狭さは。質量をもった沈黙に押しやられつつ、言われたとおり一度B地区の我が家に戻り湯浴みの準備を整えることにする。

 黙ったまま机に座ったままのミルシェがどんな顔をしているか見えないが、しきりにうなじ辺りを撫でていた。


 ・

 ・

 ・


「ふー……」


 サンリッシュ牧場の天然温泉に浸かり一日の疲労を流していく。ばしゃばしゃ流れ込む湯音だけが響いていた。


「はー……どうしたもんかな……」


 血行の良くなった頭でも妙案は思い浮かばず、風呂から上がるのが何となく億劫に感じる。

 何を怒ってるのかな? なんてつまらない事は考えない。

 俺だってミルシェが男とヨロシクやってたら面白く無い。いずれイケメンで高収入で性格も良くて王国でも五指に入る実力者と結ばれることを目指しているが、それ以外との男達とも友好的かつ清いお付き合いをして貰いたい。過度な接触なく、親密になりすぎないように貞淑に。


 だがそれをミルシェに強要し、俺は色んな女の子と遊びまわるというのは身勝手が過ぎる。俺にそんな真似が出来るかどうかは置いてだ。

 ミルシェが俺に抱いている熱病を癒さない限り、心を乱す原因になるのは心苦しい。それに俺がミルシェの友人に手を出してしまったという事も大きい。友情にヒビを入れるような事になってしまえば大変だ。


「とりあえず、色々正直に話すしかないよな……」


 ただでさえミルシェに対し『聖脈』や俺が教員になった理由などの隠し事をしている。秘密にしていた訳ではなく話すタイミングを見計らっていたというのは、この場合秘密をしていた側の言い訳に過ぎず、彼女にだけ隠していたという事実は変わらない。

 それに後ろめたさを覚え、無意識のうちにミルシェを避けていたのではないかと指摘されれば、すぐに否定することは出来ない。


「よし」


 バンズさんを交えて三者面談風に話し合おうと思ったが、この空気を長引かせるのはよくない。バンズさんには後で謝るとして、何もかも話してしまおう。


『聖脈』のこと、ミルシェを護る為アカデミーに勤めていること、そしてクノリ姉妹と育乳のこと。なんか最後だけ気色が違うな……。


 残念と痛切が混じったような感情が俺を占めるが、これは抑えるべき個人的欲求でしかない。

 俺は世界中のおっぱいを護りたいのだ。触りたいという願いの優先度はそれより数段落ちる。俺が触ることによって、誰かが不快な想いをするなら自粛すべきではないか。

 レスティアとリリミカには、これ以上お前らのおっぱいに触らないと二人に話そう。

 これで少しはミルシェのストレスが軽減してくれたら良いのだが……。


 ひたひたひた……。


 考えが纏まった所で、足跡が静かな音をたて近づいてくる。

 一瞬ミルシェか!? と狼狽えたが、この展開は既に経験済みだ。知ってる知ってる。天丼ってヤツね。


「バンズさん早かったですね。ミルシェの話だと、もう少し掛かるかと思ってましたが……」


「おとーさんはまだです。もしかしたら泊まってくるかも知れないですよ」


「へえー……」


 ……。

 …………。

 ………………。


「オワーーーーーーーーーーーーー!?」


 飛沫をたて腰を上げかけ、急速浮上を中止する。中腰のまま半回転し脱衣場方面へ振り返った。

 湯気の向こうから現れたのはミルシェだった。

 衣服など着ておらず、大きめのタオルを腕に抱えるようにして体の前に垂らしている。剥き出しの肩が、温泉の湿気を帯びて瑞々しく艶やめく。

 その成長著しい体を隠すには、備え付けてあるタオルの中では最大の物と言えど役者不足だったらしい。

 中心は布に隠れているがその外側、全身のシルエットは隠しようも無い。オレンジ色と乳白色の中間で統一された魔力灯に照らされるメリハリの利きまくった肉体は見間違いも無い。


「お、おま、おままま、ここここはおとととと…………」


 ここは男湯だぞ、というツッコミは適切か。これだけの規模を誇る天然温泉とはいえ、個人所有物の域を出ていない。

 渡り廊下から直通の休憩所は、数人で詰めても余裕のあるスペースがある。かつてはサンリッシュ親子をここでマッサージしたものだ。

 その部屋には扉が二つ並んでおり、それぞれが短い廊下を経て脱衣所に繋がっている。そしてその脱衣所内扉から同じ温泉だが例の巨壁に仕切られた湯に繋がっている。便宜上、それで男湯と女湯という区別しているわけだ。

 区別の方法については暗黙の了解というか慣例で、日本にもある温泉施設のように日替り、もしくは一番風呂の者が気分で交換している為どっちがどっちとも言えない。


 しかしだ。休憩所の扉前に男、女、と書かれた暖簾を掛けておいたし、最悪脱衣所に入れば俺の脱いだ衣服に気付いたはず。この牧場の持ち主たるミルシェが二重の扉をくぐる前に気付かないはずはない。


