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異世界でB地区の神様になったけど、誰にも言えない  作者: フカヒレさん
第三章 騎士道とは乳を護ることと見つけたり
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エピローグ⑥ 心を壊す公爵

 

 第二騎士団本部、団長執務室に二人の男がいた。

 一人はしかめっ面で無糖コーヒーを啜り、もう一人は水をガブガブ美味そうに飲んでいる。前者は第二騎士団団長ガノンパノラ、後者は同期のジョエルだ。


「ぷはぁ! くぅ~っ! 勝った後だと、二日酔い後の水まで最高に美味いなぁオイ!」


「…………」


 ご機嫌なジョエルとは対照的に、ガノンパノラはそのコーヒーよりも苦々しい顔をしていた。


「……それで、なんの用だ? 私はこれから訓練に行く所だったんだ。手短に済ませてくれ」


 彼の声は低い。無理に押さえつけ平静を装っているような無機質さがある。怒っているのは間違いないだろうが、その怒りを自分でも処理しきれていない不安定さがジョエルには感じられた。


「なんか機嫌が悪いなぁ? メリーベルちゃんと喧嘩でもした? それとも誰かに『娘さんを僕に下さーい!』とでも言われたのかい?」


 ビキと、団長のコップと額の血管が鳴った。

 瞬間、虎の尾を踏んじまったかと背を寒くするジョエル。この程度の軽口は日常茶飯事だが、今日に限ってガノンパノラの負の琴線に触れてしまったらしい。

 ワザとらしく咳払いし、ジョエルは本題に入る事にする。


「用件ってのはね、あのムネヒト君の事なんだけども――」


 団長のコップに致命的な亀裂が走る。

 いったい彼は何したんだと、ジョエルは此処に居ない青年へ溜め息をついた。今からその人物の会話をしなければならないと思うと、なんとも気が重い。


「……彼が、何だって?」


「あー、まー、うん。俺の見解を話そうと思ってさ……」


 意外に怒りの沸点が低い同期に内心で肩をすくめつつ、ジョエルは語を継いだ。さっさと本題を切り出す方が賢いように思う。


「結論から言おう、ハイヤ・ムネヒトは【神威代任者】だ」


「――!」


 瞬間的に冷静さを取り戻す辺りは流石と言える。マグマ溜まりのようだった彼の瞳に理知が戻り、驚愕も併せて浮かんでいる。


「……確かか?」


「可能性は低くない。彼の……ムネヒト君の力は異常だ」


 ジョエルはカバンから大きな封筒を取り出し、ガノンパノラに手渡した。

 封筒には王宮騎士団の印が押されてある。

 許可を与えられていない人物が開封しようとすると、中身ごと燃えてしまう魔術式が組まれて、開封を企てた人物には魔術塗料がぶちまけられる。

 ガノンパノラは封の糊付けの部分を指で一撫でし、一枚だけ入っていた羊皮紙を取り出す。

 内容はハイヤ・ムネヒトの調査報告書であり、作成者は王宮騎士団としてのジョエルだ。


「――……」


 ガノンパノラは一読し絶句する。


「……にわかには信じられんな……」


 もう一度、初めから目を通しながら呟いた。書類の内容は至ってシンプルでハイヤ・ムネヒトのステータスと出身地や渡航暦のみ。

 しかし、後半については空白なので実質ステータスのみだ。巷の冒険者でも、もう少し詳細に記載されているであろう。

 だが、その数値のいずれもが馬鹿げている。


【ハイヤ・ムネヒト】


 レベル 1

 体 力 299/299

 魔 量 299/299

 筋 力 299

 魔 力 299

 敏 捷 299

 防御力 299


 数字の目安としては20~30ならば平均、50以上なら優秀と言ってよく、100を超えるなら逸材である。

 それが299。何かの冗談としか思えない。

 この数値は、ジョエルの使用していた鑑定用アイテムの限界値らしい。全ての項目で、測定可能の上限をたたき出している。

 まず魔道具の故障を疑って然るべき数値であり、次に偽装を疑う。それらの可能性を全て潰し、最後にようやく真実だと認められる。


 しかし実戦経験も豊富なガノンパノラにしても、人は勿論のこと魔獣などの強力なモンスターに至るまで、これほどのステータスは見たことは無かった。

 レベルが1ということも彼の困惑を深くする。赤ん坊ではあるまいに、幾らなんでも低すぎる。


「……彼が恐るべき存在だと云う事は分かった。しかし、それが何故【神威代任者】という結論になる?」


 想像を絶する怪物というのは無理にでも理解するしかない。

 しかしそれだけで神に力を授けられたと判断するのは早計だ。【神威代任者】が強大な能力を持っているとしても、化け物染みた実力者が全て【神威代任者】とは限らないからだ。


