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異世界でB地区の神様になったけど、誰にも言えない  作者: フカヒレさん
第三章 騎士道とは乳を護ることと見つけたり
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マゾルフ領にて(下)

前話で、ヘビーリザードの歯と葉を間違えていました。ご指摘ありがとうございます!

植物系モンスターだったのかな(すっとぼけ)

 

 最初、彼はかなり楽観的に勝負がつくのを待っていた。

 ()()()()の腕だと噂される副団も我がヘビーリザードには敵わないだろうし、あの無礼な男も多勢に無勢だ。

 遠くない未来に、あの『錆付き娘』が泣きながら命乞いする姿が見れるだろう。それとも最期まで泰然としているだろうか。

 それはそれで愉しみ方がある。

 騎士として女として陵辱しつくされた時、そして最期に素っ裸で森に放ってやった時、娘はどんな反応を寄越すだろうか。先日裏切ろうとした男は一日と保たず獣達の胃袋に収まったらしいが、あの副団長は何日保つか見物だ。


 男爵のその予想図が修正されていくのには数分の時間も必要としなかった。


 名前を知る必要性を覚えなかった端役の男、そいつに襲い掛かった部下達が一斉に土を舐めたのだ。

 偶然だ。ヤツもそれなりの実力者らしいが警戒にはあたるまい。

 他の男達も最初はだらしない味方を笑いながら罵っていたが、彼らまでも叩きのめされるうちに余裕はなくなる。

 端役の雑魚から敵へ、そして決して勝ち得ない難敵へと認識が改まる頃には、ここに居る半数が戦闘不能に陥ってしまった。


「この役立たず共が! たった一人の男に何をしている!?」


 自身の焦りはそのまま苛立ちへと直結し、男達の高い位置から罵声を浴びせる。


(どうなっている!? 第二騎士団はチンピラ揃いの、役立たずの集団じゃないのか!?)


 ダミアン男爵は歯噛みしなが眼下で行われている戦闘、いや、今は一方的な蹂躙だ。蹂躙されている者達の雇い主の背中に冷たい脂汗が滲む。粘つく汗が額から頬に流れていくが、それを拭う余裕も無い。

 聞いていた話と違う。

 奴らは騎士と名乗っているだけの野良犬であり、錬度も強度も規模も何もかも第一騎士団に及ばないはずだ。少なくとも、誰もがそう言っていた。


(それがなんだこのザマは!? 違う違うこんなの有りえない、聞いていた話と違うだろ!)


 伝聞をそのまま鵜呑みにしていた男爵は、ある意味で噂の被害者だったと言えるだろう。

 第一騎士団や有力貴族達が流布していた過小評価の風説は、巡って自分たちの首を絞めたのだ。


 このままでは、今まで積み上げてきた男爵の成果が破壊されてしまう。

 原生林の中で偶然『タイド草』を発見した時から何年もの歳月かけ、ようやく此処まで来たのに。男爵という地位から脱し、上位の爵位を得て栄達できる準備が整い始めたというのに。

 私の苦労は、あの男の腕力にすら及ばないのか。嫌だ嫌だ嫌だ。そんな理不尽があってたまるか。


「一斉にかかれ! 全員だ! 全員で潰せ! ええい、何を寝ている!? 起きんか馬鹿者ォッ! くそ、くそぉぉ!」


 情けない護衛の人数が、そのまま自分の命数のようにも感じられる。叱咤を飛ばしても倒れ伏した男達はもうピクリとも動かない。

 強風に煽られる蝋燭のような頼りなさが心を細くしていく。


 どういう手段を用いたかは不明だが、あの黒髪の青年は原生林を突っ切って此処まで到達する能力を持っていると、誰かが気付くべきだった、いや思い出すべきだったのだ。

 つい先ほど目撃した光景より、自分達の認識を可愛がったのが彼らの敗着だった。


 ・


 殴る、蹴る、乳首!


「がはぁッ!?」


「ぐ、ごっ!?」


「あびゅぅん!」


 避ける、受ける、乳首!


「ちぃ、クソが!」


「く!? テメェっ!」


「ぬぎゃぁん!?」


 乳首、乳首、乳首!


