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異世界でB地区の神様になったけど、誰にも言えない  作者: フカヒレさん
第四章 金と恩とおっぱいと
201/214

私が貴方の一番

 

 それからアメリアは俺に顔を推し当てたままなのだが、ボチボチ離れて欲しい。空気を読んで、合体中のロボを傍観している悪役のような皆の視線がそろそろヤバイのです。

 それとなく彼女の華奢な肩を揺すってみるが、アメリアは抱きついたままだ。

 あれ? 何か微妙に震えてないか?


「おい、どうしたアメリア?」


 呼びかけてみると、アメリアは顔を伏せたまま横に振った。何処か息も荒く、感じる彼女の体温も熱い。


「分からないっ……私にも、分からないのよ……! 急に、苦しくなって……は、ぁっ!」


「!?」


 まさか魔王の呪いとやらがまだ残ってるのか!?

 此処は必殺の『乳治癒』――でも、お父さんの前だしな……と躊躇っていたら、アメリアは勢い良く顔を上げてきた。

 自然と上目遣いになる彼女の瞳は何処までも潤んでおり、頬は紅潮していた。滲んだ汗で、純金の髪が額に張り付いている。


「はーっ、はーっ、ぁ、ぁっ、ムネヒト……、あ、貴方を抱き締めて、匂いを嗅いでいたら……」


 嗅ぐなよ。


「胸の奥が熱くなって……ッ、上手く、息も出来なくて……寂しいような、切ないような……でも、手放したくなくて……! ねえ、これ、何? 教えて、私、どうしちゃったの……?」


 …………。


「どどどどどどどうしちゃったんだろうな? 俺にも皆目検討がつかないよよよよ」


 シャツを握りしめ、肩で熱い息をするアメリアから目を逸らした。俺には誤魔化すことしか出来ません。無意識なのかどうなのか、アメリアは下腹部を俺の太腿辺りに擦り付けていた。

 気のせいか、アメリアのソコも湿っぽい熱を持っている。これはいけません。お天道様の真下です。


「とうとうお気づきになりましたか、アメリア様」


 何とか自然に離れようと四苦八苦していると、長身の秘書が音も無くアメリアの側に寄って来た。


「ジェシナ……! これが何か知っているの!?」


 青みがかった紺色の髪が縦に揺れた。


「アメリア様は健康な肉体を手に入れた事により、食生活と睡眠が著しく改善しました。ならば、最後の欲求が改善するのは道理で御座います」


「さ、最後の……欲求……?」


「性欲です」


 おい!? 助けてくれるとかじゃないの!?


「せ、いよく?」


「はい。生きていく上では前者二つの欲求に比べ優先度は低いですが、時に食欲と睡眠欲を遥かに凌駕する強大な原初の欲求。それがスケベ。今のアメリア様の状態なのです」


 さっきから何言ってんだこの秘書!? 青空教室で保健体育とかレベル高すぎだろ!

 自分の状態を他者に教えられ、アメリアは羞恥と未知への恐怖に顔を歪めてしまった。俺に縋りつく彼女の肉体は、調理中のチョコレートのように熱い。


「ど、どうしたらいいのジェシナ……! 切なくて苦しくて、身も心も焼けついてしまいそうなの……! 私、怖い……!」


「――ったっふぁ……ムラムラを自分で処理できないアメリア様が可愛すぎて性的下克上も辞さない所存」


 ねぇ、この秘書やばくない?


「オホンオホン。自分で解消する手段はいずれお教えするとしまして、現在のその性欲を解消する方法ですが……これについては何の心配も御座いません。ちらっ」


「!?」


 危険な秘書は主人へ安心を与えると、効果音付きで俺の方を見てきた。


「旦那様にお願いするのです」


「ムネヒトに!?」


「おま!?」


 紺色の瞳が強く頷いた。


「愛する者同士で性欲を解消(ラブラブセックス)すれば、旦那様はアメリア様を自分の女と思うようになり、アメリア様は旦那様を更に深く知る事が出来ます」


「まあ……!」


「更に、旦那様ほどの御方を【ジェラフテイル商会】の一員として迎える事が出来れば、商会の発展も約束されるでしょう。そうすれば王国は……延いては、世界そのものがより良い方向へ向かうのです」


「すごいわジェシナ! 二人で気持ちよくなれるだけでなく、私達の仲も深まって、商会も発展、世の中も発展してしまうなんて、ウィンウィンどころかウィンウィンウィンウィンの……まさに一石四鳥じゃない!」


「仰るとおり、淫々々々(インインインイン)の一精液四絶頂で御座います」


 仰ってねーよちゃんと聴け!


