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自分で、選べ

6歳の誕生日は、よく晴れた日だった。


「火花、おめでとう」


母が優しく微笑む。


「大きくなったな、火花」


父が頭を撫でてくれる。テーブルの上には、火花の好きなイチゴのショートケーキ。

6本のロウソクが、小さな炎を揺らめかせていた。

よくある誕生日の歌を父と母が歌い始める。火花は目を閉じた。

息を吸い込んで——


その瞬間だった。

ドンッ!家全体が揺れた。

窓ガラスが砕け散る音と遠くで何かが爆発する音が聞こえる。


「火花!」


父が火花を抱きかかえた。


「逃げるぞ!」


その時リビングのドアが吹き飛んだ。爆風がドアを押し破る。

炎が、津波のように押し寄せてくる。

熱い、息ができない。


「AIに管理された世界に、自由はない!」

「ORDOを作った罪人に、裁きを!」


玄関の外から、男たちの声が聞こえる。

人類解放戦線——父がそう呟いた声を、火花は聞いた。


「火花」


母が、しゃがみ込んでこちらを見た。

優しく微笑んでいたが目には涙が浮かんでいた。

震える母の手が、何かを握らせた。黒と緑のラインが走る、六角形のメダル。


「これが、必ずあなたを守ってくれるから」

「ママ…?」

「大丈夫よ。大丈夫」


母は何度も繰り返した。父が火花を抱き上げる。


「火花、よく聞け」


父の顔は、煤で汚れていた。


「お前は、強い子だ」


父は、火花の目をまっすぐ見た。


「だから、生きろ」

「パパ…?」


父は最後に、笑った。


「自分で、選べ」


背後で、何かが崩れる音がした。それと同時に父が火花を窓の外へ放り投げた。


「火花ーーーっ!」


母の叫び声。火花の体は宙を舞い、隣家の庭に落ちた。

振り返ると——

家が、炎に包まれていた。オレンジ色の炎が、全てを飲み込んでいく。


「ママ!パパ!」


火花は叫んだ。もう声が出なくなるくらい、叫んだ。その声に応える人はもういなかった。

炎が、全てを奪っていった。サイレンの音が聞こえる。誰かが駆けつける足音。

火花は、ただ立ち尽くしていた。手の中の、黒と緑のメダルを握りしめて。

涙も、もう出なかった。

——それから12年。

朝霧火花は、まだあの夜の炎を忘れられずにいた。




『あなたに最適なファッションを!』

『AI進路診断!就職支援も!』

街を歩くだけでウェアラブルデバイスを通して目の前に大量の広告が表示される。AIの選定によって一人一人に効果的な広告が選ばれているのだろう。


「僕みたいな人間にはありがたい話だよなぁ」


朝霧火花は18年間の人生の中で自分で判断らしい判断を下した覚えがない。現在の高校に進学したのは勿論AIの判断であるし、先ほど口にした食事も栄養バランスと電子マネーの残高からAIが勧めてくれたものである。AIの判断に間違いはない。

とはいえ、目の前に広告が表示され続けるのは正直なところストレスでもある。これは本当に、マーケティングとして正しいのだろうか。そう思いながら、火花は広告を非表示にした。


「うわ、間違えてサイト開いちゃった」


なるほど、どうやらここまでAI様は見越してのマーケティングであるらしい。清々しいまで合理的であり感情というものをまるで無視している。

しかしこの程度のことでAIに文句は言えまい、現在の日本が世界で1番平和な国家と言われる理由もAI様のおかげだからである。


[統治補助知性 -ORDO]

この南北に伸びる島国全てを網羅し管理、監視

治安に問題がある行動を発見すると異常分子として適切な処理が下される。


字体だけ見るととても恐ろしい監視社会だと感じるが火花のような人間はORDOがもたらす平和を享受している側なのでさしたる不満は無い。

もっとも、その平和を守るために戦う者たちも存在する。


PAST——公共異常対象沈静部隊。

彼らは「位相装備」と呼ばれる特殊な武装で危険因子と戦う。

量子技術で作られた超常的な装備は、小型デバイス「アンカー」に収納され、必要な時に展開される。

火花の胸ポケットにも、その一つがある。

黒と緑のメダル。両親が残した【翠雷】だ。


先ほど現在の高校に進学した。と言ったがこれには語弊がある。正しくはAIの判断によって引越しとそれに伴う転学である。

今は6月であるから高校最後の夏を今までの学校で過ごせないというのはとても残念だったがそこまで友達は多い方ではないしそもそもAIの判断ならそれが最適なんだろうなと思いながら転学を決めた。


