おいでませ『道楽不夜城』へ! 〜義肢の少女の日常生活〜
……私が変な異世界に来てから早五年。もう慣れたと言っても過言ではない。
しかし、またもピンチです。
愛機のバイク『たまこ』ーー卵型でメタリックな、浮遊する近未来的乗り物なのにこのネーミングセンスであるーーで空中を駆けつつ、バックミラーで背後を確認する。
「ごらぁぁぁ!待てや運送屋ぁぁぁ!」
「嫌でーす」
半人半馬のケンタウロスに追いかけ回されかけてます。
萌えTを着る彼は確かニートですが、動けるニートのよう。
街中で物干し竿(別に日本刀ではない)をやたらめったに振り回す様子は、まさに狂気。
「……もっと高度を出せれば振り切れるんだけどなぁ」
ベランダから顔を出していたオジサンに物干し竿がヒットしたが、ニートのケンタウロスが止まる気配はない。
まったく、定期的に暴れなきゃいけない規則でも在るんですかこの世界。
「許さん、許さんぞぉぉぉ!」
「もぉ、しつこい、なぁ!」
華麗なドライビングテクニックで建物の細い合間を通ったり、人波を縫うように走るも、ケンタウロスは暴れながら付いてくる。
包丁やら標識やらカボチャやらがビュンビュン飛んできて若干怖い。あ、脚にちょっと当たった、でも頭と胴体以外ならセーフ。
脚と腕なら機械だからね。壊れてもきっと博士が直してくれる。壊れたことないけど。
「良いかッ、俺が頼んだのはアイスキャンディじゃねぇ、ソフトクリームだッ!一文字も掠ってねぇぞッ!」
「えぇっ、嘘? ……ホントだ、凄い」
「感動してんじゃねぇぇぇ!」
それで届けてから数秒後に追い掛けてきた訳ね。
私も事情を聞かずに逃げてたんですけど。
恐らく、ソフトクリームをアイスクリームと聞き間違えてアイスクリームを更にアイスキャンディと間違えたんだろうなぁ。あのおじいちゃん。
「というか、発注したのは私じゃなくて氷菓屋のご主人でしょー?」
「うるさぁーい!老人をいたぶる趣味は俺には無ぁーい!」
「少女をいたぶる趣味はあるんですか……っとぉ!」
あっぶなっ、こんな所に空飛ぶマンボウを浮かせたの誰です!?
当たったら『たまこ』が壊れるでしょうが! こんな時に限って空路を妨げるなぁ!
するとその犯人と思しきショタ妖精どもが、ビルの外壁から突き出たような露店から身をひょこひょこと乗り出してくる。
「おおっ?アウラちゃんが追い掛けられとる!」
「ホンマや。やれやれー!」
「やったれー!」
「声援ありがと今度シバく!」
「やれやれー」じゃないよ。少しはいじらしい私を助けようとしなさい。これだから《一区》の連中は……。
とか文句をブツブツ垂れ流していた私の背後に、高く跳躍したケンタウロスが迫っていた。
「追い付いたぞぉぉぉ!」
彼の手には『パないマッサージ承ります!』と大きく書かれた鉄製の看板。それ何処から剥ぎとってきた。
「喰らえ、運送屋! 今までありがとう!」
「御礼ごと断る!……もぉ、死なないでね!」
仕方ない、バカには武力行使だ。
本来私は暴力なんて好まない平和主義のお嬢様なんだから。
……龍脈回路を起動。電子戦陣を定着。偽魂の狭間に干渉。
それらを確認し、赤銅色の左義腕をケンタウロスに向けて突き出す。
『ゴム弾』と意識。
腕の中で魔法陣が幾つか連動して発動。電力でやや熱を帯びる。
ガシャガシャと複雑に変形……とまではいかず、手の平が縦にパカリと開くのみ。
ちなみにここまでで一秒も掛からない。
……狙いは顎。脳を揺らして、一撃で気絶させる。
「ゴム弾、発射ぁ!」
オレンジ色のゴム弾がジャイロボールの様に回転しながら射出された。
ズグンッ、という肉を打つ鈍い着弾音が響く。
ケンタウロスは「ぐべぇ」と情けない声を出し、地面に墜落していった。
あっちゃ……顎どころか鼻っ面に当たった。痛そう。ゴメン。
すっごい首が曲がって地面にめり込んでるけど死んでないよね。うん、だいじょうぶきっと。
『たまこ』に跨ったまま、ゆっくりと着陸する。
子どもに木の棒でつつかれるケンタウロス。そんな奴でもお客様、礼儀は忘れない。
「えーと、『アウラ運送』をご利用いただきありがとうございましたー」
と言いながら《一区》の警察に連絡し、後処理を頼む。私くらいじゃないかな、きちんと通報するの。
すると、埋まったままのケンタウロスが震える手を持ち上げて、中指を立ててきた。
うん、生きてた。ばーか。
仕事のリストの紙をペラペラと捲って見ると、この人で配達は終わりだったみたいです。
「さーて、仕事お終いっと。帰りますか。『たまこ』発進ー」
ブオン、と低い駆動音を鳴らして『たまこ』はふわりと浮かんだ。
ポーチからデバイスを取り出して、マップを開き、現在地を見る。
「この場所、《六区》と逆方向じゃん……帰り道をドライブと思えば、まぁいっか」
「おおっ? アウラちゃん勝利しとるやんけ。めでてぇ!」
「やんややんやー!賭けは俺の勝ちやな!」
「たまには負けーやアウラちゃん! あほ!」
「……ゴム弾発射ぁ!」
「「「ぎゃあッ!」」」
よし、シバいた。
妖精だし簡単に死にやしない。ショタでも許さん。
「あっと、そういえば晩御飯食べて来なきゃダメだった。どうしよっかなー」
続けてデバイスを操作して食事処を検索してみる。
……1257件ヒットか。意外と少ないなぁ。この前のエイリアンもどきの大襲撃で減ったのかな?