「アイツ、メリーベルちゃんの胸ばっかり見てたぜ?」


 コップが握りつぶされた。

 しかし、手にかかった黒色の液体の熱さでガノンパノラはにわかに冷静さを取り戻す。


「……相手の負の感情をワザと引き出して、会話を自分のペースに引き込むのがお前のクセだったな……その言い方だと、別の含みがあるというところか」


 流石に付き合いが長いだけあると、ジョエルは口の端を持ち上げて声を立てず笑った。


「俺もただのスケベな兄ちゃんだと思っていた。年頃を考えると、特に変なことじゃあ無いけどね」


 しかし、とジョエルは言葉を重ねる。


「サルテカイツの暴走、マゾルフ男爵の『タイド草』違法取引、それらで逮捕された連中は左胸に傷を負っていた者が多い。いずれもムネヒトくんの手に掛かって倒された者だけだ」


 それはガノンパノラも記憶していた。

 報告ではパルゴア・サルテカイツやライジル、その部下達にも左胸付近に異様な傷があったらしい。何人かは実際に自分も確認した。

 ただの打ち身では無く、ポーションや治癒薬でも治しきれなかった妙な傷。何らかのスキルの影響と思われるが、詳細は不明のままだ。


 そして、その誰もが異常に弱かった。

 念のため彼らのステータスを確認したが、全員のレベルが1になっていた。一時的な物ではなく、彼らが積み上げてきた経験値が綺麗に消え去っていたのだ。


「俺の予想じゃ……彼は胸とかじゃあなくて、その奥の心臓を見ていたんだと思う。つまり、女の子の胸ばっかり見てたのは一種の誤魔化しだ」


 心臓とはつまり生命活動の原動力だ。当然、医学的にも魔術的にも重要な臓器である。

 仮に経験値を奪うという事が生命力の剥奪と定義できるのなら、彼が心臓を狙った理由も一応は理解できる。

 その彼が娘の……心の臓を見ていたとするなら、ガノンパノラの心中は穏やか足り得ない。


「いくらなんでも、本当に盗み見るならもっと上手く誤魔化すハズさ。あれじゃあ『ボクはおっぱい大好きな変態ですぅ』って自分からアピールしているのがバレバレだ」


 迫真の演技過ぎて、逆に怪しかったとジョエルは言葉を重ねた。

 ここまで状況が揃っているのだから、ハイヤ・ムネヒトが無関係であると判断する方が誤りだろう。

 あの青年は何らかの方法で経験値を消し去り、結果として左胸に……心臓付近にダメージを残したと思われる。

 そこまで思考を巡らし、ガノンパノラはふと記憶の海に沈む存在を浮上させた。

 彼と似たような能力を持つ人物が、歴史の中に居たのだ。確かそれは……。


「心臓を狙い、心を読み、生命力を奪い、更に絶大な戦闘力を有する個人。それってさ、かつて史上最強と謳われた冒険者にそっくりじゃないか?」


 ジョエルが口にしたその人物は、ガノンパノラが想起した人物と一致する。


「【心壊公】……彼女の再来だと、お前は言うのか?」


 かつて数多くの功績を立て、王国と帝国の両国から公爵号を授かった偉大な冒険者が存在する。【心壊公】という、一人の女冒険者だ。

 名前は残っていない。ただ、畏怖と敬意をこもごもにした二つ名と伝説のみが残っていた。

 例えば、一人で古竜の群れを蹴散らしたとか、剣で海を叩き割ったとか、三万人からなる軍勢を壊滅させたとか、眉唾な物も数多い。


 その彼女が【心壊公】と呼ばれるようになった理由には諸説ある。

 同じ時代を生きた冒険者の多くが、彼女とのあまりの実力差に心を病んでしまったとか、記憶の何もかも奪われて廃人になってしまったとか、心臓のみを殴り潰されたとか、枚挙に暇が無い。


