燃える工場、凍る世界
「まずは状況を整理する」
走りながら石堂が口を開く。
「この先の工場で爆発と火災が発生中だ。人類解放戦線が関与している可能性が高い」
この工場はAIを動かすためのメモリを製造していたはずだ。人類解放戦線の絶好の標的だった。
「危険因子を発見した際は即座に位相装備の展開を許可されている」
「了解です」
「はーい」
2人が返事をすると同時に通信が切り替わった。
「ボクからも情報共有するね〜、対象は
[灼界者:BURNER]でほぼ確定。
能力は火炎放射器型の装備による燃焼と爆破だね〜」
レニが共有してくれた情報を聞きながら気持ちを落ち着かせる。
工場に到着したとき、炎はすでに手をつけられない状態になっていた。
「特務三課、現場に到着。これより突入する」
工場の中に足を踏み入れた瞬間に熱が肌を殴りつけてくる
——熱い
四方からの熱気が自分に迫ってくるように感じる。
炎が酸素を奪い、呼吸が浅くなる。息を吸うたび肺の奥が焼けるようだった。額から汗が流れ落ちる
その時だった。
「飛んで火に入るなんとやらだな」
「誰!?」
炎の向こうに、人影が揺らめいた。
炎のカーテンを踏み越えて大柄の男が姿を現す。
腕と腰から排気管のような4本のノズル。
一目で火炎放射器だと分かった。
「俺は灼熱をもたらす者だ。」
男は薄く笑った
「名前は覚えなくて良い
——どうせ、ここで炭になるんだからな」
その瞬間火花と海月は同時に装備を展開した。
「対象を灼界者と認定。装備を展開します」
火花が黒色のメダルを指で弾く。
肩口から黒色の触手が滑り出る。
隣では海月が、氷の結晶を模したペンダントを握っている
「【翠雷】」
「【霜華踏】」
火花の肩口から伸び出た触手は男に向けられている。
動いたら打つ。そう告げるかのように黒緑の蛇は目の前の標的を睨みつけていた。
一瞬の静止状態
均衡を破ったのは——海月だった。
「〈氷影瞬脚〉」
次の瞬間 海月はすでに男の背後に居た。
冷気を纏った蹴りが脇腹に叩き込まれる。
だが——男は海月の足を掴んでいた。
最初から蹴りなど貰っていないかのように。
「なぁ…?氷は炎に弱いって言うのはゲームじゃ常識だよな?」
灼界者は余裕の笑を浮かべて海月を投げ飛ばした。
「……っ!」
壁に叩きつけられた海月は呻き声を上げている。
「海月さん!」
男のノズルがこちらを向いた。
殺気が火花の背筋を走る。
「次はこっちからもご挨拶しないとなぁ?」
ノズルの奥で炎が赤く蠢いた。
次の瞬間炎が地面を舐めるように噴き出した。
「〈焔獄〉」
爆音と共に炎が波となって押し寄せた。
「——まずい、逃げ場がない」
炎は空間全てを埋め尽くすように広がりながら迫ってくる。高音で視界が揺らいだその瞬間。
「装備展開【聖盾】」
低く、短い声。
2人の前を黒い影が覆った。
石堂の前方には彼の位相装備である大きな盾が現れていた。それは盾と表現するより壁と表現するのが正しいほど大きく分厚い。
黒色の壁は正面からの炎を受け止める。
轟音と共に熱と衝撃が押し寄せる。
だが炎はそれより先に進むことができなかった。
壁はその後ろ全てを守り切った。
炎が引いた後、床は溶け、壁は歪んでいた。
「立派な盾だな、鉄板にしたら20人くらいでBBQが出来そうだ」
「黙れ」
石堂は盾を構えた
「最近の連続火災の犯人はお前だな?」
石堂の言葉に男はあっさりと頷いた。
「あぁ、俺はボスの指示に従って燃やして回った」
男はニヤりと笑いながら続けた。
「中でもあの政治家のおっさんは傑作だったな、最後までAIに焼けた奥さんを助ける方法を聞いていたぜ」
——その瞬間 空気が、裂けた。
火花の周囲に高電圧の電気が放出された。
緑ではない白い稲妻が炎の中を走り回っている。
「〈雷弾〉」
燃え盛る炎はプラズマとなって道を作った。
光速の弾丸は一直線に進んでいく。
——だが
爆風。
男の体が弾かれたように動いた。
自身の爆風での回避だった。
雷弾は男の背後を貫き、壁と建物を光の柱が穿った
「そう怒るな。
…俺達は解放者、人々をAIから救ってる」
男の声が、低くなった。
「AIの奴隷ども、俺を止めてみろ」
火花の口から自然と言葉が漏れ出ていた
「僕は…お前を殺す」
男は、楽しそうに笑った。
「ははっ、それが"お前"の選択か?」
ノズルが再度火花に向けられる
「いいぜ、かかってこいよ」
灼界者のノズルから赤い炎が吹き出し
目の前を焼き払っていく。
火花は迫り来る炎から逃げるように下がった。
「はっ!」
火花と入れ替わるように海月が前に出る
追いかけてくる炎を振り切るように懐に潜り込む。
灼界者は向かってくる海月にターゲットを切り替えた。
「〈火球〉」
火花から海月へと目標を変えたノズルから炎の球が飛び出す。
「ふんっ」
海月に命中するより速く、飛び上がった石堂が炎の球を叩き落とす。
灼界者は何度も石堂に攻撃を防がれたことに苛立ちを隠せないようだった。
