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異世界でB地区の神様になったけど、誰にも言えない  作者: フカヒレさん
第三章 騎士道とは乳を護ることと見つけたり
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錆付き娘と呼ばれる者

 

「……高いな……」


 訓練が終わり日も傾きかけた頃、俺は王都の大通りに居た。メリーベルから狩猟祭における備品の買出しを依頼されたためだ。彼女も双子騎士も別の用事があるとかで別行動となっていたが、個人的に見ておきたかった物もあったので丁度良い。


「一本で中級ポーションの十倍もするのかよ……」


 目的は上級ポーション類だ。

 というのも、第二騎士団には上級以上の治癒薬が置いていない。例によって王宮騎士団や第一騎士団に優先して配給され、こっちには回ってこないというのだ。

 アカデミーの保健室でも同じような事があったので今更驚きはしないが、良い気持ちはしない。


「これ、ぼったくりとかじゃないですよね?」


「人聞きの悪いこと言うなよ兄ちゃん。何処に行っても大体同じような値段だぜ? むしろこの品質でこの価格なんだから、ウチはまだ良心的さ。不安なら別の店を見てくりゃあ良い」


 備品の買い付けを終わらせた後、ある冒険者御用達の店にて高級治癒薬品を見せて貰っていたのだが、これがとんでもなく高い。見た目は透き通った水色の液体で容量は200mlにも満たないだろうというのに、にわかには信じられない。

 上級品のポーションを作成するには、貴重な材料は勿論だが製作者にも高い技術が要求される。薬学は言うまでも無いが、魔法学の教養だって不可欠だ。アカデミー大学院卒業レベルの知識が必要だという。

 また店での販売方法にも格差があり、最下級ポーションは軒先でばら売りされている。下級品は近くの棚に、中級品と上級品は店員が常に佇むカウンターの奥に並んである。最上級品はそもそも置いていないみたいだ。

 価格と効能において最下級と下級とではそこまで差は無いが、下級と中級の間には大きな壁があり、中級と上級以上には更に想像を絶する格差が存在する。上級品になれば複雑骨折くらい数秒で完治するというから驚きだ。

 その上級ポーションとか俺の半年分の食費より高いんじゃない?


「滅多に入荷はしねぇが、それでもよく売れるポーションなんだぞ? こいつ一本あれば生存率が大きく上がるからな、命の代金としては安いくらいさ」


「なるほど、確かに……」


「中には、上級以上の解毒ポーションじゃないと治療できない毒を持つモンスターだっているんだ。備えて置くに越した事は無いぜ?」


「そりゃ怖い……」


 そんな話を聴けばなおさら用意しておきたいと思うのだが、預かった資金に俺の小遣いを足しても到底足らない。

 上級品で安いのがあれば何本か購入しておこうかと思ったのが甘かった。一本買うのすら無理だ。

 諦めて騎士団の本部に戻るか……。


「ん……? メリーベル?」


 上級ポーションを店主に返し外に出ると、向かいの店に見慣れた赤いポニーテールが揺れている。確かその店は装備品をメインで販売していたはずだが、いったい何をしているんだろうか。

 何となく気になり近づいてみると、彼女も店主と何かを話しているところだった。


「また値上がりしたのか……」


 まず耳に入ったのはメリーベルの悲しそうな声だった。


「すまないねぇ……生産が追いついてないらしくて、こんな剣でもまだマシな方なんだよ」


 返答する店主の声も申し訳なさそうだ。


「いや、すまん。今のは私の愚痴だ。店主を責めているわけではない。とりあえずこのミスリル含有率30%のヤツを三本……いや、二本くれ」


 それから彼女は唐草模様のガマ口財布(後日ミルシェから聞いたが、こっちの世界ではトード口財布と言うらしい)の中身を睨んだ後、傘立てのように雑多に樽に突っ込まれた剣の中から二振りを選んでいた。


