僕の先輩は...
僕の名前は石川健斗。
僕は今、恋してる。
相手は僕のひとつ上の先輩である九条ひなみ先輩。
しかし今日僕は先輩は既にほかの人に恋をしてるという事実を知り、現在僕はその先輩がデート中なので尾行中である。
その隣で心底嬉しそうにしているのが僕の同級生であり幼なじみである、島井明人である。
「で、なんでこうやってあの先輩を尾行中なわけよ?」
明人がニヤニヤしながら聞いてくる。
「いや、ちあき先輩が好きな人ってあんまりいい噂ないんだよね」
「ほう、例えば?」
「多くの女性をはべらかした挙句ヤリ捨てて、そこでサヨナラとか。まあ他にもまだあるんだけれども」
正直こんな噂確証もないしソースが何かもわかってないのだけれども。
「ふーん、そんなことが...お、先輩が店に入るぞ」
見ると先輩とその隣にいる彼氏であろう男は嬉しそうにカフェの中へと入っていった。店の鏡越しに見ていた僕の口からは思わず欲望が漏れ出していた。
「あぁ...先輩をはべらかして実家に持ち帰ってそのまま○○○して蹂躙して僕のことしか考えられないような体に再構築させたい...」
「素直にキモイ...あっ」
「えっ?」
先輩から意識が離れていら僕らが再び意識を戻すと先輩と彼氏らしき男がキスをする寸前だった。
「ッッ!!!」
耐えられなかった。
誰かに奪われてしまうと感じるのが怖くなった僕は、カフェの店内に駆け込み、ちなみに先輩の手を握って店の外へと駆け出していた。
「えっ...ちょっ!?」
自分の世界の外から急に侵入されたちなみ先輩はとても驚いていて、事態の収拾がついていないようだった。
構わず僕は走った。目的地もろくに考えないまま逃げるように走った。幼なじみの友達も彼氏らしき男も置き去りにして。
立ち止まった時には2人は人気のない裏路地にいた。長距離を走った足はガクガクと震えていて今にも折れてしまいそうだった。
「急にごめんなさいちなみ先輩...」
事態を収拾するべく僕は喋り出した。
が、ちなみ先輩に突き飛ばされることでその思考は遮断された。
「え...え?」
やっぱり起こってるんだろうか、そう不安に思って顔を上げてみると、
「任務ノ遂行中ニエラー発生...任務ヲ中止シマス」
返ってきたのは機械的に装飾された声だった。
「エラーノ原因トナッテイルモノヲ早急ニ排除シ、任務ニ復帰シマス」
「え...え...」
驚いている僕をよそ目にちなみ先輩はゆっくりと目の照準を僕合わせる。
瞬間、僕は圧倒的な力によって壁に叩きつけられた。
「がっ...あ.....ギ...ッ!」
女性の体とは思えないパワーによって首を絞めあげられた僕は壁に押し当てられる。
ギリギリと喉を、骨を潰してしまいそうな力が加わる。
「早ク死ネ」
慈悲のない目、慈悲のない口調。それら全てが恐怖に見えたその時。
「たいむあーっぷ」
軽い口調の男が乱入してきたと思ったら、ちなみ先輩の僕を締め上げていた腕が喉から外れた。
「があっ!!」
ようやく息を据えた僕は地面にへたりこんだ。
「すまないねぇ坊っちゃん、僕のアンドロイドが君に危害加えちゃって」
「あぁ、いえ、別に................は?」
聞き間違いかと思った。というかそう信じたかった。
その思いに反して男は軽々しく語る。
「いやぁ、彼女僕の作ったアンドロイドであり僕の助手なんだよねぇ」
「............え?」
ちょっと思考能力が追いつかない。なんだどういうことだこれ。
「まぁ、ちあきちゃんがアンドロイドってことが君にバレちゃったけど他の人には他言無用でね?よろしく」
「....よろしく」
いつの間にか人間らしい声に戻っていたちあき先輩が便乗するように喋り出した。
整理がつかない。一体何がどうなってる...?
思考を放棄した僕は逃げるようにその場から走り出した。
この日僕は、もう二度と恋愛なんてしたくないと思ったのだった。