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発火点

「火花〜来週のテスト教えてよ〜」

「今回の範囲、狭いですしそこまで難しくないと思いますけど。どこが分からないんですか?」

「全部だよ!逆になんでそんな落ち着いてるの!」


隣で頭を抱えているのは、クラスメイトであり特務三課の同僚、白瀬海月だ。

昼休みを待ちきれなかったのか午前の授業が終わった瞬間に話しかけてきた。


「そもそもテストって必要かな?AIに聞けば全部教えてくれるよ??」

「それは…まぁ、そうかもしれないですけど…」


いつの時代も学生はテストの意味を探している。きっと海月の言葉もよくある冗談だ。

けれど「全てAIが正しい選択を教えてくれる」のは幸せなことなのか、火花はもう分からなくなってきていた。

考え込んでいると海月がこちらを見て笑った。


「そんな難しい顔しないでよー」


自分一人で思考の迷路を進んでいたことを反省しながら息を吐いて席を立った。


「ご飯買ってきますね」

「あ、私も一緒に行く!」


火花はいつも昼食を学校の購買部で購入している。

料理は出来る方だが、睡眠時間を削るくらいなら喜んでお金を支払う。

今日はおにぎりを2つ買うことにした。


「それだけ?午後お腹空かない?」

「海月さんは野球部みたいな量を食べますね。そんなに食べたら太りますよ?」

「ねぇ…火花ってモテないでしょ?私も女の子なんだけど…」


確かに彼女は居たことが無いがそれは人と関わってこなかったからだ。そんな言い訳を言いかけて思わず笑ってしまう。

昼食を食べる場所を探して歩いていると通信が入った。

理子さんからだった。


「2人とも、学校が終わったら行ってほしい場所があるの」

「緊急の仕事なら今から行きますけど…」

「学生は勉強するのが仕事だわ、それに貴方達が抜けたくらいで回らなくなる組織なら最初から問題でしょ?」

「理子さーん、私達はどこに行けばいいのー?」

「最近起きている連続火災のことは知っているかしら?」


今朝のニュースで報道されていた。

旧式のガスコンロやオイルヒーターが無いのにも関わらず火災が発生した。警察は放火の可能性を示唆している。


「ORDOは人類解放戦線の関与を仮定したの」


胸の奥がわずかに冷えた。


「分かりました、2人で向かえば良いですか?」

「もう1人三課から応援を出すわ」

「2人でも出来るよ!ね?火花」

「火花君は初任務でしょ?それに海月ちゃんが教えれるの?」

「…はい」


通信を切り昼食を済ませて教室に帰る。

授業が始まってから終業のチャイムが鳴るまでそう時間はかからなかった。

授業が終わり二人は席を立つ。


「火事の現場は学校から歩いて行けるみたいだね…えーっと家主は政治家の人みたいだね」


火花も資料に目を通しておく。

昨夜発生した住宅火災、焼け跡から2人の遺体が派遣された。家主はAI推進派としてよく知られている政治家だった。


——自分と同じだ 

両親を失った夜の光景が蓋をしていた記憶の底から滲み出してくる。

指先が氷のように冷たい。血液が頭に上っていくのを感じる。


「火花、ねぇ火花!」


海月の声で現実に引き戻される。


「そんな怖い顔しないで。解放戦線が関わってるってまだ決まったわけじゃないでしょ?