「メリーベルの用事って買い物だったんだな」


「! ハイヤ衛生兵、お前もコッチに来ていたのか……」


 一瞬気まずそうな表情をしたが、小さくため息をつくとメリーベルは「ああ」と頷いた。


「……私は剣をすぐに駄目にしてしまうからな、こうやって頻繁に新調しなきゃならん。お前も見ただろう?」


 マゾルフ領での戦いを思い出す。今も記憶に鮮やかな、炎剣で巨大なトカゲを切り伏せる副団長の姿だ。

 その後ボロボロになって折れてしまった剣も併せて思い出し、納得した。

 つまりあの勇姿は有料だ。しかも本人が身銭を切るタイプの。

 真新しかった三本の剣のうち、一振りは噛み砕かれ一振りは焼け切れちゃったからな……。

 あの時「高かったのに……」と嘆いていたのは、そのせいか。


「だいたい月に三本ほど補充しているのだが、今回は特に狩猟祭が近いからな。なるべく良い剣を用意していたのだが……残ったのは二本……いや、実質一本だったからな」


 俺も彼女も腰に下がったメリーベルの剣に視線を落とす。残った真新しい物と古い物の二種類があり、そして後者がメリーベルが『錆付き娘』と呼ばれる直接の原因になっている曰く付きの剣だ。

 俺はふと昨晩の事を思い出す。


 ・


 カロルなにがしと邂逅を終え、俺はメリーベルの借りている第二騎士団本部の三階にある部屋に居た。

 老朽化し使われなくなった旅籠を改修したというだけあって、彼女の部屋はどことなく品が良い。広くは無いが、一人暮らしするには充分なスペースがある。

 今朝本部で挨拶したときとは違う種類のドキドキに支配され、俺は部屋の隅に正座していた。

 質素な机に椅子に本棚と若い娘らしくない部屋だったが、リンゴのような薫りが漂っていて何とか落ち着かない。


(メリーベルはまだだろうか……いや、来ても落ち着かないだろうけど)


 彼女は部屋に戻るとシャワーを浴びるとか言って、扉の向こうに消えてしまった。宿が現役だった頃は大浴場も有ったらしいが、今では使われていない。必然、部屋に備え付けられたシャワーを使うしかないわけだ。


 でも、若い男を部屋で待たせているのにシャワー浴びにいくかね?

 メリーベルの貞操観念の未熟さというか無防備さは、俺も心配になってくる。

 キョロキョロと首のみを動かし視線の落ち着け場所を探していると、壁に立てかけられた細長い物が目に留まった。


「……メリーベルの剣か」


 彼女が複数本持っていた中で、結局一回も刀身を見せなかった古びた剣だ。先ほど第一の副団長に口汚く罵られた一振りでもある。

 カロルへのムカつきと好奇心に抗えず、メリーベルに悪いとは思いつつその剣を手に持った。想像よりズシリとした金属の重さだった。

 確かに古びた剣だったが、どこか妙な迫力がある。柄も鍔もシンプルで、柄頭に丸くて透明のガラス玉みたいのが埋め込まれてあるだけだった。拵えられた鞘も同様に質素な物だ。

 確かにカロルが家宝とか抜かしていた『ノートゥング』とは華やかさに置いて比較にもならない。

 けど俺は、この剣の方にこそ強く心惹かれる。

 あれが絢爛豪華と形容するなら、メリーベルの剣は質実剛健だ。斬るという本質以外の一切を削ぎ落とした究極の機能美……日本刀のような美を感じる。

『ノートゥング』とやらの煌びやかな装飾を作り上げた職人の技術は凄いと思うが、持ち主がそれを誇示し他の剣を馬鹿にするような態度は気に食わない。


「……別に、どこも錆びて無いけどな……」


「それが錆びているのは中身の方だ」


「ぅひょおっ!?」


 驚くから急に声をかけないでくれ! いったいいつの間に上がったんだ!?


