三日月の女神達(裏)下 ※
宮狐様、idosuo様、感想誠にありがとうございます!
金貨二掴み。ディミトラーシャと一晩を過ごす為に必要とされた対価だ。
ディミトラーシャはかつて王国でも有名な高級娼婦であり、また上級冒険者でもあった。立てた功績の数と落とした男の数を合計すれば、彼女に比肩する者は居なかっただろう。
美貌と強さと富を兼ね備えたディミトラーシャは、当時王都で最も有名な女冒険者だった。
青白い月光色の髪から、彼女は『月夜の天女』とまで呼ばれるに至った。このまま行けば国家冒険者の推薦を受けたかもしれない。
五年程前に、人生の転機というには残酷な出来事が彼女を襲う。
彼女はパーティーを組んで、とある強力な魔獣の討伐依頼を受けた。もし彼女達だけならば難なく達成できたであろう依頼だ。
しかし、その依頼には別のパーティーが参加してきた。いや、乱入したと形容しても良い。
功名心に目が眩んだか、女性のみで構成されていたディミトラーシャ達と懇意になろうとしたかは不明だが、頼まれてもいないのに彼女達の救援をいきなりその現場で買って出たのだ。
事前の打ち合わせなどあるはずもなく、実力も彼女らに大きく劣っていた。足を引っ張るのは必然だっただろう。
竜の爪は彼女の身体を裂いた。
貴族から貰った高級な装備など紙切れに等しい。傷は肋骨を断ち割り、内臓にまで達していた。
懸命な治療の末、何とか一命だけは取りとめることが出来た。
意識が戻ったとき彼女が見たのは、無惨に欠けてしまった己の肉体。男を魅了してやまなかった彼女の肢体は、一生消えない傷を負ったのだ。
やっと歩けるまで快復した頃には全てが変わっていた。
愛を囁いた男は居なくなり、娼館からも追い出され、上級冒険者の称号も剥奪された。
パーティーのメンバーは援助を申し出たが、ディミトラーシャはそれを固辞した。
生死の境をさ迷っている間、既に治療費用の大半を彼女達は立て替えてくれていたのだ。
彼女たちも上級冒険者の資格を奪われた身であるのに、これ以上甘える事は出来ない。それに彼女達を頼れば頼るほど、自分が惨めになるような気がしたのだ。
長い放浪と孤独の果てに、ディミトラーシャは歓楽街の隅に小さな裏ギルドを設立する。
自分のように行く当ての無い少女達に手を差し伸べ、非公認の冒険者として活動を再開したのだ。
満月のように輝くことは出来ない、どこか寂しい三日月の女神達が其処に集うことになる。
・
静寂の中に反感と怒気が渦巻く。
ディミトラーシャは冒険嬢達にとっての親に等しい。そのギルドマスターの秘密に断り無く踏み込んだ青年に対し、彼女達の心境は穏やかではありえない。
刺すような殺気が彼を囲みかけるが、ディミトラーシャがそれを視線で制する。ムネヒトの目には、侮蔑も不躾な好奇心も無かったからだ。
「何故、気付きんした?」
「おっぱいってのは重い。貴女ほどの大きさになれば、片方だけでもだいたい2キロくらいに……いや、これは皆の方が詳しい事だよな」
「……」
「初めて見た時から左右の質量に違和感を持っていた。また、歩く姿や立ち姿に歪みがある。注視しなければ気が付かないほどの小さな歪みだ」
「……続けなんし」
「……他人には見抜かせないほどの練達な振る舞い、一日二日で身に付くモノじゃない。多分だが五年か六年、それだけの年月を過ごしたんだろう?」
「……よく見ているでありんすね……」
そこまで見抜かれたか。
ディトラーシャは溜め息を漏らし、首の後ろに手を回しドレスの端を解いた。
絹で出来た生地はスルリと水のように滑り落ちる。
まず目に入ったのは腹部に刻まれた大きな傷だ。
