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第十五話 小さな少女 思い出の夢―出会い―

――何も見えない…。


――寒いよ…。


――痛い…よ…。









* * * * * * * * * * * *





私は、何かにしがみついていた。



(あれ?え?え?)




状況をサッパリ掴めない。

頭が勝手に上を向く。すると、いつもよりも高い位置にお母さんの顔があった。

私は、お母さんの脚にしがみついていたらしい。(脚に直接しがみついている訳じゃなく、長めのスカートにしがみついている。)


つづいて、周りを見回す(と、言うよりは、体が勝手に動いて、周りに目を向けている感じがする。)と、お母さんの横には、お父さんもいた。

そして、目の前には見覚えのある大豪邸。

どうやらここは勇君の家の玄関前らしい。だけど、なんだか多少の違和感がある気がする。



(私、どうして、お母さん達と一緒に勇君の家の前にいるんだろう?

それに、なんだかいつもより目線が低いような…。)



お母さんに問いかけようとしたけど、声がでない。



(え?あれ?)



「どうしたの?怖いの?

大丈夫よ。冬花ちゃん。ここは何も怖いものなんて無いところよ。」



そう言って、お母さんは私の頭を優しく撫でる。



『ホントに?おちゅーしゃとか、おいしくないおくすりとか、ない?』



(へ?な、何言ってるの、私?勝手に喋ってる?)



そういえばさっきから、体は勝手に動くし、口も勝手に動いていた。

私自身は、体を動かせないし、喋ることも出来ない。


「ええ。みーんな、優しい人たちよ。

冬花ちゃんがいい子にしてたら、お友達ができるかも?」




(…もしかしてこれ、夢?)


頭に浮かんだ疑問は、すぐに確信に変わった。


さっき感じた違和感は、現在の白金家との違いに因るものだと思う。



(随分とハッキリした夢だなぁ…。それに、夢の中で夢であることに気付く、ってなんか変な気分…。)



そういえば、人間って、記憶の抽出ひきだしを開けられなくなってるだけで、実際は、殆どの出来事を記憶している、って聞いたことがある…。



(?てことは…、私は今、その抽出を開けて、夢で見てる、ってことなのかなぁ。)



多分、お母さんとの会話から察するに、この状況は、初めて勇君(と美月ちゃん(みいちゃん))に会った日のものだと思う。



『…おともだち?わたしにも、おともだち、できるの?

じゃあわたし、いいこでいる!』






* * * * * * * * * * * *



「あらあら、いらっしゃい、由美ちゃん。」



出迎えてくれたのは、勇君のお母さん、リリーさん。


家政婦さんに連れられて、物凄く広いゲストルームに通され、部屋の中を見回す、今よりも更に小さい私。

ちなみに、お父さんは勇一郎おじさん(勇君のお父さんだよ。)と、別の部屋に行った。



『うわぁ〜。おっきぃ〜…。』



広さに驚く小さい私。

この頃は、確か、私は4歳だったはず。



私はあまり覚えてないけど、この頃の私は身体が小さくて、ひどく弱かったようで、ほとんど病院暮らしだったらしい。外出も、月に一日有るかどうかぐらいだったと聞いている。



医師の、そろそろ大丈夫、という判断で、退院したのが、この日の一週間前だったと、お母さんから聞いたことがある。

そのせいで、家、という広い空間に慣れていないから、小さい私はキョロキョロとしているんだと思う。


…視点が動きすぎて、夢の中だっていうのに、乗り物酔いになりそうな気がしてきた…。



「さあさあ、ユウキちゃん、ミツキちゃん、いらっしゃい。」



リリーさんが、勇君とみぃちゃんの手を引いて、ゲストルームにやって来た。

それにびっくりした小さい私は、近くにいたお母さんのスカートにしがみつき、顔だけをひょっこり出して様子を見ていた。



「冬花ちゃん。怖がってばかりだと、お友達は出来ないのよ?それでもいいの?」



『…うう…、ヤダ…。おともだち、ほしいの…。』



「そうでしょう?怖いのを我慢しなきゃいけないときもあるのよ。」



『うん…。』



《怖がるのは、本能的に身を守る為のことだから大切なこと。

だけど、ときにはそれを堪えて乗り越えないと、欲しいと思ったものは手に入らない。》


これは、お母さんがいつも言っている、お母さん論。

臆病で、いろんなことを怖がる私にとって、この言葉はかなりグサッとくる言葉…。

…でも私、この頃から言われてたの?



「じゃあ、あの子達に挨拶しましょう?」



『うん…。』



そして、小さい私は恐る恐るお母さんから離れ、ゆっくりと勇君達の元へ歩いていく。



『…あのね、あの…。

はじめまして、あのね…わたし…ふゆか、っていうの。

…おにいちゃんたちは、なんていうなまえなの?』



「えっ?」



小さい私がそう訊くと、勇君は、ちょっと驚いたように声をあげた。



「『おにいちゃんたち』って…。ぼくが男の子だって、わかるの?」



『?おにいちゃんは、おにいちゃんじゃ…ないの?』




この時、私は何の疑いもなく、勇君が男の子だと理解し、初対面で『おにいちゃん』と呼んだ。



勇君の他にも何人か、女の人みたいな男の人や、男の人みたいな女の人に会ったことがある。

直感力に優れている(らしい…)私は、そういう人に会う度に相手の実際の性別を言い当ててきた。


だけど、全く疑わずに、寧ろ、そうじゃないとおかしい、と言う風にまで感じて断定したのは、この、一番最初の…、勇君の時だけだった。



「由美ちゃん、この子にユウキちゃんの性別教えた?」



「いえ、教えてないですよ?」



「あらあら?じゃあ、初対面でユウキちゃんが男の子だってわかったのね。そんなの初めてだわ。

…これは運命ね!由美ちゃん!この子、将来ユウキちゃんのお嫁さんにちょうだい!」



…そんなこと言ってたんだ、リリーさん…。

良いことじゃないのはわかっているけど、それにすがりたい私もいる。



「二人が大きくなって、二人共それで幸せになれるって言うなら、私は賛成しますよ。」



…さすがお母さん。軽弾みでない慎重な答えだね…。

リリーさんの言葉をあてにしたいかも、と言う私の思考を読まれた気分…。



と、そこで、小さい私の興味が目の前の二人に戻ったのか、母親達の会話が聞こえなくなった。



『…ねぇ、おにいちゃんたちのおなまえは、なんていうの?おしえて?』



「ぼくはユウキ、って言うんだ。でね、こっちがね、妹のミツキ。」



『ゆうきちゃんと、みつきちゃん?

じゃあ、ゆうちゃんと、みぃちゃんだね。

えっと、よろしく…ね。』


「うん。よろしく。冬花ちゃん。」



『うん!』



小さい私が笑顔で軽く頭を下げる。


特に意味はなかったんだろうけど、多分、小さかった頃の私が思いついた、精一杯の挨拶なんだと思う。

今でも、初対面の人に対して、自己紹介のあとに頭を下げる癖があるし。


それを見た勇君とみぃちゃんも頭を軽く下げる。

小さい頃、みぃちゃんは無口だったから、この日は一度も喋らなかった。



――あれ?…何だかボーッとしてきた…。風景も霞んできてるような…。

フワフワするような…。



『あのね、ゆうちゃん―――。』







その言葉が、この夢の最後になった。


に…二週間も空けてしまったよ…。数少ない貴重な読者様方、誠に申し訳ございません。受験勉強の合間合間に執筆してたんですが…。その『合間』がないんです…。(泣)恐らく、次の投稿は三月頃になります。

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