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異世界でB地区の神様になったけど、誰にも言えない  作者: フカヒレさん
第四章 金と恩とおっぱいと
159/214

借金返済大作戦②

 

 久しぶりのサンリッシュ牧場のB地区、そしてそれに見えるは我が城コーポ・ムネヒト。ビーチク・ビギンズともいう。

 一週間にも満たない数日ではあったが、戻ってこれて心からホッとしている。ここはすっかり俺の故郷となっていた。


 それにしてもと、思った以上にすんなり休みがとれて自分でも驚いていた。

 借金を抱える者にも労働環境を考えてくれるのだから、おっぱいギルドの皆は心が広い。彼女達のためにも1日でも早く金を稼がねば。


 久しぶりに鼻をくすぐる牧草の香り。俺は草原の真ん中に立ち、大きく深呼吸して背伸びをした。

 ここ数日は酒に香水、煙草の臭いばっかりだったから、より一層身体に沁みる心地だ。

 このまま牧草で昼寝と行きたいところだが、時間が惜しい。まずは『ルミナス草』の種を植えてしまおう。

 俺は我が家の屋外に設置してある物置小屋から、米俵三つ分程の種袋を外へ出した。これを全てB地区の空きスペースにばら撒く。灰屋宗人、一世一代の大博打だ。


(あと、皆に事情を話さないとな……)


 リリミカとレスティアは知っているだろうが、ミルシェ、メリーベル、バンズさんはどうだろうか。

 女の子達にエッチなことして多額の借金抱えましたって事を話すとなると、気が重い。特にミルシェが怖い。ビンタとかで済めば御の字だが……。


 モーッ!


 耳を打つ鳴き声にはっと顔を上げると、愛らしい顔をした牛が勢いよく走ってくるのが見えた。


「ハナ! 俺のハナ!!」


 近くに寄って確認するまでも無い。サンリッシュ牧場のミルクエース、ハナだ。

 何年も会っていなかったような郷愁にかられ、思わず涙ぐみながら彼女に抱きついた。

 生命力にはち切れんばかりのハナの身体は、日向ぼっこでもしていたのだろう、太陽の熱でポカポカと温かかった。


 モーッ!


「俺もだ、会いたかったぞハナ。元気そうでなりよりだ!」


 モゥ、モーゥ!


「よしよし、種は後だ。まずはお前らに飯をやらないとな」


 モゥモゥ! モ、モーッ!?


「おっとゴメンよ。ついついおっぱい触っちまったぜ。ふひひ」


 ほとんど無意識のうちにハナのおっぱいを触っていた。彼女の乳房は朝の搾乳も済んでいるだろうに、豊穣そのものといった風にパンパンに張っていた。


 モー、モゥモゥ……。


「くくくくっ……! まだまだたんまり溜め込んでそうじゃあないか……。そんなに俺に搾って欲しかったのか? ん? ん?」


 乳房の表面を乳首へ向かって撫で回す。ついでに『乳治癒』や『乳分析』を発動させ、老廃物や極小の炎症を排除しながらハナのおっぱいをマッサージしてやった。

 四日間もサボってしまったが、俺の大切な日課だ。


 モーッ、モーッ……!


 すると彼女は気持ちよさそうに、だがどこと無く申し訳無さそうに鳴き出す。


「遠慮するな、俺が好きでやってることだ。それとも、俺におっぱい触られるのが嫌か?」


 モモーッ!


