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異世界でB地区の神様になったけど、誰にも言えない  作者: フカヒレさん
第三章 騎士道とは乳を護ることと見つけたり
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狩猟祭⑤ 神と剣

 

 もうじき日が暮れる。幸い水にも火にも困らず、拾ってきた枯れ木にメリーベルが火を灯す。

 火が炎に育ち体を暖め始めると、何となくホッとしてくる。文明無き場の火の頼もしさが身にしみる。それとも、火を見て安堵を感じることが文明を作ったものの素質なのだろうか。


「……狩猟祭が終わったら、必ず聞き出してやるからな」


「はい……」


 結局のところ、治療の為とはいえ少女のバストを弄り回したのだ。弾劾されても文句は言えない。

 衛生兵という役柄を与えられてはいるが、医者のように国家資格を有しているわけではない。それに医者だって患者の肌を見るのは相応の理由があるからだ。

 俺が患部以外の部分とは無関係の部分、乳首を触った理由説明も承認も何一つ果たしてはいないのだ。確か、インフォームドコンセントというんだったか?

 狩猟祭終了後の宿題が一つ出来てしまった。リリミカとレスティアの協力を得ないと解決は難しいだろう。

 ここは話題を変えておくか。


「体調はどうだ?」


 火を挟み向こう側に座るメリーベルに声を掛ける。彼女も俺と同様に太い丸太に腰掛け、残った剣を二本を傍らに立掛けている。


「……釈然としないが万全だ。食欲もある。いっそヤケ食いしたい気分だぞ」


「……腹八分でね……」


 獲れた魚と鳥を火で炙り、携帯用乾パンが本日の晩飯だ。飲み水は川から汲んできた物をろ過し沸騰させた上で口にしている。

 夕食には些か早い気もするが部隊との連携が望めない以上、少数での行動は危険だ。


「通信機はやっぱり通じないんですか?」


「ああ。破損してはいないようだが、どうやら圏外……もしくは、この辺りの魔力が濃すぎて自然と通話妨害されている可能性もある」


 口論(糾弾ともいえる)の無益さを悟り、残された第二騎士団に連絡を取ろうとしたのは、あれから直ぐのことだった。

 最初は通信機で呼び掛けたのだが応答はなかった。

 ならばと木の実をすりつぶしメリーベルが魔術で乾燥させ、焚き火に混ぜて青とか赤とかと煙を起こしたのだ。通信機なるものが実用化されてからは活躍の場も少ない、文明から淘汰されてしまった連絡手段だ。

 向こうからも狼煙での返答が直ぐにあった。

 第二騎士団全員での捜索と平行して通信機で呼びかけを続けていたらしく、下層からの狼煙をすぐに発見できたのだ。

 二人とも無事という報せは全員に安堵を与えたが、俺とメリーベルの現在位置が事態を困難にする。

 第一級立入非推奨地域。いまだかつて誰も足を踏み入れたことのない、正真正銘の人類未踏の地。純然たる原生林に俺と副団長は孤立している。

 随分流されてしまったらしく、作戦段階で俺達が主戦場に選んだ場所よりも下層だ。

 狼煙という迂遠な連絡手段しかないためスムーズな意見交換は難しかったが、結局は第二騎士団本隊は計画していた第二級立入非推奨地域へ下り、俺とメリーベルも上を目指しそこで合流しようという事になった。


「毒虫の話だが……ハイヤ衛生兵、それは本当に黒い蜘蛛らしき生物で赤い縞模様をしていたのだったのだな?」


「間違いないです。一度見たら忘れられないほど気色の悪いヤツでしたよ」


 それが子猫サイズでカサカサ動く姿は、テレビ番組などで紹介されればスタジオは悲鳴に包まれるだろう。


「ふむ……ならばやはりマーダー・タランチュラーか……妙だな」


 妙?