「正式な記録は無いが、確かに彼女も【神威代任者】だったという伝説が残っている。しかし二千年は前の話だぞ? 一族や後継者というには、いくらなんでも時間が経ちすぎている」


 神獣のように神力が遺伝するなんて話は聴いた事ない。有り得ないと断じる事は出来ないが、だとしても今更という感が拭えなかった。

 今でも稀に【心壊公】の子孫を自称する冒険者がいるが、どれも信憑性は薄い。

 家名はおろか、彼女の名前すら残っていないのだ。公爵にまで上り詰めた者が、それではあまりに不自然。つまり【心壊公】そのものが御伽噺の住人であり、その存在自体が虚構の可能性もある。

 誰もが憧れる最強の冒険者とは、優秀な人材を収集するために、かつてギルドが展開したプロパガンダだという説も一切ではない。


 だがジョエルは自分の考察を進めるため、敢えて【心壊公】を歴史の真実として仮定する。


「ムネヒトくんが彼女の生まれ変わりだとか、そういう事を言ってるワケじゃあ無いさ。俺が言いたいのはつまり……」


 ジョエルは手に持っていた水を一口含み、


「つまり彼は、女神となった【心壊公】に見初められた【神威代任者】ってことだよ」


 彼の結論をガノンパノラに述べた。


「生前、偉業を為した存在は神になるという。彼女はその功績を認められ、死後【神威代任者】から女神へと昇華した。まず女であるなら、神様になる条件は当て嵌まる」


 ガノンパノラは口を挟まなかった。

 この世界には女神しか存在しないというのが古くからの言い伝えだ。【神威代任者】というのも、女神が選んだ次の女神候補が始まりだという。


 では何故女性しか神になれないのか。それが真実だとして、ライジルのように男でも【神威代任者】に成れるのは何故か。そも、神とは何だ。

 ガノンパノラは往年の疑問達が頭を掠めたが、今考えるべき事ではないとして記憶の書庫に収めた。


「もちろん俺の推論を出ない。いや、言ってしまえば考察というのも憚れるような一種の妄想さ」


「女神となった冒険者と、その後継者である【神威代任者】か……お前が作家を志しているとは知らなかった。歴史書などに載せるわけにはいかんが、書き上げて本屋にでも寄贈してみるか?」


