第九話 女性な少年 しょーもない理由
今回は、冬花に対して好意を持った、と自覚したはずの勇希が、一向に行動を起こさないその理由です。
まあ、タイトルどおり、しょーもない理由ですけどね。
昼休み。
俺は今、屋上にいる。
うちの学園の高等部は、屋上の生徒の出入りに関して、黙認している。
いつもは、サボりの生徒やカップルがいるが、今日は一人もいない。
俺が今、ここにいるのは、硬介に呼び出されたから。
「よう。勇兄。」
話かけてきたのは、がっしりとした、見た目筋肉質の男。
こいつが硬介。俺の一個下なのに、俺より身長が高く、顔立ちも男らしく整っていて、声も低めで、ガタイもいい。
対する俺は、細身で女顔。声も高め。のど仏もほとんど目立たず、外見では、胸が無いことと、服装でしか男であることを証明できない。(それでさえも、男装と思われる可能性が高い。)
正直、硬介と面と向かっているだけで、外見に対するコンプレックスが刺激される。
けど、んなことは顔にはださない。
「おう、硬介。なんだ?話ってのは。」
ろくな事じゃない気がするけどな。
「んじゃ、率直に訊こう。
勇兄さぁ
冬花のこと、どう思ってる?」
「は?どうって…?」
「冬花を異性として意識したことがあるか?って意味だよ。」
……は!!?
「…な、な?な!!?突然何を…!」
「ほぅ、その反応を見る限り、あるんだな。
ま、そうだよな。冬花、超・高レベルの美少女だし?」
そう言われて頭に浮かんだのは、身長差のおかげで、いつも上目使いに俺を見上げる冬花の顔。それも、顔が赤くなっていることが多い。
――たしかにあの上目使いは可愛いな。
あ、そう言えば、寝顔も可愛かったなぁ。
「ほうほう、それで?」
「うわぁっ!?」
「ハハハ、勇兄。声にでてたぜ。」
…マジか……すげぇ恥ずかしいなオイ…。
「でもまあ、良かったじゃん勇兄。冬花の恐怖症のおかげでライバル0だぜ?」
「う…だ、だけど、ちょっと気後れしちまうんだよ。」
「なんでだよ。レズカップルって言われるのが嫌なのか?」
…オイ、コラ。
「いや、そうじゃねえよ。…てか、人が気にしてることを遠まわしに…。
…って、俺が言いたいのはそういうことじゃなくて、アイツの顔が美月に似すぎてて、いけないこと考えてる気になっちまうんだよ!」
美月っていうのは、俺の妹。冬花の一個下。
赤の他人だというのに、顔だけ見れば、一卵性双生児のように瓜二つだ。
身長は美月の方が上で、髪の長さは冬花の方が長かったりと、顔以外は結構違いがあるが、如何せん顔がソックリ過ぎる。
そのせいか、冬花に対してそういう気持ちを持つことに、危険を感じる。
まあ、あれだ。近親ほにゃらら、とか何とか言う言葉が頭に浮かんで来るんだよな。
で、俺の返答を聞いた硬介は、理解できない、といった表情をしている。
「…は?意味わかんねえよ。
冬花は冬花、美月ちゃんは美月ちゃん、だろ?
似てるだけで、冬花は勇兄の妹じゃ無いんだし。
似てるから、なんて気にしてたって意味無いだろ。」
「!」
…そっか。そんな当たり前のことを、俺はわからなくなってたのか。
「…そう言われてみりゃ、そうだよな。気にしてたってしかたがないよな。
はは、馬鹿みたいだな。俺は。」
「それが解ったならはやく告白して冬花の彼氏になった方がいいぞ。
さっき、冬花達に会ったけど、最近、厄介な自己中男がいるらしくて、冬花、今にも倒れそうだったぞ。」
「は!?大丈夫なのか!?冬花は!」
まさか、玲花がこの前言っていた『思慮の浅い馬鹿男』か!?
「いや、ヤバそうだったから、翔太が保健室に連れてったぞ。
…余程酷いヤツなんだろうな。その幸田って男は。」
……はぁ!?幸田だと!?
「硬介!その幸田って、ひょっとして幸田成一って名前だって言ってなかったか!?」
「あ、あぁ。そんな名前だったぜ?」
「ヤバイぞ!幸田成一は……」
その時、ガン!という鈍い音と共に屋上の扉が開き、長い金髪の女子生徒が一人、ヨロヨロと屋上に出てきた。
噂をすれば影。
その女子生徒は、冬花だった。
さて、冬花はいったいどうしたんでしょうね…。
それはまた来週に。