おっぱいには敵わない(下)※
「ムネ、ヒトさん……」
彼女が呼んだ己の名前に、どんな思いが込められていたか分からない。
「……ミルシェ……」
己が呼んだ彼女の名前に、どんな思いが込められたかも分からないのだから。
パルゴアとか、屋敷からの脱出とか、追っ手とか、何もかも一切が頭から吹き飛ぶ。
琥珀色の瞳は涙が零れそうなほど潤み、しかし沸騰しそうな熱を思わせる。
そしてその瞳へ俺の熱を投げ入れるように見つめた。十指に意思が戻った。もうミルシェしか見えない。
お互いがお互いの名を、あるいは別の事を言おうと再び口が開きーー……。
「ミルシェーーーーーーーーーーーーーーーーーー!! 無事かーーーーーーーーーーーッ!!」
ドアから大男が乱入してきた。
「あっ」
冷や水を浴びるというのはこういう事か。
マグマのような血液が急速に冷却され岩石にでもなりそうだ。
薄暗い室内では顔が分からないが間違いなくバンズさんだ。だって娘の名前を叫んでいる。
その大事な娘であるところのミルシェさんに狼藉を働く男がつまり俺でして。
「俺の娘に何してやがるこのクソカスがあああーーーーーーーーーーーーッッ!!」
「ゴバァーーッッ!?」
当然、走り寄ってきたバンズさんにど突かれました。
それはもう見事なフックで、俺の横っ面を撃ち抜き首を半分トルネードさせた。初対面時に喰らったミルシェのビンタとそっくりな起動。
なるほど、ミルシェの才能は父親譲りだったのね……。
薄れ行く意識の中、そんなことを思った。
・
「ミルシェ! 大「バカーーーーーーーーー!」丈夫かって、えええーーーー!?」
娘の危機を救った父親に返ってきたのは、その娘の罵倒だった。
「なんてことするのーーーー!? バカバカバカーーーーーー!!」
息の続く限り罵倒を叫ぶミルシェ。罵倒を向けられた側は混乱する。バンズにしてみれば当然の攻撃であり、仮にムネヒトが起きていれば彼を弁護しただろう。
大切な娘の危機と、病み上がりの身体を引きずり正に決死の覚悟で乗り込んできたバンズに対し、これはあんまりな歓迎だった。
「バカって、だ、だってお前いま襲われてたじゃねぇか!」
「おそわっ……それは、えっと、治療……そう治療だよ! 私に怪我が無いかムネヒトさんが診てくれてただけだよ!」
「はぁ!? ムネヒトだって!? ……あー! ホントにムネヒトじゃねぇか! なにしてんだこんな所で!?」
そこでようやく自分が殴り倒したのはムネヒトだと気づいた。打ちどころが悪かったのか、鼻血を噴き出し酷くニヤけたまま失神している。
「だから私を助けに来てくれたんだって! それを……おとーさんのバカーーーーーー!」
とはいえミルシェは今まで文字通り乳繰り合っていたのだ。
自分の中で燻ぶる謎の感覚を持て余していたし、父親にそんな場面を目撃された恥ずかしさや自覚していない名残惜しさも手伝い冷静さを著しく欠いていた。
彼女自身が考えを整理できないまま口汚く罵るしか出来ない。
そんな言葉の暴力にさらされた父親は、
「ふぇぇ……」
哀れ、半泣きである。
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前回に引き続き、今回もおっぱいな話でした
追記
おっぱいの箇所を修正したら文字数が半分以下になってしまいました
つまり、このお話の半分以上はおっぱいということです