「じゃあ良いだろ。こうやってお前と触れ合えるだけで嬉しいんだ。どうしても気になるってんなら、俺のためと思ってくれ」


 モゥ……モゥモゥモゥ……。


「足らない? 恩返し? なに言って――」


「何かブツブツ話し声が聞えると思ったら……ムネヒト、帰っていたのか」


「げェーッ! メリーベル!?」


 突然声を掛けられ、ハナの背丈ほど飛び上がってしまった。

 なんでココに!? と問おうとしたが、余りに馬鹿な質問なので止めた。そりゃ彼女だってB地区の住人だ。居たって可笑しくなどない。

 非番なのか、彼女はラフな私服だ。

 無地のTシャツに紺のホットパンツ。剥き出しの長い二の腕と太ももが眩しい。

 グラビアアイドルのオフショットと言われても、無条件で信じてしまいそうだ。


「げー、とは傷つく反応だな……久しぶりに会ったのに、ソレは酷いんじゃないか?」


 メリーベルは俺のあまりの驚きっぷりにムスっとしてしまった。彼女の拗ねてるときの表情だ。


「す、すまん……まさか会うとは思ってなかったから、驚いたんだよ……」


「ふむ……ま、そういう事にしておいてやろう。それで、お前はただ帰ってきただけなのか?」


 なんとなくトゲを感じる言い方に聞えるのは、俺に思い当たる節があるからだろう。

 ゴロシュとドラワットは、特別任務をでっち上げるみたいな事を言っていたが、メリーベルにどう伝わっているかは不明だ。

 この辺りの情報共有をレスティア達としておくべきだったと、今更ながら悔いている。


「いや、残念だけど明日にはまた仕事に戻る。此処に戻ってきたのは……ええっと、ポミケの為に、その、薬草をだな……」


 言葉を選びながら、まずは此処に戻ってきた理由を正直に伝えてみる事にした。


「なに、ポミケ……? なるほど、しっかり仕事はしていたようだな。ジョエルさんの言っていたのは裏から情報収集をさせるということだったのか……」


 メリーベルは何か得心したように一人で頷いてた。なんのこっちゃ?


「お前も睨んだ通り、その『ポミケ』を運営する商会連の一つ【ジェラフテイル商会】が、『魔石』を高価買取している大元だという事が分かった」


 赤毛の副団長からもたらされた情報に、そう言えばそんな話も有ったなとやっと思い出した。もちろん顔には出さないで、神妙な顔で相槌を打つ。


「しかも妙な事に、買い取った『魔石』は販売も加工もせずに倉庫で保管しているらしい。今ではわざわざ貸し倉庫まで使っているそうだ」


 確かに妙な話だ。『魔石』は貴重な資源には間違い無いが、それそのもので価値を見出すような物ではない。

 精製し、加工して初めて優秀な素材として活きる。装備、魔道具の材料、あるいはバッテリー代わりに使用する例が殆どだ。

 メリーベルの収炎剣スピキュールに搭載された二つの『魔宝石』もそれに類する。


 純度が高く、アクセサリーや美術品として価値を認められた物はその限りでは無いが、話を聞く限り、買い取っている魔石は純度も属性もピンきりだという。

 流通もさせず使いもせず、ただただ高く買い取っているだけ。実は『魔石』マニアのコレクターとかなのではと思わずにいられない。


「一時的に『魔石』市場を麻痺させて、価格を更に高騰させてから転売するつもりとか?」


「有り得ない話では無いが、いかに【ジェラフテイル商会】といえど『魔石』の流通を全て止める事は不可能だろうとアザンは言っていたし


「だったら、やっぱり何かに使う予定なんだろうけど……」


 怪しいからといって、ただ高く買い取っているだけで罪を訴えるわけにもいかない。不当な買占めも市場操作も行われて無い以上、彼らのやっている事はビジネスの一環と言える。

 高価買取が間接的な原因と言えなくはないが、魔石泥棒達を直接裏から操っているというワケでもないので、これらの調査は徒労に終わる可能性もある。

 もちろん、事件性が無く骨折り損で終わるのが治安的には一番いいのだけど。


「ともかく、今後もアザンなどと協力しながら情報を集めるつもりだ。ムネヒト、お前が裏から探っているなら有力な情報に触れる機会もあるかもしれん。気をつけていてくれ」


「…………分かった」


 俺はただおっぱいの代金を稼いでるだけなんだけど、もうそんな事を言える空気じゃなかった。

 メリーベルとの業務報告(仮)を終えると、牧歌的な空気が戻ってくる。そよそよと風にそよぐ影の下では時間という物は緩慢だ。

 ハナの鼻面を撫でながら皆に餌をと考えていると、ふとすぐ側から視線を感じた。

 というより、メリーベルがチラチラとコッチを窺っていた。俯いたり、手をもじもじさせたりと、妙に落ち着きが無い。

 もしかして異世界の窓でも開いてる? と、ズボンのチャックを確認したが大丈夫だった。


「二人きり、だな……」


「ハナが居るぞ?」


 モーゥ!


