知らない右手
ホラーってどう書くのさ
僕の利き手は右だ。
ほとんどの人はそうだと思う。前に左の比率を調べたことがあるけど、十一パーセントくらいだったはずだ。
ほとんどの人と同じ利き手の右だけど、最近おかしい。
突然意図しない動きをするときがある。
この前口喧嘩した友達を殴ってしまった、右手で。
殴るつもりなんてなかった。だって僕はそんな乱暴な人間じゃないんだから。今までだって人を殴ったことなんてない。
右手が勝手に動いたんだ。
そのとき、まるで自分の手じゃないような感じがして気味が悪かった。
でも正直、友達を殴ったときはスカッとした。
母さんが作ってくれた料理に僕の嫌いな人参が入っていたとき、母さんが見ていない間に右手が勝手に人参を掴むとゴミ箱に投げ捨てたんだ。
これで嫌いな人参を食べなくて済むと思うとこの右手もいいものだと思った。
だけど不思議なのは、ゴミ箱に入ったとき音がしたはずなのに母さんは気づかなかった。
これも少し前だけど、ゲームを買いに店に行ったとき、お金が足りなくて諦めたんだけど、なぜか家に帰ると右手には欲しかったゲームがあった。
右手が勝手に取っちゃったかもしれないけど、戻って確かめるのは少し怖かったのであまり深く考えないようにした。
こういうことが何度もあった。
いつからだろう、後戻りができなくなったのは。
昨日、母さんと口喧嘩したとき、突然母さんは怯えるような目で僕を見てきた。
なぜだろう。僕は今までいい子でいたのに。今までそんな目で見られたことないのに。
なぜか右手には包丁があった。
気づいたときには真っ赤に染まっていた。
僕のせいじゃない。右手が勝手に動いたんだ。
そのとき右手から声が聞こえた。
『よかったな、俺のおかげで母さんに怒られないで済んだぞ』
ほら、僕のせいじゃない。右手が勝手にやったんだ。
右手が、右手が、右手が……。
僕の右手には真っ赤に染まった包丁が握られていた。
今日も学校だ。
母親が崩れ落ちるシーンとか内臓の描写とか血の生暖かい感触とか色々書こうかと思ったのですが、これは『僕』じゃないので仕方ないですね。