「んー、久しぶりに《四区》の和食でも食べよ」
食事処の検索から、さらに《四区》の伝統料理を扱っているお店に絞って検索。
おっ、近くにあるじゃーん。
早速『たまこ』を飛ばしてそのお店へと向かった。
たびたび顔見知りと遭遇して声を交わしながら目的地の店へと向かう。
到着。人工の竹林の中にあった。
五重の塔みたいな店構え。『たまこ』を店先に停めて、暖簾をくぐる。
「いらっしゃいませー。何名様ですか?」
「一人です。バイク外に停めたけど大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよー。こちらの席へどうぞー」
出されたお冷を一口。
メニューを見て決めるのも面倒だったので、店員さんにオススメを頼む。
客を何気なく見てみると、人外率は少ない。比較的にまともな見かけの人ばかりだ。
騒いでガツガツ食う系のお店は大体《三区》の料理だしね。
……と思ってたら隣が例のエイリアンもどきだった。もう馴染んでるなー。
「お待たせしましたー。期間限定『瓢箪茄子の天麩羅定食』でーす」
「うっわぁー!美味しそう!」
「ふふ、ごゆっくりどうぞ」
そうそう、ゆっくりね。
満腹中枢が反応するようにのんびりと咀嚼する。滲み出る茄子のエキスが天つゆと混ざって、たまらなーい。
デバイスでニュースとかをつらーっと見ても大したことはないようだ。
「あ、虎丸屋の当主さん亡くなったんだ……もうそんな季節かぁ」
この人50回くらい死んでるよね。もはや死とは。
あはは、今回はどんな演出で蘇るか当てようってスレッドとか建ってる。
そうこうしていると、籠の中の天麩羅は消えていた。
ぐぬぅ……足りないけど私は女子、我慢我慢。
残った米を味噌汁で掻き込み、お金を置いて席を立つ。
「ご馳走さまでーす」
雑然としながらも賑やかな《一区》の上空を飛びながら、なんとなく昔のことを思い出していた。さっき早五年~とか思ったからだろうか。
私が《一区》ではなくて《六区》に転生(というか召喚? それとも転移? )したのは不幸中の幸いだったろう。
眼下で、陽気な音楽が爆音流れながらアパートが爆破されているのを見てると、心底思う。
何はともあれ、保護者であり命の恩人の博士に拾われたのが最も重要なのだが。
地球にて病死したのであろう私はどういう訳か、四肢の無い少女となって『道楽不夜城』に居た。
博士曰く「いつの間にかに居たようにも見えたし、産まれるのが必然だったようにも思えた。兎に角、君は唐突に現れていた」とのこと。
私はそれを博士のハイカラ(笑)な実験によってこの世界に来たのだと睨んだのだが、彼は否定した。
博士曰く「君は君の意思でここに現れたのだろう。『道楽不夜城』はそういう世界だしね。もし違うとすれば、どうせ《二区》の仕業だ」とのこと。
うん、それは否定できない。
旅気分の速度だと帰りが遅くなりそうだったので、途中で『たまこ』のスピードを限界まで上げ関門へと向かった。
仕事を終えてから数時間後。
ようやく私は《一区》内の《六区》側の関門のエリアに到着した。
区と区を分ける境界にある巨大関門は、地に設置されているものと、空に設置されているものの二つがある。いつも通り私は空の方へ。
関門内は小綺麗で広々としていて、今や微妙にしか憶えていない日本の国際空港みたいな雰囲気である。
通過門のところで、身長約3メートルの鬼である門番のオバさんに笑顔で話し掛けられる。
「おンや、アウラちゃンじゃない。こんな時間までお仕事だったのン?」
「仕事自体はだいぶ前に終わってますけど、ヘトヘトです」
「お疲れ様ン。ほら、飴ちゃンあげるワ」
「あはは、どうも! これ何味ですか?」
「大豆味よン。いま流行ってるのン」
「大豆味!?」
オバさん食べられるの!?
