表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/14

祈りが届く前に

本日2本目です!(後半に当たりますので前半もぜひ!)

蒸気が完全に晴れても、レニの姿はどこにもなかった。

地面には、小さなエナジードリンクの缶が一つ。

転がっているだけだった。

レニを見失った火花は大通りに駆け出した。

だがそこにレニの姿は無い。

周囲を探るように視線を巡らせると、黒い車が猛スピードで遠ざかっていくのが目に入った。

胸の奥に、嫌な想像がじわりと広がる。

すぐに通信を開いて理子に連絡をする。


「理子さん、レニさんが——」

「朝霧君、落ち着いて。レニがどうしたの?」

「レニさんが、居ません、恐らく、連れ去られました」


理子の声が、一瞬だけ震えた。

 

「本当に…!?まずいわ、レニちゃんは貴重な戦力だし、それに——」


理子は言葉を切った。


「——それに、大切な仲間だから」


「僕が、一緒に居たのに…すみません」


火花の声には自責の念が滲んでいた。


「朝霧君」


理子の声が、厳しくなる。


「今そんなことを言っても仕方ないわ。レニちゃんを助けることだけを考えて」


「…はい」


「まずレニちゃんの居場所を特定する。犯人も分かれば御の字ね」


理子は冷静に指示を出した。


「救出のためなら、戦闘も辞さない。でも——」


理子は一拍置いて、続けた。


「あなた自身の安全が最優先よ。無茶はしないで」

「分かりました」

「気を付けて、朝霧君」


通信が切れた。


火花は車が走り去った方向に歩き出した。

——だがすぐに後悔した。

先ほどまでレニが案内してくれていた道は彼女が居なくなった途端に迷路へと変わった。

この道は右に行くべきか、左か。この階段は上に行くべきか、下がるべきか。

どれくらい歩いただろうか。

気がついた時には地下街の集合住宅の前に立っていた。

古びた5階建ての建物、壁の塗装は落ち、錆び付いている。

中に入り郵便受けを確認する。各階に6部屋ずつあるようだった。

火花は1階の端の部屋から呼び鈴を鳴らしてみる。


「…なんですか?」


扉の向こうから小さく女性の声が聞こえる。


「少し伺いたいことがありまして」

「すみません、今手が離せないので」

「すぐ終わります!」


しかし、その後の返事はなく火花は諦めて他の部屋に向かった。

隣の部屋、その隣と呼び鈴を鳴らす

留守なのか居留守なのかどの部屋も返事が無い。

返事が合ったとしても——


「地上の人間には関わりたくない」

「帰ってください」

「捕まえにきたのか?」


冷たい拒絶ばかりだった。

そんなことを繰り返しているうちに5階まで来てしまった。

火花は半ば諦めながら呼び鈴を鳴らす。


「…なんの用だ?」


ドアの向こうから男の低い声が聞こえる。


「聞きたいことがありまして。お時間は取らせません」


数秒の沈黙。ここも駄目か、と部屋の前を立ち去ろうとする。

ガチャ

ドアが開くと190cmはあろうかという大男がこちらを見ていた。


「何が聞きたいんだ」


男は火花をギロリと睨んだ。


「地上の人間が、何を聞きたい」


火花は端末の画像を見せる。


「この教典や宗教を知りませんか?」


男は画像をじっくり見た後こちらを見て


「上がれ」


と一言だけ言って中に戻ってしまった。

火花はゆっくりと警戒しながら玄関に入った。


「お邪魔します」


男の部屋は雑然としていてタバコの吸い殻が散らばっていた。


ソファーに腰掛けながら男が名乗った。


「ブルーノだ。名前は覚えなくて良い」


ブルーノはタバコに火を点けると火花を見て言った。


「なんでその宗教のことを知りたいんだ?」


火花は一瞬、躊躇した。


レニがここに連れ去られたという確証はない。

ブルーノが信者かもしれない。

慎重に言葉を選んだ。


「…友達を、助けたいんです」


火花の声には、切実さが滲んでいた。

ブルーノは、火花の目をじっと見た。

数秒の沈黙。

ブルーノは天井を指差した。


「友達も上から来たのか?」


火花は黙って頷く。


「それならこいつらは危険だ」


ブルーノが話し始めた。


「こいつらはAIからの解放と地上への復讐を謳っている。この考えが地下街でどれほど支持されるか、想像するのは難しいことじゃないだろ?」


ブルーノはため息を吐くと続けた。


「俺の兄貴は地上と地下を繋ぐ物流業者だった。

それをこいつらに難癖をつけられて商売が難しくなった」


火花は驚いた。地上と関わりがあるというだけでここまで敵対心を持たれるのか。


「…今、お兄さんは?」

「入院中だ、ここの信者とトラブルになって…リンチされた」


ブルーノの拳に力が込められているのが見える。