——それに私だって隣にいるよ」


海月は火花の手を包むように握った

海月の体温が冷たくなった火花の手をゆっくり溶かしていく。

火花は怒りをコントロールしようと深く息を吸った。


「ごめんなさい、海月さん。落ち着きました。ありがとうございます」

「隣に居るのが私じゃ頼りないかもだけど」


海月はへへへ…と冗談めかして笑っていたがその言葉は遥かに火花の心を軽くした。


歩くこと10分程で目的地に到着した。黒く焦げた外壁、コンクリートな骨組みだけが残されてはいるが住居としての機能は完全に失われている。

周囲にはホログラムで規制線が張り巡らされており警察のドローンが警備と記録のために周囲を浮遊している。現場の空気は張り詰めていた。


「あー!ダメダメ、関係者以外の立ち入りは禁止だよ、あるだろ?規制線。見えないの?」

「公共異常対象沈静部隊 特務三課です」


火花と海月は所属を証明するIDカードを取り出した。

警官は一瞬目を見開いた後カードを念入りに確認した。


「現場を荒らすなよ?子供の職業体験じゃないんだからな?」


警官は不服そうに規制線を持ち上げて二人を通した。

規制線をくぐった瞬間海月が小声で憤っていた。


「あのおじさん超感じ悪い!今の言い方ひどくない?」


海月をなだめながら現場に入る。物が焦げた匂いが鼻腔を刺激した。


その時端末に通信が入る。


「やっほ〜2人とも〜 レニだよ〜」

「レニちゃん!どうしたの?」


無線の相手は三課所属、天才ハッカーの天音レニだった。


「警察の通信を拾ったんだけどさ~、怪しい人が現場に居てちょっと揉めてるみたい~」


確かに先程から警察車両の方が騒がしい。


「おい、お前関係者以外立ち入り禁止だと言っているだろ!」

「俺は仕事でここに来ただけだ」


低く落ち着いた声、黒色のミリタリーコートを着た男が警察と話し込んでいた。


「うわーー!ごめんなさい!!その人、知り合いです!」


海月が勢いよく割って入り腕をつかんでこちらに引っ張ってくる。

火花より年上だろう。短く刈られた黒髪と鍛え上げられた身体は佇まいだけで実戦派だとわかる。


「ちょっと石堂さん!なにしてるんですか!」

「任務だが…」

「警察とトラブルになることのどこが任務なんですか?」

「いや…トラブルになっていないが」

「こういうことをトラブルって言うんです!」


火花は言いあう二人をじっと観察していると石堂と呼ばれた男がこちらを見た


「あぁ、朝霧博士のご子息だろう?石堂玄だ。よろしく頼む」


差し出された右手を握り返すと岩のように硬かった。


「朝霧火花です。よろしくお願いします」


「あぁ、では仕事に取り掛かろう」


そう言うと石堂は火災現場の奥へと歩き出した。

建物の中は床も天井も焼け焦げており消火の影響で地面は黒く湿っている。

注意深くあたりを見回していると焦げ跡の中に一枚のカードが落ちていた。

周囲が焼けているにも関わらずそのカードだけは汚れていなかった。


石堂はカードを拾い無言で表を向けた。


「石堂さん、それは…?」

「これは…人類解放戦線のシンボルマークだ」


カードに描かれていたのは目隠しをされた人間だ

AIに選択を奪われたとでも言いたいのだろうか?

解放戦線の関与が明らかになり火花の胸の奥が軋んだ。


「俺達の任務はこれで十分だ」


石堂はカードを懐にしまうと建物から出ていった。

海月と火花も後を追うようについていく。


「もう終わりなんですか?」

もっと調べるべきことがあるのではないか?と火花は思った。


「あとは天音の仕事だ」


そういうと胸ポケットから小さなロボットを取り出した。大きさはペットボトルキャップほどだ。


「遠隔で操作出来る小型のドローンだ。映像も音声もこれで確認できる」

「ちゃっぴー、起動確認~」


通信からレニの声がする


「レニちゃんのロボットなんだよ!」


海月はなぜか誇らしげに話している。


「俺たちの仕事はこいつを起動して配置すること、そして痕跡を持ち帰ることだ」

「了解です」


チームの中で効率的に仕事が割り振られているようだ。

それならこんなにあっさり現場を去るのも納得できる。

3人で建物の外へ戻った、その瞬間だった。

甲高いアラーム音が3人の端末から鳴り響いた。


理子さんの声はいつもより切迫していた。

「3人とも!そこから2キロ先の工場で爆発事故が発生!人類解放戦線が関係している可能性が高いわ!すぐに向かってちょうだい!」


理子さんからの連絡を受けた瞬間に3人は走り出していた。

(次は誰かが被害にあう前に間に合ってくれ)

遠くの空には黒煙が昇っていた。



ここまで読んでいただいてありがとうございます!細かい描写が難しい、、精進します。ではでは!

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