おみ足ギルドvs.ムネヒト
冒険者公認ギルド……通称表ギルドの支部は王都に一つしか無いが、冒険者達が独自にメンバーを集め、協力し合う集団組織を為す場合が多い。
その集団組織を、そのまま○○ギルドと呼んだり、区別してクランと呼ぶ場合もあるらしい。
クランを創設する場合は、王都の冒険者ギルドで手続きする必要がある。一応は冒険者ギルドの一組織という扱いになるからだ。
現代で喩えるなら表ギルドは巨大なフランチャイズチェーンであり、王都支部は親企業、クランはそのチェーン店。
ならば裏ギルドは、個人経営の店というところだろうか。
そして同じ表ギルドの一部であっても、クラン同士で仲の良し悪しはあるし、権利の主張などで衝突する事もある。
そうなった場合、交渉の一つとしてギルド戦という手段が用いられる。
ギルド戦の種類も様々であり、狩猟祭のように時間内に倒したモンスターの数や採集した素材を競ったり、陣取りゲームのように拠点を防衛、攻撃する物も存在する。
今回のようなメンバーを全て動員した総力戦も、無いでは無い。
しかし、話が急すぎる。
いきなりゾロゾロやって来て、今から喧嘩をしましょうなんてチンピラと変わらない。
それこそ裏ギルドの不文律に関わるのじゃないだろうか?
「言っておくけど、もうアンタらに拒否権なんて無いよ? ギルド戦を拒むのなら、第一騎士団が『クレセント・アルテミス』へ強制介入する手筈になってるからねェ」
「……なるほど、だからその坊ちゃんも連れて来たでありんすねぇ」
察するに、隣の男が第一騎士団の騎士なのだろう。
彼女達の間でどんなやり取りがあったかは知らないが、既に話はまとまっている。
不正は無いから、遠慮無く『クレセント・アルテミス』を叩き潰せと言っているのだ。
騎士という公務に携わる立場でありながら、裏のいざこざに首を突っ込んで良いのか?
「後ろの連中は? どう見たって『おみ足ギルド』のメンバーには見えんせんが?」
ディミトラーシャは、もう一度クローディヌの後ろに控える男達へ視線を向けた。
「本日加入したばかりのウチの新入り達だよ。ま、コトがすんだら辞めてしまうそうだけど?」
なんてベタな手を使ってくるんだ。
「しっかり働きなよアンタ達、上手くすれば報酬は弾むし、あのイケ好かないアマどもを好きに出来る。ディミトラーシャが本当に乳欠けじゃなくなったか、アンタら自身の手で確かめておやり!」
クローディヌの言葉を受け、男達はヘタクソな口笛を鳴らした。
「へへッ! そうこなくっちゃなァ! クローディヌの姐さんの為にも、しっかりお灸を据えてやりますよ!」
「ズルして金を稼ぐ世の中ナメてる女共には、キツイお仕置きをしてやるぜぇ!」
異様な光を孕んだ彼らの目がディミトラーシャの、また後ろの冒険嬢達の身体に突き刺さる。
ギルドマスターはやシンシアは平然としたものだが、大半は彼らの気色の悪い視線におびえている様子だ。
冒険嬢達の大半は戦う能力を持たない非戦闘職だ。数も恐らくは向こうが上、50名を下回っては居ないだろう。
腕力と数に物を訴えた交渉が行われてしまえば、どうなるかは火を見るより明らかだ。
「……皆は中に戻って、少しでも多くのご依頼主様達を連れて裏から出なんし。此処はわっちが引き受けるでありんす」
ましてや、まだ店内には客達も大勢いる。ディミトラーシャが危惧した通り、彼らに累が及んでしまえば『クレセント・アルテミス』の評判は無傷ではいられない。
何処が正当な報復行動だというのか。これは交渉ではなく脅迫だ。
「何だかんだ言い分ぶら下げてさ、ぶっちゃけアンタら、ちゃんオリがあーしらとヤりまくりなのが面白くないんでしょ?」
おや?
