第一話:追放って、もうちょいこう……ドラマチックなもんだと思ってた。
かつて勇者パーティで「俺がいなきゃ詰んでたな」とドヤ顔していた三十路の自称参謀・ケンタ。
しかしその実態は、作戦も管理もザルで、ただの口だけおじさんだった。
――そして、あっさり追放。
宿代三日分と、ちょっとだけの同情を手に放り出されたケンタは、
自暴自棄になりつつも「せめて静かに暮らしたい」と辺境の田舎村を目指す。
「もう働きたくない……ていうか、働ける気もしない……」
と、半分ふてくされながら辿り着いたその村で、なぜかとんでもない“誤解”が始まる。
「勇者パーティの“影の頭脳”がこの村に!?」
「本物の戦術家だって……!?」
「神の導きで現れた賢者様だ!」
……ちょ、待ってくれ。俺マジで何もしてないのに!?
これは、“中身ゼロ”の三十路おっさんが、なぜか伝説扱いされながらのんびり(?)暮らしていく物語。
運だけで好感度が爆上がり、でも本人はずっと胃が痛い。
それでも、誰かの役に立ちたいと思い始めた――そんな微妙に等身大のスローライフ。
「ケンタさん、今日の作戦指示……まだですか?」
「おう、任せとけ。頭の中ではもう完璧だ。あとは動くだけってやつよ」
「……はい」
*
「なあ、ケンタさん」
焚き火の明かりがちりちりと小さくなっていく夕暮れ。
仲間たちの視線が、珍しく全員こっちに向いてる。
──なんだよ。珍しく注目されてんじゃん、俺。
「正直、もういらないっすよね」
言ったのは、最年少の天才魔導士・エリル。18歳。口悪いけど、まあ優秀。
……いや、いやいやいや、なにそれ。いきなり本音すぎない?
「いやいや、お前らさ、俺がいなきゃ何回詰んでたと思ってるわけ? そもそもだな――」
「全部“気のせい”でした」
間髪入れずにリーダーのリュドが言う。
同い年の30代、勇者。イケメン。ガチ有能。まじでつらい。
「物資管理、間違いだらけだったよな? 回復薬の在庫ゼロ事件、もう二度目だよ」
「作戦指揮って、“とりあえず前行って殴ろう”しか言ってなかったっすよね」
「あと、“敵の動き読めてる”って言ってたのに、思いっきり罠に突っ込んでたの、あれ普通にケンタさんだけ食らってましたよ」
「…………」
う、うぐ……ま、まだなんか言えるはず……!
「てことで」
リュドが話をまとめに入る。やめろ、その締める口調はダメだって!
「ケンタ。悪いけど、今日でパーティ抜けてもらう」
「……あ、うん……」
……えっ。あっさりすぎんか?
もっとこう、「お前の分まで俺たちが頑張る!」とか「いつかまた一緒に戦おうぜ!」とか、そういう感動的なヤツは!?
これ、ただの“使えないおっさんがリストラされた”って話じゃねぇか!
「宿代、三日分までは払っとくから。あとは……体に気をつけてな」
「うぅ……優しいぃ……でも痛ぇぇぇ……!」
*
そんなわけで俺、ケンタ(30)・自称S級サポート・実際ほぼ戦力外、本日をもって勇者パーティから華麗に追放されました。
何もない。手持ちの装備は安物のマントと、役に立った覚えのないメモ帳。
「……いや、マジで俺、明日からどうすんだ?」
初めて気づいた。
「“俺がいなきゃ詰んでたな”って……俺の人生の話だったんだな……」
そしてケンタの、のんびり(できるか不明な)追放スローライフが、ゆる〜く始まった。
【To be continued...】