鬼なのに!?
本来ならちょこっと手続きが必要だけど、多忙な運送屋をやっている私は特例で顔パス。
大豆味の飴を舌で転がしながら関門を抜けると、《一区》の景色から一変する。
空気は冷たく、崩れたビルなどが散見する灰色の地区《六区》。私の故郷。
夜はどこもかしこもライトアップされていて、神秘的だ。
「ん~~~! やぁっぱこの景色見ると帰ってきたーって感じ」
科学が発達した《二区》の人達からは特に誤解されがちだけど、《六区》はボロい地区なだけで一番平和である。
なんかどの地区からも印象がイマイチなんだよね。
不気味だとか、田舎だとか、地味だとか、影が薄いだとか。だけど私はやはり好きだ。
……事実っちゃ事実ですけども。
自宅に到着。廃工場みたいな雰囲気だけど、博士のラボとしてちゃんと稼働している。
『たまこ』をガレージに停めてから、小走りで博士の部屋に向かった。
「うぉーい博士ただいまー。今日は特段仕事が多くて疲れたー。お風呂あるー?」
「おかえり。沸かしてるよ。でも風呂はメンテナンスの後にしなさい。最近やっていなかったろう」
何かしらの作業をしながら返事をする白衣の博士の背中。
彼のお尻から生えている黒い尻尾が、パイプ椅子を指した。座れとな。
「はいはーい。じゃあ早く終わらしてー。お風呂ーお風呂ーおっふっろーっ、ヘイヘーイヘヘーイヘーイ」
ガッコンガッコン。
椅子に座りながら荒ぶる。
「ええい、喧しい。君の風呂への異常なまでの執着心はまるで《四区》の住民だね」
「うん。《四区》の人にはシンパシー覚える」
というか、《四区》はまんま昔の日本ですし。妖怪とかマジで居ることを除いては。
長期旅行するなら《四区》だね、やっぱり。
「ふむ。『日本』だったかな? その君の故郷に似ていると言っていたな。興味深いことだ」
そう言って、博士がやっとこさ振り返る。先が二股に分かれた舌をチロリと見せた。
博士は服を着た二足歩行する黒いドラゴンだ。でも何故か本人は否定する。角はあるし、翼もあるのに。
「なーんて言いつつ、研究に関係ないなら全然考えないじゃん」
「何を言っている。この世に繋がりのない事象など無いよ。自分は機会を待っているだけさ。……さぁ、もっと脚上げて」
ハイテクそうな機器で私の義肢を手早く点検していく博士。
博士が作ってくれた赤銅色の四肢の義肢は、私の全てといっても良い。
初めの頃は扱いきれなくて周囲には迷惑を掛けたものだ。
「……ありがとね。博士」
「ん、どうした急に?」
「いや、なんか今日は昔のことを思い出してさ。最初は大変だったなぁとか」
「ああ、そうだな。君が両脚で魔界への扉を開いた時はここで死ぬのかと思ったよ」
あの時は申し訳なく。
私の義肢は何でも出来てしまう。誇張は無い。
詳しいことは分からないけども、博士によるとこの義肢は科学が発達した《五区》ですら存在しない技術なのだという。
「危険だから《五区》にこの義肢の技術を教えないの?」
「前も言わなかったかい? この義肢は今のところ、君にしか扱えない。
魔力を豊富に持ち、電子精霊たちに愛され、不可思議な加護をいくつも持つ、究極の媒体……アウラだけだ」
知ってるけど。
改めてオンリーワンだと教えられるとニマニマしちゃう。
私のニマニマ顔に気付いた博士が溜め息をつく。
「君の身体は桁外れだよ。義肢の機能の殆どは、奇跡に近い偶然とはいえ、発明者である自分ですら予測してなかったものばかりだ。例えば……」
「はいはいどうでも良いです~。それじゃお風呂いただきまーす」
どうでも良くはない。
改めて聞かされると耳が痛いというだけです。
配送の仕事で最も役に立っている異次元に荷物を仕舞う機能も《五区》の人に「次元魔法だとぉ……!?」とか目を剥かれたし。
「ええい、そんなことより風呂だっ!」
動きやすい服をスパパーンと脱いでから、風呂場に突入。
手早く身体を洗い、大きな風呂へと浸かった。
「ふへぇ~。生き返るぅ~」
私、おじさんみたい。
手足は痛覚をカットしてるけど、温覚冷覚触覚はあるので指先まで心地良い。義肢ちゃん優秀。
「……あー。幸せだなー」
