番外編 頼んでもいい?
「ねえ、颯太。頼んでいい?」
「ん、どうしたんだ? 桜子」
「せっかくなかなか取れないチケットとれたのに無くしちゃってさ……」
「……失せ物探しかな?」
「昨日買ってからきたから、ここのどこかにあるはず!」
「その買ったところで忘れた可能性は?」
「……正直なところ自信はないね」
桜子が顎に手を当てる。
颯太はため息をつきながら
「探偵同好会は失せ物探しのためにあるんじゃないんだけど、まずポケットは?」
「さすがに探してる」
「だろうね」
まるで、想定内の返答かのように次に
「んじゃあ、財布の中は?」
「え?」
こちらは想定外のことを聞かれ、動揺する。
「チケットは小さいもんだ。無意識にどこかに入れておかないとと思うものだ。なら、チケットを買ったときに片手に持ってるはずである財布が怪しい」
「……わかった」
そう言って、桜子が肩にぶら下げてた鞄から財布を取りだし、中をあさる。
そして、目に輝きが戻る。
「あった!」
「よかったよかった」
颯太も心から喜んでいるように思えた。
「ありがとね!」
「いいよ別に」
桜子が遠くへ行ったあと、颯太はため息をつく。
「どうした? ため息なんかついて」
「ん、達也か。なんだ?」
「あれか、身内切り初日退場したからか?」
達也がからかうように言う。
「そんなんじゃね~よ」
颯太も笑いながら応答する。
「ちょっと頼んでいいか?」
達也が少し真面目な顔つきに変わる。
「なんだ?」
それに伴い颯太も真面目な顔つきになる。
「これが落ちてたんだが、誰のかわからなくてな。一緒に探してくれないか?」
颯太の真面目な顔つきが解れる。
「逆失せ物探しかな?」
「はは、そんな感じだ」
「ちょっと見せてくれ」
それは、赤い手袋片だった。左手ようで花柄刺繍で、S.Uとも刺繍も施されている。
「S.U? 植島 秀也じゃねえのか?」
「聞いたが違うって」
「他は……いねえよな?」
「いないんだよな……」
2人はしばらく考え込む。
「……1人ずつ聞けばいいか?」
「少なくとも、俺の部屋の奴でもない。部屋のやつは遵に哲に桜子に香織だ」
「まあ、とりあえずは女だろうな」
「……花柄だしな」
「あと、左利きの可能性が高いか」
「……は?」
達也が驚きのあまり目を見開く。
「左の手袋が落ちてるんだろ?」
「……そうっぽいな」
達也がその手袋をはめてみる。
「しかも小さいな」
そう達也が言いながら、はめてた手袋を取り外す。
「んで、なんで左利き?」
「まず、片手の手袋を落としたというのがな……」
「まあ、落とすなら両手はだな」
「偶然、左だけ落ちた可能性は否めないけど、普通、左だけ手袋を外すことがあるのは左利きに多いよ」
「スマホ触るときとかか」
「誰か左利きの女はいないのか?」
「…………」
達也が目を閉じ、顎に手を当てて
「麻衣だな」
「お、いるのか」
「ああ、左利きだったはずだ」
「よし、行こう」
麻衣の部屋は、達也たちの部屋の下のはず……だったが。
「今はいないですね、多分、トイレだと思いますよ?」
「そうか、ありがと」
部屋では星彩しかいなくて、麻衣は部屋には不在だった。
仕方なく、星彩の言う通りトイレへ向かった。
ただ……。
「……どこのトイレか聞くべきだったか?」
颯太が麻衣たちの部屋の近くのトイレに行って、顔を達也に向ける。
「いや、聞いてもわからないだろ……」
「それもそうだな」
「ます入れないし」
2人がそう言って、笑いあってるうちに。
「女子トイレの前でなにしてるの?」
「うわ、びっくりした! なんだ愛実か」
