魔法を取り戻した日
クラリスが披露した水と光の魔法により、広場に集められた誰もがその魔法の存在を知ることとなった。
そして、ヴィクター一行と共にエヴァーグレースの湖に向かうことになった。
そこでヴィクターは、人々に湖の水を汲み上げる指示を出した。
広場で見かけた謎の装置は、水を汲み上げる装置らしく、その稼働に人の力が必要だからと皆駆り出された。
順調に湖の水が抜けてゆき、ヴィクターが話していた通り、その中に黄金に光り輝く大きな扉が姿を現し始めた──と思った瞬間、それまで良かった天気が雷を伴った豪雨となり、人々は「神罰だ!」と騒ぎ立てた。
セシルも只事ではない雰囲気に不安になり、マルグリッドとティエリーと寄り添いながら、事の成り行きを見守った。
すると、焦れたヴィクターが人質にとっているロザリーを連れて、この激しい雷雨の中、湖の底へ向かうと言い出したのだ。
クラリスは必死で止めようとしていたが、ヴィクターに命じられた騎士に押さえつけられ、ロザリーは連れて行かれてしまった。
連れて行かれたロザリーが黄金の扉に触れた──と思った瞬間、時が止まったかのように、降っている雨粒が宙で停止し、辺りは真っ白な光に包まれた。
ずっとその中にいたいと思ってしまうような、とても温かく、心地の良い光だった。
そして、光が消えたと思えば、ロザリーは突然、湖の岸にいた青年騎士リュカに駆け寄り、二人は熱烈なキスを交わしていた。
後から聞いた話では、ロザリーは扉に触れたこと、リュカはその場に居合わせ共に光に包まれたことで、二人はそれぞれ、前世で神の使者と守護者であった記憶を取り戻したということだった。
二人の感動の再会を近くで見ていたセシルは、感動で目を潤ませ「私もいつかあんなドラマチックな恋がしたいわ」と、夢を膨らませていた。
湖にいる人々が、その幸せな光景に目を奪われていると、ヴィクターの楽し気だが、不気味な笑い声が響き渡った。
誰もが彼のいる扉の方に視線を戻す。
クラリスが転移の魔法で、彼の近くに一瞬で移動して止めようとしたが間に合わず、彼はそのまま、ロザリーと同じように扉に触れた。
再び辺りは真っ白い光に包まれた。
次に光が収まった時には、ヴィクターは何故かクラリスを見て、更に上機嫌になっていた。
そこに、一瞬でエドモンドの姿が現れクラリスを助けようとするが、それを牽制するように、ヴィクターはクラリスの腰を抱き──今度こそ、彼はその扉を開けたのだ。
扉から同じような光が溢れ出し、一瞬何も見えなくなった──と思えば、次の瞬間には、クラリスとエドモンドとヴィクターの姿がなくなっていた。
ロザリーとリュカが再び湖の底に向かい、扉の前に倒れる青い身体の生き物を見つけた。
その近くにヴィクターの持ち物であった懐中時計を見つけたことから、その青い生き物がヴィクターであると判断したらしい。
少しの間の後──突然空から光の粒が降り始めた。
そして、人々は魔法を忘れていたことを思い出し、魔法の力をその手に取り戻したのだ。
その光の粒は、先程クラリスが広場で見せた魔法よりも更に幻想的でとても温かく、ただ漠然と、自分たちが"世界に歓迎されている"のだと感じた。
セシルは、生まれて初めて自身の中に巡る魔力に気がついた。それは、燃え上がるように熱く身体の中からじんわりと温かくなっていく──そんな感覚だった。
──これが、魔力…
家族の前で、クラリスが見せてくれたあの楽しげな光や水を操る魔法──それを想像して、身体を巡るそれを、こっそりと指先に集中させた。
だがセシルの指先からは、小さな火が燃え上がった。
「!?」
想像とは違う魔法の形に、驚いて身体を震わすと、火は消えてしまった。
──なんだか…………
「…情熱的ですっごく、ロマンチックだわ!」
そんなことをしている間に、いつの間にか湖の底にクラリスとエドモンドの姿が戻って来ていた。
クラリスとロザリーが話しをしていた。
その後、話しを終えたクラリスが、ヴィクターと思われる青い生き物に手をかざすと、そこに元の姿を取り戻した彼の姿が現れた。
その時、クラリスは彼へ"赦し"を与えたのだ。
ヴィクターは、気を失っていた。
エドモンドが、彼が意識を取り戻した際、魔力を持った彼が変なことをしでかしたら困る、と彼に魔力制限のブレスレットをつけた。
そしてクラリスは、水泡で包んでいた他の青い生き物たちも解放した。光の玉が空へと昇ってゆく。
彼らはかつて、その資格を持たずに扉に触れた罰として、青い生き物に変えられ、死ぬこともできず、ここに縛りつけられていた者たちだそうだ。
その後、岸へと上がって来たクラリスたちを町の人々みんなで歓迎した。
すかさずマルグリッドがクラリスに抱きつき、母娘の感動の再会を果たした。
そして水魔法が得意なマルグリッドと共に、クラリスは汲み上げられた湖の水を戻し、黄金に光り輝く扉は、再び湖の底へ沈んでいき、湖はすっかり元の静けさを取り戻した。
皆は町へと戻り、それぞれ解散となった。
眠ったままのヴィクターは、エドモンドが住む小屋に運び入れられ、目覚めるまでエドモンドが見張ることになった。
喜びに満ち溢れた人々とは対照的に、静かに眠るヴィクターの姿に──セシルは、何故か心を惹きつけられた。