「あら、何か浮かない顔だけれど……もしかして、ムネヒトは私が嫌い? 私には、女としての魅力を一切感じない?」


 ふと俺の表情に気付いたアメリアは、何事もないような顔でそんな事を訊いてきたが、不安そうな気配は隠せてない。


「そんな事は無いけど……」


「じゃあ良いじゃない」


 シンプル! シンプル故に強敵! 嘘でもアメリアなんか嫌いだと言っておくべきだったか!?


「いやほら、俺ってイケメンじゃないし……」


「私は外見の美醜では人を判断しないと命に誓ってるの。それに貴方は男前よ? 少なくとも、私にとっては世界一の美男子だわ」


「ぅぐぐ、めっちゃ高評価……! そ、それに、商会とかで働いたこと無いんだけど……」


「私やジェシナが居るから平気よ。ねえジェシナ?」


 アメリアがそう言うと、彼女の後ろで無表情に立っていた秘書は軽く頷く。


「お任せ下さい。私とアメリア様とで旦那様を手取り足取りシンメトリーにサポートいたします」


「ぅぐぐ、左右対称……! あ、ほ、ほら! 俺、地頭だってあんまり良くないし……」


「組織のトップが最も優れている必要なんて無いの。自分より秀でた者達を束ねる徳望と、人の意見に耳を傾ける寛容さ。そして強い情熱があれば良いわ」


 いきなり社長にでもしようってんですか!? 荷が重いよぉ!


「き、緊張してきたわ……生涯縁の無いものと思っていたけれど、書物の中だけだった知識が、イきた経験として私に刻まれるのね! 今日は記念すべき日になりそう!」


「記録などはお任せくださいアメリア様。いつこのような日が来ても良いようにと、常に準備をしておりました。アメリア様の一世一代のハメ姿――違った間違えました、晴れ姿を事細かく記録してご覧に入れましょう」


 誰か二人を止めて!


「ちょっとちょっとちょっと! いつまでイチャコラしてんのさ! そいつは、あーし……らが先にツバつけた男なんだけど!」


 沈黙を守っていた『クレセント・アルテミス』の内、ギャルのシンシアが目を三角にして迫ってきた。

 ふんぷん腹を立てているシンシアに対し、アメリアは平然としている。


「ツバだなんて衛生的に問題じゃないかしら?」


「ものの喩えですぅー! 毎日5回は歯を磨いてますぅー! フロスだって欠かしてませんー! じゃなくて、ちゃんオリ置いてけっつってんの!」


「できない相談ね。ハイヤ・ムネヒトは【ジェラフテイル商会】を時代を担う人物であり、私の大切な人よ。彼に用があるのなら、まず私かジェシナが聴くわ。でも今日は忙しいし、後日で良いかしら?」