「え~、なんでそんなにビビる訳?」
「突然、後ろから声かけられたから?」
「ほんとにそれだけ~? 覗きとかじゃないの~?」
「あのな、覗きがなんでトイレの前でぺちゃくちゃ喋ってんだよ」
「まあ、それもそうだけど」
と、愛実と颯太が言い争っていると、颯太がいきなり閃いた素振りを見せる。
「なあ、愛実って左利きだよな?」
「え、うん」
「この手袋、違うか?」
「ん~、違うよ。まず手袋持ってきてないし~」
「そっか……」
「イニシャルあるじゃん! 植島 秀也じゃないの?」
「違うんだってよ」
達也がただ黙って聞いていると、これまた突然。
「麻衣を見てないか?」
「え、見たよ! 外で!」
「外?!」
2人は予想外の答えに困惑する。
「こんな夜遅くに?」
「うん。敦と一緒に」
「……へぇ~」
達也がほくそ笑む。
「どうした?」
颯太が体を少し、達也に離しながら言う。
「なぜ離れる?」
「いや、横でいきなり笑われたら不気味だろ?」
「ああ、悪い。でもあの2人良い感じなんだよな~」
「え! 本当に! いいな~」
「お前には一生できないものだな」
「うっさい!」
「ほらな」
「なにが!」
「お前らもお似合いだな」
この達也の言葉に、颯太は黙りこみ、愛実は顔をプイッとする。
外は銀世界だ。稀に来る大きな寒波が今、ヒュブリ一帯を襲っている。
「公園で見たんだよ!」
愛実がドシンドシンと積もった雪を踏み歩く。
「……なんであんなに怒ってるんだ?」
「さあな」
颯太は達也の問いに雪の結晶のごとく冷たく返す。
公園も銀世界の一端で、あちらこちらが真っ白だ。
その白い公園のベンチに、あの2人が座っていた。愛実は木陰からこっそり歩み寄る。
それに連なり、男子2人も続く。
「んで、なんだよそのアザは」
「アザなんかないから」
麻衣と敦は激しくもなく、されど大人しくもなく言い争っていた。
「こりゃあ、痴話喧嘩か~?」
「その類いじゃないだろ……」
「なんだ~恋バナじゃないのか~」
野次馬3人は、少しがっかりしながらも、2人の背後で目を光らせる。
「嘘つけ、腕にアザがあるのを俺は見たぞ」
「これは……机にぶつけたの!」
「……見たんだよ」
「机にぶつけたのを?」
「それは見てないが、お前が1組の奴にいじめられてるのを」
「…………」
「その時のアザだろ?」
「…………うんそうだよ。誤魔化せそうにないね」
「……ったく、1人で抱え込むなよ。他の人……俺でもいいから相談してくれよ!」
「……わかった」
「んで、なんでいじめられてるわけ?」
「……人見知りだからかな」
「はあ?」
「私、友達を作ろうとしてなかったから。舐められてるんだろうね」
「俺がやり返そうか?」
「いいよ、もとは私がコミュニケーション取らないのが悪いんだし」
「なんでだよ! そんなの人それぞれだ。コミュニケーション取らないだけで苦しい思いするなんて不条理だ!」
「…………」
「…………」
2人の間に沈黙が流れ始めたとき。
「相手の弱味を握ればいいんだよ。俺、そういうの得意だからよ」
「颯太さん!」
「びっくりした!」
あまりにも突然の出来事に2人は腰を抜かす。
「……で、相手の弱味を握るということは、やり返すってことですか?」
麻衣がすぐ切り返す。
「脅すの方が正しいな」
颯太も返答する。
「嫌です」
麻衣は颯太の目を見て、しっかりはっきり言った。
「……なんでだ?」
「私はある意味、いじめてくる人を敵と認識してます。悪とも言えました。そんなのに私はなりたくない」
「……へぇ~」
颯太が感心したかのように頷く。
「お言葉は感謝いたします」