火花はさらに質問をした。


「ここの教祖にはどこに行けば会えますか?」

「さぁな、ただあそこに見える塔。あいつらは梯子と呼んでいたが、そこが奴らの聖地だ」


火花はすぐに塔に向かうことにした。


「お時間取らせてすみません。とても助かりました。ありがとうございます」

「あぁ、お前も気をつけろ。地上の人間は目立つからな」



火花は頭を下げて部屋を飛びだした。

道がわからなくても塔はどこからでも見える。

息を切らしながら塔の下に到着した。

呼吸を整えながら塔の中に入ろうとする。


「おい、ここがどこだか分かってるのか?」


入り口に立っていた警備員に制止される。


「自由の輪の幹部に会いたいんです」

「申し訳ないが地上の人間を通すことは出来ない。帰ってくれ」


警備員の声は有無を言わさぬ様子だった。

周囲の人の視線が火花に突き刺さる。

地下街の住民たちが火花を睨みつけていた。


(ここで騒ぎを起こせばレニさんを助けられないかもしれない)


火花はその場を後にした。

 

「どこか裏口はないのか、どうにかして中に入らないと…」

塔の周辺を周り何か糸口を掴もうとする。

その時だった。

火花の目の前に小さな黒い物体が落ちてきた。


――――――――――――――――――――――


——20分前、塔最上階にて


「初めまして、私は久世レオン。この自由の輪の教祖です。そして、ようこそ。我々の聖地[逆天の梯子]に」


久世レオンと名乗った男は黒い修道服に身を包んでいた。

久世はくるりと振り返って地下街を一望出来るガラスの前に立った。


「良い眺めでしょう?ここは地下で1番高い場所で地上に1番近いところです」


久世の声は穏やかだった。


「ようこそって割には随分手荒な挨拶だね〜、手錠まで繋いじゃってさ〜」


レニは手首を持ち上げた。

黒い手錠がガチャリと音を立てる。

鍵穴がない、きっと電子ロックのタイプだろう

レニは辺りを見回しながら続けた。


「良い眺め?冗談でしょ〜?地下で1番高くても地上に出たわけじゃないのがわからないの〜?」

「なるほど、その挑発的な態度は噂通りのようですね、天才ハッカーの天音レニ」

「ボクのこと知ってるの〜?いつのまに有名人になっちゃったな〜」

「えぇ、私は何度も貴方をスカウトしようとしました。今回も同じです」


確かに以前からレニのアドレスには意味不明な文章が送られてきていた。


「あの管理者がどうとか言ってるやつのこと〜?あんなガキっぽいメッセージをスカウトだとは思わないよ〜」

「ORDO、そしてPASTと戦うにはハッキングに長けた人材は不可欠です。——…そして貴方の位相装備も」

「!?」


個人の位相装備の能力はPASTですら上層部の人間と特務三課のメンバーしか知らない機密情報だ。そしてレニはPASTに所属してから一度も外で展開したことが無い。


「先程から随分こちらを挑発しているようですがご自身の立場が分かっていないようです」


久世は部屋にあるスクリーンの電源を入れた。

そこに写っているのは先程までレニが居た保育園だった。


「なんでここを…」

「地下街の情報は全て手に入るのですよ。貴方がここの保育園に通って物資を援助していることも」

「…脅してるの〜?」

「えぇ、でももし貴方が協力をしてくれるのであれば危害は加えませんよ」


レニは——珍しく動揺していた。

今までずっと、あの子達を守るために働いてきた。

地下街の人や両親にすら裏切り者と言われても。



「…本当にみんなには何もしないの?」

「はい、約束しましょう。貴方の態度次第で彼らの安全を保障します」


久世は微笑んだ。


(みんなを失うくらいなら…)

レニの中で先程の火花の言葉が思い出される

「どこで働いてるかは重要じゃない」


(それならば解放戦線で働いても子供達は喜んでくれるよね…)


(命より、重いものはない…だから)


——待て

レニは自分の思考を遮った。


(違う)

(ボクは特務三課所属天音レニだ。)

(特務三課ならこの場を打開しろ。)

(諦めるな。危険因子を制圧して子供たちの笑顔を、

平和を守れ。)



まだ出来ることがある。

レニは久世から見えないようにパーカーのポケットに手を入れた。そこにはレニの開発した自走小型ロボットちゃっぴーがある。


(お願い、火花を見つけて)

レニはそっとちゃっぴーを起動して地面に置いた。

久世に気づかれないように会話を続ける。


「君たちって約束を守れるの〜?大体なんで解放戦線が宗教なんてやってるのさ〜」

「我々の信仰は地下からの解放とORDOの破壊が軸になっています。解放戦線のメンバーを集めるのにとても美しい方法だとは思いませんか?」


レニはさりげなく部屋を見回した。

天井の隅に空調がある。


(あそこに空調のダクトがある。そこからなら…)


