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異世界でB地区の神様になったけど、誰にも言えない  作者: フカヒレさん
第一章 渡る異世界は乳ばかり
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温泉の話(上)

「おお……!」


 俺はタオル(手ぬぐいみたいな生地だ)片手に素っ裸で風呂場に立ち、感嘆の声を上げる。

 バンズさんの言っていた自慢の財産とは風呂だった。それも温泉といって差し支えない規模だ。


 その温泉は、住居から屋外へ延びた下り階段混じりの渡り廊下を進んだ先にあった。

 表側からは見えなかったが牧場の立地しているなだらかな丘を裏手に下り、丘の中腹部分をくり貫いたようにして造られているらしい。

 下りきった場所には個人で使うには十分な広さの脱衣小屋があり、扉の代わりに大きな衝立がある。それを横切ると露天風呂だったのだ。既に日の落ちた暗い空には星が瞬き、乳白色の湯と煙る湯気がなんとも幻想的だ。

 絶好のロケーション、老舗旅館の露天風呂として旅行雑誌に掲載していてもおかしくない。


「なるほど……これは確かに財産だ」


 ウキウキしつつ傍らに備えてあった木桶で湯を掬い、ニ三度身体に浴びせる。固く絞った濡れタオルを頭に乗せ由緒正しき温泉スタイルで肩まで浸かった。


「くぅっ……あああああ”あ”あぁぁぁーー……」


 なんともジジィくさい声を肺腑から吐き出す。しかし仕方ない。日本人なら誰だってこうなる。

 じんわり熱が労働で軋んでいた筋肉に骨格に染み込む。固い針金を束ねたようだった筋が、茹でたてのソーメンみたいに解れていく。


「あぁ~……極楽じゃのう……」


 つい精神年齢が老け込んでしまうのも仕方ない。しばらくはこの贅沢な時間を忘我のまま味わっていた。


 ・

 ・

 ・


「もしかしたら、温泉事業でも興したいのか?」


 縁を枕にしながらボンヤリ考える。

 異世界に温泉文化がどれほど根付いているのか不明だが、この気持ちよさは多くの人に受け入れられるだろう。

 この大きさなら日本にもあった銭湯としての役割を十分に果たせるし、旅館としても成功するかもしれない。

 それを見越しての牧場買収なら納得できる。金銭を払ってでも入浴したいレベルだ。


「生活用水には向かないな」


 白く濁った湯は源泉の証だろう。浸かっているだけで疲労が溶けていくような、素晴らしい温泉効能があるに違いない。そしてこの温泉の規模だって気になる。

 小規模な市民プール程度のサイズで、壁は岩肌がそのままむき出しになっている。反対側には年季の入った木で出来た高い壁が立っていた。この10メートルはありそうな壁は恐らく楕円形の温泉の真ん中を遮るようにたっている。ということは向こうは女湯だろうか。

 家庭の風呂としては大きすぎる。


「ミルシェも普段から入ってんだよな……」


 ふとそんな事を思った。当然裸で入るのだろう。


「…………」


 あのハイパーけしからん体から一切の衣服を脱ぎ捨てて、このミルク色の湯に浸かるのだ。そんな彼女を見ることが許されるのは天の星のみ。


「………………」


 空を見上げ住居や牛舎がある方を見た。だが岩肌が邪魔になりここからじゃ見えない。つまり向こうからもここは見えないだろう。歩いてきた渡り廊下も同様だ。

 次は高い壁を見る。昇るのは無理そうだ。

 ざぶざぶと湯を掻き分け壁に近づいてみる。湯に浸かっている所には石や土で組まれその上から木造の壁がそびえていた。コンコンと軽くノックしてみるとかなり頑丈で分厚いことが分かる。穴を空けるのも出来やしない。


 つまり覗き対策は完璧だ。いや完璧などあるものか、必ずや抜け穴が……。


「――って、思考が犯罪者じゃねぇか! 何考えてんだこの馬鹿!」


 我に返り二三回頬を殴る。

 とはいえ自分に嘘はつけない。覗こうなどとは思わないが(無意識はノーカン)見たくて見たくてしょうがない。

 当然、おっぱいである。

 我が人生において未だに拝んだことがない。せいぜい水着ぐらいだ。

 そんな飢えた狼のような俺の前に、あの天上の果実が現れた。意識するなと言う方が無理だ。『乳分析(アナライズ)』で各数字は知っていたが、百聞は一見に如かずだ。

 だが覗きなど女の子の意に反することは言語道断である。ラッキースケベの代償にタコ殴りにされても文句など無い。

 とはいえ、もし仮にミルシェが「見てもいいですよ~」と言ってくるならば「やったぜ!」となってしまう。その程度には意志が固いし弱い。


「まあそんなシチュエーションなんてある訳ねーか」


 現実は強固だ。異世界に来たってそれは変わらない。

 ラノベやアニメだったらこの辺りでヒロインが乱入して一悶着あったり、もしかしたら主人公の背中を流したりする。過激な描写ならタオルなど使わずその瑞々しい肉体をスポンジとして……


 ・

 ・

 ・


『んっ……んっ……どうですかぁ? 力加減は~……』


『ありがとうミルシェ、良い感じだ。しかし随分と柔らかいタオルだな。それになんか一部だけ固いような……』


『あぅ……そ、そこはぁ……』


 ・

 ・

 ・


 そんなことなど我が身に起こるはずも無く、現実は素晴らしく強固のままだ。主人公どもが羨ましくて仕方ない。


 今の俺に出来るのは、あらぬ妄想の旅だけ。

 ミルシェは体のどこから洗うのだろうか……胸はどんなふうに洗うのだろうか……右から? 左から? 間か乳下か? デリケートな部分だから手で? 胸は水に浮かぶらしいから壮観だろうな。ちょうど濁ったお湯だから大事なトップオブバストは見えそうで見えなくて、それをジッと見てたら「ムネヒトさんのエッチ……」とか言われたりふひひ。


 ひたひたひた……


「ん……?」


 旅から帰還させたのは風呂に入ってきたであろう誰かの足音だった。普通に考えればバンズさんだが……。


(いや、もしかしたら……?)


 無い無いと思いつつごく僅かな期待を抱く。思えば今日の俺はツいてた。

 まさか妄想が現実になってしまうのか? 「ムネヒトさ~ん、お背中流します~」とか異世界初日からこんな嬉し恥ずかしイベントをこなしても良いんだろうか!


(おおおお落ち着けお乳着け……年長者としての余裕と立ち振舞いをををを…)


 ひたひた近づく足音はやがて湯気を割り……


「よぉ、どうだムネヒト! ウチの風呂は最高だろ!」


「ですよねー……」


 岩尾のようなバンズさんが現れた。そりゃあそうだ。


「あ? おいどうした、のぼせたか?」


「ええ、少し冷やした方が良いですね……」


 特に頭を。




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