「いきなり出鼻を挫くな! そういう事が言いたいんじゃない!」


 顔を真っ赤にして怒られてしまった。どうやら機嫌が悪いらしい。


「……ムネヒト、お前は私と仕事以外の話は出来ないというのか……?」


 拗ねたような、また、どこか不安そうな声色だった。質問の意図を図りかね、思わず彼女の顔をマジマジ見つめてしまう。

 どうも別の話がしたいらしい。違う話題か……あ、そうだ。


「そう言えばミルシェは? 今日はアカデミーは休みじゃなかったっけ?」


「…………………………ミルシェは用事でエッダさんの所へ行っている。明後日まで帰ってこないそうだ」


 何故かメリーベルはムスっと具合を三割り増しにして教えてくれた。

 そうか、ミルシェは居ないのか……会いたかったような、怖くて会いたくなかった様な……残念だがホッとしている心の矛盾を自覚する。


「…………………………」


 どうしたのだろうか。先ほどからメリーベルの様子が変だ。


「俺が居ない間に何かあったのか? それともお腹でも痛い?」


「だっ、だから! 私だって……お前と――『おーい! ムネヒトーーーーー!』


 ふと牧場のそよ風を越えて、男の太い声が俺の耳を叩いた。バンズさんの呼び声だ。どうやら俺が帰ってきた事を知ったこと以外に、何か用が有るらしい。

 思えばバンズさんとも四日ぶりだ。俺の方にも、積もる話というより自白すべき話が山ほどある。


「すまん、バンズさんが呼んでいるんだけど……」


「……どうしてこう、私はタイミングが悪いんだ……」


 ?


「いや、なんでもない……。バンズさんにも用件が有るのだろう? 牛達へは私から餌をやっておくから」


 微妙にしょんぼりしている表情だったが、此処は素直に甘えておくことにした。

 焦って話をするより、バンズさんに事情を説明した後、ゆっくりメリーベルと話した方がいいだろう。


「…………――ヒトのバカ……」


 ハナを連れた彼女が最後に呟いた言葉は、半分だけ届いた。


 ・


 バンズさんへの説明は直ぐに済んだ。

 鉄拳を喰らう覚悟で全て説明すると、何故か遠い目をしながら俺の肩をポンポンと叩いてきた。


『俺も覚えがあるぜ……第二部隊で女の居る酒場へ行って、飲み過ぎたやらかしたコトなんて山ほどあらぁ。その度にガノンやジョエルの野郎にからかわれてなぁ……翌日、レスティアに説教された事も一度や二度じゃねえのよ……』


 それから俺とバンズさんは二人して牧草に寝転び、しばらく流れる雲を眺めていた。

 片や若かりし頃に、片や現在進行形で過ちを抱えている。

 互いに無言のままだったが、俺とバンズさんは男同士の話をしていた。語り合うだけが、語らいじゃないのだ。


 閑話休題。


 バンズさんと俺は、買ったばかりの餌を行商の荷馬車から下ろした。俺を呼んだ用件は、補充用の餌を牛舎へ運ぶ為だったらしい。

 ちなみにそのバンズさんは、餌を下ろすと直ぐに別の仕事へ向かってしまった。

 この世界に来てから知ったことだが、牛の餌は牧草や干草だけではなく、穀物や発酵させた牧草なども与えるという。

 この餌のバランスがミルクの味を左右するというので、在庫の管理はしっかりしないとならない。


(しまったな……牛舎にはほとんど餌が残ってなかっただろうに、メリーベルに押し付けてしまった……)


