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追放された無能と呼ばれた俺、言葉で仲間を取り戻す  作者: 紅蓮シュウ


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第6話 命令の外側

 剣がぶつかる音が、森に弾けた。


 レグナスの一撃を、隊長の男が受け流す。


 速い。


 だが、それだけじゃない。


 “迷いがない”。


 いや――迷えない、のか。


「下がれ、アーヴェル!」


 フェルナンの声。


 矢が一閃、別の男の肩を掠める。


 だが、男は痛みに顔を歪めない。


 ただ、動きを一拍ずらして、再び構える。


 まるで――痛みの意味すら、処理されていないみたいに。


「……くそっ」


 レグナスが低く吐き捨てる。


 剣を交えながら、後ろへと間合いを取る。


「こいつら、まともじゃない!」


「分かってる!」


 フェルナンが返す。


「でも斬るしか――」


「待て!」


 俺は叫ぶ。


 今、この瞬間にも、何かが削れていく気がした。


 この戦いは、ただの戦闘じゃない。


 もっと別の何かを壊している。


「斬るな!」


「じゃあどうしろってんだ!」


 フェルナンが怒鳴る。


 当然だ。


 目の前の敵は刃を向けている。


 止める理由なんて、普通はない。


 でも――


「こいつら、止まれる!」


 俺は前に出る。


 危ない距離だ。


 だが、今しかない。


「さっき、止まりかけた!」


 隊長の男の目を、真正面から見る。


「お前、本当は分かってるだろ!」


 剣が振り下ろされる。


 咄嗟に体をずらす。


 刃が肩を掠め、熱が走る。


 だが、止まらない。


「お前の言葉で答えろ!」


 叫ぶ。


 命令じゃない。


 ただの、問いだ。


 隊長の動きが、ほんの一瞬だけ止まる。


 その隙を、レグナスが見逃さない。


 剣が、男の喉元で止まる。


「……動くな」


 低い声。


 だが、それ以上に重い沈黙が落ちる。


 他の男たちも、わずかに動きを止めた。


 完全じゃない。


 だが――止まっている。


「……今だ」


 俺は小さく呟く。


 近づく。


 ゆっくりと。


 刺激しないように。


「聞こえてるだろ」


 隊長の目を見る。


 そこには、さっき一瞬だけ見えた“揺れ”が、まだ残っている。


「お前は、何をしたい」


 短い問い。


 それだけでいい。


「……俺は」


 男の口が、動く。


 今度は、途切れない。


「……任務を」


 違う。


 それじゃない。


「違う」


 俺は首を振る。


「それは“決められた答え”だ」


 もう一歩、踏み込む。


 レグナスが何か言おうとするが、止める。


「お前の答えを言え」


 沈黙。


 長い、長い一秒。


 そして――


「……帰りたい」


 その言葉は、あまりにも普通だった。


 戦場に似合わないくらいに。


 だが、それが“本当”だった。


 空気が、変わる。


 後ろにいた男たちも、わずかに揺れる。


 フェルナンが息を呑む。


「……マジかよ」


 ミレイアが、静かに目を伏せる。


 レグナスは、剣を下ろさない。


 だが、力は抜いている。


「……任務は」


 隊長が、もう一度言う。


 だが、その声はさっきと違う。


 揺れている。


「任務は、遂行する」


 言い切る。


 だが、その後に続く言葉が、出ない。


 “排除”が出てこない。


 代わりに――


「……帰りたい」


 同じ言葉が、もう一度零れた。


 今度は、よりはっきりと。


 そして。


 次の瞬間。


 男の体が、崩れた。


「……っ!」


 俺は咄嗟に支える。


 力が抜けている。


 意識はある。


 だが――


「……軽い」


 呟く。


 何かが、抜け落ちたみたいに。


 後ろの男たちも、同じように膝をつく。


 誰も、剣を振らない。


 ただ、呼吸をしている。


「……何が起きた」


 レグナスが低く言う。


 警戒は解いていない。


 だが、斬る理由も消えている。


「分からない」


 俺は正直に答える。


「でも――」


 隊長の顔を見る。


 さっきまでの無機質な表情が、消えている。


 代わりにあるのは、ただの疲労だ。


「戻った」


 それだけは、分かる。


「戻ったって……」

「“命令の外側”に」


 フェルナンが、顔をしかめる。


「意味分かんねえよ」

「俺もだ」


 でも、確かに起きた。


 さっきまで、あいつらは“命令”で動いていた。


 今は違う。


 少なくとも、一瞬だけ。


 “自分で選んだ”。


 ミレイアが静かに口を開く。


「……限界、かもしれませんね」

「何の」

「上書きの」


 その言葉に、全員が反応する。


「ずっと命令を続けることはできない」

「だから、今みたいに?」

「ええ。綻びが出る」


 俺は、さっきの瞬間を思い出す。


 “帰りたい”という言葉。


 あれは、命令じゃない。


 ただの、本音だ。


「……なら」


 レグナスが言う。


「解けるのか」

「分からない」


 俺は首を振る。


「でも、止められるかもしれない」


 それだけで、十分だった。


 戦う理由が、一つ減る。


 代わりに――


 やるべきことが、一つ増える。


「……面倒なことになったな」


 フェルナンが肩を落とす。


「斬る方が楽だった」

「だろうな」

「でも、お前それ嫌なんだろ」

「まあな」


 短いやり取り。


 だが、その中で、何かが決まる。


「……運ぶぞ」


 レグナスが言う。


「こいつらを?」

「放っておけない」


 当然の判断だ。


 敵だった相手。


 だが今は――違う。


「近くに拠点はないのか」

「あるにはあるが……」


 フェルナンが言いかけて、止まる。


「どうした」

「いや……」


 視線が、隊長の胸元に落ちる。


 そこに刻まれた紋章。


 俺も、それを見る。


 さっきは思い出せなかった。


 でも、今は――


「……ああ」


 理解してしまう。


 嫌な形で。


「これ、見たことある」


「どこでだ」

「……王都の、管理局」


 沈黙。


 レグナスの目が、わずかに細くなる。


「……確かか」

「ああ」


 間違いない。


 あの紋章は、“管理する側”のものだ。


「……じゃあ、こいつらは」


 フェルナンが言いかけて、口を閉じる。


 言いたくないのだ。


 でも、言わなければならない。


「……国の人間だ」


 俺が代わりに言う。


 その言葉が、重く落ちる。


 森が、静まり返る。


 さっきまでの戦いよりも、ずっと重い沈黙。


「……つまり」


 レグナスが、低く言う。


「これは“偶然”じゃない」


 答えは、出ている。


 最初から。


「……ああ」


 俺は頷く。


「これは――」


 言葉を選ぶ。


 でも、もう誤魔化せない。


「仕組まれてる」


 その瞬間。


 遠くで、何かが動いた気がした。


 風じゃない。


 気配でもない。


 もっと――


 “意味”が、動いた。


     ◇

 「戦い」から「止める」へ、少しだけ進みました。

 でも、それが誰の意志なのかは、まだ分かりません。


 ここから一気にスケールが広がっていきます。

 続きが気になったら、ぜひ次話も読んでください。


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