『あれれ~? ミルシェ入ってたんだ~気が付かなかったよー。せっかくだし、混浴とかしちゃおっかな~フヒヒ』


 なんて成人向け漫画の雑な導入ではあるまいし、俺が幾度も重ねていた妄想でも無いのだ。つまり故意によるもので間違いない。


 何故? どうして? それともあのミルシェは偽者で、ついに俺のスキルは仮想女体を顕現させるに至ったというのか。仮にそうだとすれば凄まじいクオリティと言わざるをえない。ミルシェの裸など見たことなど無いのにとんでもない再現度だった。


 栗色の髪が白肌にかかり、その対比のコントラストのためより鮮やかな色彩を帯び夜風に泳ぐ。

 酪農作業のため日焼けしたのだろう。普段は日の当たらない鎖骨から下が、首から上の肌より更に白い。

 そしてワガママな膨らみが始まるが、途中から無理やり内側に凹んでいる。彼女の腕がタオルと共に双子の山を上から押さえているからだ。その圧制から逃れた北半球の柔肌が、かえってぷっくりと膨らんでいる。


 つまりおっぱいですよ。むぎゅうとか言いそうです。誰が言わなくても俺が言いますよ。


 そしてその持ち主が、まるでこっちに向かって歩いてきているようだ。ひたひたと床を迷い無く時折風に小さく揺れるタオルを、胸を押さえている側とは逆の手で抑えながらミルシェは歩いてきた。やがて斜め後ろに見えるまで来たとき、俺は慌てて目を逸らす。


「となり、いいですか?」


「へ? あ、はい。お構いなく」


 ミルシェ(の幻影)が一応の断りを入れ俺の返答ともいえない返答を聞くと、隣のスペースに足を入れる。裸の足がちゃぷと白い水面に吸い込まれていくのを視界の外に捉える。俺の目はミルシェの顎あたりを見ていた。顔を見る勇気も無い、おっぱいをガン見することも恐れ多くて出来ないがための避難場所だった。


「ふぅ――……」


 約一メートルの距離をおいた所にゆっくりと腰を屈め、彼女は湯に身を浸した。水気を帯びた吐息がここまで届いた気がした。

 タオルの淵が水面に完全に沈んでほんの数センチ、そこで潜行は終わる。湯船にタオルをつけるのはマナー違反だよ、と言えるはずも無く。

 僅かに彼女の乳房が浮力を受け上方向に進むのを見た。おっぱいは水に浮く。曲線の中心は未だ布と水面下に護られていたが、俺のスキルは水面から6センチも離れていない場所にあることを正確に伝えてくれる。生唾を飲む音は俺の喉からだ。


 それから俺は腰を湯底に戻し岩肌と女湯を区切る大きな壁に目をやった。壁の向こうには本物のミルシェがあのけしからんボディを湯に解しているのだろう。死ぬまでに一度は拝見したいものだ、あっはっはっは――。


「……」


「……」


 いやなんでだよ。

 信じがたいシチュエーションに陥ったとき、思考が停止するんだなと自己分析できた。

 ばしゃと水しぶきが控えめに隣から聞こえた。首と目をミリ単位で動かすと、ミルシェが湯から何かを取り出した。それは温泉水をたっぷり吸って重くなったタオルだった。

 それを湯の外側で軽く絞り、床に置く。そして何事も無かったかのように縁を背もたれとし座りなおした。

 つまり俺とミルシェは同じような姿勢で同じ方向を見ることになる。


「……」


「……」


 そして静寂が訪れる。全て世は事も無し。


「いやいやいやいやいや!! 何考えてんだよ!?」


 再起動した俺は両手で顔を覆いながら畳三枚分ほどの距離をあけた。

 幻想でも妄想でも俺のスキルでも無い、現実だった。つまり温泉で素っ裸のミルシェと二人きりだ。オウ、ジーザス。


「ムネヒトさん――」


 指の間からミルシェはゆっくりとコチラを向いた。


「――わたし、怒ってます」


 ポツと漏らした一言は俺の動揺をほとんど変化させない。それは俺も気付いていたことであったし、この状況の説明では無かったからだ。怒ったら何で男湯に乱入してくるんだ? ミルシェはムカムカしているかもしれんが、俺はムラムラしてしまうんだが?


「なんで怒ってるか、ムネヒトさんは分かっていますか?」


「え? そりゃあもちろん……」


 思い当たる節はある、ありまくる。さっきまでそれについて考えていたし。


「ムネヒトさんが思っていることは正しいです。けど、正解ではありません」


 事実だけと真実じゃないみたいな、不明瞭な答えが返ってきた。

 ジト目と睨みの中間のような瞳が真っ直ぐ俺を映す。身体ごとこちらに向け、一際大きな波紋がミルシェのおっぱいから発生した。ビッグウェーブだ。サーファーになろう。


「それを――今から教えて上げます」


 剣呑な琥珀色の瞳が、一歩分近づいた気がした。



閲覧、ブックマーク、評価、まことにありがとう御座います!

どうでもいい話ですが、おっぱいの話を進めるときはR15とR18ガイドラインの項目を熟読します

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