「良いわけねーし! あーしらもちゃんオリに用があんの! アンタらこそ日を改めれっての!」


 両者一歩も引かない構えだ。『クレセント・アルテミス』の皆は金貨入りケースには目もくれず、アメリアを睨んだり俺に意味深な目を向けてきたりする。

 ちなみにメリーベルはオロオロしていた。

 後ろでは双子が「副団長! 今っスよ今!」とか「此処でビシィっと女を魅せるんでさぁ!」とか、無責任な発破をかけている。


「静かにしなんし」


 そう言って場を静めたのは、ギルドマスターのディミトラーシャだ。唸り続けるシンシアを脇に、彼女はアメリア――ではなく、隣のジェシナに目を向けた。


「ジェシナ、金は持って帰りなんし。ぬしには恩がありんすが、この男は譲れんせん」


「御断りします。貴女こそ金を受け取ってギルドへと戻ってください。笠に着るつもりはありませんが、彼の身は【ジェラフテイル商会】が……いえ、アメリア様が預かります」


 俺、なんかモノ扱いされてね? いやそれより――。


「ジェシナ、知り合いだったの?」


 アメリアがやや驚いたように訊ねると、彼女の秘書は首肯した。


「――ベルバリオ様に拾われる前、ディミトラーシャとあともう一人で冒険者パーティを組んでおりました」


 思わぬ人と人の繋がりに、場が一瞬ざわつく。ベルバリオさんだけは事情を知っていたのか、神妙な顔で唇を結んでいた。


「ええ。色々失ってしまったわっちに、ぬしらは多くの世話を掛けてくれんした。噂では聴いていたでありんすが、本当に商会に居たんでありんすねぇ」


「あの後で私も冒険者資格を剥奪されてしまい、食うに困ってしまいましたから」


「困窮するまでわっちに金子を渡してどうするでありんすか……」


 ……どうも、事情がありそうだ。

 コレットの話で聴いていたが、5年程前のディミトラーシャは名うての高級娼婦兼名冒険者だったらしい。その時の仲間が、このジェシナさんか。

 世間というものは、何処でどんな繋がりがあるか分かんないもんだ。


「だったら、ぬしも分かっていんしょう? 恩を返すという事の大切さと難しさを」


 沈黙が場を支配した。

 この場にいる誰もが誰かの恩を受けている。また、誰かに恩を与えている。

 俺だって、この身体以外は全て誰かの働きで作られていた。着ているシャツも履いてる靴も、誰かが作ったものだ。

 いやそれどころか、今朝食べたパンも何気なく飲んだ水も用意された物だ。

 対価に金を払ったとは言うが、硬貨も紙幣も結局は誰かが作ったものだろうし、貨幣制度も古の賢人が考えたものに違いない。

 けど俺だって捨てたもんじゃない筈だ。牛乳や薬草も作り、良くない連中をやっつけたりしてる。俺の働きが役に立っているのは間違いない。

 誰もが誰かを恩で生かし、誰かの恩で生かされている。


「わっちは、その恩に報いる機会を二度と逸しんせん」


 ディミトラーシャの憂いを帯びた瞳に見詰められ、心臓が跳ね上がった。


「それに――もし、牧場で働く前に『クレセント・アルテミス』に来ていたら、騎士になる前にギルドの門を叩いていたらと思うと、わっちは諦めきれんせん」


 内容はともかく『クレセント・アルテミス』は、俺に報いようとしている。

 けどそれは、彼女達だけでは無い。

 アメリアをはじめとした【ジェラフテイル商会】の皆も同じなのだろう。

 有り難いというか、身に余るというか……ともかく、皆からの恩で溺れてしまいそうだ。


「結局、わっち達はたった一つしかない宝を前にした女でありんす……最後にこうなるのは……まあ、分かっていんした」


 憂いを帯びたディミトラーシャの瞳は、一瞬で剣の鋭さを帯びた。


「『クレセント・アルテミス』――実力を以って、オリオンを取り戻しなんし」


「かぁしこまりぃ」


 シンシアを先頭に、数十名の女達が前に出た。以前、おみ足ギルドの『ポワトリア・マーメイド』が攻めてきたときよりも、更に剣呑な殺気を帯びていた。

 特に『四天乳』から漏れ出る気配がヤバイ。まさに女に会っては女を引っ叩き、男に会っては男を貪り喰らう肉食獣。


「ジェシナ。私の旦那様を護りなさい」


「御意に」


 しかし、それを前にしてもジェシナさんという秘書は一向に怯まない。

 男性用のスーツから取り出したのは、妙な形をした鈍色の小剣――ダガーだ。

 それを逆手に持ち目の前に構えると、蜃気楼のように揺らぐ力場が見える。どうやら『魔剣』に類する得物らしい。


 アカン! このままでは暴力事件が発生してしまう! 痴情のもつれからおっぱいギルドと大商会の闘争とか、マスコミが居るなら大喜びなネタだぞ!