喉の下から左胸を通り腹部まで伸びる傷は、歪な三日月の形をしている。
「……お察しの通りでありんす。見なんし、この醜い身体を」
彼女は自嘲と諦観を込め呟く。悲痛な沈黙が酒場を支配した。
「毎月莫大な援助していた大商人も、永遠の愛とやらを誓ってきた男も、全てわっちの前から消えんした」
隠している今でこそ何も知らず言い寄ってくる男は多いが、いざ肌を晒すとコトに及ぼうとする男などいるはずも無い。
一様に、おぞましい物を見たかのように表情を引きつらせてしまう。ある時などは心無い言葉を彼女にぶつけ、逆に謝罪を求める男だっていた。
満月のように輝いていた時はハエやアブのように寄ってきた有象無象も、壊れた三日月になった途端に居なくなってしまった。
私という月を、誰も見上げなくなってしまったのだ。
「あの時の屈辱と無念を、またわっちを助けてくれた者への恩を一生忘れないように、この傷をギルドの名前にしたんでありんす。ぬし様、これを見てもまだ試――ん?」
ムネヒトは見てなかった。恥かしそうにそっぽを向いていた。
「何処を見ているんでありんすか。こっちを見なんし」
「いや、だって……裸だし」
モジモジしていた。
「わっちの話を聞いていなかったでありんすか!? そういう次元の話をしているんじゃありんせん!」
「じゃ、じゃあ、見ちゃっても宜しいんで御座いますか?」
「最初からそう言ってるでありんしょう……」
ムネヒトは何回か深呼吸し、恐る恐るといった様子で顔をこちらに向けた。視線がディミトラーシャの上半身を撫で上げる。
左胸のあったところを見て、右を見て、何回も往復して彼は呟く。
「ワンナウト……」
「は?」
呟いた意味が分からなかった。しかも彼の瞳は熱っぽく潤み、頬は更に赤くなっていた。
見間違いじゃなければ、ムネヒトはディミトラーシャの身体に見惚れていた。こんな身体にだ。
だからなんでそんな初心な反応を寄越すんだ。話のテンポが悪くなって仕方無い。
こういう視線を久しく肌に浴びていなかったので、どうにも調子が狂うような心地だった。
「そ、それで? わっちで試すと言ったでありんすか? 同情なら要らんでありんす。今まで、どれだけの手を尽くして来たと思っているんでありんすか?」
「……同情じゃない、とは言い切れない。俺は女じゃないから、貴女の苦しさを全て理解することは出来ない」
だがと彼は言う。
「力になりたいんだ。その、触れても良いか?」
「……! だから、同情はやめてくんなまし……! わっちは……」
ムネヒトは左胸に手を当て呼吸を整え、彼女の側に歩み寄った。迷いのない足取りに、むしろディミトラーシャが仰け反ってしまう。
「……!」
羞恥心が蘇り、彼女は腕で胸を隠した。その恥らう様子が彼にどう映ったかは知らないが、何故かまた左胸に手を当て呼吸を整えている。
ムネヒトの黒い瞳は、ディトラーシャの今の目の力では拒めない。助けを求めるように辺りを見回すが、冒険嬢達は二人を見守っているだけだ。
真っ直ぐ見つめてくる眼差しに、彼女は根負けした。
「……ああもう。どうせ駄目で元々、好きにしてくんなまし。傷が薄くなれば儲けモノくらいに考えるでありんす」
「そんな淋しいこと言うな。任せろ」
自己の能力を一切疑ってない言葉に、ディミトラーシャは身体を震わせる。
希望を抱いただけ絶望に叩き落された。宮廷魔術士ですら匙を投げた三日月の傷。皮膚のみではなく内臓の位置まで変わってしまった大怪我。
そして先程のコレットの場合と決定的に違うのは時間が経ち過ぎていることだ。
五年という歳月は、あまりに重い。だから、期待するだけ無駄なのだ。
「――……」
