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ここが、僕の居場所

石堂との訓練から三日が経った。

火花は特務三課の自分の机で報告書を書いていた。


「朝霧君」


理子が声をかけてきた。


「はい」

「そういえばあなたの歓迎会ってやってなかったわね」

「歓迎会、ですか」


火花は顔を上げた。


「ええ、レニちゃんの時もやったのよ」


理子が懐かしそうに笑う。


「あの時はみんなでケーキを作ったんだけど、レニちゃんが転んで全部倒しちゃって」

「あ~!その話はやめてって言ったでしょ~!」


空き缶の山の中からレニの声が飛んできた。

理子は笑いながら続けた。


「今回は歓迎会だけじゃなくて海月ちゃんの復帰祝いも兼ねているの」


海月。

灼界者との戦いで重傷を負い休暇を取っていた。

そろそろ復帰する頃だろう。


火花の端末には、海月から連日メッセージが届いていた。

映画を観た。料理に失敗したなどの他愛のない内容ばかり。

火花はいつも、どう返していいか分からずスタンプで返していた。


「海月さんから写真が送られてきてましたけど」


火花は端末の画面を見せた。


「この人どうやって生活してるんですか?」


画面には焦げた何かが映っている。パンケーキだったらしい。


「ちょっとー?今私のこと馬鹿にしてたでしょー!」


ドアが開く。聞きなれた声が聞こえる。

火花が振り向く。


「海月さん」


ドアを開けて入ってきたのは話題の主、白瀬海月だった。

トレードマークのクラゲヘアーが揺れている。


「海月ちゃん久しぶり」


理子が微笑む。


「体調の方はどうかしら?」

「ばっちりです!今ならどんな事件も解決できますよ!」


海月がわざとらしく胸を張った。

海月と話す理子の表情はとても優しかった。


「今日は朝霧君の歓迎会と海月ちゃんの復帰祝いをしようと思うんだけど何がいいかしら…」

「海月の手作り料理パーティーにしたら~??」


にやにやとレニが笑う。


「レニちゃんまで私のことからかうの!?」


海月が頬を膨らませる。


「ごめんごめん~、でも海月の料理、本当にすごいよね~」


レニが笑いながら言う。


「何がすごいの!?」

「色が~」

「うるさい!」


海月がレニに詰め寄る。

火花は、その光景を見ていた。


(いつもの、三課だ)


胸が、温かくなる。

理子が二人を止める。


「はいはい、落ち着いて」


理子が笑いながら続ける。


「じゃあ、今日はみんなで外食にしましょう」

「賛成~!」


レニが空き缶の山から手だけ出す。


「私も賛成!」


海月も手を挙げた。


「朝霧君は?」

「僕は、みなさんに合わせます」

「じゃあ決まりね」


理子が端末を操作する。


「焼肉でいいかしら?」

「やった~!お肉~!」


レニが嬉しそうに跳ねる。


「焼肉ー!」


海月も笑顔になる。

理子が扉の方を見る。


「石堂君も一緒に来てくれるわよね?」


扉の陰から、石堂が顔を出す。


「はい」


石堂が短く答える。

火花は驚いた。


(石堂さん、いつからいたんだ……)


