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同じ夜に交わした約束

海月の家はPAST本部からそう遠く無い所にあった。

玄関扉の前に立った瞬間火花は意味もなく深呼吸をした。

彼女はおろか女性の家に上がったことすらないのだ。手には汗が滲んでいた。


「さぁ、上がって〜!」


車椅子に座ったまま海月が楽しそうに腕を振った。


「お、お邪魔します」

「そんなにかしこまらないでよ!」


声が少し硬いのが自分でも分かった。

そんな火花を見て海月がニヤニヤと笑う


「…もしかして緊張してるの〜?」

「緊張くらいしますよ…」

初心(うぶ)だね〜」

「…うるさいです」


そういう海月はこれまでに男の家に上がったことがあるのか。と一瞬頭をよぎったが「ある」と言われたら素直に受け止められない気がして聞くのをやめた。

そんなことを考えながら部屋に入る。


海月の部屋は白を基調として揃えられており余計なものが無かった。シャンプーなのか柔軟剤なのか海月の匂いが漂っている。

火花は一度足を止めた。


「どうかした?」

「いや綺麗な部屋だと思って…」


それら聞いた海月は満足そうに頷き、車椅子を畳むとテレビの前のクッションに腰を下ろした。


「お菓子キッチンの棚に入ってるから取ってきて〜あ!ジュースも!」

「はい、分かりましたよお嬢様」

「うむ、くるしゅうない」



キッチンに向かう背中に「執事みたい〜」と笑う声が飛んでくる。

お菓子とジュースを広げて準備すると海月が指を刺す。


「火花も座りなよ」


どこに座れば良いのか一瞬迷う。

さっき指定されていたのに

火花があたふたしている様子を見て海月が吹き出した。


「ちょっと、緊張しすぎでしょ!」

「…そんな笑わないでください」

「ここに座って!」


と海月の隣にクッションが置かれる。

火花はそこに腰を下ろす。

肩と肩が触れそうな距離だった。


「何観る?映画いっぱい観れるよ!」

「なんでもいいので、海月さんの好きなのでいいですよ」

「そういうとこ、本当にモテないよ?」

「え?何か気に障ること言いましたっけ」


海月はクスクス笑いながら映画をセレクトしていく。


「まぁベタにホラーか!」

「ベタですね、怖いの好きなんですか?」

「ううん、すっごく苦手」


海月は画面を見つめたまま言った。


「憧れだったの、友達と家で一緒に映画見るとか」


先程の医務室での会話を思い出す。

理解者がいなかった彼女の小さな夢。

火花はゆっくりと息を吐きながら言った。


「トイレには着いていきませんからね?」

「そんなこと言わないよ!近いもんトイレ!」

「頻度の話してます?」

「上手いこと言ったなぁみたいな目でこっち見ないで」


映画自体はよくあるホラー映画だったが海月は話が進むにつれて次第に身を縮めていった。

ホラーシーンになるたび目を瞑ったり小さな悲鳴を上げている。

山場で突然、火花の腕に重みが加わった。


「——っ!」


海月が火花の腕にしがみついていた。


「無理無理無理、本当に怖い」

「自分で選んだんでしょ」


抱きつかれた腕から感じる柔らかな感触と海月の体温。

心臓がうるさい。

映画が終わるころには火花は内容をほとんど覚えていなかった。

腕に抱きついたまま涙目の海月が言った。


「…怖かったよね?」


涙目で見上げられて心臓が跳ねる。


「よく出来てましたね」

「それホラー見た後の感想じゃないからね?汗かいたしお風呂行くね」


海月はそう言って立ちあがろうとした。

だが、少し顔を歪める。

火花は海月の体を慌てて支える。


「大丈夫ですか!?」

「大丈夫…ちょっと痛かっただけ」


それを聞いた火花は海月を抱き抱えていた。

いわゆるお姫様抱っこだ。

腕の中の海月は頬を赤くしている


「ちょ、だから歩けるって!」

「無理しないでください、心配なので」


それ以上は海月は何も言わずに静かに抱えられていた。


脱衣所まで運んでそっと降ろす。


「外で待ってて。…お風呂、ちょっと怖いから」

「分かりました。ここにいますよ」


扉を閉めると服が擦れる音が聞こえる。

火花は深い呼吸をする。 


「火花、居る?そこに居る?」

「いますよ」

「本物だよね?声をコピーするタイプのお化けじゃないよね?」

「扉開けて確かめますか?」

「えっ…それは…ちょっと…」

「本気にするのやめてくださいよ、こっちが恥ずかしいんですよ」


お風呂場からシャワーの音と海月の声が響いている。

お風呂場の様子を想像しないように頭の中で必死に他のことを考えた。


やがてシャワーの音が止まった。


「今出るから、ちょっと待ってて」


そう言って扉から出てきた海月はもこもことした白色のルームウェアを着ていた。