 俺はリヤカーを引きながら、一度餌の状態を確認しておくべきだったと軽く悔いていた。

 本来はもっと備えておくべきだったのだが、今年は穀物が不作続きらしく餌が中々揃わなかったと、いつもの行商も言っていた。

 それを知らずに俺は『餌やっとけ。餌は無いけど(笑)』とか、意地悪な姑……もしくはシンデレラの継母ムーブをしてしまった。


 さぞ困っているに違いない。急がないと。


「ん、早かったなムネヒト」


 しかしそのメリーベルは、タオルで額の汗を拭いながら牛舎の外に立っていた。

 暑かったのか、シャツの端を結びヘソを出した格好をしている。着こなしとウエストの括れとで自然強調されるメリーベルバストを、ばれない様にこっそりしっかり見る。

 ラフさの中に潜むセクシーさ、正直とても好きです。


「――じゃなくて……すまんメリーベル。餌もう無かったろ? 新しいのが今届いてさ」


 そう言うと、彼女は形の良い眉毛を片方だけ持ち上げた。


「なに? 餌ならちゃんと有ったぞ?」


「へ? でも、バンズさんが少ししかなかったって……」


「確かに牛舎にも隣の倉庫にもあまり量は無かったが、餌ならお前がさっき準備していたじゃないか」


「俺が? ……ああ、アレは餌じゃなくて『ルミナス草』の…………――!?」


 話を中断し、俺は牛舎に飛び込んだ。中には――、


 モーッ!


 モシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャ!


「ぬあー!? お、俺の未来の『ルミナス草』がぁぁぁー!?」


 中には、凄い勢いで『ルミナス草』の種を食べているハナ達の姿があった。

 食べているというか、貪らんばかりにがっついていた。みるみる種の山が削り取られていく。


「おいバカ食うなって! 俺みたいに腹壊すぞ!? 種には毒があるヤツもあるだよ!」


 慌てて一番近くにいたマルに抱きつくが、食べるのを止めようとしない。それに、彼女一頭を止めたところで何になるというのか。二十五頭を同時に止めるのは無理だ。


 モーッ!


「いや美味しいからって大丈夫とは限らないんだって! フグっていう魚は旨いけど、とんでもない猛毒がな――……実は前々からコッソリ食べてた!? マジで!?」


「ムネヒト……! 私は、何かやってしまったのか……!? 毒とか何とか……あああ……! 私は、な、なんて事を……!」


 振り返るとメリーベルが真っ青な顔で佇んでいた。ワナワナと震え、今にも泣き出さんばかりの表情をしている。


「ハッ!? 大丈夫だ大丈夫! メリーベルは何も悪くないから! コイツら俺に内緒でつまみ食いしてたっていうし! でも出来れば、止めるのを手伝ってくれないか!?」


 モーッ!


「駄目だって食べるのを止めなさい! ちゃんと新しい餌持ってきたからそっちを食べるんだ! ほら、ルミナス種から離れろ!」


 モーッ!


「あいたー!? 蹴りやがったなマルテメー! コンニャロ、俺の借金を返す希望(アテ)を食われてたまるか!」


「ん!? お前今借金と言わなかったか!? 本当は何か良からぬ事に巻き込まれたのだな!? 何故私に黙っていた!」


「違います違います! 俺はただシャッキン……シャキーンって決めポーズの練習をしていまして……」


 モーッ!


「止めろ食うなーっ! 金のなる木がぁぁぁ!」


「金のなる木だと!? そんな物を求めてどうする気だ! 詳しい栽培方法を教えてくれ! そうではではなくて、ゴロシュとドラワットの言っていた特別任務と関係があるのか!?」


「なんの関係も御座いません! 俺はただ老後の為に今から資産形成を考えていただけで――」


 モーッ!


「ぎゃあああ! 止めてくれぇぇ! お金が無いと、俺は裏ギルドの奴隷になっちゃうんだぁぁぁ!」


「裏ギルドの奴隷だと!? 貴様何に首を突っ込んだ! ちゃんと私の目を見て話せ!」


「いやほら、俺はただお前の魅力の奴隷だって言いたかったんだよ! メリーベルは今日も可愛いなぁ! 実に良いおっぱいだ!」


「だから胸じゃなくて目を見んか! あとそういう台詞はもっと違う場面で言えー!」


 モーッ!