「色々と納得しかねる事がある。まずマーダー・タランチュラーは王都よりも寒冷地に生息しているということ。少なくともここ数年で目撃証言は皆無。実際に被害にあった冒険者は、いずれも王都より北の地でだ」


 ここのように普段立ち入りできない地域があるから絶対とは言い切れないがと、メリーベルは続ける。


「お前が見たというサイズなら、間違いなく成虫だろう。マーダー・タランチュラーの成虫は毒針を飛ばして獲物を襲う。そして、寒冷地に生息しているからか気温の高い場所を好むという性質をしている」


「飛ばして……だからトゲだか針が残っていたのか……」


 メリーベルほどの騎士が、アレだけ大きな虫の接近に気がつかなかったという理由も分かった。タイラント・ボアに集中しているところへ毒針を飛ばしたのだ。まったく、卑怯な虫だ。


「そして、成虫から受けた猛毒は上級解毒ポーション以上でないと完治させる事はできない。仮に中級ポーションが無事だったとしても、焼け石に水だったろうな」


 倒れたメリーベルの姿を思い出し本当にやばかったんだと、背筋が凍る。


「それはつまり、お前の治癒魔術が優れていたという証明だろう。ふふ、お前が居なければ私はこの森の土に還っていたと言う事だ。重ね重ね、ありがとうハイヤ衛生兵」


「いや、そんな……俺はただ夢中で……」


「夢中で私の胸を弄っていた件については別の問題だがなっ!」


「……はい」


 乳首の問題は重大だ。


「ともかく、マーダー・タランチュラーは危険な虫だ。この辺りにも生息しているというのなら、再調査と駆除部隊を組織せねばならないかもしれん」


「その時は俺も呼んでください。一度見た相手だし、上級ポーションがなくても治療できる要員が居ると便利だと思います」


「そうだな、その時はお前を起用しよう」


 これは半分は建前だ。本当はメリーベルのおっぱいにあんな傷を付けた虫ケラを許せないという個人的な思いからだ。駆除どころか絶滅させてやる。


「でも、今まで目撃された記録がないのに急に現れるんだから運の無い話ですね」


 上級ポーションが無い第二騎士団に対して実質治療不可能の毒虫の出現。しかも温度の高い場所に寄って来ると言う事は、単純に考えて火を使うメリーベルが狙われる可能性が最も高い。

 いっそ誰かの陰謀と言われた方がまだ納得がいく。偏見の目を以ってみれば、第一騎士団が持ち込んだんじゃないかと邪推すらしてしまう。

 まあ、広大な森の中で危険な生物に対象者を襲わせるなんてのは、罠ではなく博打の部類だ。手間ばかりかかってリターンを得られないような作業を誰が好んで行う? もしそうだとするなら、よほど第二騎士団が嫌いなのか予算の無駄遣いが好きなのだろう。


「虫除け対策もしないとならんな……」


 そこで会話が終わってしまった。

 パチパチと不定形の炎を眺めながらボンヤリと思う事は、神獣タイラント・ボアの存在だ。

 アレが俺を狙っているのは、多分気のせいじゃない。恐らくは神の気配を嗅ぎ取ったのだろう。ということは、また()り合う可能性がある。俺達が合流している間に、タイラント・ボアと行き違いになり無事に狩猟祭を終えられると思うのは楽観視しすぎだ。

 俺のスキル(搦め手)が通じなかった以上、真っ正面から叩き潰すしかない。


「……剣、流されなくてよかったな」


 残されたメリーベルの剣は二振。皆から貰った純ミスリルソードと例の古い剣だ。タイラント・ボアとの接触で一振りが折られ、残された物は不幸にも急流下りで紛失してしまった。

 残念ではあるが命あってのもの種だ。この二本だけでも残った事も幸運に思うべきだろう。


「良かった、か……」


 自嘲気味に彼女は笑う。剣に話してくれたかつての夜と同じ顔だ。


「ハイヤ衛生兵、お前は私がこの剣を抜くことが出来ると思うか?」


 唐突な質問だった。内包する意味を捉えかね俺は沈黙で返答してしまう。


「『メリーベルなら絶対に大丈夫だ』と意見と、『今までも駄目だったのだから、とっとと諦めろ』という意見で半々だ。賭けにしている連中までいる」


「当事者を差し置いて勝手に盛り上がるなんて、なんとも不謹慎だな……」


「自分でいうのも何だが王都でも有名だ。常に使えもしない剣をぶら下げているんだから、悪目立ちもする。ここまで長い間持ち歩いているファイエルグレイ家の者は私くらいだからな。持ち歩くだけで馬鹿にされるのだから、倉庫など保管している方が遥かに賢い」


「……お守りみたいで、俺はカッコイイと思うけど」


「ふふ、どんな慰めだ。気を遣わなくていいぞ」


「慰めなんて、ずっと持っているってことは諦めて無いってことだろ? 立派じゃないか」


「こういうのは未練、と言うんだよ。もはや意地でも執念でもなく、ただの惰性だ。この剣のために神が王国に降臨しないんじゃないかという者も居る」


 祖国を捨てたファイエルグレイ家が神の怒りを買い剣を使えないようにしたっていう話か。神様ってのは、そんなみみっちいことするのかね?