「大体、3対1でそのうち1人は防御に専念なんてフェアじゃないよなぁ??」
男のノズルの炎の色が赤色から青色に変わる。
周囲の温度が一気に高まっていく。
不純物のない、完全燃焼。
「最高火力だ、丸焦げにしてやるよ」
青い炎が放たれた。正面で受けた石堂は爆風で吹き飛ばされた。
盾で致命傷は防いだようだが立ち上がった石堂の頭からは血が滴っていた。
火花は青い炎を警戒して距離を取った。
確実に相手を仕留める。——〈雷弾〉のチャージを開始したその時だった。
「火花っ!」
男は火花のすぐ隣にいた。
爆風を推進力とした移動。
火力が上昇したことで移動速度も上昇していることを想定できていなかった。
「かはっ…」
身体が壁に叩きつけられる。
衝撃に視界が歪む、
口の中に鉄の味が広がった。
肺が潰れて呼吸が苦しい。
ノズルの奥で炎が噴き出そうとしている。
「させないっ!」
飛び出した海月の蹴りがノズルの向きを逸らした。
火花のすぐ横を青い炎が通り抜けた。
背後の壁が溶け落ちる。
——海月が居なければ死んでいた。
火花は座り込んだ。
肋骨が何本か折れている。足にも力が入らない。
男の前に海月が立ち塞がった。
息は荒く、脚には大きな火傷が出来ていた。火花を守るためにノズルに触れたからだろう。
「私が…火花を守るから」
その言葉から海月の覚悟が滲んでいた。
満身創痍の3人の様子を見て灼界者は言った。
「もう限界か?俺を殺すんじゃなかったのか?」
4本のノズルから今までの1番の火力で
青色の炎が噴き出している。
金属で出来たノズルの色がどんどんと赤くなっている
「火葬してやるよ、骨まで焼けちまうのが残念だけどな」
盾を構えて立ち上がった石堂に海月が叫ぶ
「石堂さん!時間を稼げる!?」
「分かった。何秒だ?」
「10秒!」
「了解した」
「お別れの挨拶は済んだか?それともここからの打開策をAIが教えてくれたのか?」
そう言うと男は4本のノズルをこちらに向けた。
「全てを灰にしろ。〈劫火〉」
火花が感じている熱と光は目の前にまるで太陽があるかのようだった。
青い炎は人、物、酸素に至るまで全てを焼き尽くそうとしている。
壁一枚を隔てて太陽と対峙している石堂の手には酷い火傷が出来ていた。
「石堂さん…手が…僕も手伝いますから!」
〈雷障〉を展開しようとする火花を止めながら石堂は言った。
「これは俺の仕事だ。怪我人は休んでおけ」
石堂は短く、だがはっきりと言い切った。
「この盾の背後は命に替えても守りぬく」
その宣言と共に盾はもう一度輝く。
「【聖盾】 〈拒絶障壁〉」
黒い盾がさらに強度を上げる。
盾そのものを延長するように盾の端から透明な障壁が展開された。
だがそれは完全な防御では無かった。
青い炎が正面から叩きつけるたびに障壁の表面に亀裂が走る。
盾に守られているはずなのに呼吸をすると喉が焼けるように痛い。
「…っ」
石堂の盾を持つ手が震えているのがこちらからでも分かる。ここまでも熱が伝わってくる。
石堂の後ろで海月は静かに目を閉じていた。
「位相装備、特殊展開
出力制限、第一層解除
第二層…解除
第三層——警告プロトコルを無視…解除」
海月の足元から冷気が滲み出し、異常な密度を帯びていく。
「だから氷で炎は止められないってさっき教えただろうが!」
炎の青色がさらに濃くなる
盾の表面が赤くなり障壁の端が音を立てて崩れ落ちていく。
だが石堂はまだ立っていた。
既に失われているはずの両手で盾を押し返す。
「…10秒丁度だ」
限界を迎えた石堂は後ろに倒れ込みながらそう言った。
——その瞬間
「位相干渉率の上昇、臨界点を突破
座標固定…凍結領域 強制展開」
漏れ出していた冷気が解放される。
——終焉の冬
世界から音が消えた。世界から色が消えた。
全てが凍てつく冬の前で炎は存在を許されない。
そのモノクロの世界はまるで時を止めたようだった。
一瞬、本当に一瞬の出来事だった。
世界に音と色が戻り動き出す。しかし灼界者だけは終わらない冬の中にいるようだった。
「…対象の無力化を…確認」
そう報告すると海月はその場で意識を失った。
軋む金属音と風の音。
少しずつ現実に引き戻されていく。
火花は海月を抱えたままその場から動けずに居た。
「海月さん…生きてますよね」
火花は自分を落ち着かせるために呟いた。
腕の中の海月は体温こそ低いが浅い呼吸をしている。
あの時、僕は本当に人を殺そうとしたのか。
自分の中で次々に生まれる問いに答えることはできなかった。
火花は目の前の命を離さないことに精一杯だったからだ。
遠くから救急隊のサイレンが聞こえてくる。
その音を最後に火花の視界はゆっくりと暗転した。
戦闘シーンめっちゃむずい!楽しいけど!
これからもどんどん書いて上手になろうと思います
詠唱みたいなのカッコよくないすか?
厨二すぎましたかね?
感想、レビュー、ブクマ、評価待ってます!
まだ一度も貰った事ないので!
ではでは!