『静かにしてください、本日転入の生徒が居ます。朝霧君、自己紹介を』


電子黒板の上のスピーカーから教師を担当しているAIの音声に促されるまま自己紹介を行う。


「初めまして、朝霧火花です。本日から皆さんと一緒に勉強させて頂きます。短い期間ですがよろしくお願いします。」


まばらな拍手の間を通って席につく。昔は隣の席の学生が学校を案内してくれたりしたらしいが今はAIが案内してくれるので必要がない。学生の夢が一つ消えたんだとじいちゃんが言っていたことを思い出す。


「初めまして、朝霧君だっけ?今日の授業で使うテキストのファイルを共有して欲しいんだけど…」


突然横から声をかけられたのでそちらに顔を向けると雪のように白い髪は肩くらいで揃えられた重めのボブに2本の長い束が揺れている。いわゆるクラゲヘアである。

隣の子に話しかけられるなんて古典的な学園ものみたいだなぁ、じいちゃん、まだ学生の夢は消えてなかったよ。なんて脳内でじいちゃんに語りかけていると意識を呼び戻される。


「おーい!聞こえてる??私のことミュートとかにしてるわけじゃ無いよね??」

「あ、ごめんなさい 授業毎のページから再ダウンロードすれば良いんじゃないですか??」

「出来ればやってるよ!テキストダウンロードの期間を過ぎちゃってるの!」

「そうなんですか…じゃあ共有しますけど…」


火花は前日までに授業ごとにファイルの整理を行い課題提出まで済ませているので授業のテキストを探すのに10秒もかからなかった。


「本当にありがとう!私この授業のテキストだけ毎回無くなっちゃうんだよね!」


本当にそうなら何かシステムに致命的な問題があるんだろうなと思ったがシステムと人間どちらにエラーが起こるか?と考えた時に問題の所在は…


「今失礼なこと考えてない??」

「いや、全然そんなこと無いです!初めまして白瀬さん」


同じコミュニティに属する人が氏名を公開設定にしている場合AIが自動表示してくれるため火花は初対面の人間であっても名前を知ることが出来る。

勿論目の前でビー玉のような青い目を細めてこちらを訝しんでいる少女 白瀬海月(くらげ)も例外では無い。

少女はしかめていた眉を戻して笑顔を作って続けた。


「海月で良いよ〜!タメ口でいいしさ!」

「って言われても敬語は癖みたいなものなんですよね…距離を作ってるわけじゃ無いんですけど…」


今の発言は全て真実ではない。火花は幼少期から他人と一定の距離を置くようにしている。敬語が癖なのは本当だが


「じゃあ火花って呼んでも良いかな!?綺麗で素敵な名前だな〜!」

「好きに呼んでもらって良いですよ」

「じゃあ火花ね!この時期に転入なんて珍しいよね?なにか事情があったの?あ、個人情報だったよね…ごめんね!答えなくていいから!」

「あ、全然複雑な事情とかなくてただAIに勧められたんです。勧められた理由は教えてくれなかったんですけど…」

「そうだったんだ!じゃあ安心だね、AIが教えてくれたなら!」


AIネイティブ世代と言われる僕たちの中でのAIへの信頼は絶大なものである。普通であったら不安になる高校3年生での転校もAIの判断となれば全てが正しくなる。でもこの距離感の詰め方までAIの指示なのか?


「火花!このあと時間ある?仲良くなれたしご飯行こうよ!あ、勿論私が奢るからね!」


仲良くなれたかは怪しいところだが少なくとも悪い印象は持たなかった。

AI様によるとここは食事に行くべきらしいので出来るだけの笑顔を作って対応する。


「良いですよ、今日は午前中で学校は終わりますからね」


なぜ食事に行くべきかはAIは教えてくれなかった。



初めまして!全てをAIが決めてくれるなら人間は必要なのか、という自身の疑問から書きました。

よろしくお願いします!


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