「おぼぅんっ!?」


「ほひょひん!?」


「らびびぃん!?」


 バリエーションに富んだ喘ぎを何とか聞かないで済む方法があるなら、ご教授願いたい。女の子の乳首より男の乳首を触った数が間違いなく多いのは、果たしてどうなんだ。

 奪い溜まっていく経験値と体力値が、貯金通帳に増えていく数字のように感じられ、それなりに楽しいのがせめてもの救いだ。

 ふと視線の端に、男爵が慌ててふためきながら何事かをしようとしているのが映った。


「お前はそこを動くな!」


「ひぁぃぃっ!?」


 拾っていた石を投げた。先ほどの冗談で蹴った時とは違う、割りと強めの投擲はバルコニーの入り口を粉々に破壊する。

『乳頂的当』を使わず威嚇だけにするつもりだったが、危うくぶつけてしまう所だった。

 男爵は降り注ぐ石くずやガラスの破片から身を伏せ、うずくまっている。しばらくは大人しくいているだろう。

 俺は二つ目三つ目の石で、メリーベルの背後へ近づいていた男達を昏倒させる。

 その副団長の様子はどうか? 意識を彼女とその相手に向けた所で、渇いた金属音が響いた。


「……ちっ」


 続けてメリーベルの舌打ちが聞こえる。見れば彼女の剣が半ばから真っ二つに折れていた。

 刀身の行方はと言うと、ヘビーリザードの顎に咥えられている。オオトカゲはそれを更に噛み砕き、吐き捨てた。

 そのトカゲには皮膚に幾つもの切り傷があるが、まったく意に介していない。狼を一太刀で三匹同時に切り捨てるメリーベルの剣が通じていないのだ。


 一瞬後に奴は頭を右に振ると、遠心力により飛び出した長い尾が副団長に襲い掛かる。大人の胴体よりも遥かに太いというのに、先端部は目で追うのも困難なほど早い。

 体重も膂力もリーチも人間とはケタが違う。メリーベルは正面から受ける事はせず、折れた剣の柄を巧みに使い、強靭な肉の鞭を斜め上にいなして反動で間合い外に飛び退いた。

 三メートルほど後退したが外傷は無い。ただし、一撃を受けた剣は完全にスクラップになっていた。


「大丈夫か、メリーベル!?」


 俺の不安を帯びた声にメリーベルは答えず、新しい剣を引き抜いた。


「予想以上に硬くて早いな……従来の種より強化されているのか?」


 淡々と事実を確認するかのように呟く。


「ふ、ふは、はーッははははははははは! どうだ、私の改良したヘビーリザードの強さは!? 一介の騎士如きが相手になどなるもの――ひぃぃッ!?」


 優勢になった途端に元気になってんじゃねえよと、また石を投げてやった。そろそろバルコニー自体が壊れそうだ。

 俺も副団長の下へ行こうとしたが、メリーベルは左手を水平にし俺を制した。大丈夫だ、いうことだろうか。俺は残った男達の乳首を車のキーみたいに回しながら彼女を見やる。


「ああ、まったく困ったな……この間買ったばかりだったというのに」


 不安そうというよりは不服そうな呟きを漏らし、メリーベルは二本目の剣を握りなおす。左手が柄に戻るとき、腰に下がった最も古い剣を撫でたように見えたのは気のせいだろうか。


 自分より相手が弱いと巨大な爬虫類は判断したのか、涎にまみれた大口を開け彼女を飲み込まんと突進してくる。

 メリーベルはそこから一歩も動かない。ただ剣を左の腰溜め下段に構え、息を整えていた。細く長い呼気ともに彼女の気配が研ぎ澄まされていく。息を吐ききる寸前、メリーベルは地面を蹴った。

 しかし贔屓目に見たってヘビーリザードの攻撃体勢が早い。2トントラックを上回るであろう巨躯が彼女へ覆いかぶさっていく。振り下ろされる爪が鎧と剣ごと彼女の命を引き裂こうとする。