仕事はそこそこ忙しいけども、私が望んだ仕事だ。
この世界を回れて、人と触れ合えて、何よりも楽しい。
楽しい思い出を積み重ねていけることが幸せだ。
「ま、これで《二区》が厄介事を引き起こさなければ最高なんだけどね……ふふ、風呂をあがったらアイス食べながら積みゲー消化しよ」
病弱だった地球での私はゲームも満足にすることは出来なかった。
かつて、オタクの友人が病室でこれまた面白そうに語ったんですよ。
「でも、そろそろ乙女ゲーにも飽きてきたな。《五区》で話題になってるVRゲームとかやってみようかねー」
のぼせそう。あがりますか。
風呂からあがり、手拭いで水気を払いながら浴場から出た時だった。
義足が勝手に動きだし、グングンと前へ進む。
「わっ、わ。どうしたの!?」
服も着れずに廊下にまで出てきてしまう。
このままだと風邪引くし、博士に見られたら「はしたない!」と叱られる。
けれど私は経験から知っていた。義肢ちゃんは危機察知能力も備えていることを。
ドガンッ!! と背後で大音量の破壊音が聴こえ、身体が少し跳ねた。
……ゆっくり振り返ってみる。
さっきまで風呂場だったそこは、ただの空洞と化していた。
空洞から外を見てみると、空を覆うほど巨大なタコとイカを併せたような生物が佇んでいた。
何か叫んでいるようなので、耳に手をあてて聞いてみる。
『我が名はポペパルギウス。アーケット様の呼び声に応じ、第十七次元より召喚された破壊神である。瞬く間にこの世界を滅ぼしてみせようぞ! ふはははは……!』
アーケット。うん。
紛れもなく、いつも事件を招き入れてくれる《二区》の区長さんの名前だった。
あの馬鹿ロリ娘。
「……はぁ、やっぱり《二区》かぁ」
「無事か、アウラ! って、なんてはしたない格好をしてるのかね! 服は!」
「浴場もろとも消滅した」
「ええい、取り合えずこの白衣を着ていなさい!」
「裸に白衣てエッチっぽい」
「言ってる場合か!」
「アーケットさんが直々に呼びだしたっぽいよ、あの破壊神」
「あああああ!やっぱり《二区》かぁぁあッ!!」
《六区》の区長でもある博士が怒り狂いながら、色んなところに連絡を入れていく。
そう時間も経たずに暴れ時だと勇んでやってくる者たちで《六区》は溢れかえるだろうね。
「それじゃ、大人たちで頑張ってね。どうせ数時間で方は付くでしょ。私はゲームしとくから」
「何処でかね」
「何処って、そりゃ私の部屋でしょ」
「……君の部屋は浴場の真上だ」
「……えっ?」
なん、だと。
チラと、上を覗く。
私の部屋は半分が削れていた。
そして、依頼人の方々から好意で戴いた家具やインテリアが、ぶっ壊れている様が見えた。
思い出の、品々だった。
「…………あ、はは」
「あっ、お、おい、アウラ、待ちたまえ。家具などは、自分が買い直してあげるぞ、待て、落ち着くんだ、君が怒ったらますますシャレにならない、待つんだ」
私の怒りに応えるように、四本の義肢が震えた。
両脚からは何対もの真白な翼が生え、右腕はプラズマライフルへと変化し、左手には燃え盛る大剣が現れる。
笑顔で、博士に、言った。
「是非も無い」
……その後。
怒りに任せて大暴れしまくったせいで《六区》の一部が崩壊してしまった。
でも、まぁ、居住地じゃなかったし良いよね!
って言ったら流石に博士に怒られましたとさ。
⇩設定⇩
この世界は中心の《一区》を囲うように時計周りで《二区》《三区》《四区》《五区》《六区》と並んでいる。
《一区》:この世界の中心の地区。色々全部が詰まっている。下町のような、都会のような。まさにカオス。
《二区》:自然の多い地区。謎生物や巨大生物、祈祷術・召喚術などを使う者が居る。事件は大体コイツらが起こす。
《三区》:ファンタジーな地区。幻想的。魔法などが特に発達している。五区と仲が悪い。
《四区》:江戸&大正風の地区。怪奇現象・魑魅魍魎などが溢れている。いつも中立に居たがる。
《五区》:近未来的で機能的な地区。科学技術などが特に発達している。三区と仲が悪い。
《六区》:退廃的で薄暗い地区。超能力者などがよく産まれる。主人公はここに住む。一番静かで安全。