海月が石堂に駆け寄る。


「石堂さん!久しぶり!」

「白瀬。怪我は?」

「もう全然平気です!」


海月が元気よく答える。

石堂が小さく頷く。


「そうか」


理子が手を叩いた。


「じゃあ、18時に駅前集合ということで」

「了解~!」

「はい!」


みんなが返事をする。

火花も頷いた。


「分かりました」


海月が火花の隣に来た。


「火花、久しぶり!」

「はい、久しぶりです」


火花が答える。

海月が火花を見つめる。


「なんか……」

「何ですか?」

「大人になった?」


海月が首を傾げる。


「そうですか?」

「うん」


海月が笑った。


「前より、強そう」

「そんなことないですよ」

「いや、絶対変わった」


海月が断言する。


「訓練、してたんでしょ?」

「……ちょっとだけですけどね」


火花が答える。海月が柔らかく笑った。


「頑張ったんだね」


その言葉はどこかむずがゆかった。


「海月さんも、無理しないでくださいね」

「大丈夫だって」


海月が笑う。


「私、強いもん」


その時、レニが間に入ってきた。


「ねえねえ~、二人とも~」

「何?」

「何ですか?」

「なんか…仲良しだね~?」


レニがニヤニヤしている。


「べ、別に!」


海月が慌てる。


「普通ですよ」


火花も視線を逸らす。


「ふ~ん」


レニが意味深に笑った。

理子がこちらに声をかける。


「はい、解散。18時まで自由時間よ」

「了解です」


火花が答えた。


――――――――――――


夕方。火花は自分の部屋で準備をしていた。

しばらくクローゼットの前から移動していない。

何を着ていくべきか。普段着でいいだろうか。

それとも、もう少しちゃんとした服の方が?


(何を悩んでいるんだ、僕は)


火花は頭を振った。ただの歓迎会だ。気にすることはない。

その時、端末が震える。メッセージだ。


メッセージの主は海月だった。


『火花、何着てく?』


火花は少し考えて返信した。


『普段着です』


すぐに返信が来る。


『そっか!じゃあ私も普段着で行く!』


火花は、画面を見つめた。


(なんで僕の服装を聞いたんだ?)


分からない。だが――悪い気は、しなかった。


――――――――――――


18時。駅前にはみんなが集まっていた。


レニは相変わらずパーカー。

理子はオフィスカジュアル。

石堂はミリタリージャケット。


そして――

海月が、来た。


「みんな、お待たせ~!」


火花は息を呑んだ。

海月が身に着けていたのは白いワンピース。

髪は、いつものクラゲヘアー。


ひらひら揺れるフリルと髪の毛はいつもより華やかに見えた。

目を離せないでいる火花のことを海月は不思議そうに見る。


「あれ、火花?どうしたの?」

「いえ、何も」


火花は慌てて視線を逸らした。

レニがニヤニヤしている。


「火花~、お年頃だね~?」

「なにがですか。」


火花が否定する。理子が笑った。


「さあ、行きましょうか」

「はい!」


みんなが歩き出す。火花と海月が、並んで歩く。

海月が小さく笑った。


「火花」

「何ですか?」

「お肉、いっぱい食べよ!」


その言葉に、火花は笑った。


――――――――――――


焼肉店。店内は賑やかだった。特務三課は、奥の個室に通された。

大きなテーブルには二つの七輪がセットされている。


「わあ、個室だ!」


海月が嬉しそうに声を上げる。


「今日は特別だもの」


理子が微笑む。みんなが席に着く。


火花の隣に、海月が座った。

反対隣には、レニ。向かいには、石堂と理子。


オーダーを済ませるとドリンクが運ばれてきた。


「じゃあ、乾杯しましょう」


理子がグラスを持つ。


「朝霧君の歓迎と、海月ちゃんの復帰を祝って」


みんながグラスを持つ。


「乾杯!」


グラスが、ぶつかり合う音。火花は、みんなの顔を見た。

海月の笑顔。レニの悪戯っぽい顔。

石堂の穏やかな表情。理子の優しい目。


(ここが、僕の居場所だ)


火花は、そう思った。海月が肉を焼き始める。


「火花、何食べたい?」

「えっと……」

「じゃあ、カルビ焼くね」


海月が肉を網に乗せる。

肉の焼ける匂いと音がする。


隣でレニがエナジードリンクを取り出した。


「レニちゃん、それはダメよ」


理子が即座に取り上げる。


「え~、お祝いなのに~」

「ダメなものはダメ」


理子が笑いながら言う。

石堂が、黙々と肉を焼いている。火花が声をかける。


「石堂さん、焼くの上手いですね」

「……訓練の一環だ」


石堂が短く答える。


(訓練……?)