 悪寒と共に、血にまみれた惨劇が脳裏に浮かんだ。


「『上級火系活用法ハイ・フレイムワークス――」


 その不吉な幻視を裂いたのは真っ赤な軌跡だった。

 空間に赤マジックで線を引いたかのように、斜めに走る剣筋はヘビーリザードの走路と交差した。数秒後には一人と一匹の立ち位置は攻撃の前後で入れ替わっている。


「――ひとひらの赤(レッド・リーニエ)』」


 その時、空から何か降ってくるのもがありメリーベルと大トカゲの間に落下する。

 それはヘビーリザードの前足だった。彼女を裂こうとしていた爪は、逆に前足諸とも切断されてしまったのだ。

 切り取られた脚もリザードの脚があった場所も切断面が焼き固まり、出血は少ない。肉の焦げる匂いと白い煙がかすかに漂う。


「剣が、燃えてる!?」


 振りぬいたメリーベルの剣が赤熱に染まり、その刀身から紅蓮が煌々と立ち昇っている。

 柄から切っ先まで火に包まれ、その熱でメリーベルの赤髪をはためかせている。オレンジ色に頬が照らされ、彼女の紅瞳は濡れているかのように美しい。


「そっ、なんだと――――!?」


 男爵の悲鳴で、俺はしばし見蕩れていたことに気付いた。メリーベルは振り返りヘビーリザードへ向かって走り出す。男爵の制止を訴える叫びが聞こえたが、彼女には届かないらしい。


『しゃあぁぁああぁぁ――ぁぁああ!』


 ペットは飼い主よりも勇敢だった。足を一本失ったというのに戦意はまるで損なわれていない。

 空気が擦れる様な絶叫を迸らせると、リザードは大きな尻尾をしならせメリーベルを横凪に払おうとする。


「――ぬぅん!」


 それを彼女は前傾姿勢で回避し、頭上を通過しようとした尾を下からの斬撃で半ばから焼き切った。

 追撃は終わらない。メリーベルは先を失った尻尾の根元から飛び乗り、その背を頭に向けて駆け上がっていく。彼女の走った後を剣の火が線形に彩る。


「はぁぁぁ――ッ!」


 最後の一歩は跳躍だった。

 メリーベルは剣を逆手で持ち、左手を柄頭に添える。そしてその切っ先を真下に向け、リザードの頭蓋へ突きたてた。炎剣の威力と重力を協力させた一撃は、易々とヘビーリザードの肌を抉っていく。


『ぎじゃぁあああああああああああああああああああああ!!』


 頭蓋と上顎と下顎と地面を、鉄の硬さを持つ火が縫い通した。まさに絶命の串打ちだ。

 焼けた鉄板に水をぶちまけたかのような音が、リザードの絶叫と合唱する。

 舌も焼けてしまったのか、大トカゲの断末魔は酷くくぐもって聞こえた。

 最初はじたばたと手足を動かし頭上のメリーベルを振り払おうとしていたが、ものの一分も経たず完全に力尽き、大地の一部となってしまう。

 その瞬間まで、副団長は剣から力を緩めなかった。返り血が彼女の白い頬を濡らしてもまばたきすらしない。


「ふぅ……」


 やがて完全に沈黙した事を確認し、メリーベルはずぶと爬虫類の死体から剣を引き抜く。そして息を呑んで見守っていた俺と、まだ立っている護衛の方を向いた。


「ひぃぃぃ……ッ!」


 如実な反応を寄越したのは俺以外の男達だった。火のような目とベッタリと鮮血に濡れた顔は、彼らにとって死神にでも見えたのだろう。


「だ、ダメだ! 強すぎる! あんなんに勝てるわけねえだろ!」


「ワリに合わねえよこんなの! 俺ぁ逃げるぞ!?」


「だ、だれかぁ、助けてくれぇぇーッ!」


 わっ、と蜘蛛の子を散らすようにメリーベルを中心に彼らは逃げ出した。

 だが、そうは問屋が卸さんのさ。


「バカめ! 俺から(乳)首を守れると思っているのか!?」


「はあん!?」


「ひいん!?」


「ふうん!?」


「いやおま、明らかに首じゃなへえん!?」


 鬼ごっこでタッチする代わりに乳首を掠めていく。男達はいつもどおり気色の悪い喘ぎを残し、地面に倒れてし例外なく気絶してしまった。これ、縛らなくても良いから楽だよね。


「おのれぇ……! 捕まってたまるか!」


 男爵は懐に手を入れ、何かを紙切れを取り出す。


「『転移符』!? 野郎、させるか!」


 例によって拾った石を投げようとして、その手が止まった。

 様子がおかしい。彼は握り締めた『転移符』を必死に振り回している。


「なぜだ!? 何故発動しない――!?」


 どうやら『転移符』機能しないらしい。不良品でも掴まされたのか?