「止してくれよ。胡散臭い言い伝えを重ねただけのイタい読み物なんて、いったい誰が買うんだ。それにこの程度の妄想なんて、帝国の連中は年中口にしているぜ?」


 二人はそんな冗談を言って苦笑を浮かべる。

 そう、冗談のような話だ。酒の肴くらいにはなるだろうが、現実として扱うには荒唐無稽すぎる。


「……帝国の【神威代任者】である可能性は?」


「皆無ではないが、彼が帝国からの渡航者という線は限りなく薄いね。念のため冒険者ギルドや帝国の仲間にも訊いてみたが、ムネヒト君の姿は目撃されていない」


 ジョエルもガノンパノラも、ムネヒトについて放置していたわけじゃない。サルテカイツ家の件から今日に至るまで、様々な角度から彼を調べた。

 結果は全くの空振り。

 理外の戦力を有しながら冒険者の登録もされておらず、何かしらの功績を為したワケでも、罪を犯したワケでも、アカデミーを卒業したワケでもない。

 結局のところ一切が不明。

 まるで突然地面から生えてきたのかという位に、サンリッシュ牧場以前の経歴が空白だ。

 今回のステータスはようやく得た手掛かりだが、更に困惑を深める結果になってしまった。


「気になるといえば、レスティアちゃんが気付いてたかどうかだな……知っていて尚報告をしてこなかったとするなら……」


 彼女が上げたムネヒトの報告書は、先日に発生した『後悔の巨人』の前後で差異があった。

 最初期の報告では、彼のステータスは一般的な数値しか記載されていなかったのだが、後期では『測定不能』となっていた。


 レスティアの『測定不能』という報告が、真実であっても隠蔽であっても楽観視は出来ない。

 彼女が持つ固有スキル(アイス・ビュー)は、ジョエルの使用した魔道具などよりも遥かに優秀だ。そして、上級魔術程度では彼女の瞳を誤魔化すこともできない。

 つまりムネヒトの能力は、それを以ってしても測り得ない、もしくは隠し通せると云う事になる。


 更に深刻なのが後者だ。

 もし隠蔽だった場合、ムネヒトとレスティアの間で、何らかの密約が交わされた可能性を考える必要がある。

 王都守護騎士団としての責務を放り捨ててでも、彼個人を優先してしまう事案がレスティアにあるだろうか? ムネヒトが脅迫? それとも、レスティアの方から?


「――と、イカンイカン……」


 そこまで考え、ジョエルは陰に篭りやすい思考のクセを自覚した。


「……本当に計測できなかったかもしれないし、彼が王国に害をもたらす者で無いと判断したから、余計な火種を持ち込みたくなかったってのも考えられる。それだけで王国への叛意とするには、あまりに横暴だ」


 おどけるように肩をすくめながら言った。


「ま、どっちにしろ何かしらの策謀を巡らせている可能性は低い。彼に敵対する意志が無いのなら此方から手を出すのは避けたい」


「お前の目から見てもそれほどか」


「マトモにやり合うのは不可能だ。もし本気で討伐を考えるなら……第一、第二、そして王宮騎士団の全員で囲わないとな」


 同じ王宮騎士団であるジョエルは断言する。

 似たような判断をタイラント・ボアと遭遇したときにも下したのだが、彼はその不可能の存在と渡り合った。

 最悪の場合、誰に恨まれても皆を強制帰還させるつもりでいた。

 だがそうする前に、神獣とぶつかる事でムネヒトの実力の底を見極められるかもしれないと、ジョエルが期待したのも事実。

 タイラント・ボアを彼の物差しにしたのだが、アテが外れてしまった。

 彼はまさに怪物だ。

 彼の言う『頂を臨む者』というのも、もはや誇張ではない。傲慢不遜な名乗りを肯定せざるを得ない能力を彼は有していた。ならばムネヒトの言う頂とは、女神のことかもしれないとジョエルは推察していた。


「【神威代任者】として彼がどんな役目を背負っているかは知らないが、むしろ『夜霞の徒』と敵対し神威代任者(ライジル)と潰しあったというんだから、ムネヒトくんをコチラの仲間に出来るかもしれない。矛を交えるよりも余程建設的じゃないかい?」


 騎士団の団長は頷く。

 彼が本当に【神威代任者】として、味方に出来ればこれ程心強いことは無い。


(それに……)


「それに俺ぁ、個人的にはムネヒト君を気に入ってる。馬鹿で情に厚く流されやすいとこなんて、バンズの野郎に似てるじゃねぇか。特に女に弱い所なんてソックリだぜ」


 同期の言葉に苦笑いで答えた。

 私情を挟むのは厳禁だが、ガノンパノラも彼個人へは好印象を持っていた。

 シャワー室でのムネヒトの言葉が、偽りとも演技とも思えない。メリーベルにしたって、ムネヒトへは少なくとも悪印象から程遠い物を……。

 そこガノンパノラははたと気づいた。


(……まさかメリーベルは、彼の正体に気付いたのか……!?)


 ガノンパノラは昨晩の娘の言葉を思い出していた。

 メリーベルは常々、異性にかまけている暇など無いと言っていたが、父としてはやはり少し気がかりだった。

 無理強いは出来ないが、メリーベルも良い年頃。場合によっては、一度は見合いでも経験させるべきだろうかと考えていた。


 しかし、まさか運命とやらが昨日になるとは。しかも出逢ってまだ十日そこそこの男と? 心の準備が出来ていないぞ我が娘よ。


 初めは愕然として耳も目も節穴になってしまったが、実はそれは自分の早合点で、彼女は【神威代任者】としてのムネヒトへ会いに行ったのでは無いか?

