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本日も夢見る乙女全開で


 小さな宿屋の窓から、朝の魔力をたっぷり含んだ金色の光が差し込んでいる。

 その光が、部屋の割合の殆どを占めている大きめのベッドに眠る二人を照らしていた。


 一つは、少し長めのブラウンの髪に、身長が高くて痩せすぎた男。

 もう一つは、燃えるような赤髪に、健康そうな女性らしい身体つきをした女だ。

 二人は互いに寄り添うようにして眠っている。



「………ん…」


 僅かに開いた瞼からレッドブラウンの瞳が覗く。

 その瞳は、目の前にいる人物の顔を捉えた後大きく見開かれ、すぐに優しく細められた。


──あぁ…ヴィーだ……ヴィー昨夜はやっぱり、優しかったなぁ………それに、朝から目覚めたらヴィーがいるって、幸せだわ………次に町に帰ったら小屋のベッドも大きくして、私も住まわせてもらおうかしら…


 セシルがそんなことを考えながら、穏やかな顔をして眠るヴィクターに抱きついた。

 その衝撃で、ヴィクターもゆっくりと目を開ける。

 そして、いつの間にか自分が眠ってしまったことと、ベッドの中にセシルがいるのに気がつき、罪悪感に呑まれていた。


──あぁ……何もなかったものの……セシルと同じ部屋で一夜を明かしてしまった………



 セシルが、ヴィクターも目覚めたことに気がつき、彼の顔を覗き込む。


「…おはよう…ヴィー…」

「……っ……」


 少し頬を染めて嬉しそうなセシルを見たヴィクターは、胸が締めつけられるように痛み、眉間にしわが寄った。


「…どうしたの…?…どこか痛い?」

「……いや、何でもない………おはよう、セシル…」


 ヴィクターの朝の挨拶を聞いて、セシルは嬉しそうに笑った。

 そして、そのまま頰を染めながら言った。


「………昨夜は…ヴィー…優しかったわね………私、とっても幸せだった…」

「………?……あぁ…」


 ヴィクターは、セシルがどの部分を優しいと言ってるのか分からないままに、なんとなく相槌を打つ。

 セシルはあまり、ヴィクターの反応を気にしていないようで、そのまま続けた。


「……私…初めてだったけど……ヴィーに捧げて良かったわ…」

「………ん?」


──初めて?…捧げる?…何をだ?


 ヴィクターは、セシルの言う"初めて"や"捧げる"といった発言に違和感を感じて、再び眉を寄せた。

 するとセシルは、ちょっとだけ言い淀んでから、ぽつりと続けた。


「……ヴィー本当に優しいわよね……最中も沢山名前も呼んでくれて嬉しかった…あと、ちょっと強引な感じもカッコよくて……」

「……………」


──最中………まるで昨晩身体を重ねたみたいな言い方じゃないか?……いや、考えすぎか…?私がセシルに対してやましい気持ちがあるから、そう聞こえるのか?



 セシルの話は、ヴィクターにすれば"そういう夜"を示唆するような内容に思えた。


 だが、その考えを否定するように黙って頭を振った。

 セシルは、そのタイミングで自分の身体を見て、何かに驚いている。


「……あら……私いつの間に、服を着たのかしら……ヴィーが着せてくれたの…?」

「………………」


──待て…それではまるで、一度服を脱いだみたいな言い方じゃないか…


 そこでようやくヴィクターは、セシルが何か勘違いしていることを確信した。


「…セシル…悪いが、何の話をしてるんだ?」


 ヴィクターにそう問われて、セシルは驚いて目を大きく見開き、何故か一層赤くなった。


「…え…何って……そんなの………昨夜私たちが"身も心も結ばれた話"じゃない…」


「……………は?」


 セシルの話していることに全く心当たりがなかったヴィクターから、素っ頓狂な声が漏れた。


「…え…ヴィー覚えてないの?」

「…ちょ…ちょっと待ってくれ…話が見えないんだが…昨夜は私たちの間に何もなかっただろう?」

「…な…何でそんなことを言うの!?」


 セシルの言葉を否定したヴィクターに、彼女はショックを受けているようだ。

 だが、ヴィクターの方も困惑している。

 セシルと過ごしていると、こうして困惑させられることが多い。彼は少しそんなことに慣れてきていた。


「…昨日はセシルがこの部屋に入ってきた後、すぐ寝てしまっただろう?覚えてないのか?」

「………………え…」


 ヴィクターの言葉を聞いたセシルが、羞恥と悲しみが混ざった表情になる。


「うそ…じゃあ…あれは夢だったってこと!?」

「………どんな夢を見てるんだ…」


 どうやらセシルは、夢でヴィクターと身も心も結ばれていたらしい。



「……やだ…そんな夢を見るなんて…はしたない女だって思う?」


 散々今まで、ヴィクターの前で色々な妄想を繰り広げて何度も恥ずかしいところを晒していると思うのだが、今更になって恥ずかしそうに顔を隠し始めたセシルに、ヴィクターの胸は再び締めつけられていた。


──…ダメだ………なんだ…この可愛い生き物は…



 ヴィクターがセシルの可愛さに、罪悪感を抱きながら悶えていると、彼女は突然、ヴィクターの上に身を乗り出した。


「…何をしてる?」

「…昨夜何もなかったんでしょう?…でも、まだ朝も早いし……今から現実にしちゃう…?」


 一つにまとめたままだった赤毛を解いて、ヴィクターを誘惑するように、首を傾げながらそんなことを言い始めたセシルに、ヴィクターは一瞬持って行かれそうになりながらも、なんとか踏みとどまった。


「………………それは、ダメだ。上から降りろ。」

「…えー…ダメなの?……私って全然ヴィーのタイプじゃない?……あ、もっと虐めたくなるような子がタイプってこと?」

「………………」


 ヴィクターが言った「こういうことを無理強いするような男だぞ。」の発言に相当引っ張られてるのか、また新たな解釈を始めたセシルを引き降ろすと身支度を始めた。

 その後、セシルの為に宿の一階で朝食を摂り終えると宿を出発した。


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