 物言わぬ脱出装置を恨めしそうに非難していると、その後ろから人影が近づいてきた。


「残念ながら、屋敷に転移阻害の術式を張らせてもらったっすよ」


「もうお前は何処にも飛べやしねえってことでさあ。きっぱり諦めろよ?」


「きさ――ガはッ!?」


 男爵の後ろに金髪の良く似た顔立ちの男が立っていた。ゴロシュとドラワットだ。うろたえるマゾルフを抵抗の間もなく地面に抑え込んでしまった。


「二人とも何時の間に!?」


 全然気付かなかった。あの兄弟、めちゃくちゃ脚早くない?


「新入りが通った後を走ってくりゃあ余裕よヨユー」


「ついでに言うなら、新入りと副団長の立ち回りが良い陽動になったってことだな」


 俺の驚きを二人はニヤリと笑って疑問に答えた。


「くそ、くそくそくそくそぉぉぉッ! 卑怯だぞ貴様ら! 嘘の噂を流して油断させてからだまし討ちなど! それが騎士のすることかぁー!?」


「卑怯ってのは言い訳だって、アンタ言ってたじゃないか……」


 そもそもどんな噂かも知らないんだけど。

 もう完全に逃げ場の無い事を悟ってか、男爵は真っ赤にして喚き散らす。最後まで暑苦しいやつだ。


「そうだ、メリーベル凄かったな! あの燃える剣! 格好良か……お?」


 そのタイミングで彼女の持っている剣がポキリと折れてしまった。

 良く見れば、新品同様だった剣は煤だらけで、あちこちズタボロになっていた。刃毀れも酷く残念だが二度と使い物にならないだろう。

 炭のようになってしまった剣と、リザードに噛み折られた剣を見つめている彼女の瞳は哀惜を帯び、まるで日没のようだった。


「高かったのに……」


 メリーベルはしょんぼりと呟いた。


 ・


 男爵を縄でぐるぐるにし、俺達は『タイド草』の農園へ足を踏み入れた。森を抜けた先に開けた場所があり、土もならされ日光も充分に届いている。端の方には水車の着いた小さな小屋まで建っている。


 そこにはみかんのような木がずらりと並んでいた。それぞれに小さな緑色の松ぼっくりみたいな実(正確にはレタスのように葉が折り重なっている)が成っている。これが『タイド草』の薬効部位らしい。


 結局ダミアン何某は口を割らなかったので、例によって『奪司分乳』で記憶を読み取り、農園まで仲良くピクニックしたのだ。

 しかも帳簿や取引の記録は、農園の一番大きな木の下に埋められていた。先ほどのコイツの自信は別邸にも証拠となりうる物がなかったことに起因するらしい。意外に用心深いやつだ。


 その男爵は、ここに来ても『これは自然に群生したのだ!』とか『領民が勝手に栽培していた! まったくけしからん、だが私は無罪だ!』とか聞き苦しい言い訳ばかり喚いていたが、全ての証拠が掘り起こされる趣向を変えてきた。突然、地面に伏せ哀願の表情を作ったのだ。


「頼む! どうか寛大な処置を! 私には病に伏す姉がおるんだ……! 治療のために多額の費用が必要で、仕方なく『タイド草』の栽培をするハメになったんだ! 私だって好きでこんなことするものか!」