シンシアは一歩前に出て、いきなりそんな事を言い出した。
「自分ら、あーしらとエッチ出来ないのが面白くないんでしょ? 何でアイツはタダでヤりまくりで、自分達は金を払ってもヤれないんだって、ちゃんオリを僻んでるだけじゃね?」
「……おい、シンシア?」
「だ、誰もそんなこと言ってねえだろうが! 俺らだって、お前らの力になりたかったんだよ! それを冷たくあしらいやがって! なのに、その男だけを贔屓すんのかよ!?」
堪えかねたのか、向こうから一人が反論すると「そうだ! そうだ!」と同意の声がアチコチから上がる。
それを『四天乳』の冒険嬢は鼻で笑い飛ばす。
「あーしらが誰の上で腰フリフリするかなんて、あーしらの勝手じゃね? つーかアンタらだって、ちゃんオリに敵わないからって『おみ足ギルド』の女に尻尾振ってんじゃん? 股に付いた粗末なフニャフニャの尻尾を、一生懸命フリフリヘコヘコしてキャンキャン吠えてるだけの種無し能無し根性無しじゃね? ねぇ止めたら? 男止めたら? 役に立たないゴミチ××なんてちょん切って、国母エリーゼミシェリカ様に返納したら? 国母サマはお優しいから、憐れみの目くらいは向けてくれんじゃね? 『ママァ! 水虫あんよに水虫感染されてオ××××痒いよォ!』『あらあら、だったら千切って熱湯と塩水で消毒してから肥料にしましょうねぇ?』ってさ」
「「………………………………」」
止めてあげて! 男達の何人かは涙目になってるから!
「いっとくケド、アンタらみたいな粗××共なんてあーし一人で充分だし。他の冒険嬢なんて出る幕ねーから」
シンシアは詰まらないそうに男達を睥睨する。
心底見下すかのような目に、おみ足ギルドの臨時メンバーは神経を逆撫でされたらしい。視線のほぼ全てがシンシアに集中していた。
「悔しい? 泣いちゃう? 泣いちゃうの? だったらとっととかかって来なさいっての。返り討ちにしてやるし」
何故そんなにヘイトを煽る様な事ばかり言うんだ。これじゃ真っ先にお前が――いや、まさか……それを狙って?
「上等だよクソアマ……お望み通りいたぶってやる! 二度と男を抱けねェ身体にしてやるよ!」
「粗末なモンかどうか、テメェ自身で確かめてみやがれ!」
「きゃー! こーわーいー! ちゃんオリ助けてー!」
「ちょ、おま!?」
一息に暴言を吐き終えると、シンシアは勢い良く俺に抱きついてくる。腕を一瞬でおっぱいで挟み撃ちする、まさに匠の技術だ。
必然、膨れ上がる憤怒と嫉妬。矛先は俺とシンシアに集中する。
「これでちゃんオリとあーしに皆の敵意が向かうよね! ちゃんオリのカッコいいところ見てみたいなー!」
コイツ! 皆のために自分を犠牲にして時間を稼ぐいじらしい系かと思いきや、俺をスケープゴートにする気かな!?
「そのオリオンとかいうふざけた野郎には気を付けろ! 酒が入っていたとはいえ、俺ですら手こずった相手だ! 囲んでフクロにしちまえ! だが、殺すなよ? トドメは俺がやる!」
非対称の男が回りをそう戒めると、人相の悪い男達が手に得物を引っさげ歩み寄ってくる。
「チッ……初っぱなから貧乏くじかよ。オイ、俺らの女も残しとけよ!」
「まあ良いじゃねえか、この野郎も二度と女を抱けねぇようにしてやろうぜ」
いずれも下卑た嘲笑を浮かべており、俺のことなど邪魔なブラジャー程度としか見ていないのだろう。
とっとと引き千切って、目当てのおっぱいを味わってやろうとか思っているに違いない。
馬鹿か。ブラジャーナメんな。
「……もう話し合いじゃ駄目っぽいな……シンシア、ちょっと離れてろ」
裏社会の厳しさというか汚なさというか……そういう物の一端が見えた気がして、何とも気が重い。
俺はタメ息をついて、抱きついていたシンシアを背に隠した。
立ち塞がる俺にクローディヌは一瞥を寄越しただけで、艶な余裕を崩さない。
「アンタ、『クレセント・アルテミス』初の男冒険者だってね? どういう経緯かは興味ないけど、ま、乳欠け女に肩入れしたのが運の尽きだったと諦めな」
「『 』」
「……は? 今何か言――……」
クローディヌの言葉が終わらないうちに、全て終わった。
彼女独りを残し、50名以上からなる男達は全て地面に崩れ落ちた。突っ伏したまま気を失ったものも居るだろう。
ディミトラーシャも、恐らくは後ろの冒険嬢達も、今にも飛び掛ってきそうだった男達が急に倒れ伏しむしろ唖然としている。
「あ、な、何だ!? 何が、起き……やがった!?」
「か、身体が……動か、ねえ!? どうな、ってやが……!?」
意識ある少数の者達も、急に言う事を聞かなくなった自分の肉体にすっかり混乱している。唯一無事な首から上を動かし、呂律の回らぬ舌で喚いていた。
