デバイスダイバー8
依頼人には「データは見つからなかった」と虚偽の報告をする主人公。
だが研究の解析から、“次元の狭間”を観測する方法が判明する。
中継デバイスを経由して垣間見えたのは、凍結したままの研究員たち。
その中には――彼女の元恋人の姿もあった。
自由に出入りできるのは、主人公と彼女、そしてアイボーだけ。
狭間に囚われた人々を救う戦いが、いま始まる。
デバイスダイバー8 ―次元の狭間―
「……データは、見つからなかった」
俺は依頼人にそう告げた。
嘘だ。だが、あの研究記録を渡せばまた誰かが消える。
報酬よりも守らなければならないものがあると、俺は決めた。
依頼人は不満をあらわにしたが、構わない。
これ以上は危険すぎる。
——
数日後。
アイボーが嬉々としてくるくる回りながら報告してきた。
「ご主人! あの研究データの断片から、“次元の狭間”を覗ける手順を発見しました!」
「覗ける……?」
「はい! 直接飛び込むんじゃなくて、まずは中継デバイスを経由して観測できます!」
球体の表面にホログラムが浮かぶ。
黒ヴェールの女が現れ、静かに言った。
「見せて」
——
デバイスを起動すると、半透明の膜の向こうに“別の世界”が揺らめいた。
虚空に浮かぶ人影。十数名。みな凍りついたように動かない。
「……彼らが研究員たち」
俺は息を呑んだ。生きている。だが時間が止まったかのようだ。
「狭間に取り込まれたのね……」
彼女の声がわずかに震える。
「ご主人、このシークエンスを使えば僕たちは自由に出入りできます!」
アイボーが得意げに矢印アイコンを点滅させる。
——
俺と彼女とアイボーは、狭間に足を踏み入れた。
空気は冷たく、光は歪んでいる。
研究員たちは氷像のように立ち尽くしていた。
「……いた」
彼女は駆け寄り、ひとりの青年の前に立った。
黒ヴェールが揺れる。
「まだ……生きてる」
震える声が、狭間の静寂に響いた。
俺は言葉を失った。
胸の奥が鈍く痛む。彼女の背中を見つめながら、ただ拳を握る。
そのとき、アイボーが軽やかにくるりと回って、にっこりアイコンを浮かべた。
「残念でしたね、ご主人。でも大丈夫! 私がいます!」
「……お前なぁ」
思わず苦笑が漏れる。
だがその一言が、不思議と心を軽くした。
——
研究員たちはまだ凍結されたまま。
だが道は見つかった。
俺と彼女とアイボーで、この狭間に囚われた人々を取り戻す。
本当の戦いは、ここからだ。