「お代わりを催促すんな! そんなもの有るわけ無――げぇ! ホントに無い!? 空っぽじゃんか!」


 近くには種を入れていた麻袋が畳んで置いてあった。三袋は三枚になっていた。


「はっ、スマン! 余り美味そうに食べるから、つい全部あげてしまったんだ……!」


「なんだって!? じゃ、じゃあ、皆が食ってるのが最後の――」


 モーッ!


「あー! 重箱の隅を突付く様な丁寧さでルミナス種を食うなァァァー! らめぇぇぇ破産するううううううううう!」


「破産!? おいムネヒト! 何処まで追い詰められてるんだ!?」


「メリーベル、メリーベル! 忙しいからちょっと後にしてくれ!」


 モーッ!


「お前らは今食うのをやめろぉぉぉぉぉ!」


 ・


「……」


「……ごめんなさい」


「……いや、気にするな……ちゃんと言ってなかった俺が悪かったんだ……」


 モケップ。


「ご馳走様じゃねえよぅ……」


 袋の中身はスッカラカンになっていた。底の方を持ち上げて振ってみても、雀の涙程も出てこない。


「体調不良を起こしていないのが、せめてもの救いか……でも今日は夜通し牛舎に居るから、具合が悪くなったらすぐに言うんだぞ?」


 モケップ。


「……俺は反対に元気じゃなくなったけどな……」


 近くに居た牛から順々にミルクを絞っていく。全員分の牛乳を採集する頃には、コップ二つ分になった。

 俺はそこへ『銀賢者のマドラー』を突き刺し、色の変化を見る。

 これは魔法銀(ミスリル)から作られた魔道具で、材質そのものの特性と組まれている魔術式とで、三十種類以上の毒を検出すること出来る優れ物だ。

 毒が含まれているなら変色し、色の濃さで毒性の強さをある程度判断できる。

 俺が王都で勝った物はそのレベルだが、王宮やクノリ家に置いてある高級品は三百種類以上の毒を検出できるというから凄い。


 ミルクに触れた細長い棒は銀色のままだった。ということは、コレで検出可能な毒は含まれてはいない。


「次はミルクの味か……何かあったらバンズさんとミルシェに叱られる……」


 ミルクの味は餌や牛達の体調で左右される。

 もし『ルミナス草』の種のせいでサンリッシュ牛乳に何かあれば俺の責任は重大だ。借金がどうのこうのという問題ではない。


「神様仏様おっぱい様! お願いします、何事も起きていませんように! いつもの最高に美味しい牛乳でありますように!」


 もちろん神様というのは俺のことではない。

 本来、牛乳を製品に前は『火の魔石』を搭載した魔道具で加熱殺菌するが、まずはそのままで味見する。殺菌後の牛乳を味見するのはこの次だ。

 食べて直ぐに異常が出るとは限らないが、皆は俺の目を盗みつまみ食いしていたらしいし、これほどの量を一気に食べたのだから心配だ。


「……ん? ムネヒト、いま牛乳が光らなかったか?」


「えっそう? いや、気が付かなかったけど……光の反射とかじゃないか?」


「そう言われたら自信が無いが……ふふふ、もしかしたらお前手ずから搾った牛乳(もの)だから、私には輝いて見えたのかもしれんな……」


「そんなワケないだろ、何言ってんだ」


 もしそうならグルメ漫画のヒロインに抜擢するわ。


「……時々ムネヒトがツれない……」


「よし、じゃあ早速……」


「……あ、待ってくれムネヒト! 味見(それ)は私にさせてくれないか!?」


 ふと、事態を見守っていたメリーベルがそんな事を言う。振り返ると思いつめた彼女の顔があった。


「だからメリーベル、お前の責任じゃないって。ここは素直に俺に任せてくれ」


「しかし! 元はといえば、酪農の知識に疎かった私に非がある! 日頃からもっとお前の事を見ていたら、こうは成らなかったはずだ! いや、見ていた筈なのに身に付いていなかった……!」