だが彼女はついに青年に身体を委ねた。腕をどかし、彼に全てをさらけ出す。
「……ツーアウト」
またよく分からない言葉を呟き、彼の手が両胸に添えられた。
「……傷がこのギルドの名前の由来と、言ってたな」
そして、ムネヒトの力がありったけ流れ込んできた。
夜明けの風が自らを撫でたように感じた。それは衣服も皮膚を何もかもを透過し、両胸の辺りからディミトラーシャの身体を包んだ。
感じたことの無いような心地良い力の流れに、ディミトラーシャは身を委ね続けた。
時間にしてわずか十秒足らず。1500日を越える年月の中で、たったの十秒だ。
いつの間にか、自分の身体の一部が彼の両手を押し上げていた。ムネヒトはそっと、かなり名残惜しそうに指をどかす。
「無くなったから変えるとしても、看板代とかは請求しないでくれよ」
自分で確認するよりも早く、周囲に居る娘達が息を呑む音が耳に届く。唖然とし衝撃のあまりに声を出せないでいる様子が伝わってきた。
「あ、ああ……――ぁ!」
無論その誰よりも、ディミトラーシャ自身が衝撃を受けていたのは間違いない。
傷が薄くなるどころではない。何もかもが消え去っていた。無惨に削れていた肉体は完全に、いや完全以上に再生され肌には擦過傷一つない。
身体の内側から皮膚や筋肉を無理に引っ張るような後遺症も、蜃気楼のように消えていた。
そして、かつて金銀にも勝った彼女の肉体は、かつて以上の瑞々しさと豊満さを誇示していた。
彼女は膝から崩れ落ち、自分の肉体を二度と無くしてしまわないように腕で強く抱いた。
「馬鹿にせんで、くんなまし……! そ、んな、こと位で、ぬし……、に……ぃ!」
彼女が言葉が紡げなくなったのは、胸がいっぱいになり涙が突き上げそうになったからだ。唇が情けなく慄き、ムネヒトの冗談に対する答えも感謝も言えなくなってしまった。
それでも何とか口を開くが、わ……、と泣き出してしまった。駆け寄ってきて彼女の肩を抱く冒険嬢が何人もいた。皆、似たような表情をしている。今は何を言っても涙に濡れてしまうだろう。
彼はやや慌てた様子で、冒険嬢から大きなタオルを受け取り彼女の肩にかけた。
どうやらそれは、ほとんど裸のまま泣きじゃくるディミトラーシャに狼狽している様子だ。
自分では紳士的な振る舞いをしているらしいが、キョドキョドとぎこちなく、しかも彼女の腕から溢れる乳房をチラチラ見ていたのは誰の目にも明らかだった。
ちょっと前傾姿勢なのは、冒険嬢の情けで気付かないことにした。
オホンと咳払いし、ムネヒトは立ち上がって皆に向かって言った。
「治せないと諦めた傷がある者、今よりも綺麗なって自分を好きになりたい者、己のおっぱいにもっと誇りを持ちたい者は、みんな俺の所へ来い!」
わ! 皆が我先にムネヒトへ殺到する。
しかし流石と言うべきか、『四天乳』のシンシアは既にムネヒトの正面で服を脱ぐ準備していた。
この目端の鋭さが『クレセント・アルテミス』トップ4の実力の一端でもある。
「よーし! 次はあーしの番だし! ちょっと待っててね、これ意外に脱ぎにきーんだよね……」
「おっと、服を脱ぐのは許さん!」
ニップレスのようなウサギ耳を剥がそうとしたシンシアを、まだちょっと前屈みのムネヒトは慌てて制した。
「これは誰にも内緒なんだが、俺はおっぱいを『見』『触』『吸』しないという誓訳を課していて、全て破ると一生の責任を負うって決めてるんだ! だからスッポンポンは駄目な!」
「ぎゃははははははは! なにソレ下らなっ! ってか重! しかもムネ様、今までマスターのおっぱいガン見した上に触ってたじゃん! 若干手遅れじゃね?」