「情けない声を出すな。衛生兵扱いとはいえ、お前も戦闘に参加することになるんだぞ」


 半分濡れた赤い髪をタオルで拭きながら、シンプルな白い部屋着を来たメリーベルが歩み寄ってくる。メンズパジャマのような長袖長パンツだ。

 しかし、髪を下ろした姿とその白シャツを内側から持ち上げる豊かな膨らみは俺の目をあっさり奪う。

 露出など皆無だというのに、それでもメリーベルのスタイルの良さは隠蔽不可だ。


「あ、か、勝手に触っちゃってすいません!」


「なに、『その剣に触るな!』と怒鳴り散らすような段階はとうに過ぎたさ。試しにちょっと抜いてみろ」


 え? いいの?

 言われるまま、俺は伝説の勇者になった気分で刀身を鞘から払おうとした。


「――あれ? むっ、ぬっ、んんっ!? うぎぎぎぎ……!」


 しかしどうしたのか、鞘と剣は一体化でもしているのかビクともしなかった。割りと本気で力を入れているのに一ミリも動かない。


「まあ、そういう訳でその剣は抜けたことが無いんだ。刀身が錆び付いているから抜けないんだろうと、皆は言ってるよ」


 確かに手入れされてない日本刀が鞘の中で錆びて抜けなくなったという話は聞いたことがある。だとしても俺の筋力で微動だにしないのは流石に異常だ。牛二十五頭分以上の馬力で引っ張っているのだから、単なる錆びとも思えない。


「それに――……」


 メリーベルは俺から剣を受けとると、握る手に力を込める。すると右手から火が生まれ柄を伝う。だが、その紅蓮が鍔より向こうに行く事は無かった。


「触れてみろ」


 そうメリーベルに言われ、俺は恐る恐る鞘の上から剣に触れてみる。ひんやりと冷たいままだった。


「それに、刃に火が通らない。どういう訳か魔力を通さない材質らしい。あるいは氷属性でも帯びているのか……いずれにせよ、これでは私と相性が悪すぎる」


 自棄を起こして鞘ごと焼き切ってやろうとした事もあったが、それでも駄目だったとメリーベルは続けた。

 火を沈め彼女は小さく笑う。気負いや哀惜でもなく、自嘲と諦観に薄く滲んだ微笑みだった。


「私が神官でありながら帝国から亡命してきた一族の末裔というのは、もう知っているな?」


「あ、ああ……」


「その時、帝国から持ち出せたファイエルグレイ家の家宝がこれだという。王国での生活が軌道に乗るまでに、持ってきた家財はほとんど売り払ったというが、この剣だけは手離さなかったらしい」


「……大事なものだったんだな」


 メリーベルは嗤う。


「さあどうかな。偶然かも知れんし、抜けない剣など誰も欲しがらないから売れなかっただけかも知れん。事実、亡命してから現代までこの剣を抜いた者は皆無だという」


 そもそも帝国に居たときですら、使えていたのかも怪しいとも言った。


「嘘か真か、帝国やそこにいる神を捨て逃亡したのだから、神が怒り剣を封印したのだとも言われている。ただ錆び付いているというだけよりはドラマのある話だ」


 神か……


「それに、王国屈指の騎士である父上ですら無理だったのだ。ならば私に抜ける道理は無い」


「そんな……それはさすがに気のせいだろ」


「しかし実際に私は父上に及ばず、剣は応えてくれない」


「…………」


「もしかしたら、父上や【剛牛】が居た第二騎士団の黄金時代ですら成し遂げられなかった狩猟祭の優勝を掴めば……なんて思っているのだが、きっと何も変わらんだろうな」


 そこまで話すと遂に無言になってしまった。メリーベルも何も言わないし、俺も何も言えない。

 こんな時、なんと声を掛ければ良いのかなんて俺にはわからない。悩む少女を導くような台詞がスラスラ出てくるほど、俺の脳も口も高性能じゃないのだ。

 秒針がやがて一周する頃、メリーベルは小さく息を吐いた。


「つまらん話を聴かせてすまなかったな……どれ、お前もシャワーを浴びてこい。そうしたら始めるぞ」


「つまらんなんてそんな……えっ? 何を?」


「決まっているだろう? 夜の勉強だ」


 よっよよよよよよよよよよ夜の勉強!?

