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追放された無能と呼ばれた俺、言葉で仲間を取り戻す  作者: 紅蓮シュウ


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第5話 正しい言葉

 「ここで何をしている」


 男の声は、妙に“整いすぎて”いた。


 抑揚がないわけじゃない。怒っているわけでもない。だが――そこに“揺れ”がない。


 まるで、あらかじめ決められた言葉を、その通りに再生しているみたいな。


「森の調査だ」


 レグナスが一歩前に出て答える。


 嘘ではない。だが、すべてを言っているわけでもない。


 先頭の男は、じっとこちらを見る。


 目が、合わない。


 いや、正確には――合っているのに、“見られている感じがしない”。


「調査対象は」

「魔物の活動域だ」

「記録は」

「持っていない」


 淡々としたやり取り。


 だが、その間にある空気は、剣を交える直前のそれに近い。


 フェルナンが、わずかに弓に手をかける。


 ミレイアは沈黙したまま、様子を見ている。


 俺は――


 違和感を、見ていた。


 言葉そのものじゃない。


 “言い方”だ。


「……お前」


 思わず口に出す。


 全員の視線が、こちらに向く。


 先頭の男も、わずかに首を傾げた。


「今の言い方、変だ」


「は?」


 フェルナンが呆れた声を出す。


「何言ってんだお前、この状況で」


「違う、そうじゃなくて」


 どう説明すればいい。


 言葉は普通だ。


 だが――


「“調査対象は”って聞き方、普通じゃない」


 先頭の男の目が、ほんのわずかに細くなる。


「何が普通ではない」

「……確認の仕方が、“結果ありき”だ」


 言いながら、自分でも曖昧だと思う。


 だが、感覚ははっきりしていた。


「お前、最初から答え知ってるだろ」


 一瞬。


 空気が凍る。


 レグナスが、ゆっくりと俺を見る。


 止めろ、と言いたげな視線。


 だが、もう遅い。


「……興味深い指摘だ」


 先頭の男が、初めてわずかに声色を変えた。


 ほんの少しだけ。


 だが確実に、“人間らしい揺れ”が混じった。


「なぜそう思う」

「言葉の順番が変だ」

「順番?」


「普通は、“何をしている”の次に“なぜここにいる”だ」


 俺は続ける。


「でもお前は、“何をしている”の後に“調査対象”を聞いた」


 フェルナンが「……あ」と小さく声を漏らす。


 ミレイアも、目を細める。


「つまり、お前は最初から“調査している”前提で話してる」


 先頭の男は、黙った。


 数秒。


 風が木々を揺らす。


「……なるほど」


 男は、ゆっくりと頷いた。


「確かに、その通りだ」


 あっさりと認める。


 だが、その認め方もまた――妙だった。


「だが、それが何だという」


「……それが何か、分かってないのか?」


 思わず言い返す。


 これはただの言葉の問題じゃない。


「お前、“聞いてない”だろ」


 男の目が、初めてはっきりとこちらを向いた。


「何を」

「俺たちの答えを」


 その瞬間。


 何かが、ズレた。


 音じゃない。


 空気でもない。


 “意味”が、わずかに崩れる。


「……」


 男の後ろにいた別の一人が、一歩前に出た。


「隊長、無駄です」


 その声も、同じだ。


 整いすぎている。


「対象は既に確定しています」

「……そうだな」


 先頭の男――隊長と呼ばれた男が、頷く。


 そして、こちらに向き直る。


「お前たちは、この洞窟に入った」


 断定。


 問いではない。


「内部構造を確認した」

「記録を持ち出した」


 違う。


 どれも、少しずつズレている。


「……してない」


 俺は言う。


「何も持ち出してない」

「嘘だ」


 即答だった。


 だが、その“嘘だ”は――


 確信じゃない。


 “そういう言葉だから言っている”だけだ。


「……なあ」


 俺は小さく呟く。


「お前、自分で考えてないだろ」


 空気が、また変わる。


 今度ははっきりと。


 敵意が混じる。


「発言を訂正しろ」

「できない」

「理由は」

「事実だからだ」


 短いやり取り。


 だが、その中で確信する。


 こいつらは――


「……書き換えられてる」


 口に出した瞬間、レグナスが動いた。


 剣が抜かれる。


「構えろ」


 低い声。


 それだけで、全員が戦闘態勢に入る。


 男たちも同じだった。


 無駄がない。


 だが、その動きにも――“揺れ”がない。


「最終確認を行う」


 隊長が言う。


「対象は敵対行動を取る可能性あり」


 違う。


 まだ取っていない。


 だが――


「排除を許可」


 その言葉で、すべてが決まる。


「――待て!」


 俺は前に出る。


 レグナスの剣の前に。


「どけ、アーヴェル!」

「待てって言ってる!」


 叫ぶ。


 さっきとは違う。


 今度は、間違えたら終わる。


「こいつら、戦いたくて来てるわけじゃない!」


「なら何だってんだ!」

「“そうするように決められてる”だけだ!」


 沈黙。


 ほんの一瞬。


 だが、それで十分だった。


「……何?」


 フェルナンが呟く。


 ミレイアも、息を止める。


 レグナスだけが、動かない。


 だが、その目は――俺を見ている。


「お前、本気で言ってるのか」

「ああ」


 迷いはない。


 今は、それしかない。


「こいつら、“命令通りにしか動いてない”」


 視線を、隊長に向ける。


「違うか?」


 男は、答えない。


 だが、その沈黙が答えだった。


「……最終確認」


 再び、同じ言葉。


 同じ調子。


「対象は敵対――」


「違う」


 俺は、前に出る。


 もう一歩。


 距離を詰める。


「お前、本当はどう思ってる」


 問いかける。


 命令じゃない。


 決まり文句でもない。


 ただの、質問。


「……」


 男の目が、揺れる。


 ほんの一瞬。


 だが確かに。


「お前の言葉で答えろ」


 その瞬間だった。


 男の口が、わずかに開く。


「……俺は――」


 そこまでだった。


 次の瞬間、彼の目から光が消える。


「排除を実行」


 声が戻る。


 さっきまでの、あの無機質な調子に。


「……くそっ!」


 レグナスが踏み込む。


 剣が振るわれる。


 戦いが始まる。


 だが俺は、その場から動けなかった。


 今、確かに見た。


 “戻された”瞬間を。


 意思が、言葉に上書きされる瞬間を。


「……なんだよ、それ」


 呟く。


 答えはない。


 ただ一つだけ、分かる。


 これは――


 戦いじゃない。


 “命令”だ。


     ◇

 「言葉」ではなく、「決められた言葉」で動く存在。

 少しずつ、ズレの正体に近づいてきました。


 ここから先は、戦うか、止めるか。

 選択が問われていきます。


 もし続きを見届けてもいいと思っていただけたら、

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