「いいよ、別に。んじゃあ時間かけて考えるか。これは俺がパッと思い付いただけのアイディアだからよ」
そのとき、敦はベンチの後ろの木陰に目をやる。
「愛実さんに達也さんも?!」
敦がまた腰を抜かす。
「あ、バレた」
「バレちゃったね~」
「趣味が悪いですね」
「麻衣ちゃん、それは心が痛いわ」
達也の言葉に、5人は笑いあった。冷たい外の空気に劣らない暖かい雰囲気となった。
「とりあえず、いじめられたら先生に言うとか、俺らにも相談するとかな」
達也が場を収拾するかのように言う。
「はい、ありがとうございます」
「あ! 麻衣!」
そして、重大な目的を達也は思い出した。
「なんでしょう?」
「この手袋違うか?」
達也が麻衣に例の赤い手袋を見せる。
すると、麻衣は達也に青い手袋をつけた両手を見せた。
「あれ?」
「私の手袋じゃありません」
達也が泡を食う。
颯太も考えこむ。
「S.Uとありますね。秀也のとは違うのですか?」
「違うらしいよ」
颯太が答える。
「女子のものですね。他あたってみてはどうですか?」
「そうしようか」
「俺たちも手伝いますよ」
敦が鼻をならす。
「んじゃあ、宿へ戻るぞ」
達也たち3人は宿へ歩き出した。
敦も歩き出したとき。
「ねえ、敦。人狼同好会って根暗だと思う?」
麻衣が下を見つめて聞く。
敦は呆れながら、
「んなこと、おもうわけないだろ?」
「だよね!」
麻衣が今までにないほど、元気な声で言った。
「美桜のでもないか……」
「うん、私の手袋は赤いけど、違いますね」
美桜のでもなかった。
残りは……
「あとは、莉穂と楓香だけだな」
「ああ」
莉穂と楓香だけだった。
5人は楓香と莉穂のいる部屋に行った。
「私の手袋じゃないな~」
「楓香のでもないか……。莉穂は?」
「いないよ?」
「いない?」
「うん、今多分宿の仕事でもしてるんじゃないかな?」
達也が肩を落とす。
「行こうか」
颯太が促す。
「ああ」
達也が厨房に向かって歩き出す。
あとの4人も後をつく。
莉穂は厨房で皿洗いをしていた。
僕はそれを手伝っていた。
「ありがとね、手伝ってくれて」
「いいよ、全然」
「ねえ、遵。手袋知らない?」
「え?」
「左手だけなくしたんだよね。友達から貰って、大切に使ってたのに……」
「どんなの?」
「クラスにさ、梅川 茜香っているじゃん? その子とショッピングしたときに買ったんだけど、買った手袋を交換しあったの。だから、S.Uのイニシャルつきで、赤い花柄の手袋」
「……見てないよ?」
「そっか……」
梅川 茜香。莉穂と高校1年からの付き合いで、結構深い関係だ。文化祭の取り決めでも2ー2の書記をしていたよ。
「皿洗い終わったら、一緒に探してよ!」
「いいよ、大切なものっぽいし」
「ありがとね」
「うん」
すると、今まで手際よく動いていた莉穂の手が止まる。
「ねえ、私たちって。ただの幼馴染み。なのかな?」
「え?」
僕も唐突なことに手を止めてしまう。
そこに。
「お、いたいた」
達也たちが手を振りながらこちらにやって来た。
「莉穂、この手袋は違うか?」
「あ、それそれ! 探してたの!」
「よかったぜ。俺らも大変だったぜ」
「皿洗いですか、私たちも手伝います」
麻衣が袖を捲り、シンクの前に立つ。
「お~れも!」
達也も皿をもつ。
「どうした、遵。手が止まってるぜ?」
僕は完全に上の空だった。
「ちょっと部屋に戻ってしないといけないことを思い出した。誰か、僕の代わりに皿洗い、頼んでいい?」
僕はその場をあとにした。
いや、逃げ出してしまった……。