 こういう時こそ騎士団の出番なのだが、どうしたことか、メリーベルは顎をつまんだまま動かなかった。


「ふむ……イマイチ状況が掴めないが、勝った者がムネヒトを手に出来ると言う事だな? なるほど、なるほど……」


 メリーベルは双方の陣営を観察していたが、やがて彼女の中で合点がいったらしい。一人頷くと、唇の両端を歪ませて笑った。


「得意分野だ」


 スピキュールを引き抜いたメリーベルの顔は、イケメンを通り過ぎて獰猛な猛禽だった。今度は後ろの双子がオロオロする番だった。


 ふぇぇ修羅場だよぅ……B地区に帰りたいよぅ……。


「タンマタンマタンマ! 暴力は止めよう暴力は! 話し合いで何とかしましょう! メリーベルも何()る気になってんだ!」


 溜まらずアメリアから離れ、俺は三つ巴の中心に立った。

 現実逃避したくなる気持ちを叱咤し、何とか抗争を回避すべく声を上げてみたのだが、イマイチ効果を感じられない。

 それどころか、何十もの視線が俺に集中してしまった。


「そんなん言うならさ、ちゃんオリがどの女が一番かを決めるし」


「…………は?」


「この中で、ちゃんオリは誰が一番好きなの? 誰と一番エッチしたい?」


「いやいやいやいや! いきなり何だ好きだの、エ、エッチしたいだの! いったいいつそんな話になったんだよ!?」


「何を寝ぼけたこと言ってるし。いつからだって? そんなの、この世の生物が男と女に分かれた時からに決まってるっしょ」


 そんな大袈裟な……とぎこちない笑いを浮かべようとして失敗した。大袈裟と思ってるのは俺だけらしく、『クレセント・アルテミス』もアメリア達もメリーベルも、誰も笑っていなかった。


「結局のところ、この世は良い女と良い男の奪い合いだし。私は良い男が欲しいし、その男に相応しい女で在りたいの。だから決めてよ、今」


 ええええええ……? 何なのこの状況。おい止めろ、全員で睨まないでくれ。


「ええっと……ええっと……」


 この状況で誰かを指名できるほど俺の肝は太くない。そのプリティーな肝も、視線に絞られてねじ切れそうだ。

 俺は藁にも縋る気持ちで、この中で同性(少数派)であるベルバリオさんに視線を向けた。


「……私は邪魔者だな。アメリア、ジェシナ、私は先に商会に戻っておくよ。女同士で話すことがあるみたいだし……くれぐれも、怪我には気をつけるんだよ」


 そう言うとベリバリオさんは、先に立ち去った【ジェラフテイル商会】の従業員を追って、この場から離れていった。

 逃げやがった! 会長さん、かつては3ダースの愛人が居たんでしょ!? その時の手腕を発揮して場を収めて下さいよ!


 泣きたくなるのを堪えて、今度はゴロシュとドラワットに視線を向けた。

 よくよく考えれば、二人はイケメンだよね? 窮地にいる後輩を見捨てるような先輩じゃないよね? 


「『中級(ミドル・)雷系活用法(サンダーワークス)雷速走方(サンダー・スピード)』!」


「『連結式(チェイン・)雷速走方(サンダー・スピード)』!」


「あー!? また逃げやがった!」


 そして誰も(男は)居なくなった。異世界ホラーですわ。


 チラリと『クレセント・アルテミス』の冒険嬢に視線を向けると、彼女達は自信満々にバストを強調してみせた。いずれも男の欲求を掘り起こすことに長けた女性達であり、己の身体のアピールポイントを熟知している。


「フフフ……実はオリオン氏から得たデータを元に、新たなポーションを作成したのデス。早速使う機会が来そうデスネ……」


「ァアン、童貞クンが舐めつくような視線で私を見てくるぅ……今夜、たぁっぷり可愛がってあげるわねぇ……」


「違う。彼が見ているのは私。私の身体も、司令官の着任を期待して要塞を浮上させている」


「おめーら何でそんな自信満々なんだし! この流れ、誰がどう考えたってあーしっしょ!?」


 一部既に違う世界に居るみたいだが、どの娘のおっぱいも実に柔らかそうだった。


「くふふっ! そうでありんす。そのままわっちを指名しなんし! そうすれば、まずはわっちが作る『日替わりアルテミス・Jランチ』をご馳走するでありんす」


 日替わりランチ!?


「いきなりJランチは重いし! あーしのDランチがマジオススメな件! 今なら無料試食サービスも実施中ってね!」


「オリオンくん、間をとってGランチってどうかな? ストローで食べるタイプの珍しいランチなんだけど?」


 最後のはストローの君!


