プロローグ3
彼女が説明するにはこうだ。といっても改めて説明されるほど複雑な話じゃ無い。
居眠り運転をしていたトラックにぶち当たり、敢えなく昇天。犠牲者は奇跡的に俺のみ。
「マジかよ……」
いつまで経っても醒めない夢のようなこの状況に、もはや項垂れるしか無い。
「……マジかよ……」
二度言った。
「あの……お気の毒です……」
「もう少しで……」
「え?」
「もう少しで生おっぱいと色々出来る所だったのに!!」
「……は?」
「俺がっ……俺が今日までいったいどんな想いで日々を過ごしてきたか………なのに………それなのに!」
たまらず崩れ落ち地面を強く叩いた。脳裏に浮かぶのは遅れてきた走馬灯だ。
女の子にキモがられないように筋トレに明け暮れたり、柔肌の触り方をネットで調べまくったり、イメージトレーニングに勤しんだり、店を選ぶ為に風俗雑誌を買い込んでリサーチに休日を費やしたり、本番でヘマしないよいに一人遊びを月単位で我慢したり……etc.etc.etc.etc.……
「こんなのって……こんなのって……あんまりだぁ……ッ! ぐぅっ、う、ぉぉおおおん……!」
「うわぁ…………」
スマホのデータはどうしようとか、家賃はどうなるんだとか、見られて恥ずかしい遺品は無かったかとか、会社はどうしようとか……それらは一切頭に無かった。まだ見ぬおっぱいの後悔だけが胸を占めていた。胸だけに。
みっともなく蹲り男泣きする俺に、女神のドン引きするのみだった。
「今度こそ落ち着きましたか?」
「……はい……」
落ち着きはしたが、まだ現実を受け止める事が出来ない。だがもう夢とも思えない。
「ようやく本題に移れますね……おほん。ではムネヒトさん、貴方は異世界へ転生します」
「……はい……?」
なんか今日は呆けてばかりだ。
「よく聞きません? 異世界転生とか召還とか……そういうアレですよ」
道半ばに不幸にも命を落としたしまった生を救済する措置だと、彼女は言った。
「私には生き返るらせる事は出来ませんが、別の世界にて本来まっとうする筈だった命にチャンスを与えます。流行りのスキルも授けましょう」
「本当ですか!?」
涙に曇っていた目を擦り、女神様のご尊顔を……胸部あたりで一時停車してから拝む。
トラックに衝突し死亡し女神に出会い異世界へ行くとか……なんと古式ゆかしいのだろうか。おまけにスキルとな。
普段から愛読しているライトノベルやネット小説のような展開に、沈んでいた気持ちが浮かび上がる。
「では貴方の適正スキルを授与します。頭をこちらへ」
「はい!」
言われるまま女神様に頭をお辞儀のようにして下げる。彼女はふわふわと飛んで近づいてきた。その翼は使わないの?
「貴方の肉体や魂の才能、そして今までの人生から最も相応しい能力を選びます」
そう言って女神は両手を俺の頭の上へかざす。
「異世界へ行く者は皆こんな手順を? おおぅ……」
「他の神やその眷属が私と同じ方法とは限りません。中には逆に神と取引してスキルを得る転生者も居ました。……出来れば目を閉じて下さい」
「す、すみません! 因みに今までどんなスキルがあったんですか?」
「十人十色でしたね。無限の魔力だったりあらゆる武器を使いこなしたり、一度見たスキルを瞬時にコピーしたりというのも有りました」
「おお!」
聞くだけでもチートなスキルだと分かる。これは俺も、と期待してしまう。
「お待たせしました。転生者スキルの授与、確かに終了です」
「早いですね! そんな簡単に出来る物なんですか!?」
「貴方自身の才能から呼び起こすと言ったら分かりやすいですか? 私は元々有ったかも知れない可能性を、神の力を与え目覚めさせるお手伝いをしただけでなんです」
「へぇー……」
「一部の例外として、世界を救う役目を担う場合とかにはより強力なスキルやアイテムをオマケしたりします」
異世界の勇者とか英雄とかがその類いなのだろう。その一人に成れなかったのは少しだけ残念だが、これで良かったと安堵する方が大きかった。世界の行く末を担うとか俺には重大すぎる。
「それで! 俺にはどんなスキルが目覚めちゃったんですか!?」
「はい、それはですね……ん? あれ? おや? あら?」
不都合でも有ったのだろうか? 俺をみていた女神の表情が戸惑いの色を帯びた。
「…………女神様?」
「あ~……その~……訊きたいですか?」
「ハハハッ! 訊きたいに決まってるじゃないですか! 勿体ぶらずに教えて下さいよ~!」
何故か気まずそうに視線を泳がせる女神。
「では……言いますね……」
「はい!」
「貴方は……」
「はい!!」
「…………の神です……」
「え!? 何ですって!? 良く聞こえなかったのですが!?」
「……ちくびの……神です」
……
「えっ」
「……」
「もう一度、仰って貰っても良いですか?」
「……貴方は乳首の神です」
「…………」
「…………」
「わんもあぷりーず」
「You are God of nipple」
「………………」
「………………」
「やっぱり大人向けなお店のそういうプレイ?」
「だから違いますって!」
乳首の神様になってしまったそうです。