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異世界でB地区の神様になったけど、誰にも言えない  作者: フカヒレさん
第二章 アカデミーでは教えられない(乳の)話
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正直者の面接(上)

 

「アカデミー、ですか?」


 ああ、とバンズさんは頷く。


「『聖脈』の話を覚えているか?」


「ええ、それは勿論」


 かつてパルゴアに仕えてきた魔術士(ソーサラー)ライジルの顔と一緒に思い出す。『聖脈』という言葉はライジルの記憶にあったものだ。

 その事についてバンズさんと話したことがある。


『『聖脈』ってのは、平たく言えば大地の血管だ』


 風水においても地脈や龍脈などと云われる物がある。それの異世界版だろうとは、バンズさんの説明を聴いて思ったことだ。


 大地の下を流れる巨大な魔力や気、あるいはもっと根源的なエネルギーの循環経路だという。

 その付近では魔道具の材料となる強力な素材や優秀なレアメタルなどが採掘されるため、驚くほどの資産価値になる。

 とくに『聖脈』とはより()()血管で、その場所はより強い恩恵があるという。

 他ならぬ王都【クラジウ・ポワトリア】の真下にも『聖脈』が存在し、その上で人々の交流が盛んに行われた事が、国家の始まりとも言われているらしい。


『目には見えないし、熟練の魔術士でも容易には発見できないモンだ。だがまさか、それが此処だとはな……』


 結局、奴らが欲しがっていたのは土地そのものというだ。それを奪い神に捧げようとしていたというのだから、バンズさん達にとっては迷惑この上ない。



「で、だ。お前にアカデミーに行って貰いたいってのはな、つまりミルシェを守って欲しいんだよ」


「! 俺がミルシェを?」


「そうだ。厚かましいってのは分かってるが、他に頼れるヤツも居ねぇ。『聖脈』の事となると迂闊に外に話を漏らす訳にもいかないしな」


 確かに知るものに言わせれば『聖脈』のある場所は宝の島、財宝そのものと言ってもいいだろう。

 場合によっては、金鉱脈よりも価値のあるものだそうだ。欲に目のくらんだ連中が沸いてこないとも限らない。

 ともすれば聖脈の場所を知っているだけで狙われかねない。


「それを知っていてミルシェに近づく野郎がいるかもしれん。幸いパルゴアの野郎は知らなかったみたいだし、ライジルが誰彼に言いふらしもしていない。だが、あんな事があった後だ。どうにも気がかりでな」


 言わんとしていることは分かる。ライジルのような奴がミルシェに近づいて彼女を人質にし、ここを寄越せと言ってくるかもしれない。

 ライジルが回りくどい真似をしてくれたお陰で、最悪の事態になる前に収拾がついた。もし段取りもサルテカイツも無視していたのなら違う流れになっていただろう。

 更に言うなら、それをネタにミルシェを脅すってことも考えられる。


 つまり――


 ・


『ひひひひ……! 牧場を護りたければ、俺の言うことを聞くんだなァ!』


『いやぁっ! こんなこと止めて下さい!』


『くくく、なんて良いチチしてやがるんだ! さぞや丈夫なガキを育てられそうだな! だがまあ?』


『ひっ――』


『テメェのオッパイを最初に味わうのは俺になるわけだがなァ! いっただきまーす!』


『ダメェっ! あぁっ、いやぁ! いやだよぉ……誰かぁ……! おとーさん、ムネヒトさん……! たすけてぇ……』


 ・


「クソがァッ! ミルシェに毛一本でも触れてみろ! ぶち殺したルらァボケがッ!!」


「落ち着け! いったいどんな想像してんだ!」


「あいた!?」


 軽く小突かれて正気に戻る。

 確かに心配だ。というかあんな可愛い子を学校の男子どもが狙っていない訳が無い。聞いてしまえば一秒でもミルシェから目を離すのも不安だ。


「分かりましたアカデミーに行きます! いやもう今から行ってきます! 場所は王都ですよね!?」


「だから落ち着けって! 話はまだ途中だ!」


 バンズさんに制止され俺は幾分冷静になる。


「すぐには無理だ。あと勘違いしてるといけねぇから先に言っておくが、別にアカデミーの生徒になれっていう訳じゃねぇぞ」


 言われてそりゃそうかと思う。

 俺は22歳でミルシェは16歳だ。少なくとも同じクラスになるのは難しいだろう。

 高校生のクラスに大人が混ざっているようなもんだ。なんとなく居心地が悪い。


「もちろん毎日配達に行けって訳でもねぇ。独占契約を交わしているわけでもないからな」


「じゃあ、どんな立場でアカデミーに?」


「アカデミーの先生になれってことよ」


「……それってある意味、生徒よりハードルが高いんじゃないでしょうか?」


 バンズさんの言葉の意味を十分租借し、努めて冷静に返事をする。

 簡単な常識などは身についた筈だ。だがそれはあくまで無知では無いというレベルで、俺の教養はアカデミーの教師になれるかどうか以前の話だろう。むしろ生徒に教わるレベルだと思う。


「そこは俺に考えがある。かつてのコネなんざ使いたくはねぇが、仕方ねえ」


 コネ、とは多分騎士団時代の知り合いを頼るということだ。パルゴアの件で後手に回ったことをバンズさんも苦い反省としているらしい。


「お前さえよければ明日にでも、その知り合いを呼ぼうと思ってる。面倒な話だが、ムネヒトに会って話がしたいんだとよ」


 コネはともかく、俺がアカデミーを出入りして問題ない人物かを見極める為だろうというのは予想できる。


「つまり面接、か……」


 就職活動の時以来だ。あまり得意な分野でも無いし、上手く出来るだろうか。


「ま! 難しく考えることはねぇさ! 性格とかを見るだけだから、普段どおりにしておきゃ何の心配もねぇよ!」


 バシバシと、俺の肩を叩きながらそう太鼓判を押す。


「あとはお前次第だ、どうだ? やってくれるか?」


 教員など経験もないし、会社ではまだ新人だったから部下も持ったことも無い。

 正直、やっていく自信など皆無だ。


 だが返事は決まっていた。


「分かりました。アカデミーに行きます」


 ミルシェを護りたい気持ちが大半だが、アカデミーを見てみたいという好奇心が俺を迷わず頷かせた。



閲覧、ブックマーク、評価、誠にありがとうございます!

微妙に風邪気味です

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