第十一話 小さな少女 嫌な『予感』
本来は、一ヶ月以上入院しなきゃいけないところを一週間で退院し、以後約半年の通院、ということになった。
腕の怪我だから移動には支障をきたさないし、何よりも、私が学生だから、という理由での配慮だった。
この前の出来事は、傷害事件扱いになった。
私が訴えることをしなかったから、刑事罰はないけど、学園側から、幸田君は一ヶ月の停学と、クラス変更、部活(幸田君はサッカー部だった。)の退部という処分が下されていた。
病院を退院して、私は一週間振りに登校した。
クラスの皆は、私達に対して、腫れ物に触るかのような扱いだった。
あの後、入院の必要もなく、普通に登校していた玲ちゃん曰く、あの時、誰一人として助けに入らなかったことに罪悪感を持っているみたい、らしい。
私としては、過ぎたことをいつまでも根に持つつもりもないし、私の微妙な不幸は、今に始まったことじゃないから、あまり気にしないで欲しいと思っている。
それに、幸田君以外の誰かを憎もうだなんて思わない。
ただ、どうしても幸田君だけは憎く思ってしまうし、それ以上に、すごく怖い。
* * * * * * * * * * * *
うちの学園は、幼等部から大学までの一貫校で、お金持ちの子息・息女が多く集まるお金持ち学園だ。
私や玲ちゃん、夢ちゃん、硬君、翔君は皆、高等部からの外部受験組で、内部組の事情を知っているのは幼等部から通っている勇君だけ。
幸田君も内部組だったらしく、勇君の話では、幸田君は、中等部の頃から、不良生徒として有名だったらしい。
女子に怪我をさせたのも、今回が初めてではないらしい。
私は今、左腕を吊っている状態。ギプスで固定もしていて、(捻挫用の着け外し可能のやつなんだけど。)痛み止めも常備だ。
神経を傷付けた上、腱まで切ってしまったため、ほとんど左腕は動かせない。
明日の球技大会は、私も玲ちゃんも出られなくなった。(私はどっちにしろ、運動系のイベントは出られないけど。)
「球技大会のことすっかり忘れてたわ。ユメ、頑張りなさいよ。」
「玲花ちゃん、ひょっとして、出たくなかったの?球技大会。」
「当たり前じゃない。あたしはスポーツは苦手なのよ。」
「そうだったの?」
「そうよ。」
玲ちゃん、かなりスポーツ嫌いだもんねぇ…
中学校のときも、球技大会の日だけは、ズル休みしてたし。
「今年は堂々とサボれるわ。
馬鹿男のせいだってのがムカツクけど。」
わ、玲ちゃん、怖い顔してる。
「まあ、兎に角、ふぅちゃんと二人で応援してるから、頑張んなさいよ、ユメ。」
「…うん、まあ頑張るよ。
それよりも、冬花ちゃんと玲花ちゃんこそ、頑張ってね。っていうか、気を付けてね。
ずっと参加しないで待機してるから、二人を狙ってる男の子達に気を付けなきゃ。
未だに沢山いるみたいだし。」
…まだいるの?
「はぁ、…っとにウザイったらないわ…
そもそも、あたしがフリーだっていうデマはどこからでたのよ。あたしは彼氏持ちだっての。」
うーん、噂って凄いなぁ…。
間違ってても凄い速さで広まるし。
* * * * * * * * * * * *
球技大会当日、私は、朝から、嫌な予感がしていたので、常に玲ちゃんと一緒に行動していた。
午前中は体育館へ、クラスの応援に出かけていた。
そして昼前頃、呼び出しの放送が鳴った。
《一年A組、天崎冬花さん、落とし物が届いています。生徒会室までお越しください。
一年A組、天崎玲花さん、沢村先生がお呼びですので、至急、職員室までお越しください。
繰り返します――》
…落し物?
