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完璧な男


 ジュリアン・アルヴェール、三か月ほど前にこの田舎町に来た新任教師だ。

 彼はハニーアッシュブロンドにスカイブルーの瞳、整った甘いルックスを持ち、性格も穏やかで優しく、人当たりが良い。

 幼い頃から彼の周りには、常に人が集まって来る。


 そんな彼は、最初の教師としてのスタートをこの穏やかで温かい田舎町で切ろうと決めた。

 そして、就任初日、この学校の理事長兼教師のラヴェル先生の娘で、事務仕事を手伝っているというセシルを紹介された。

 セシルを見た瞬間、まるで彼の時間が止まったかのようだった。

 他にも事務員はいたが、彼女の周りだけがきらきらと光り輝き、その美しい赤い髪や可愛らしい笑顔に目を奪われた。


 これまで、ジュリアンは、そのルックスで女の人の方から寄ってくるので、女性関係はそれなりに経験があった。

 だがセシルに感じたそれは、今までに感じたことのない感情だった。


──彼女ともっと話してみたい…私だけを見て欲しい…


 そうして、ジュリアン自身もそんなに深く考えず、セシルにアプローチし始めた。


 だが、仕事の合間を見計らってセシルとやりとりをし始めて暫くして、彼女は、いつも笑って対応してくれるが、その心がどこか別の所に向いていることに気がついた。

 ジュリアンが笑えばどんな女性も頬を染める──だが、セシルはそうではなかった。


 なかなか進展しないと焦りを感じていたところに、ラヴェル先生の見習いでついているのが、セシルの兄だということを知った。


「突然こんなことを聞いてすみません…セシルさんって、お付き合いされている方がいるんですか?」

「あぁ…俺もあんまり認めたくはないんだけど、セシルはここのところ、エヴァーグレースの森の奥に住む暗い奴の所に、毎日出入りしてるんだ。町の奴に聞けば、相手がどんな奴か知ってる奴は多いと思うぞ。なんせ、奴は”有名人”だからな。」


 そう言ってティエリーは意味深に笑った。


 ティエリーのアドバイス通り、ジュリアンはそれとなく町の人々に聞き込みをした。


「あの…僕はまだこの町に来て日が浅いのですが、この近くにあるエヴァーグレースの森に住む人物のことってご存知ですか?」


 そう尋ねると、皆あまりいい顔はしなかった。


「あいつだろ。クラリスは赦すと言ってたし、彼女の決めたことなら異論はねぇ。だが、俺はこの町一番の美女、ロザリーに暴行を働いたことを許しちゃいねぇ。」


「その人の話はあまりしたくないわ…恐ろしい…」


「あぁ、あの人でしょ?すごく威圧的な。話に聞いただけだけど、彼のやったことを考えれば罰が軽すぎると思うわ。」


 話を聞いた限りでは、その人物は、人に暴行を加えたり、悪事を働き、一部の人には恐れられてさえいるようだった。


──なぜ、セシルさんのような方が、そんな奴の所に出入りしてるんだ?

 まさか…何か弱味を握られて、脅されているのか?



 そう考えて、相手がどんな人物なのか確かめる為、仕事帰りに森の出入り口でセシルを待ち伏せした。


 やがてセシルと共に現れたのは、ブラウンの髪に、背の高い痩せ型の男だった。目つきが悪く、見るからに陰鬱な雰囲気が漂っている。

 だが、隣にいるセシルは楽しそうに笑っていた。彼女は基本的にいつも楽しそうだが、ふやけるような、見せたことのない笑顔をしていた。


 その笑顔に、単純に「可愛い」と思うと同時に、深い嫉妬が湧き上がる。


──私の前では、あんな顔を見せたことないのに…


 そう思って見ていると、セシルはその陰鬱そうな男とキスを交わしていた。


「また明日ね。」


 嬉しそうなセシルは去って行った。


──何故、彼女の家まで送らない?

 こんな時間にここから家までの道のり、何かがあったらどうする?

 自分なら絶対に彼女の家の前まで送り届けるのに…

 絶対に、私の方が彼女に相応しい…


 ジュリアンの中に、黒々とした感情が滲み出る。それは、彼が初めて感じる感情だった。



 そうして、正攻法にセシルに迫ったが、彼女から直接ハッキリと「恋人がいるから、期待には応えられない。」と断られてしまった。


 だが、それで引き下がれなかった。


──彼女の目を覚させてあげなければ…




 セシルが仕事を終えてお昼過ぎに帰った後、ジュリアンは玄関付近でバレッタを見つけた。

 それはセシルがいつも仕事の時に着けている物だ。セシルの鮮やかな赤髪に映える、青い小花が装飾された可愛らしい一品だ。


──これを届けることを口実にして、家まで行ってみよう。


 ジュリアンは仕事帰り、家とは逆方向のセシルの家に向かうことにした。


──いつもあの森から家までは彼女一人のはずだ。この時間に行けば偶然を装って会えるだろう。


 あれだけハッキリと断られようとも、セシルの顔が見れると思うとジュリアンの顔は喜びで緩む。


 だが、今日のセシルは一人ではなかった。

 彼女の隣には忌々しい"恋人"であるヴィクターがいた。


 

 

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