「それを含めてもメリーベルのせいじゃ無いってのに、強情だな……もし飲んでお前に異常が出たらどうするんだ?」


 この『銀賢者のマドラー』も完璧ではない。検出の網をくぐり抜ける可能性もゼロじゃないし、美味しい不味いは判断出来ないのだ。


「その時はその時だ! 万が一の場合は、狩猟祭でしてくれたように、お前が私の乳房から毒素を吸っ、て……くれ…………れば………………ぁ……」


「………………」


「………………」


 気まずい沈黙が流れた。牛達の鳴き声がどこか遠い。

 俺は硬直するし、メリーベルは目を伏せて自分の胸を抱くように腕を組んだ。かえって強調される92のF。

 そのポーズは凄くセクシーだから止めて下さいドキドキします。


「そ、そこまで言うならまずはメリーベルに頼もうかなっ! でも、少しでもおかしいと思ったら直ぐに吐き出せよ!?」


「むっ無論だ! サバイバルの訓練は第二騎士団では必須だからな! 毒に対する知識も浅くはないし、胃袋の強さにだって自信があるとも!」


 コップを手渡すと、そのままメリーベルは勢い良く中身を呷った。


「あっ、コラ!? 一気に飲むヤツが――」


「うッ、美味ァ、うまああああああいぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」


「!?」


 メリーベル大絶叫。直ぐにまたコップにかぶりついた。

 コップが地面に対して垂直になるほど頭を傾け、残りの牛乳も一気に飲み干してしまった。


「な、なんと美味しい牛乳なんだ!? なんか、こう、えっと、美味しくて、牛乳の味がして、こ、コク? があって、まろやか……いや、さっぱり? 濃厚というのか? あとは、旨味が、沢山で、えっと、苦味が……いや、苦味は無いな、あの、ともかく、美味過ぎるぅぅぅぅ!」


 食レポの方は微妙だけど。グルメ漫画のヒロインは無理だったか。


 ともかく味に問題は無いみたいだ。というか、ここまで大仰なリアクションはむしろ怪しい。

 サンリッシュ牛乳が美味しいのは常識だし、メリーベルだってほぼ毎日飲んでるはず。


(熱処理していないから特別に美味しく感じるのか? どれどれ――……)


「ま、待てムネヒト!」


 俺も飲もうとしたとき、結構な力強さで腕を掴まれた。ぎょっとして振り返ると、今度は目を血走らせたメリーベルの顔があった。


「飲まないなら私が飲んでも良いか!?」


「は? 飲まないならって、俺も普通に飲むけど……」


「遠慮するな」


「遠慮の使い方変じゃね? ちょ!? 引っ張るな! こぼれる、こぼれるから!」


 話も聴かず、メリーベルはぐいぐいとコップを持つ方の腕を強く引っ張る。赤い瞳は搾りたて牛乳しか見ていない。


「大丈夫だから、大丈夫だから……!」


「何が!? いったい何が大丈夫なんだ!? 意味分かんないんだけど!? 離せ、離せって!」


「そんな事を言って、その牛乳を飲むつもりだろう!?」


(はな)からそのつもりだわ! ――あっ!?」


「あ、あぁ――!」


 当然というかなんというか、コップは派手にひっくり返り、中身を俺のズボンへにぶちまけてしまった。


「あ、あーあ……こぼれちゃった……うへぇ、びしょびしょだ……」


 勿体無いことしちまった……こんなことなら素直にメリーベルに譲れば――ん?