 何故ランチが一般的なA、B、Cとかで無いのか問うまでも無い。魅惑のメ(ニュー)ばかりで、心が巨乳さんのように揺れるぜ……!


「卑怯よ! 自分達の得意分野にムネヒトを引きずり込むなんて!」


「苦手な分野にオトコを引き込むワケねぇっしょ? ベッドでも商売でも、自分の強みを活かさなきゃなのは、あーしらもアンタらも同じだし」


 アメリアが抗議の声を上げるが、シンシアは微塵も気にしていない。それどころか、正論でアメリアを逆に閉口させてしまった。


「どうしましょうジェシナ……! このままでは、ムネヒトの三度の食事が全てランチになってしまうわ……!」


「お任せ下さい。このジェシナ、封印を解きます」


 Cランチを震わせながら狼狽の声を上げる主人に、秘書は力強く頷いて見せた。

 持っていたダガーを一旦収めると、ジェシナさんは折り目のついた男性物のジャケットを脱ぐ。内側も男性用のシャツであり、長身でスレンダーな彼女によく似合っていた。

 アメリアをはじめ、周りの者達も首を傾げていたが、俺――そしてディミトラーシャにはもう分かっていた。

 視線に晒されているのを全く気にせず、ジェシナさんは裾の内側に手をやり、上の方……胸の辺りで何かをゴゾゴソし始めた。

 皆が首の角度を更に深くした瞬間、長身麗人の胸が爆発した。


「「!?」」


 もちろん、実際に爆発したワケじゃない。

 それほどの勢いでジェシナさんのおっぱいが膨らんだのだ。効果音付きなら、BOM! という具合だ。

 ほんの一瞬前までほとんどの平坦だった胸部に、突如巨大な膨らみが出現したのだから、皆が受けた衝撃は大きかったに違いない。

 中性的な美貌は健在だが、彼女を男性と間違う者は居ないだろう。むしろ美青年めいた顔立ちが、ジェシナさんの女性らしさを強調していた。


 当然、おっぱいなのです。

 上質な無地の白シャツはボタンがはち切れんばかりに膨らみ、持ち主からの虐待を嘆いていた。

 彼女にたわわに実った女性の膨らみは、今まで抑圧されていた鬱憤を晴らすかのように威容を誇っている。ピンっと張りのあるバストで、大きく前に競り出していた。

 このロケットおっぱいに匹敵するものは、俺の知っているおっぱいの中じゃメリーベルくらいだ。

 しかし、サイズはジェシナさんが上回っている。


【ジェシナ】

 トップ 95㎝(J)

 アンダー 62㎝

 サイズ 3.3㎝

 26年2ヶ月8日物


 初めて見た時から気付いていたし、また俺の『乳分析』は誤魔化せない。レスティアとは全く逆のパターンだ。

 ディミトラーシャに迫るバストサイズだが、細身でまたロケットのように突き出した形状の為、迫力の種類が違う。

 魔性とも母性とも違う魅力。妖艶さを感じさせない妖艶さというのか、気が付かない内に懐に侵入されてしまいそうな鋭さがある。


「ふぅ……さっぱりしました」


 皆が呆然と見守る中、ジェシナさんはシャツの下からサラシのような物を取り出し、それをあろうことか俺の頭に乗せた(?)。

 仄かに温かく、また甘い香りがする。なに? プレゼント?

 戒めを捨てて身軽(実際は何十グラムも変わんないだろうが)になった彼女は、俺とアメリアにバストを下から抱えて見せた。

 シャツが歪み、隙間から見えるおっぱいの白い肌が眩しい。どう見ても、ブラジャーを着けていない。


「実は私、巨乳で御座いました」


「貴女、実は巨乳だったの!?」


「しかもJカップで御座います」


「しかもJカップだったの!?」


「ジェシナのジェはJのジェで御座います」


「ジェシナのジェはJのジェだったの!?」


 アメリアは今初めて知ったらしく、秘書の顔と胸を視線で何往復もしていた。

 ……ジェシナさんは無表情だが、何故かアメリアに視線をおっぱいに浴びる度に、起立率を高めていった。今はもうシャツに小さく尖りを作っている。正直、ツンツンってしたい。