 おいマジで!?  上司と部下のありがちなワンナイトスタディとか人気のシチュエーション過ぎるだろ!


「まずは狩猟祭のルールと衛生兵の主な仕事について教えてやる。時間がないから、しっかりついてこいよ?」


「ですよねー……」


 いやもう知ってた。こういう勘違いこそありがちなシチュエーションだよ。でも年下の美人上司とマンツーマンで勉強会とか役得と言ってもいい。

 一人で勉強するよりやる気が出る。能率が良いかどうかは別として。


「では私の隣に座れ。わからない事があれば何でも訊け」


 部屋の隅にあった丸机を引っ張りだし、椅子を二つ並べる。小さな机なので並んで座ると肩と肩が触れそうになる。

 まさか俺の忍耐力も同時に鍛えるつもりなのか? そうじゃないとすれば、無頓着にも程がある。

 騎士団のマニュアルを広げると、チラチラ視界に入るメリーベルのおっぱいが集中力を散漫にさせる。つーか、テキストの下の方が読めない。


(ちゃんと集中できるだろうか……)


 俺の騎士としての最初の一日はこうして幕を下ろした。


 ・


 その古い剣が実戦で使えない以上、メリーベルは代替品を用意して戦う他ない。


「技の威力に剣の方が耐えられないって、なんとも歯がゆいな……」


「私が未熟なだけだ。父上が私くらいの歳だってこれほどまでは無かったらしい。今まで折った剣の数だけ進歩しているか、自分でも不安だよ」


 実力に対しメリーベルの自己評価が低い。


「何度も買い換えるより、いっそ良い剣を買ってみるのはどうだ? ほら、アダマンタイトとかオリハルコンとか……」


 高ければ良いってものでもないが、安物買いの銭失いとか言うように上質な物の方が長持ちしてトータルで見ればコスパが良いという話もある。


「まず買う金が無い……」


 手にしているガマ財布がどことなくもの悲しい。ふにゃふにゃのやせっぽちで、憐れにも空腹らしい。


「一度奮発し、ミスリル含有率70%で更に自動修復の魔付加を施した物を買ったことがあったが……確かに三ヶ月はもった……価格は十倍以上したがな…………ふふふっ……!」


 しまった何か踏んでしまった。三ヶ月もというか、しかというか……。


「それに、オリハルコン製のは魔法耐性が強すぎて私には合うまい。アダマンタイト製なら耐えられるかもしれんが、とても手が出ないな……」


 数ある金属の中でも特に強靭とされる三種類の金属元素、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイトを挙げていくメリーベル。ファンタジー物の小説やゲームを嗜む人にとっては耳馴染みの深い金属だ。

 いずれも通常の鉄を上回る強度を誇るが、それぞれ特徴が異なる。


 魔法銀(ミスリル)の大きな特性は魔力を良く通すというものであり、メリーベルのように剣だけじゃなく魔法にも巧みな者に向いている。また『魔石』ほどでは無いが、魔力を保存しておく性質もあり三種類の金属の中では比較的安価でもあるので幅広い用途がある。

 そういえば、リリミカから貰った試作用ブラのワイヤーにもミスリルが使われていた。サイズ調整機能の魔術式が組まれていたのだろう。


 オリハルコンは逆に魔力をほとんど通さない金属であり、酸や錆などの腐食に非常に高い耐性を有している。そのため武器よりも防具などにより多く使われていたりするという。強度そのものはミスリルより上であり、加工には高い技術が要求される。


 アダマンタイトは自然界で最硬度を誇る金属であり、希少な鉱物でもあるからミスリルやオリハルコンより高価で取引されることが多い。性質としては鉄と酷似しており、腐食に対する耐性もそこまで差が無い。アダマンタイト製の装備品はあらゆる冒険者の憧れであり、鍛冶職人にとっても最高難易度の材質として名高い。