 この身を捧げますというのは、嫁入りの比喩で無く……自身の心臓を彼に捧げて、王国への助力を請いに行ったのでは無いか?


「――――ッ、メリーベル……!」


 ガノンパノラは勢い良く立ち上がっていた。大きく倒れた椅子が床でバウンドするが、耳にも届かない。

 ハイヤ・ムネヒトが善人であるというのは願望の話であり、真実とは限らない。

 相対的に向こうが此方を上回っているのなら、我々の目を欺くことも可能なのだろう。

 瞬間、ガノンパノラが幻視したのは血の海に沈む娘の姿。胸には穴が空いていて、傍らには赤く濡れた黒髪の……。


 最悪の未来図から彼を現実に引き戻したのは、執務室に響いた控えめなノックの音だ。

 ジョエルが許可を出すと、ドアの向こうから括った金髪がヒヨコのように見える女性が顔を見せる。事務のエリアナだ。


「……お話し中に申し訳ありせん……その、副団長とハイヤ・ムネヒト氏が団長に面会を求めて下にいらっしゃっておりますが……」


 何か良くない物でも見てしまったのか、エリアナの表情は沈痛そのものだった。


「……!」


 団長は側に立て掛けていた剣を握り、風のような早さで執務室を飛び出す。驚くジョエルとエリアナには目もくれず、自身が使えるありったけの『技巧』で戦闘力を底上げしながら一階へ走った。

 ガノンパノラは王国屈指の騎士であり、純粋な戦力はメリーベルを凌駕する。

 だがその彼も、自分がハイヤ・ムネヒトに勝てるとは到底思っていなかった。ならば刺し違えてでもと、彼は悲壮な決意を秘めて精神と肉体を戦いの物へ作り替えていく。

 この時点で彼は既に冷静では無かったが、それを指摘できる者は居なかった。愛剣をいつでも引き抜ける状態にして、一階の旧宿屋のロビーへ足を踏み入れた。


「……」


「……戻りました、父上」


 駆け降りたガノンパノラが見たのは、傷だらけのムネヒトと、何故かムスっと拗ねているメリーベルの姿だった。


「…………」


 予想とは逆にハイヤ・ムネヒトの方がボロボロだった。鼻血が止まっていないのか、ティッシュを両穴に詰めているし、顔には網目のような引っ掻き傷ができていた。神威代任者とはなんだったのか。


「あの、団長さん。実はお話がありまして……」


 口を開いたのはそのムネヒトだ。腫れた唇を難儀そうに動かし、何事かを訴えてくる。


「娘さんをお返しに上がりまし、ぅぐふっ!?」


 メリーベルはその彼に肘を打ち付けた。


「さっきと言っていることが違うじゃないか! お前が父上と直接話したいと言うから、恥を偲んで戻ってきたというのに! 私を不良品扱いする気か!? 『娘さんを僕に下さーい』くらい言えんのか!」


「えほ、えほ……言うわけないだろ! 一度頭を冷やせって! もっとちゃんと団長と話してだな……」


「父上、ムネヒトの事はどうか無視して下さい! 彼は照れているだけです!」


「ちょ、コラ! 違いますからね団長! 副団長は二日酔いらしくて、昨日から言動が変なんですよ! とりあえず今日一日は休ませて上げた方が良いんじゃないですかね! じゃ自分はコレで!」


「待て貴様! 帰るなら私も連れていけ!」


「ついてくんな! お前と一緒に帰ると皆が怖いんだよ!」


「私が説得してみせる! だから遠慮するな!」


「遠慮なんてしてねぇ! コラ離せ! ええいちくしょう、なんて腕力だ!」


「許可しないと父上に乳房を揉まれた事をバラすぞ!」


「手遅れだよバカヤロー!」


 眼前で繰り広げられる見苦しい言い争いに、団長はすっかり毒気を抜かれてしまい、呆然と二人のやり取りを眺めるだけだった。

 やや遅れてジョエルが下りてきてガノンパノラの少し後ろに立つ。


「……やっぱり違うかも……」


 呟いた一言は、ムネヒトとメリーベルの言い争いにかき消されてしまった。



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エリアナさんの顔が暗かったのは、二日酔いのせいです

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