 いやいや、今日会ったばかりの人の乳首ガン見するのは良くない。もちろん、親しい間柄になれば乳首見ても良いとは限らないけど。


「本物かどうか、触ってご確認されますか?」


「え、いいの? じゃ、じゃあ……」


 アメリアは恐る恐るジェシナさんの胸に手を伸ばし、ふかぁっと真正面から鷲掴みにした。そのままやわやわと五本の指を動かし、感嘆の声を漏らす。


「わ――柔らかい……それに、とても重いわね。これ凄いわよムネヒト、貴方もちょっと触ってみて」


「旦那様もどうぞ」


「マジ? どれどれ――」


       (「ただし触った瞬間、)      (慰謝料の代わりに身)      (柄を頂戴しますが」)

 ――あっぶねぇ! あまりに自然な誘導に、右手がおっぱいに向かって大気圏突乳する所だった。意志の力で何とかスイングパイすると、ジェシナさんは「チッ」と舌打した。


「どうやら本物のようね……でも、何故隠すような真似をしていたの?」


「……それは――」


「ぬしと、恐らくはわっちの為でありんすよ」


 言い淀んだジェシナさんの代わりにディミトラーシャが語を継いだ。


()()()()()()()ぬしと、()()()わっちを刺激しないよう、自分の身体を隠したんでありんす。ジェシナの妙な気遣いは昔から代わっていんせんから」


 真実らしい。無表情だったジェシナさんの眉間に微細な皺が寄る。頬が紅潮している事から、恥かしいのか照れているのかどちらかだろう。


「そうだったの……でも、それを今開放したってことは……」


「はい。このジェシナが旦那様をメロメロにしてご覧にいれます。数を頼もうが、結局は旦那様をこの場で最も刺激した女が勝者となります。男装女が実は巨乳だったというギャップにより、旦那様の目は私に釘付けです」


 確かに「お前、女だったのか!?」というシチュは、古来から良く用いられる。一定数以上のファンが居るのも間違いない。


「そんな事出来るの……? 相手はプロよ?」


 巨乳秘書は力強く頷いた。


「瞬間的に『クレセントア・アルテミス』を上回れば良いのです。それに、ディミトラーシャ達とパーティを組んでいた冒険者時代に、男というモノは嫌というほど知り尽くしているつもりです」


「……つもり? ねぇ、貴女本当に大丈夫なの?」


「ご安心下さい。旦那様を『ジェシナのドキドキ徒然淫蕩日記』の一ページ目にしてみせます」


「やっぱり処女(初めて)じゃない! 無理しては駄目よジェシナ!」


「知り尽くしているのは本当です。二人が男を色々な意味で搾りつくしている場面を、何度もコッソリ観察しておりました。故に私も、既に経験豊富といって過言では無いと存じます」


 分かる。

 俺も成人向けの動画や雑誌を100や200じゃきかないほど見聞きしてきた。繰上げで非童貞として認められても良いじゃないだろうかと、常々思っている。


「それに――」


「それに?」


「――私の純潔を貫いたモノが、アメリア様の純潔を貫く事になると思うと……こう、非常な興奮を覚えます」


 いい加減にしろよ秘書!


「いざ」


 言うとジェシナさんは俺に一歩歩み寄ると、胸のボタンを上から2つ、下から2つ外し、谷間とヘソを見せ付けてくる。


「うふん。あはん」


 一体どんなアピールがと身構えていると、ジェシナさんは片手を後頭部に、反対の手を腰に当てるというベタなセクシーポーズで、くねくね肉体をくねらせ始めた。


「いやん。ばかん」


「……」


 くねっくねっというか、カクンカクンというか。なんともぎこちない。

 長い手脚とスレンダーな肉体に巨乳という、見事なスタイルの持ち主であるが故に、逆に間が抜けたように見える。

 無表情でセクシーボイス(?)を口にしてる点も、何となくアレだ。

 アメリアの表情は死んでいくし、成り行きを観ていた『クレセントア・アルテミス』も、声を潜めて囁き合っていた。


「なにアレ。何かの儀式?」


「儀式っつーか、マンティス(カマキリ)の真似じゃね?」


「カマキリっつーか、カマキリに寄生してるワイヤーワーム(ハリガネムシ)じゃね?」


「「あーね……」」


「アメリア様。奴らをぶち殺す許可を」


「落ち着いてジェシナ。迂闊に相手の分野に飛び込んだ貴女にも非があるわ」


 ジェシナさんは「脱ぎ損でした……」とか「いっそ全裸になるべきでしたか……」とか、肩を落として下がっていった。彼女は一体何がしたかったんだ……。


 寸劇というか茶番に思わぬ暇潰しを喰らったが、状況が改善したワケもない。俺を包む女の目は厳しさを増すばかりだ。


(そうだ! 一旦、メリーベルを指名するというのはどうだ?)