「同時に呼び出し?珍しい、ってか、妙ね。」
「うーん…私も変だと思うんだけど、行かなきゃそれはそれでまずいと思う。」
「気を付けてね。あたしは職員室だから変なことにはならないと思うから。」
「うん。わかった。」
* * * * * * * * * * * *
生徒会室前に来た。
右手で扉をノックする。
「一年A組、天崎冬花です。入ってもよろしいでしょうか。」
「はい。どうぞ。」
生徒会室の中は、紙束やゴミなどでゴチャゴチャしていた。
出迎えてくれたのは、身長が、2メートル近くはありそうな背の高い男の人だった。
どこにでもいるような真面目そうな顔だけど、その目からは、なにか企んでいるような感情がうかがえる。
それを見た瞬間から、頭の中で警報が鳴り響いていた。
「まず、初めまして、かな?僕は生徒会長の赤黄 青治。」
会長は、信号機みたいな名前だった。
「はあ、わざわざどうも。」
ついでに、入学式のマイクスタンドのことを思い出した。
――あぁ、この人か…
「左腕の件は聞いたよ。災難だったね。」
なんでわざわざ思い出したくないことを思い出させるんだろう。
それも、嫌な感じに微笑みながら。
段々、嫌な予感が確信に変わってきた。
「…あの、…それで、落し物、というのはいったい…」
「ん?あぁ、あれね。
実は、副会長が預かってたんだけど…。
副会長、準備があって体育館裏まで行っちゃったんだよね。
一緒に体育館裏まで取りに行こう?」
…え?
届いています、ってさっき放送で言ってたじゃない…。
呼び出したなら普通、そこに置いておくよね?
しかも一緒に取りに行こうって…
嫌な予感が完全に確信に変わった。
よくよく考えてみたら、左腕が使えないから、私はあまり物を持ち歩けない。
さらに、今日は球技大会なのでほぼ手ぶらだったから、落とす物なんてない。
「さ、行こう?」
きっと、ここで拒否してもうまく言いくるめられて、状況は好転しない。
むしろ、悪化する危険性だってある。
私は、会長に先導されながらも、右手だけでこっそりと、会長に気付かれないように、玲ちゃんに助けてメールを送っていた。
* * * * * * * * * * * *
※ここからは玲花視点になります。
職員室に行ったものの、沢村先生はいなかった。
――やっぱり、はめられたわ…。
冗談じゃない。そう思いつつ、生徒会室へ、ふぅちゃんを助けに行こうとして職員室を出たところに
「あれ、玲花?なにしてんだ?冬花はどうした?」
ばったり出会したのは勇希だった。
「さっきの放送聞いてなかったの?
誰の仕業だか知らないけど、別々の所に呼び出されて引き離されたのよ。
狙いはふぅちゃんでしょうね。」
「…ん?さっきの放送?
中身までは聞いてなかったけど、そういえばあの声は……赤黄のヤローか!?
チッ!マズイな…。」
勇希が少し焦りを含んだ声で言う。
「赤黄って…、たしか生徒会長?
勇希、あんた面識あるの?」
「中等部の二年の時からずっと同じクラスだ。
ヤツも中等部の頃は幸田と同じく不良だったんだ。
備品は平気でぶっ壊すし、乱闘騒ぎは日常茶飯事だし、時には通り魔事件の容疑者に名前が上がっていた様なヤツなんだ。
今は生徒会長という皮を被ってるが、絶対に中身は変わってない!
自分さえ良ければ周りなんてどうだっていいってヤツだ。」
「ちょっ…!!ふぅちゃんヤバイんじゃ…」
《ヴヴヴ。ヴヴヴ…》
あたしのケータイのバイブが鳴った。
「メールだわ。
…!ふぅちゃんからよ!」
「なんて書いてある!?」
οοο
From ふぅちゃん
Sub たすけて
いま、あかぎというせいとかいちょうに、たいいくかんうらにつれていかれています。
なにかたくらんでいるかんじのひとで、こわいです。
οοο
急ぎ気味なのか、変換されていなかったけど、ヤバそうな感じだった。
「大ピンチじゃない!早く行くわよ!」
「わかってる!!
…クソッ!赤黄のヤツ…冬花を傷付けたら許さねぇぞ…!」
ん?今の勇希の呟き……
いつもと感じが違うような…?
なんか心境の変化でもあったのかしら?
…これは、もしかしたらもしかするかもしれないわね。
ふぅちゃん!状況が好転するかもしれないんだから、こんなことに負けちゃダメよ!
「行くぞ!玲花!」
「わかってるわよ!」
ああ…、ストックが減ってきた。
そろそろ更新が停滞してしまうかも…。