「うん、お陰でツーアウトだ。二段階目で完治させることが出来て、正直ほっとしてる」
つまりまだ余力があるってワケかと、シンシアはムネヒトに聞こえないように呟いた。
その誓約が冗談なのは間違いないが、この神の祝福のごとき魔術には何らかの発動条件があると見ていい。
条件はムネヒトにあるのか、あるいは此方か。それを一つ試してみようと、シンシアは笑顔の下で思索する。
「んじゃまー、あーしのは後日のお楽しみってことで! 実さー、昔仕えてた家のメイド長に折檻されて、ここに火傷があんだ」
シンシアはスカートを捲り上げ、右の太腿を露わにする。そこには、赤茶色いコーヒーのようなシミが張り付いていた。白い肌だけに余計目立って見える。
ちなみにほとんどショーツまで見えているが、そっちにはムネヒトは全く興味を示さない。
「もう十年以上前の怪我なんだけど……やっぱムズい?」
「心配するな! 乳首!」
「っ! もー……ムネ様のエッチ! 火傷の場所と全然カンケーないじゃ……はぁ!? マジで!?」
内太腿にあったシミのような火傷は今の一瞬で消えていた。太腿とそこの関係は全く不明だが、結果が完璧だから問う事も咄嗟には出来ない。
呆然とするシンシアをよそに、次の冒険嬢が彼の前に飛び出した。
「私、えっと、最近、黒ずんじゃって……やっぱり『おっぱいギルド』として知られている以上、このままじゃ指名依頼も取れないっていうか……大体の男も綺麗な色が好きっていうか……」
「なるほど、よし任せろ! メラニン色素除去! ビタミンC誘導! 血流改善! そして乳首!」
「う、嘘……! 私ってば自分史上最高のピンクじゃんか!」
ある者は服の中を覗きこみ、もう怪しげなクリーム塗らなくて済むと歓喜の声を上げた。
「あ、あたしさ! 歳のせいって言いたくはないんだけど、垂れてきちゃって……やっぱ大きいと垂れやすいって知ってたんだけど……」
「君はストローの君(Gカップ)! 任せろ任せろ! クーパー靭帯再生! コラーゲン充填! 筋繊維修復! 背骨矯正! からの乳首!」
「スッゴ! サキュバストになっちゃったんだけど!? これもうブラジャーいらないわ!」
またある者は十代のバストの張りを取り戻し、ミリミリと締め付けてきた矯正用下着を脱ぎ捨てた。
因みにサキュバストというのは、死ぬまで乳房の垂れないというかの種族が由来の造語である。この世界には無いがロケットバストのような物だ。
上の階から今日は姿を見せなかった冒険嬢も降りて来た。
施術を終えた冒険嬢達が、本日は非番だった者達も呼び出しムネヒトの前につれてきたのだ。
「髪のキューティクルが……」
「もうずっと水虫が治らなくて……」
「慢性的な肩こりと腰痛と膝の間接痛が……」
「元カレにクソダサイ刺青を入れられて……」
「何もかも俺に任せろ! 乳首は全てを解決する!」
「乳首!」「乳首!」「乳首!」「乳首!」「乳首!」「乳首!」「乳首!」「乳首!」「乳首!」「乳首!」「乳首!」「乳首!」「乳首!」「乳首!」「乳首!」「乳首!」「乳首!」「乳首!」「乳首!」「乳首!」「乳首!」「乳首!」「乳首!」「乳首!」「乳首!」「乳首!」「乳首!」「乳首!」「乳首!」
ムネヒトが総勢78名……在籍81名の内『四天乳』の三名を除いた全員を終える頃には、日付が変わっていた。
最後の一人まで乳首の大盤振る舞いだった。
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今回は乳首がゲシュタルト崩壊するかと思いました。
追記
展開は変えておりませんが、一部描写をカットしております。