「――!? おいどうしたのさ! 急に寝っ転がってふざてるのかい!? 早く立って! 立つんだよ!」
いきなり味方の頭が自分の膝よりも低いところに落ち、クローディヌも狼狽の声を上げた。
崩れ落ちている男達を必死に叱咤するが、応える者は居なかった。
「あ、アンタ今……何をしたんだい!?」
クローディヌの問いを、ただニヤリとするだけで無視した。
答えるつもりは無い……というか答えられない。
もちろん連中は俺の殺気にビビって気絶したとか、そんな格好良い理由じゃないのだ。
だって、乳首を攻撃して寝んねして貰いましたなんて普通に恥かしい。
かつてリリミカと決闘したときに行った事を再現したのだ。
バンズさん直伝の戦士系スキル『戦場の咆哮』を『乳頂的当』と、今回は更に『奪司分乳』で補強して発動した。
またクローディヌや後ろの皆にダメージを与えないよう、男達の乳首だけを狙い撃ったのもうまく行った。レスティアのために手離し育乳を練習しておいて良かった。
名付けてマルチニップルロックオン。なんだそりゃ。
あの時は『戦場の咆哮』の威力が肉声として散ってしまったが、今回は絶叫のエネルギーを全て乳首に叩き込む事が出来た。『戦場の咆哮』は音にならなかったので、誰も俺が渾身の力で叫んだ事にすら気付かなかっただろう。
鼓膜には届かなかったが、乳首には届いた。
そして『奪司分乳』で体力魔力、ついでに経験値を根こそぎ奪ってやったのだ。
例によって全く意味が分からないが、事実なのだから仕方無い。
「俺の前に立つ資格が有るヤツは、一人も居ないようだな」
なので、ココは一度言ってみたかった的なキメ台詞で誤魔化しておこう。
隣から妙な視線を感じたり、後ろから「スッゴ……!」とか「ちゃんオリぱネェ……!」と聞こえたりしてくるが振り向かない。
格好良いのは台詞だけなので恥ずかしかったからだ。今、俺の耳は真っ赤になっているだろう。
「ぜ、全滅……今の、一瞬で……!? 何者だい、アンタ……!」
「俺の事より自分の心配をしたらどうだ。まな板の上の鯉……いや、人魚だな。裁かれる覚悟は出来たか?」
「ひ、ひぃッ――!」
彼女はペタンと腰を突いて、豪華なドレスを地面に引き摺りながら後ろへ下がっていく。しかし、倒れた男達のバリケードに阻まれ途中から進めなくなってしまう。
「おい誰か! こ、コイツを、コイツを何とかおし! 来るな……イヤ、イヤッ! たす、だ、誰かぁ……!」
勝勢から敗勢への急転直下は、クローディヌから余裕の一切を奪い取ってしまったらしい。
こうなると脆いものだ。調子に乗って言った決め台詞も手伝って、なんとなく悪役の気分になってしまう。
「……どうする?」
微妙に気まずくなり、隣のギルドマスターに判断を仰いだ。
「ふむ……そう言えばギルド戦とかいう話でありんしたが、勝利条件とか敗者の責務とか、全く決めて無かったでありんすねぇ……どうせ自分達が一方的にわっちらを嬲るつもりだったから、ハナっから考えて無かったんでありんしょうが……」
ディミトラーシャは顎を摘まんで考え込んだが、目を細めクローディヌを、そして俺を見る。
「オリオン、その女はぬしにやる。煮るなり焼くなり好きにしなんし」
「えっ」
「えっ、じゃありんせん。結局はぬし一人で片付けてしまったんでありんすから、まずはぬしの戦利品を得る権利がありんす。誰も文句などありんせん」
そう言われて、後ろに控えているシンシア達を見る。皆、ウンウン頷いていていた。
「ちゃんオリも『裁かれる覚悟は出来たか(キリッ)』っつったし、ちゃっちゃってヤっちゃいなよ」
決め台詞には触れないで下さい。
次にクローディヌの方を見やる。彼女はガチガチと奥歯を鳴らし、すっかり怯みきっていた。
化粧が落涙に流れ、頬に赤や紫の跡を残していた。剥き出しになった肌は、恐怖の為か酷く青白い。
「……――」
男達のうめき声をBGMに考えること数十秒。俺は一つ頷くと、クローディヌへ歩み寄る。
近づくと、彼女は更に顔をクシャクシャにして首を振り回した。
「か……勘弁しておくれよぉ……! 悪かった、もう、この店には手を出さないから……! 言うことだって何だってする! だから、命だけは、命だけは見逃して……こ、殺さないでおくれよ……!」
別に命とか要らないのに……随分嫌われてしまったらしい。
「……だったら一つ、俺の言うことを聞いて貰おうか」
出来るだけ優しく真面目に言ったつもりだったのに、彼女が咽び泣きながらドレスを脱ぎ出してしまった。
ストリップを止めながらも、指の隙間から小さなヒトデ型ブラジャーの造形に見入ってしまったのは、俺だけの秘密だ。
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