 涙に鼻水に涎に、おおよそ顔から分泌できる体液の全てを噴出し懇願してきた。それを俺達四人は冷ややかな目で睨む。


「マゾルフ卿、貴方にそんな人が――「『シスぱらだいすき!』のカナリアちゃんを姉って言うのは、年齢的に無理があるんじゃないか?」――えっ」


「うぐっ……!?」


 虚言で防御する暇を与えず図星を付くと、嘘泣き止まり脂汗が噴き出てきた。

 時には妹、時には姉とあまねく男達の幅広い需要に応える。何者だよカナリアちゃん。

 あまりに見え見えの作り話に、副団長も双子騎士も怒りで顔を真っ赤にしている。実際に声に出して一喝したのは電撃兄弟だ。


「よくもカナリアちゃんに汚い金を寄越しやがったなァ!? しかも姉だと!? ふざけんなよカスぅ!」


「カナリアちゃんは妹だろ!? そんな解釈違いは許さねえからなボケが!」


「なんだとこのチンピラ共が! カナねぇの姉ヂカラを知らんのか!? これだから学のない連中は!」


「三人ともちょっと黙ってて!」


 世にも見苦しい兄弟喧嘩が始まってしまった。


「オホンッ! 二人ともいい加減にせんか!」


 雷兄弟は副団長の雷を受け、身を縮ませてしまう。


「マゾルフ男爵、貴殿を改めて拘束させてもらう。先に言っておくが、この度の件は最終的に王宮騎士団が執り行うことになるだろう。下手な言い訳は立場を悪くするだけと心得られよ」


「――……」


 まだ顔の赤いメリーベルは、それでも毅然と言い放つ。

 強制力を持つ言葉を受け、ダミアン男爵は膝を付き深くうな垂れてしまった。彼は腹とは逆に薄くなってしまった頭を抱え、もう終しまいだと呟いている。

 若干気の毒な気もするが、結局は自業自得だ。

 これで一先ずは区切りか、と小さく息をつくと緊張感に満ちていた雰囲気が薄らいでいく。自覚していなかった疲れと空腹が今になって表に現れてきた。


「あっれ? もう終わっちゃったのかい?」


 その緊張感の衰退を加速させる声が聞こえて来た。


「ジョエルさん、こっちに来たんすか?」


 顔を見る前から誰がやって来たか皆は分かったらしい。

 ゴロシュの声を受け、ジョエルはヒラヒラと手を降りながら歩み寄ってくる。


「男爵がこっちに逃げたんじゃないかと思ってね、急いで駆けつけたわけさ。あっちではアザン達が屋敷も調査しているよ」


 ということは、売人組織制圧と男爵本邸の調査は一段落したということか。にしても……。


「それにしても、随分と早かったっすね? 俺らだってかなり早く片付けたのに」


 俺も思った事をドラワットが口にする。ジョエルはニヤリとイヤらしい笑みを浮かべた。


「奴等がもってた『転移符』を使ったんだよ。馬を用意する手間も省けたし、お陰で森のモンスターとやりあわなくて済んだし、良いことずくめさ」


「ジョエルさん! 証拠品になる『転移符』を使ったんですか!?」


「どうどう、怒らないでよメリーベルちゃん。代わる代わる使い回したから、どれも使いきってはいないし、それにメリーベルちゃん達が持ってヤツが一つありゃあ証拠には充分でしょ?」


 詰め寄った副団長を仰け反りながら宥めるジョエルさん。なんともズルい論法だが、この農園と取引記録などの決定的な証拠が見つかれば『中級転移符』などは補足的な証拠品として幾分かは優先度が落ちる。

 それに指摘された通り、俺達は『転移符』を使わずコンパス代わりとして利用していたのだから、これが残っていれば充分とも言える。

 反論の糸口を掴めず、メリーベルは形の良い唇をモニュモニュ動かすばかりらしい。

 やがて深いため息をつくと、俺達へ笑いかけた。


「戻ろう。騎士団本部への報告は私がやっておく。皆、よくやってくれた」


 労いの言葉を聞くと、仕事が終わったことを自覚できた。ふと息を吐き、心地の良い疲れを楽しんだ。

 もうやがて夕方だ。ほとんど食いそびれた昼飯の分まで晩飯を腹にぶち込まねば。


「おいおい、まだ終わりじゃねぇぞ新入りぃ」


「え、わっ!?」


「まだ大事な事が残ってンだよ」


 双子騎士から両肩を組まれ、目を白黒させる。まだ何かあんの!? もう正直疲れたよ……。


「違う違う、仕事じゃないって。そんな露骨にイヤな顔せんでも」


 俺の顔色を見て、胡散臭い笑みを絶やさないままジョエルさんが補足してくる。


「仕事じゃないなら……何が残ってるんすか?」


「決まってんでしょ? 新入り(キミ)の歓迎会さ」



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新しい枕がフカフカすぎて首を痛めました。

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