第七話 小さな少女 辛い日々と楽しい(?)部活
私が錯乱した次の日、幸田君は私に謝りにきた。
そして、
「中学の時から、看板娘をしていた君が気になってたんだ。好きだ。付き合ってくれ!」
告白してきた。
「…ごめんなさい。好きな人がいるんです。だから付き合えません。」
私は、そう断って立ち去った。
「…好きな人ぉ?…そんなの知るかよ…諦めねぇぞ…絶対に……」
そんな不穏な言葉が、聞こえた気がした。
* * * * * * * * * * * *
幸田君に告白されて三週間が経った。
あの日から、幸田君は毎日、やたらと私に近づいてきて、最後に告白していく。
何度目か彼の告白を聞いたときに思ったけど、彼はきっと私の事を好き、というわけじゃない。
何て言うか、気難しいペットを手なづけようとする感じ、というのが一番近いと思う。
しかも、異常な程執念深くて、かなり頻繁に私の近くに現れる。
授業中でさえ、睨まれている様な、嫌な視線を感じる。
今ではもう、本当にストーカーのようになってしまっていた。
…正直、すごく怖い。
学校で、一人になれない。
* * * * * * * * * * * *
放課後の調理室。
部活の時間は、今、学校で安心していられる数少ない時間。
「あら、冬花ちゃん。今日はケーキじゃないのね。」
声をかけてきたのは、私を料理同好会に誘ってくれた、部長の河野 由梨香先輩。
去年までは学園一の可愛い系美少女だったらしい先輩。
(玲ちゃん曰く、今年の学園一の可愛い系美少女は私らしい。きっと、いつもの冗談だと思うけど。)
「はい。今日はチョコクッキーです。
この前の日曜日に、家で一度作ったんですけど、改良の余地がありそうだったんで、今、チョコクッキー・改を作ってるんです。」
「チョコクッキー・改…」
微妙な名前…と呟く由梨香先輩。
確かに、捻りもなにもない名前だとは、私自身も思ってます…。
「やっほぅ♪みんな来てるわねぇ〜♪」
「あっ、瑞穂先輩。先輩も後でチョコクッキー食べてみて下さいね。」
「OKよ♪冬花ちゃんの作るものはすごく美味しいものねぇ♪楽しみだわ♪」
陽気に入って来たのは三年生の相模 瑞穂先輩。
勇君の元彼女さん。
結局、勇君は瑞穂先輩と別れたらしい。
しかも、私のお説教のすぐ後に。
部員の初顔合わせの日に、瑞穂先輩を見て
「勇君の彼女さん!?」
と驚いた私に
「元よ、元♪今はただの友達よ♪」
と言って、後で事の転末を詳しく説明してくれた。
ちなみに、瑞穂先輩は料理が苦手らしい。
活動初日には、調理室の赤いフライパンを黒く生まれ変わらせたし、二日目は、鍋が燃え盛っていた。
今までの七回の活動の中で、一回も成功していない。
それにしても、どうやったら赤いフライパンの外側を一発で真っ黒に出来るんだろう。内側なら兎も角…。
「さて、あたしは今日は初日と四日目に失敗したコロッケにリベンジしようかな?」
…コロッケ!?
「ええっ!?コロッケ作ろうとしてたんですか!?
初日はべっこう飴じゃなかったんですか!?
砂糖水入れてたじゃないですか!」
「あら、入れないの?」
「普通は入れません!」
由梨香先輩はコロッケと聞いた辺りから呆然としている。
さっきから一言も喋ってないけど、玲ちゃんもいる。
玲ちゃんのいる方をみると、玲ちゃんはちょうどコロッケをフライパンに入れたところ…
…って
「玲ちゃん!?さっき、ドーナツ作るって言ってなかった!?
なんでコロッケになってるの!?」
「急にジャガイモのコロッケが食べたくなった、なんてふざけたメールをアキラがよこしてきたのよ。」
「あ、そうだったの。……って、秋良お兄ちゃんが!?揚げ物あまり食べないのに!?」
「知ってるわ。だから作ってあげたのよ。長芋で。」
「長芋!?」
「…フフフ、アキラめ…あたしをおちょくってくれちゃって…
冗談で済むわけがないってわかってるのかしら…?」
最近、学校に来るのが怖いけど…
でも、この時間は…
心から安らげるこの時間は大好きです。
**オマケ**
※キャラ視点なし
「なあ、玲花…。」
「あら、なにかしら?アキラ。」
「本当に、作っちゃったのか?コロッケ…(冗談だったのに…。)」
「フフフ…当たり前じゃない(^ー^)。しっかりと作ったわよ?長芋のコロッケ。」
「はぁ!?な、長芋!?」
「ええ。……残さず食べなさいよ?(^ー^#)」
「うっ…わ、わかったよ…(なんで…なんであんなメール送ったんだよ今朝の俺はぁーー!!)」
本日の発見一つ目…長芋コロッケはなんともいえない微妙な味。
二つ目…玲花を相手に微妙な冗談は言うべきではない。
ちょっとギャグを入れたのは間違いだったかも…。