「地下のメンバーを集めたところで上には上がれないでしょ〜」

「それは我々の計画次第です。世間話はこれくらいにして答えを聞かせてもらいましょうか?」


(間に合え、これ以上時間を稼ぐのは難しい)


ちゃっぴーはダクトに向かって素早く進んでいく。

久世が視線を向けたので机の裏に隠れた。


「おや?何か動きましたか?」


1歩、2歩、久世は机に近づいていく。

(この状態でちゃっぴーが見つかれば詰みだ。

止まれ、止まれ、それ以上進んだら…)


その時扉が開いた。


「教祖!エントランスで騒ぎが起きています!」

「この部屋に入る時はノックをしろと言ってるだろう、今私は忙しいんだ」

「しかし、地上の人間が通せと…」


レニはそれを聞いた瞬間に火花だと確信した。

(火花が来てる、すぐそこまで)


「我々では鎮めることが出来ず…」

「信者が騒いでいるのか、仕方ない、私が鎮めよう」


久世は部屋を出て行った。

最後にレニの方を振り返って言った。


「貴方の答えは私が戻ってきた時に聞くことにしましょう。その時までよく考えておいてください」


1人になった部屋でレニは呟いた。


「お願い、ちゃっぴー、火花、ボクを助けて」


――――――――――――――――――――――


そして現在に至る。



火花はちゃっぴーを拾い上げた。

これが落ちてきたということはこの塔の上にレニが居る。


目の前の鉄の塔を見上げる。

鉄骨で組まれた巨大な塔。 

高さは…300mくらいだろうか。

かつて関東周辺に電波を届けていた電波塔と同じくらいの高さに見える。

頂点は蒸気とガスが混ざった雲で霞んでいた。


火花は上着の内ポケットに手を入れた。

確かな感触を感じる。

黒緑のコイン、翠雷のアンカー


火花は翠雷を握りしめた。


深く息を吸う。

「特務三課、朝霧火花——」


火花は鉄の塔の頂点を睨みつけた。


「——装備展開」



黒い触手が肩から展開された。

緑色の電流が触手を駆け巡った。


――――――――――――――――――――――


「さて、返事は決まりましたか?」


久世は座り込んでいるレニを見下ろした。

よく通る、穏やかな声で最後通牒を突きつけている。


「ボクは…」


間に合わなかった、この塔のセキュリティを火花一人で突破することは出来なかった。


(手は尽くしたよね〜、もう何も出来ないな〜」


「おや、答えられませんか?では10秒差し上げます。0になるまでに答えられなければ襲撃の指示を出します」


「10」


久世の声が静かに響いた。

カウントダウンが始まった。

レニの中で——答えは決まっていた。

(子供達を守るために彼らに協力するしかない)


「9」


「8」


「早く答えなければここに居る子供達はみな死にますよ」


久世は微笑みながらレニを見ている。


「協力する。と一言言えば良いだけです。それでみんな助かるんですよ」


「7」


「6」


「5」


(もう限界だ、ごめんなさい理子さん、危険因子だったボクを仲間にしてくれたのに、裏切って)


「き…きょう…」


なぜかその後の言葉が発せない。まるで声帯が意思を持ってその後の言葉を拒んでいるようだった。


「4」


「言っておきますが、私は嘘が嫌いです。

嘘ほど信仰を損なう行為はありませんから」


「待ては——無しですからね」


「3」


「2」


「1」


「それが貴方の選択ですか、いいでしょう。その選択が生んだ犠牲をそこで見ていてください」

久世が通信に手をかけた。


——その時だった


バリッ!


緑の雷が部屋のガラスを砕いた。

破片が飛び散る。

割れた窓から人影が飛び込んでくる。


「誰だ!」


久世が声を荒げた。


人影はゆっくりと久世を向いた。

肩からは緑の電流を纏った黒い触手が揺らめいている。

火花は久世を睨みつけた


「PAST特務三課所属、朝霧火花」


レニの目には涙が滲んでいる。

(——間に合った)

火花の視線が久世の隣のモニターに向けられる

映っている保育園を見て一瞬で状況を理解したようだった。

周囲の電圧が高まっていく。

空気が震える。


「解放軍はどいつもこいつもクズばかりですね」


バチっ!

高まった電気が爆ぜた。

火花は冷たく、淡々と告げた。


「対象を危険因子と認定。鎮圧します」


はい!今回は今までで1番よく書けたかな、と思います。

(まだまだですが)

今回は初めて視点を切り替えて書いてみました。

どうやって切り替えるかわからなかったので線を引いたり時間を変えたり…

まだまだ練習が足りません。


ブクマやらレビューやら評価やら待ってます!

ではでは

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