「言いがかりだな。人のせいにするなって話だ」


 そういう意地の悪い考えをする人が多いから神が王国に来ないんじゃないか? そもそも、帝国にいらっしゃるらしい神ってのが既に胡散臭い。実際にあったことも無いのによく信じているものだ。隣の芝生は青いというには、規模が大きすぎやしないか?


「あながちそうとも言えん。『神に(まみ)えたときに剣は目覚める』なんて、まことしやかな言い伝えがあるくらいだからな。」


 だったらなおさら周りの罵詈荘厳なんて気にするな。神なら目の前に居るぞ?

 彼女は古い剣を目の前に掲げ、鞘を払おうとする。しかし今日も叶わない。小さな溜め息を漏らし、もとあった場所に剣を立てかける。


「……メリーベルは、神様に逢いたいのか?」


「確かに幼い頃は恋焦がれていたような気もするが……今は……さて、どうだろうか」


「……時々分からなくなる。私はどうしたいんだろうな、と……」


 メリーベルが何時からその剣を振っていたかなんて俺は知らない。一、二年とかいう短い時間ではないだろう。そしてそれは、役に立たない剣の歴史と独りで戦っているということ。蓄積した悪評や嘲笑も引き継いでいる。

 十年? 五十年? あるいはそれ以上? とっくに骨董品としての価値以外見出せない剣に、しがみ付くメリーベルの姿は滑稽なのか。

 俺はそうは思わない。


「重いな……」


「じゃあ、その剣は俺が持っておこうか?」


「…………へ?」


「重いなら俺が持ってても良いぞ。少しは身軽になるんじゃないか? 必要な時に『はい、どうぞ』って渡すから、いっそ他の剣も俺が持っておくというのも一つの手段じゃないか?」


 連想したのは手術を行う執刀医の助手とか、横綱の側に控える太刀持ちだ。使用する一振りだけ腰に下げ、あとは俺が運搬する。衛生兵の仕事と言えなくもない。


「………………」


 だが俺のアイデアは空振りに終わったらしく、メリーベルはぽかんとコッチを見ていた。


「ふふふっ! まさか、俺が持って置こうかなどど言われようとは……! 初めて言われたぞ、そんなこと……ふふふふっ、あはははははは!」


 別に面白い事を言ったつもりなど無いのに、メリーベルは腹を抱えて笑う。

 確かに空気の読めないような発言ではあったが、そこまで笑わなくてもいいだろ……。


「いや、すまん……まさかそんなアイデアが出てくるとは、なるほど……重ければ誰かに持って貰うか……しかし、それはつまりお前は更正団員期間が終わっても私にベッタリと言う事か? 私の部屋に居座る気なのか?」


「え!? いや、別にそういった意味でいったわけじゃなくてですね……」


「なんだ、まさか副団長に対して嘘の提案をしたのか? コレは更正期間を更に延長しなければならんな!」


「ちょ!? 勘弁してくれ!」


 これ以上B地区のコーポムネヒト(仮)から離れていたら、おっぱい欠乏症になってしまう!

 何とかして言い訳しようとして、彼女の唇が意地悪く歪んでいるのに気付いた。つまり、からかわれたのだ。

 自分でもムスっとした顔だと自覚しつつ、やや焼けすぎた魚を頬張る。くすくす微笑むメリーベルから目を逸らし、一心不乱に動物性タンパク質を摂るのが俺のささやか過ぎる抵抗だ。


「ありがとう、ハイヤ衛生兵……」


 そして、それだけで言い返せなくなる自分に腹立たしくなる。チョロすぎだろ、俺。



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最近のコンビニのおでんて美味いんですねぇ

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