 いやはや、我ながらナイスアイデアなのではないだろうか。メリーベルとは当然知らない仲ではないし、後で幾らでも弁解できる。

 それに彼女は神の眷属(自称)だ。神たる俺の意を汲んでくれるに違いない。


「――――」


「……!? ……っ! ……っ!」


 分かってくれという熱意を込めてメリーベルを見ると、目の合った彼女は得心し真っ赤な顔で何度も頷いてくれた。

 よかった、どうやら伝わってくれたらしい。


「……したぎ……可愛い下着を、買わないと……バトル・ランジェリー、買いに行、かないと……ああ、あああ……でも、帰りがけに求められてしまったらぁ……」


 いやどうも駄目っぽいぞ!? さりげなく上下の下着をチェックすんな!


「さぁさぁさぁ! 男っしょ! ビシッっと決めなよ! 今日は誰を抱くの!?」


 勝手に俺の童貞卒業式の日取りを決めるんじゃない! 


(どうする!? どうする!? このままダンマリじゃ再び暴力表現の場に戻りかねない……! かといって誰かを指名するなんて……)


 考えろ考えろ考えろ。何らかの解決方法があるはず。起死回生の神の一手を指して、自陣の玉――ギョクでは無くタマ。金玉の事――を護れ。考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろろろろろろろろろろろ――。


 ――――閃いた。


「……分かった、言うよ。俺にとって一番の女の子を」


 視線に期待と熱が籠り、密度の高い沈黙が下りた。緊張で心臓が跳ね、舌の根が乾いていく。

 一度深呼吸をし、俺は可能な限りに声を張った。


「俺にとっての一番は――――――このハナだ!!」


 叫んで俺は、側に居るハナの背をパシンと軽く叩いた。


「はぁぁ!?」


「ええぇ!?」


「なにぃ!?」


 モーッ!?


 誰かが何か言う前に一気に畳み掛ける。女の子を選べとは言われたが、人間の女の子を選べとは言われてない。


「俺はハナに夢中なんだ! 彼女が作ってくれる牛乳を、もっと多くの人々に広めたい! ハナは最高の()だ! ハナの事を思うと夜も眠れない! 俺はハナがいないと駄目なんだ!」


 コレこそが神の一手。誰でも無い、牛のハナを指名して場をうやむやにしてしまおう作戦だ。実際、嘘じゃないし。

 期待と緊張に固まっていた雰囲気が急速に弛緩していく。総スカンを喰らう解答だったが、修羅場のままよりは良い。皆で一旦、頭を冷やそう。


「うれしいです、ムネヒト様……!」


「そうかそうか嬉しいか! お前が嬉しいと俺も嬉し……おや?」


 なんか今日は、ハナの言葉がいつもよりハッキリと聞えるような……?


「「「え」」」


 俺だけの「え」じゃない。ハナに視線を集中させていた他の皆も同じような声を上げた。


「そんなにもハナの事を思って下さっていたなんて……! ハナは、ハナは、世界一の果報者で御座います!」


 ハナが流暢に喋ってた。見れば瞳を潤ませてすら居る。

 空耳ではないし、俺にだけ聞こえる言葉でもない。誰もがポカンと口を開けていた。


「いま参ります! ムネヒト様!」


「いや、いま参るってお前、既に此処に居るじゃ――……って、ええええええええ!?」


 ハナが発光した。しかもちょっと浮いてる。


 あまりに急すぎて状況を理解できない。もしかして俺が知らないだけで、異世界の牛って飛んだり光ったりするのか!?