火花は首を傾げた。海月が火花の皿に肉を乗せる。


「はい、火花」

「ありがとうございます」


お肉を食べては白米を頬張る。

火花も育ち盛りの高校生だ。

食欲には逆らえない。


「美味しいですね」

「でしょ?」


海月が嬉しそうに笑う。

レニが言う。


「海月~、ボクにも焼いて~」

「自分で焼きなよ!」

「え~、火花の分は焼いてたじゃん~」


二人のやり取りを見ながら、火花は笑った。

理子が火花を見る。


「朝霧君」

「はい」

「ここでの生活、どう?」


理子が聞く。火花は、少し考えた。


「……楽しいです」


火花が答える。


「最初は、不安でした」


火花が続ける。


「でも、みなさんがいてくれて」


火花が、みんなを見た。


「今は、ここにいて良かったと思っています」


理子が微笑んだ。


「そう言ってもらえると、嬉しいわ」


海月が火花の肩を叩く。


「火花、私たち仲間だからね」

「急に先輩風吹かしますね」


レニが手を挙げる。


「ボクたち、最強のチーム~!」


石堂が小さく笑った。


「……ああ」


火花は、この瞬間を忘れないと思った。

みんなで笑い合う、この時間を。


――――――――――――


食事が終わり、帰り道。

夜の街を、みんなで歩く。

海月が、火花の隣を歩いている。


「ねえ、火花」

「何ですか?」

「今日、楽しかった?」


海月が聞く。


「はい、とても」


火花が答える。海月はそれを聞いて笑った。


「良かった」


少しの沈黙。

火花が口を開く。


「海月さん」

「ん?」

「怪我、本当に大丈夫なんですか?」


火花が心配そうに聞く。海月が立ち止まった。

火花も、立ち止まる。海月が、火花を見た。


「心配してくれるの?」

「当然です」


火花が答える。海月の顔が、少し赤くなったように見えた。


「……ありがと」


海月が小さく言う。


「大丈夫だよ。もう全然痛くない」

「そうですか」


それを聞いて少し安心した。海月が続ける。


「でも…」

「でも?」

「火花が心配してくれるなら」


海月が悪戯っぽく笑う。


「ちょっと痛いかも」


火花は、一瞬固まった。


「え、じゃあ病院に――」

「冗談だよ」


海月が笑う。火花は、ため息をついた。


「驚かさないでください」

「ごめんごめん」


海月が笑いながら謝る。二人は、また歩き出す。

前を歩く理子が振り返った。


「二人とも、置いてくわよ」

「あ、すみません」


火花が慌てて追いかける。海月も、小走りで追いかけた。

レニは会計時に貰ったミント味のガムを器用に膨らませている。

前からレニの声がする。


「二人とも、仲良しだね~」

「違います」

「違うもん」


火花と海月が、同時に否定した。

レニが笑う。


「息ぴったり~」


火花は視線を逸らした。隣で海月も顔を赤くしている。

石堂が小さく笑っているのが見えた。


――――――――――――


PAST本部に戻った。

理子がみんなを見る。


「じゃあ、今日はこれで解散ね」

「お疲れ様でした」


みんなが答える。海月が火花に声をかける。


「火花」

「はい」

「また明日ね」

「はい、また明日」


海月が笑って、去っていく。

火花は、その背中を見送った。

レニが横に来る。


「火花~」

「何ですか」

「海月のこと、好きなの~?」


レニがニヤニヤしている。


「は、はあ?」


火花が驚く。


「顔、赤いよ~」

「赤くないです」


火花が否定する。レニが笑った。


「まあいいや~、頑張ってね~」


そう言って、レニも去っていく。

火花は、一人残された。


(好き、か……)


火花は、自分の胸に手を当てた。

分からない。

でも――

海月といると、楽しい。それだけは、確かだった。

火花も三課を後にした。


――――――――――――


その夜。

火花の端末に、メッセージが届いた。


神谷からだった。


(神谷さんから連絡なんて珍しいな…)


『朝霧君、明日時間を作ってくれ。会わせたい人がいる』


火花は、画面を見つめた。


(会わせたい人……?)


不思議な予感がした。

それが何なのか、まだ分からない。

――明日、何かが始まる。

そんな気がした。火花は素早く指で端末をフリックする。


『分かりました』


火花は、窓の外を見た。夜空に、星が瞬いている。


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