 純粋な強度と取引価格は、アダマンタイト>オリハルコン>ミスリル

 腐食耐性と安定性は、オリハルコン>ミスリル>アダマンタイト

 魔力伝導率は、ミスリル>アダマンタイト>オリハルコン――という具合だ。


 メリーベルに適した剣を探すとなると、アダマンタイト製かミスリル製あたりだろうか? いずれにせよ安くはあるまい。どの世界でも文明がある限り先立つものは必要らしい。つまり金の話だ。


「でもほら。メリーベルは副団長だし、その辺の融通とか利かないのか? 必要経費っていうのは無いの?」


 考えれてみれば、副団長が使う剣を自腹で用意する必要は無いんじゃないか? 装備の良し悪しが騎士団全体の戦力に繋がるなら、それは決して浪費では無い。

 俺がそう言うと、メリーベルは眉を寄せた。


「地位にモノを言わせて一人だけ特別扱いを受けろと? 第二騎士団の財政は未だ厳しいというのに、それは不公平だ」


「きっと誰も不公平なんて言わないって。それに、実力に見合った装備を整えるのも大事な仕事だろ」


「……むう……剣を折らない位にまで熟達したら考える」


 なんという頑固者だ。女の子が固くしていいのは乳首だけだって……あれ? 何処かで聞いたことがあるな。


「若ぇ娘が武器とにらめっこばかりしてよぉ、せっかくの別嬪だってのにそれこそ勿体ないじゃねぇか。剣は予算で落として、浮いた金では好きなことに使えば良いだろ」


 見かねたのか店主も遠回しに俺の援護をしてきた。


「わ、私は別嬪などではない。それに外見など騎士には関係ないだろ……」


 赤面し咳払いをしてそうのたまうメリーベルを見て、俺と店主は肩をすくめ合った。


「やれやれ……格好だっていつもの鎧姿じゃねえか。たまにはお洒落でもしたらどうだ? 兄ちゃんだってそう思うだろ?」


 そりゃあもう。

 リリミカなどに言わせれば、自分の魅力に気付かず磨く努力をしない女の子は世界最大クラスの怠け者だという。

 さすがにそれは言いすぎだろうけど、メリーベルを見ていると確かに勿体ないとは思う。


「……あまり、そういうのは自分で選んだことがない。服屋で試着するというのも正直気が引ける」


 都会に越してきたばかりの田舎娘かよ。


「リリミカやレスティアあたりに相談すればいいだろ。それとも俺が服とか選んでやろうか? こう見えて女物の服には少し詳しいんだ」


 よくミルシュやリリミカ、レスティアと服を買いに来るし。一回の買い物で彼女らに何時間も付き合えば詳しくもなるというもの。


「……詳しいとはまさか、下着のことではあるまいな?」


「言、いがかり……だ……」


「本当に言いがかりなら、もう少し大きな声で反論しろ」


 レッツ閑話休題。


「と、ともかくだ! 剣を何本も駄目にしてるからって気にするな! いいか? 剣が折れても、心が折れなきゃ負けじゃないんだ、ぜ?」


「くっさい事を言う兄ちゃんだな。お前さん、吟遊詩人だったのかい?」


 店主は黙らっしゃい。


「ま、その兄ちゃんの言うとおり普通の剣なんてのは消耗品に過ぎねえ。あまり一喜一憂してメリーベルちゃんの剣腕を曇らせる方が問題さ」


 そうそう、俺もそういうことが言いたかったんだよ。勝手に納得する男二人を置いて、メリーベルの表情は未だ優れない。


「……分かっている、分かってはいるんだ」


 そう呟くメリーベルの手は、腰の古い剣を掴んだまま動かなかった。



閲覧、ブックマーク、評価、感想、誤字報告など誠にありがとうございます!

やがて九月も終わり、早いものです

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