 草原の真ん中に第二の太陽が出現したように、俺達全員の目を眩ませる。


「ちょ、なになになんなのさ!?」


「アメリア様、私の後ろへ!」


 場は一時騒然となった。武器を構える者、仲間と庇い合う者、呆然と立ち竦む者達の中心で、ハナは輪郭をボカシながらまばゆく輝き続ける。


 やがて白光が収まると、ハナの居た位置に女の人が立っていた。


 濡れているような長い黒髪。雲の切れ間から陽光が差すように、前髪に一房、純白の髪が垂れている。

 透ける様な白い肌、程よい脂肪に覆われた長い手足。180センチ近い身長はバンズさんにすら匹敵する。

 驚くくらい臀部の位置が高く、張りのある白桃のような瑞々しさだった。


「――デッッッッ」


 何より、おっぱいでございやす。その娘のバストは巨乳を超え、爆乳を超え、超乳の域にあった。


 ミルシェのおっぱいを漫画みたいなおっぱいだと思った事は幾らでもあるが、彼女のおっぱいは更にフィクションに近い。エロ漫画みたいなおっぱいだった。

 それほどまでに巨大で、現実味が無く、また綺麗だった。


 しかも裸だ。その肉体に糸くずの一本も纏っていない。

 おっぱいはおろか、何もかも丸見えだ。首から下には一切の体毛が無かった。何もかも、つるつるのすべすべだった。


「――――」


 言葉を失っていたのは俺だけではなかった。アメリアもジェシナもシンシアもコレットもディミトラーシャもメリーベルも他の冒険嬢も、呼吸すら忘れている。

 それほどに美しい。豊穣さと神聖さの美を両立させる女神の顕現に等しかった。

 もし彼女が、子孫繁栄や豊穣の女神として名乗ったのなら、百人が百人全員間違いなく信じる。


「ふ、ぅ…………」


 やがて自ら発する光を収め、彼女は裸足を土につけた。

 サクサクという草を踏む音までよく聞える。それほどまでに誰も一言も話さなかった。

 伏していた目を開き、彼女は俺を見る。

 快晴の夜明けに、牧場の草に降りた朝露の色。何処までも吸い込まれそうな深い空色をしていた。


 顔立ちは十代後半から二十台前半程度と意外と幼い。唇を僅かに綻ばせる微笑は、世界的な美術館に飾れば行列が出来るだろう。

 その万物を慈しむような優しい瞳に、俺は見覚えがあった。光彩の奥から感じる温かな気持ちは疑いようも無い。


「……ハナ?」


 初対面で、しかも裸の女性を指してハナと、牛の名前で呼んだ。精神科医なら直ぐに検査を奨めてくるだろう。

 でも俺が間違える訳なかった。少しの疑問も持てなかった。

 この娘は、ハナだ。


「ムネヒト様ぁ!」


「おわー!?」


 名を呼ぶと彼女――ハナは深窓の令嬢みたいな微笑から、太陽のような満面の笑みに表情を変えて抱きついてきた。

 いや、ほとんど突撃してきた。不意で、しかもかなりの勢いだった為に押し倒されてしまった。

 身長差から必然、超巨大なおっぱいが俺の顔に当たる。


「え!? ハナ!? お前ハナだよな!? なんでンむぎゅうっ!?」


 当たる処ではなかった。おっぱいに食べられていく。余りに深い豊穣な乳海は、俺の頭部を簡単に受け入れてしまった。


「はい! 貴方のハナで御座います! ああ、ムネヒト様……! ようやくこうして抱きしめる事が出来ました! ムネヒト様の温かさ、ムネヒト様の匂い、ムネヒト様の肌! ハナは感無量で御座います!」


 ぬあー埋まる埋まるマジで埋まる! 呑みこまれるぅ! で、出口は何処ですかー!? え、入口が出口!? なんて意地の悪い迷路なんだ! もう脱出は諦めました!


「も、もう一時の辛抱もなりません!」


 俺を押し倒したままハナは顔を上げ、荒い息のまま上半身を突き出した。

 明らかに人の頭より大きなおっぱいが、ユサリユサリと揺れた。

 な、なんだ……!? おっぱい揉んで下さいとでも言うつもりか!? 任せてくれよ!


「どうか、ハナのお乳をしゃぶってくださいませ……!」


 彼女は両の瞳に透明の、桜色の突起に白い涙を浮かべて言った。

 現実が妄想を追い越してしまった。


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