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こんな夢を観た

こんな夢を観た「脳みそが家出する」

作者: 夢野彼方
掲載日:2014/09/05

 すっきりとした朝の目覚めだった。

 洗面所に立って鏡をのぞき込み、あっと驚く。なんと、頭のフタが開きっぱなしで、中は空っぽなのだ。

「あれまぁ、どうりで軽いと思った!」

 寝室に戻り、枕もとやベッドの下を探してみるが、わたしの脳みそはどこにも見当たらない。

「困っちゃったなあ。夕べ、どこかに置き忘れてきたのかも」

 座って思い出そうとするが、まるで考えがまとまらない。脳みそが入ってないのだから、それも当然である。


「志茂田に相談してみよう」友人の志茂田ともるに電話を掛けた。

「もしもし、志茂田ですが」

「あ、むぅにぃだけどっ。実は、大変なことになってしまってさ」わたしはすがるように言う。

「ほう……いったい、どうしたと言うのです、むぅにぃ君」

 志茂田の冷静な口調に、わたしはほっと安心させられる。

「あのね、脳みそがどこか行っちゃったみたいなんだよね」

「脳みそって、あなたのですか?」そんなばかな、とでも言いたげに聞き返してきた。

「うん、そう。起きたら、いつの間にか空っぽになっててさぁ。家出しちゃったのかなぁ。どうしよう?」


「まあ、落ち着いてください。ベッドの下はちゃんと見ました?」

「真っ先に探したよっ」わたしは言った。

「そうだ、冷蔵庫。冷蔵庫の中は調べましたか? あなた、昨晩はロンドン・オリンピックに夢中になりすぎて、電話口でも言っていたじゃありませんか。『ちょっと、頭を冷やしてくる』と」

 そう言えば、昨日の夜、志茂田とサッカー戦で盛り上がっていたっけ。

「見てくる」受話器を傍らに置き、小走りでキッチンへ行く。冷蔵庫の段には作り置きのシチュー入りタッパーが、野菜室にはキャベツ半玉と白菜、キュウリ、トマト、ジャガイモが詰まっているばかり。念のため、冷凍庫も開けてみたが、製氷機とアイスノンしかなかった。

「やっぱり、ないよ」部屋に戻って、がっかりした声でそう告げる。


「つかぬ事を聞きますが、むぅにぃ君」志茂田が改まって聞く。「あなたの脳みそ、本当に入っていましたか? 元々空っぽということはありませんか? だとすれば、何もかも合点がいくのですが」

「失礼しちゃうなっ。そりゃあ、性能は悪かったかもしれないけど、昨日まで、ちゃんと頭に詰まっていたんだよ」わたしは憤慨した。

「確かですか? そう思い込んでいただけ、ということはないでしょうね?」なおも疑いを捨て切れないらしい。

 言われてみれば、自分の頭の中のことなど、これまで1度だって気にしたことがなかった。志茂田の言う通り、初めからお留守だったのだろうか?

 わたしは不安になってきた。


「あまり気にしないことですよ。脳みそなんてものは、あればあったで、それはもう悩みが尽きないものですからねぇ。どうしても落ち着かないというのでしたら、白みそでも詰めておけばいいじゃありませんか」人ごとだと思って、勝手なことを言う。

「とにかく、もっとよく探してみるね。また電話するから。じゃあっ」

 溜め息とともに、受話器を戻した。

 脳みそが出歩きそうな場所を探しに行こう、そう考えて、支度のために三面鏡の前に座る。

 一通の手紙が置かれていることに気がついた。

「誰からだろう?」封を開けて、中を見る。


 〔拝啓

 むぅにぃ本体殿。残暑厳しい折り、いかがお過ごしでしょうか。当方は元気にしております。さて、この度、思うところがあって旅に出ることにいたしました。いつ戻るかは決めておりません。どうか、探さないでください。

 敬具

 脳みそより〕

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― 新着の感想 ―
[良い点] 愉快な夢でした。脳味噌が家出するという奇っ怪な展開。 考えてみるとちょっと怖いような気もしますが、どうしても笑ってしまいます。可能ならばぼくの脳味噌も家出なんかしてくれて、代わりに優秀な…
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