鉄の心
嫌だ...。
僕の先輩がアンドロイドであったことが発覚したその翌日、僕はいつも通りの生活を送るために学校に普通に行き、普通に過ごして、普通に放課後を迎えていた。
嫌だと思ったのはその時間にやらなければいけないことがあるからだ。
僕は先輩に憧れて、科学部になんの予備知識も持たずに入部した。そして活動時間は放課後に1時間程度である。
つまり僕は、放課後に昨日殺されそうにされた先輩ことアンドロイドに出くわさなければならない不幸なイベントに引っかからなければいけないのだ。もちろん逃げることも出来るし、そのことも考えた。けど今後のことも考えて休むわけにはいかないのだ。
というわけで。
「こ、こんにちは...」
「....」
いきなり先輩と出くわしていきなり目が合った。純粋に怖い。
アンドロイドにあるまじき無機質な様子を一切見せない自然な目は僕を一瞥してすぐに視線をそらした。
当然だと思う。
自分がアンドロイドだということを知られ、しかも所属している部活が一緒だなんて気まずい以外の何者でもないだろう。僕だったらストレスで死ぬ。
「あ、あの...」
なんの計画もなく声をかけてみた。
「.............」
不発。
「今の僕のことどう思いますか...?」
なんとなく聞いてみた。
「......................」
これも不発。
「今日の先輩のパンツって何色ですか?」
思い切って空気をかき乱すことを聞いてみた。
「....................................死ね」
知ってた。
いろいろなことを聞いてみたけどわかったことは先輩は僕に興味を持たないしもしかするともう軽蔑されているのかもしれない。されてもしょうがないけども。
「ねぇ」
「へ?」
唐突に声をかけられた。今まで僕のこと無視してたくせに。
「私がアンドロイドだと気づいて...どう思った?
「へ?え、いや別に...?」
「真面目に」
胸ぐらをつかまれて壁際に追いやられる。女性に胸ぐらを掴まれるなんて僕を含めてもそうそういないと思う。
「いえ...正直言って後悔してます」
「...」
「先輩がアンドロイドなんて夢にも思わなかったし、なにしろ予想することもなかったです。それだけに...残念です」
「......っ」
少し掴む力が強くなった気がする。それでも構わずに続ける。
「僕は先輩のことが好きでした。でも、もうそう思うことも二度と無いかもしれません」
「.............」
「だから僕は先輩と距離を離すためにもこの部活も辞め―ガフッ!!?」
唐突に地面に叩きつけられ、話を遮られた。
「もしも私が...」
「え?」
「もしも私が...君を好きだと言ったら?」
僕の中の世界が変わっていくような音が、どこかから聞こえた気がした。