「ぜ、絶世のミルクが……ムネヒトに……! はぁ、はぁ……ごくり…………!」


 見ればメリーベルは更に目を血走らせ、視線を俺に……正確には牛乳で濡れた俺の股間部分に縫い付けていた。


「メリーベル……? な、なんか目が怖いぞ……?」


「ミルクがムネヒトに……ムネヒトにミルク……ムネヒトのミルク……ムネミルク……」


 なんだその地方の牛乳メーカーみたいな名前。


「おい、ちょっと、お前、まさか――」


「動くなムネヒト、私が拭いてやる!」


 逃げようとしたがメリーベルの方が遥かに早かった。タックルのように姿勢を低くし、俺の腰にしがみついてきた。

 何故か顔を……いやもう口を牛乳の滴り落ちるズボンへ寄せてくる。


「のわーー!? おち、落ち着けーー! 拭くって言うならせめてタオル持って来いタオル! それは女……いや人としてアウトだろ!?」


 間一髪、両手でメリーベルの肩をガッチリと掴むが、彼女は依然として股間に顔を寄せてくる。

 しかもメリーベルは俺のベルトを相撲の廻しのように掴み、強烈な腕力で組み上げてきた。


「遠慮するな」


「してねーよ遠慮なんて最初から! 俺は止めろって言ってるんだ! 零れたモノを飲もうとするんじゃない!」


「水分の一滴は血の一滴だ! ムネヒト、お前は砂漠でも同じ事が言えるのか!?」


「今はそんな緊急事態じゃ無いぞ! いやある意味緊急事態か!? あ、馬鹿! 止めっ! 離れろって! あたたた!? なんて()()()()だ! ええい、神の言うことが聞けないのか!?」


「いかに神の命令と云えど、聞けぬ時もあるのだ!」


「お前逆らってばっかりじゃないか!」


「この間はお前が私の乳房に吸い付いただろう!? ならば今度は、私がお前のソコにそうすれば貸し借り無しになると思わないか!? 負い目無く、私達は神と従者として、また男と女として、これからの関係を健やかに歩めると、ムネヒトはそう思わないのか!!」


「これっぽちも思わねぇー!!」


 くそったれ、ごめんメリーベル!!

 俺は右手を伸ばし、隙だらけのメリーベルの左胸……乳首をちょっと強くつまんだ。体力と、ここ数十分の記憶を奪う為だ。


「ひぃン!? きしゃ、きしゃまぁ……そっちのから味見する気かぁ……私は、まだ…………で、ぁぅ」


 気を失い、メリーベルはコロンと転がった。


 ・


 俺は気絶したメリーベルを抱え、ビーチクビギンズ一階のソファに寝かせる。そして、もう一度牛舎に足を運ぶ。


「……うん、美味い」


 生搾り、瞬間加熱殺菌、長時間低温過熱殺菌の牛乳をそれぞれ味見した結論がそれだ。やはりサンリッシュ牛乳は最高に美味しい。

 しかし、いつも通りだ。

 勿論それで安心したのだが、それではメリーベルの様子が尋常じゃなかった理由が分からない。

 もしかしたら変だったのはメリーベルの方かもと、一応は彼女の身を案じてみる。

 先ほどから様子も変だったし、激務のせいでストレスが溜っていたのかのかもしれない。


 とはいえ、ルミナス種はかき集めても片手一掴みも無かった。育てた『ルミナス草』から新たに種を採取し、それを撒く猶予も無い。

 この少量から『ルミナス草』が完成する確率は絶望的だろう。せっかく教えてもらったのに、チャンスをモノに出来なかった……。


 モーゥ……。


「良いさ、気にするなハナ。もとより成功率は高くない作戦だったし」


 鳴きながら寄って来るハナの頭を一撫でし、第二の作戦へ思案を巡らせる。


 モーゥ!


「お前ちょっとは反省しろよマル」


 しつこくおかわり要求してんじゃねえぞ。


「『ルミナス草』で一攫千金作戦は失敗……けど、まだ全ての作戦が潰えたワケじゃない」


 災い転じて福と為す。

 もしかしたら……本当にもしかしたらだが、先程の牛乳は『ルミナス種』の影響でグレードアップしたのかもしれない。


 都合の良い解釈とは思いつつ、飲んだ直後のメリーベルの反応からそれを考えずにはいられなかった。

 彼女ほど理性的な人物をも虜にさせる魔の牛乳、まさに魔乳だ。

 俺に分からなかった理由は不明だが、最初に搾った牛乳にのみ『ルミナス種』の効果が現れた可能性も棄てきれない。


 ならば、この最後に残った種をも牛の誰かに食べさせ、一番搾り牛乳からポーションを作ってみよう。ちょうど、やってみたかった秘策もある。

 ムネヒト(乳首の神)印の手作りポーション。これを持って、まずはどこぞの商会へ……そして『ポミケ』へ殴り込みだ。


「即売会で華々しくデビューし、革命の嵐を起こしみせるぜ!」


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まだ消されてないみたいですので、ギリギリまで進めようかと思います。

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