いつもの長い二つ結びのクラゲヘアではなくすべて後ろに下ろしている。

濡れた髪を下ろす彼女の姿はいつもより大人びて見えた。

海月はこちらを見て無言で両手を伸ばす。

意図を汲めず海月を観ていると目を逸らしながらぼそっと呟いた。


「運んでくれるんじゃないの?」


腕の中からシャンプーの匂いと温まった体温を感じる


先程座っていた位置まで運ぶと海月はドライヤーを差し出してきた。


「…髪、乾かして」

「いや、僕全然分かりませんよ?乾かし方とか」

「いいの!適当で!」


そう言っている海月はなんとなく上機嫌だった。


ドライヤーの温風だけが部屋に響いている。

海月が口を開いた。


「…お母さんに髪の毛を乾かしてもらうの、憧れだったんだ」


そういった海月の声はドライヤーにかき消されそうだった。

彼女の肌に触れないように火花は慎重に髪の毛を持ち上げた。


「僕で良かったらいつでも」

「うん…ありがとう」


海月は目を閉じ安心したように頷いた。

海月の孤独を少しでも取り除ければ良いと思って火花は何度も何度も撫でるように髪の毛をゆっくり乾かした。


髪の毛を乾かし終わった海月の瞼は重そうに揺れていた。


「今日はもう…寝よ」

「そうですね、もうこんな時間ですからね」


時計を見ると日付はもう変わっていた。

海月はこちらをじっと見ている。


「ベッドまで運びましょうか?」


海月は無言で頷きながら手を伸ばしてきた。

火花は海月を支え、抱きかかえる。

流石に何度もこうして運んでいると平常心を保てるようになった。


ベッドに海月をゆっくりと寝かせて寝室を後にする。

背中から海月が呼び止める声が聞こえて振り返る。


「火花はどこで寝るの?」

「僕はPAST本部に帰りますかね、近いんで」


海月は不服そうに頬を膨らませて言った。


「それじゃあ朝は誰が手伝ってくれるの」


火花は恐る恐る答えを確かめるように聞いた。


「じゃあ…今日は泊まっても良いですか?」

「うん!」


どうやら正解を選べたようだった。海月は満面の笑みでそう言った。

今ならどんな問題だって解ける。そう思いながら海月に続ける。


「じゃあ僕はリビングで寝ますね、ソファお借りします」


海月は何かを考えているようだった。


「あ、あのね、火花」

「なんですか?」

「夜、トイレ行かなかったら怖いし…」

「ここから呼べばリビングまで聞こえますよ」

「大きな声出すのは近所迷惑だし…」

「メッセージでも通話でもかけてくれれば…」

「夜に電子デバイスを操作するのは睡眠に悪いの!」


火花は頭を回す。

思い当たる答えは一つだけある

女性経験がない火花もそこまで鈍いわけじゃない。

ゆっくりと火花は口を開く。


「じゃあ、この部屋で寝てもいいですか?」

「…うん、でもウチにお布団なくて…」

「じゃあ…」

海月は目を合わせない。ゆっくりと呟いている。

「このベッド、詰めれば2人入ると思うんだよね」


火花は何も言わず静かにベッドに入った。

出来るだけ何も考えないように。

ベッドが軋む音がやけに大きく聞こえた。


海月は顔を赤らめながら言った

「今日は本当に助かったよ、ありがとね」

「ちょっと手伝っただけです」

「手伝いだけじゃなくて、わがまま聞いてくれてありがとう」


脚が触れる、顔と顔が今にも触れそうな距離にある。

互いの体温がすぐに分かる距離だった。

目を逸らしたくなる気持ちを抑えて火花は海月の手を握った。

海月の体がびくっと跳ねる。


「海月さん…僕のせいで怪我をさせてごめんなさい」

「だからそれはもう…」

「だから、次は僕が海月さんを守ります。約束します。守られるだけなのは嫌なので」


火花は海月の目をまっすぐ見つめた。

海月も火花の目を見つめ返しながら頷いている。

暗がりの中で表情は良く見えなかったが、その顔は微笑んでいるようだった。



「うん、約束だよ。」


そう言うと、海月の呼吸は静かに、ゆっくりと寝息へと変わっていった。

握った手を離さぬまま火花も眠りに落ちようとする。

静かな部屋なのに心臓の音が邪魔をしてなかなか眠れなかった。

前回あとがきで「目標は毎日投稿だ!」なんて言ってたのに気づいたら二日も立っている…

まあ年末年始はゆっくりとということで、、、

クリスマス的なテンションでちょっと甘い展開も書いてみようと思いまして書き始めたもののちょっと難しかったですね。

今月半ばに小説を書き始めまして、もちろんそれまで長い文章すら書いたことがなかったので初心者ながら試行錯誤しています。2026年もどうぞよろしくお願いします。

ではでは!


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